白く、高い壁に囲まれたとあるコロニーのニュータイプ研究所。
 さまざまな薬品の臭いと不気味な静寂。さらにときどき聞こえてくる低い機械音が、この研究所のすべてをあらわしているようだ。ここはもう、研究所としてではなく、ただのニュータイプ製造工場としてしか機能していなかった。

 その研究所の一室。
 ヴン・・とうなる低い機械音と、まだ幼い少女の喘ぎ声が、この研究室を満たしていた。
 少女の頭には、ゴーグルのようなものが着けられ、台に寝かされていた。側で少女を無表情に見つめる研究員は、約10分おきに少女の様子を記録していた。
「ウ・・・・アァァ・・・・・い・・・痛いヨ・・」
 少女は頭を抱え、台から転がり落ちそうになった。
 研究員は舌を打ち、少女の体を支えると、台に付けられている皮のベルトで、少女の腕を固定し、動けないようにした。しかしけして乱暴な素振りではなかった。
「ウアァ・・・・・頭が・・・・・・・・・・・・」
 ふいに、少女の体が動かなくなった。ぐったりと、力なく倒れている。
 研究員は機械からのデータをチラリと見、少女にはめられているベルトとゴーグルを取った。
 少女は、まだ幼かった。汗をびっしょりかいた少女の体を、研究員は軽々と持ち上げて、担架の上に運んだ。
 研究員の一人が、部屋のドアを開けて、少女の担架を押して外に出た。部屋の前の廊下は、さびれ、ところどころにひびが入っているという有様だった。
「終わったのか」
 研究員は後ろから声をかけられ、振り向いた。
 そこに立っていたのは、金髪でサングラスをかけた、若い男だった。男は担架の上に寝ている少女を見て、研究員に視線を移した。
「で、刷り込みはどうだったんだ?」
「成功ですよ、大佐」
 研究員は、男をそう呼んだ。男はその言葉に顔をしかめた。
 しかし研究員はそんな男に気づかず、
「刷り込みは完璧です。はじめのうちは多少精神が不安定になりますが、しばらくしたら、なれるでしょう」
 と、淡々としゃべり続けた。
「そうか」
 男は持っていたアタッシュケースを研究員に渡し、少女の担架に付き添った。
 研究員はケースを少しだけ開け中の金塊を見とめると、ケースを誰にも取られまいと抱え、研究室へ消えていった。

 男の車の中で、少女は目を開いた。
 後部座席に丸まって寝かされていた彼女は、隣に座っている男の顔を見上げた。男はそんな少女に気づき、少女の腰を抱くように、いたわって座らせた。
 一瞬、運転している中年の運転手が振り向き、少女はびくっと体を震わせた。
 少女は、軽い頭痛に襲われていた。
「エリー・シエル」
 男が少女を呼んだ。
 少女にとって、その名前は知っているようで知らないような、そんな響きを持っていた。先ほどまでに何度も聞いていたような、でも自分の名前でないような、そんな感覚である。
 男は少女が戸惑いながら自分の顔を見上げたり頭を抱えているのを見て、サングラスをはずし、少女の手をとり、頭をそっと、優しく撫でた。
「きみの名前だ」
「私の、なまえ・・・・・・・・」
 少女は、思い出すようにゆっくりと、言葉を出していった。
「私は、エリー・シエル・・。サイド3生まれで、お母さんといっしょに暮らしてた・・・・それで・・・・・・・・・・」
「ここにいる」
 男が言った。
「エリー、君は、私の姪だ。私はシャア・アズナブル。君も知っているだろう」
 これは嘘だった。
「知ってる・・・、なつかしい感じがする」
「小さいころ、いつも遊んであげたことを覚えているか?」
「ン・・・・・・・・・・」
 少女は男の胸に顔をうずめた。
 そして、安心したように寝息をたてはじめた。

―――――宇宙世紀0088・・・・・・・・・・・・。


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