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源氏物語〔38帖 鈴虫 3〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔37帖 鈴虫〕 の研鑽」を公開してます。六条院はそのそばまで行き、空だきというものはどこで焚いているのか分からないくらいに香るほうが趣があるものだと言った。富士山の頂よりもひどく煙が立ち上るような焚き方はよくないとも話した。説教の間は物音を立てず、静かに細かな話を聞くものだから、衣擦れや立ち居の音もできるだけ立てないようにする。宮は人が大勢集まっていることに圧倒され、小さく美しい姿を伏せていた。六条院は若君をここに置かず、どこか遠い部屋へ抱いて連れて行くよう女房に言った。北側の座敷との間も、この日は襖を外して御簾だけで仕切られていた。六条院は女房たちをそちらの室へ移し、尼宮に今日の儀式について話した。心得ておくべきことを静かに話し、その姿を見ていると、尼宮のことがただ可憐に思われた。昔、鴛鴦の夢を重ねた場所が、今では仏の座となっている。その帳台が御簾越しに見えることも、六条院の心を物悲しくさせた。かつての愛情や幸福の記憶が残る場所に、今は仏像が安置され、供養の場となっている。
2026.09.25
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源氏物語〔38帖 鈴虫 2〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔37帖 鈴虫〕 の研鑽」を公開してます。朝夕に読む阿弥陀経は、唐の紙では弱くて長く使うには向かないと考え、紙屋川の職人を呼び寄せて特別に漉かせた紙に、この春ごろから心を込めて書き続けていた。その経巻は端のほうを遠くから眺めただけでも目がくらむように感じられるほど美しかった。罫に引いた黄金の筋よりも墨の跡の方が輝いて見える。軸や表紙、箱にまで施された優雅な意匠は言葉に尽くせないほどであった。その巻物は特別に沈香の木で作った華足の机に置かれ、仏像を安置した帳台の中に飾られていた。堂の準備が整い、講師が座に着き、行香をする若い殿上人たちも皆そろうと、六条院も仏間へ向かった。まず尼宮の西の庇の座敷に入って中を見ると、狭く感じられる仮の居間には、暑苦しいほど着飾った女房が五、六十人も集まっていた。童女たちは北側の室の外の縁にまで出ていた。火入れもたくさん置かれ、女房たちは薫香を煙たいほど盛んに煽いでいた。
2026.09.24
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源氏物語〔38帖 鈴虫 1〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔37帖 鈴虫〕 の研鑽」を公開してます。夏の蓮の花が盛りを迎えたころ、入道の姫宮の持仏が完成し、その供養が行われることになった。念誦堂の装飾や道具はすべて六条院が心を配って用意したもので、柱に掛ける幡も特別に選んだ唐錦で作られていた。紫夫人の手元で仕立てられた花机の覆いには鹿の子染めが使われ、色も模様も上品で趣があった。帳台の四方の帷を上げ、その奥には法華経の曼荼羅を掛け、銀の華瓶には鮮やかな立花を高く挿して供えてあった。仏前には唐の百歩香が焚かれ、阿弥陀仏と脇侍の菩薩は白檀を精巧に彫って作られていた。閼伽の道具もことさら小さく作られ、白玉と青玉で蓮の花の形にしたいくつもの小さな香炉が置いてある。蜂蜜のような甘い香りを退ける荷葉香が焚かれていた。経巻は、六道をさまよう亡者のために六部書かせたものであった。その中でも宮の持経は六条院自身が書いたもので、これを仏との縁として、せめて愛する二人が永久に導かれるようにという願いが願文に込められていた。
2026.09.23
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源氏物語〔36帖 横笛 34 完〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。その問いを聞いた院は、大将が自分の推測以上に真実へ近づいていることを悟った。しかし、それは今ここで詳しく語るべき問題ではないとも判断した。最初は、突然不可解な話を持ち出されたかのような表情を見せ、それから静かに答えた。死を迎える時まで人のことを気に病むようなことを、私はいつ柏木に対して言ったりしたりしたのだろう。思い当たることがなく、今は思い出せない。いずれ静かな折を見て、君の夢についても詳しく話してあげよう。夢の話は夜にしてはいけないなどと、迷信だが女房たちは昔から言うものだ。院はそう言って話題を静かに閉じ、不思議な問題の核心へはそれ以上踏み込もうとはしなかった。その態度を見た大将は、自分が秘密に触れるような問いを発したこと自体が、院の気持ちを害してしまったのではないかと思い、言い知れぬ気まずさを覚えながら、その場を静かに退いた。(完)明日より37帖 夕霧(ゆうぎり)を公開予定。
2026.09.22
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源氏物語〔36帖 横笛 33〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。院は穏やかにそう言ったが、心の中では、柏木が本当に譲りたかった相手は誰であったのか、その答えははっきりしていると思っていた。そして聡明な大将なら、その真意もすでに察しているはずだとも感じていた。大将もまた、院がすべてを理解していることを、その表情から読み取っていた。そのため、胸に秘めてきた疑問を切り出すことがますます難しく思われた。それでも確かめずにはいられず、まるで今ふと思い出したことを口にするような調子で、慎重に言葉を選びながら尋ねた。柏木が臨終に近づいた頃、見舞いに参りました時のことです。さまざまな遺言を申しました。その中で何度も何度も、六条院様に対して深い罪を負っていると繰り返しておりました。当時は、院のお気持ちを害した何かがあったのだろうとしか思えず、その意味がよくわかりませんでした。今になってもなお、その理由がわからず心に引っかかっております。いったい何があったのでしょうか。
2026.09.21
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源氏物語〔36帖 横笛 32〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。私の見るところでは、宮はまことに優しく、思いやり深い性質の方です。そう語りながら、大将は以前から探していた機会がようやく訪れたと感じた。院の座へ少し身を寄せ、昨夜見た柏木の夢を静かに話し始めた。柏木が横笛を手に現れ、もっとほかに望んだことがあったと言い残したこと。その続きを聞こうとした瞬間に若君の泣き声で夢が覚めてしまったことまで、包み隠さず語った。院は一言も口を挟まず聞いていた。しかしその胸の内には、夢の話と結びつくある思いが静かによみがえっていた。しばらくして院は横笛について語り始めた。あの笛は、もともと私の手元へ戻る因縁を持っている品なのだ。昔は陽成院の御物で、それを私の叔父にあたる故式部卿の宮が秘蔵していたが、柏木は幼い頃から笛の才にことさら優れていたので、萩の宴の折に褒美としてその笛を与えられた。御息所たちは深く考えることもなく、君へ贈ったのだろう。
2026.09.20
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源氏物語〔36帖 横笛 31〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。そのような過ちは決して起こりません。人生の無常を身に受けた方々を慰めることは、自分に課せられた務めのように思い、お訪ねするようになったのです。もし今になって急に足を遠ざければ、世間からは結局よこしまな心で近づいた男だったと思われるでしょう。それではかえって誠意を失います。ですから私は、これからも友情だけは捨てるつもりはありません。想夫恋を合わせて弾いたことについてお叱りをいただきましたが、もし向こうから積極的に誘われたのであれば問題でしょう。しかし実際には、私が参る前から宮は琴を弾いておられ、その流れの中で、ほんの少し私の琵琶に音を合わせてくださった。その場の情景にも実によく調和しておりました。結局は女性自身の心持ち次第ではないでしょうか。あの宮も、もう若さばかりを誇る年頃ではありません。私もまた軽薄な好色漢のような態度を見せたつもりはありません。ただ互いに信頼が生まれ、私の願いを少し聞き入れてくださっただけのことです。
2026.09.19
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源氏物語〔36帖 横笛 30〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。亡き人への同情を隠そうともせず静かに聞き入っていた。やがて院は少し表情を改めて言った。想夫恋(そうふれん)を少しだけ合わせて弾いたという話は、まことに風雅で、物語として見れば実に趣深い。しかし私の考えでは、女は知らず知らずのうちに相手の心を動かしてしまうよう。そのようなことは、どこまでも慎まなければならないものだ。君が故人との友情を思ってあの母子を訪ね始めたのであれば、その心は最後まで清らかなままで通さなければならない。過ちを起こさぬよう十分に気をつけなさい。苦しい結末を招くようなことにならないのが、お互いのためでもある。大将はその忠告を聞きながらも、心の中では素直にうなずくことができなかった。人を戒める言葉としてはもっともである。しかし、もし院自身が自分と同じ立場に置かれたなら、本当にこれほど冷静でいられるだろうかという思いが胸をよぎった。それでも表情には出さず、落ち着いて答えた。
2026.09.18
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源氏物語〔36帖 横笛 29〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。軽々しく口にすれば、かえって多くの人を不幸にするだけであるという思いも湧いてくる。肯定しようとしては否定し、否定してはまた疑いがよみがえる。その繰り返しの中で、大将にはこの問題がますます解きようのないものに思われた。若君は性質まで人なつこく穏やかで、大将にもすぐ心を許した。その後もそばを離れようとせず無邪気に遊び続けていた。その愛らしい姿を見守りながら、大将の胸には、柏木への追慕と若君への慈しみ、そして決して口にできない秘密への苦しみとが、静かに入り混じっていく。院が対の御殿へ移ると、大将も供をして同行した。二人は静かに語り合いながら時を過ごした。気づけば日も次第に暮れようとしていた。大将は昨夜、一条の宮を訪ねた折の様子を順を追って語った。御息所や女三の宮の暮らしぶり、琴や琵琶を交えた静かな夜のこと、秋の月の下で交わした歌などを話すと、院は穏やかな微笑を浮かべながら耳を傾けていた。柏木に関わる話になると、院も時折言葉を添えた。
2026.09.17
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源氏物語〔36帖 横笛 28〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。異母弟である柏木の面影を若君の中に見つけた大将は、院が柏木に対して本当はどのような思いを抱いているのかを、一刻も早く知りたいという気持ちを強くした。皇子たちは生まれながらの高貴な気品を備えてはいるものの、子どもらしい愛らしさを持つ普通の美しい子どもたちでもあった。それに対して若君には、貴族の子らしい品格に加え、誰とも比べることのできない特別な美しさが備わっていた。その姿を見比べるほど、大将の胸には複雑な思いが広がっていく。もし自分の推測どおり、この若君が本当に柏木の忘れ形見であるならば、柏木の父である右大臣は、最愛の息子を失った悲しみの中。せめてその血を引く子が名乗り出てくれることだけを願い続けているはずだった。それなのに、柏木は何一つ形見を残してくれなかったと嘆き悲しみ、涙に暮れている。その右大臣に真実を知らせずにいることは、あまりにも残酷なことではないかと思われた。一方で、そのような重大な秘密を明かすことなど到底できない。
2026.09.16
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源氏物語〔36帖 横笛 27〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。その枝を拾い上げて若君に見せながら手招きをすると、若君は嬉しそうに駆け寄ってきた。若君は薄い藍色の直衣を一枚だけ着た姿だった。まだ幼い体つきでありながら、肌は雪のように白く、まるで内側から光を放つような美しさがあった。その清らかな気品は皇子たちをも上回るほどだった。ひと目見ただけで人を惹きつけるものがあった。大将は、その顔立ちをじっと見つめた。瞳には年齢に似合わぬ聡明さが宿り、何かを問いかけるような深い眼差しをしている。その知性に満ちた目元は誰かに似ているとは思わなかったが、切れ長の目の端に漂う艶やかな表情だけは、どう見ても柏木によく似ていた。笑った時にいっそう華やかになる口元もまた柏木を思わせた。もっとも、それは自分の心の中にある疑いがそう見せているだけなのかもしれない、と大将は思い直した。しかし、院の目にも同じように映っているのではないかと思われるほど、その面影ははっきりしていた。
2026.09.15
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源氏物語〔36帖 横笛 26〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。口では三の宮をたしなめながらも、二人ともあまりに愛らしくてたまらないという気持ちが、その表情から自然にあふれていた。やがて院は、「公卿をいつまでもこんな場所へ立たせておくわけにはいかない。対のほうへ移ろう」と言って立ち上がろうとした。しかし宮たちは院の衣の裾にまとわりつき、なかなか離れようとしなかった。院の胸の内には、本来なら宮の若君は皇子たちとは別に扱うべきではないかという考えもあった。しかし、そのような態度を取れば、女三の宮が出家した尼宮は、心のわだかまりから、その差を悪い意味に受け取るかもしれない。もともと情け深く思いやりのある院は、そのような誤解を招くことを何より避けたいと考え、若君にも皇子たちと変わらぬ愛情を注ぎ、大切に育てていた。大将は、これまで若君の顔をゆっくり見る機会がほとんどなかったことに気づいた。そこで御簾の隙間から庭へ目をやると、花の散った枝が一本落ちていた。
2026.09.14
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源氏物語〔36帖 横笛 25〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。こちらの御殿では、院が宮の若君と二の宮の二人が仲よく遊ぶ様子を、終始目を細めながら眺めていた。大将は三の宮を抱いたまま角の座敷の前まで運び、そっと下ろした。それを見つけた二の宮は、うらやましそうに駆け寄ってきて、私も大将に抱いてもらうと甘えるように言った。すると三の宮はすぐに伯父である大将の上着を引っ張り、だめ、この大将は私の大将だものと言い返した。その幼い言い争いを見た院は笑みを浮かべながらも、そんな行儀の悪いことをしてはいけません。朝廷に仕える大将を、自分だけのものだと言ってはいけませんよ。三の宮はまた、お兄様に逆らっていますねと穏やかに言い聞かせた。大将も微笑み、二の宮様は本当にお兄様らしく、小さい宮様によく譲ってあげています。思いやりの深さは、大人でも見習わなければならないほどですと言った。院はその言葉を聞いて静かにうなずきいた。
2026.09.13
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源氏物語〔36帖 横笛 24〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。大将は、この件について院の考えも伺おうと思い、六条院を訪ねた。その時、院は女御となっている姫君の御殿へ渡っていた。三歳ほどになった三の宮は、女一の宮と同じように紫の上がわが子同然に育てており、東の対に住まわせて大切に養っていた。大将が姿を見せると、幼い三の宮は嬉しそうに駆け寄る。大将さん、私を抱っこして向こうのお部屋まで連れて行ってと無邪気に頼んだ。まだ幼いながらも皇女らしい言い方に、大将は思わず笑みを浮かべ、「もちろんお連れします。でも、女王様のお部屋の御簾の前を、このまま通ってよいでしょうか。私よりも、宮様のほうがお困りになるでしょう」と冗談めかして答えた。そう言いながら膝の上へ抱き上げると、三の宮は袖で小さな顔を隠し、誰も見ないよ。大丈夫。顔を隠して行くからと真剣な様子で言った。その幼い仕草があまりにも愛らしく、大将は思わず微笑み、そのまま三の宮を抱いたまま寝殿のほうへ歩いて行った。
2026.09.12
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源氏物語〔36帖 横笛 23〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。だが今さら女三の宮へ返す理由もない。笛は本来、女性が吹く楽器ではなく、宮に持たせても意味がないように思えた。人は生きている間には何とも思わなかったことでも、臨終の間際になると、ほんの些細な物事に心を残したり、思いがけない執着を抱いたりするものだという。そして、その執着が強ければ強いほど、魂は極楽へ向かうことができず、この世とあの世の間をさまようとも言われている。柏木の夢を見た今、大将はその教えをしみじみと思い返し、人は何事にも深く執着しすぎてはならないのだと感じた。そこで大将は、柏木の冥福を願って愛宕の寺で読経を行わせた。さらに柏木とゆかりのある寺々にも命じ、同じように経を読ませて手厚く供養した。もっとも、横笛そのものは寺へ納めてしまう気にはなれなかった。御息所が歴史ある名器として、深い信頼と好意を込めて託してくれた品で、それを供養のためとはいえ寺へ納めてしまうのは、その心遣いに背くようにも思われた。
2026.09.11
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源氏物語〔36帖 横笛 22〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。夫人はその視線を受けると、さすがに気恥ずかしくなり、それ以上恨み言を重ねることはせず、「あちらへ行ってください。人が見ています。みっともないですから」とだけ小さく言った。明るい灯火の下で自分の顔を見られることを恥ずかしがる夫人の様子を、大将は今でも可愛らしいと思った。若君はその夜、とうとう朝まで機嫌が直らず、泣いたりぐずったりを繰り返して眠ろうとしなかった。一方で大将の心には、先ほどの夢がいつまでも残っていた。柏木が言い残した「もっとほかに望んだこと」とは何だったのか。その意味を聞き損ねたことが気になって仕方がない。そして手元にある横笛を眺めるたびに、故人の執着がまだそこに宿っているような気がして、持っていることさえ重荷に感じられた。柏木ほどこの笛を愛した人はいなかった。その愛着があまりにも深かったため、本来渡したいと願っていた相手の手へ渡らずに残ってしまったのではないかとも思われた。
2026.09.10
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源氏物語〔36帖 横笛 21〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。その様子を見た大将もそばへ寄り、「どうした」と声をかけながら子の顔をのぞき込んだ。夜中に泣き出した子のため、邪気を払うまじないとして米がまかれ、屋敷の中はにわかに慌ただしくなった。その騒ぎの中で、大将の胸を締めつけていた夢の悲しみも、少しずつ薄れていった。夫人はまだ若々しい面差しのまま、不満そうに夫を見て言った。華やかな方のことに夢中になって帰りが遅くなり、そのうえ月を見ると言って格子まで開けさせたでしょう。だから物の怪が入り込んで、この子が具合を悪くしたのです。その言葉に大将は思わず笑った。ずいぶん都合よく私のせいにするものだね。確かに格子を開けなければ、物の怪も入る道はなかったのかもしれない。大勢の子の母親になったおかげで、ずいぶんもっともらしい理屈を言うようになったものだ。冗談めかしてそう言いながらも、大将は夫人を見つめた。その眼差しには昔と変わらぬ優しさが宿っていた。
2026.09.09
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源氏物語〔36帖 横笛 20〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。歌は、笛竹に吹き寄せる風のように、この音が末の世までも長く伝わってほしい。そして静かに続けた。私には、あれ以上に望んでいたことがあったのです。その言葉には、生前ついに果たすことのできなかった思いと、女三の宮への執着、そして大将へ託そうとした願いの全てが込められているようだった。柏木が「私にはもっとほかに望んだことがあった」と言い終えたところで、大将はその真意をさらに聞き出そうとした。しかし、その時、若君が寝ぼけて激しく泣き始める声が聞こえ、夢はそこで途切れてしまった。若君は泣き続けたうえに乳まで吐いたので、乳母はあわてて起き上がって世話を始めた。夫人も灯火を近くへ持って来させ、顔にかかった髪を耳へかき上げながら幼い子を抱き、優しくあやした。色白の夫人は胸元を開き、泣き続ける子に乳を含ませようとした。若君も母によく似た色白で美しい顔立ちをしていたが、思うように乳が出ない中でも、夫人は少しでも子が安心するよう懸命に抱き続けていた。
2026.09.08
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源氏物語〔36帖 横笛 19〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。もっとも、人は相手を遠くから思い描いているうちは理想ばかりが膨らみ、実際に近づけば思い描いていた姿との違いに失望することもある。恋だけでなく、どのようなことでも空想を重ねすぎれば、やがて幻滅が生まれるものだと考えた。そう思いながら、今度は自分と夫人との年月を振り返った。まだ何の飾り気も見栄も知らなかった少年少女の頃に結ばれ、そのまま長い歳月を共にしてきた。その年月の積み重ねがあるからこそ、夫人が今では遠慮なく振る舞い、ときに気位の高い態度を見せるようになったのも無理のないことなのだろうと、大将は静かに受け止めていた。やがて少しまどろんだ頃、不思議な夢を見た。病床で最後に会った時と同じ袿姿の柏木が、すぐそばに立ち、今夜持ち帰った横笛を静かに手に取っている。夢の中の大将は、柏木もなおこの笛に強い執着を残しているのだと感じた。柏木は笛を見つめながら歌を詠んだ。
2026.09.07
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源氏物語〔36帖 横笛 18〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。しかし夫人は不機嫌なままで、一言も返事をしなかった。屋敷のあちこちでは寝ぼけた子どもが何かをつぶやき、女房たちもそれぞれの部屋で眠っている。人の気配に満ちた賑やかな自邸の夜と、静寂だけが支配していた一条の宮の夜とでは、あまりにも趣が違っていた。その対照を思い比べながら、大将は御息所から贈られた笛を静かに吹いた。その音を響かせながら、大将の心は自然と一条の宮へ戻っていく。自分が帰った後、御息所と宮はどれほど寂しい思いで月明かりを眺めているだろうか。今夜弾いた琴も、宮が合わせた十三絃も、そのまま部屋に置かれた。二人が亡き柏木を偲びながら静かに触れているのではないか。御息所は和琴にも優れていたはずだから、今ごろ母娘で静かに奏で合っているのかもしれない。そんな情景が次々と心に浮かんだ。さらに大将は、どうして柏木はあれほど気高く美しい宮を、形式の上では大切に扱い、本当の意味で深く愛そうとはしなかった。
2026.09.06
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源氏物語〔36帖 横笛 17〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。歌を交わしてもなお立ち去ることができず、大将はしばらくその場に立ち尽くしていた。気づけば夜はすっかり更けていた。ようやく自邸へ戻ると、格子はすべて下ろされ、屋敷中が寝静まっていた。一条の宮へ心を寄せ、たびたび見舞いに通っていることを夫人へ告げ口する者がいた。そのため、夫人は近頃、大将が夜更けまで外で過ごすことを快く思っていなかった。夫が帰宅した気配には気づいていたが、あえて眠っているふりを続けていた。大将は美しい声で古歌を口ずさみながら部屋へ入り、どうしてこんなに早く戸を閉めてしまったのだろう。皆あまりに引っ込み思案だ。これほど美しい月夜を誰も眺めようとしないとは惜しいことだとため息をつき、自ら格子を上げさせ、御簾も巻き上げさせて縁近くへ出ると、そのまま横になった。そして夫人へ、こんなすばらしい夜に眠ってしまう人があるものだろうか。少しこちらへ出ておいで。月を眺めながら話でもしようと声をかけた。
2026.09.05
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源氏物語〔36帖 横笛 16〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。また柏木が、生涯で最も大切な女性へこの笛を譲りたいと語っていたことまで思い出され、先ほど形見の琴に触れた時以上に胸の奥からさまざまな感情が込み上げてきた。大将は試しに笛を口へ当て、盤渉調を半ばほど吹き奏でた。澄みきった音色は静かな夜気の中へ遠くまで流れていった。亡き柏木の面影まで呼び戻すように感じられた。しかし吹き終えると、「故人を偲んで琴を弾くことはまだよいとしても、この笛を吹くのは、あまりにも晴れがましく、私にはまぶしすぎる気がする」と言い、名残を惜しみながら帰ろうとした。その時、御息所は別れを惜しむように歌を詠んだ。露深い葎の宿にも、昔の秋と変わらぬ虫の声だけが聞こえている。亡き人だけがいなくなり、季節も虫の音も昔のままであるという寂しさを託した歌だった。大将もすぐに返歌した。横笛の調べだけは昔と少しも変わらない。その音を奏でていた人だけが空しく世を去り、その余韻だけが尽きることなく胸に残る。
2026.09.04
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源氏物語〔36帖 横笛 15〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。今宵の音楽の余韻をそのまま託したような品であった。大将はその心遣いの深さを受け止め、胸にさまざまな思いを抱きながら夜更けの邸を後にした。大将は御息所から差し出された笛を前にすると、その由緒を思い返した。この笛は古くから伝わる名器だと聞いていた。このような女だけの住まいに置いておくのも、名高い楽器には気の毒なことだ。持ち帰って吹いてもらえれば、外で供人たちの先払いの声に交じる笛の音を、こちらでも楽しみに聞くことができるだろうと御息所はそう言って、静かに笛を大将へ託した。大将は遠慮するように、「未熟な私がいただくには、あまりにもふさわしくない品でしょう」と答えながら笛を手に取った。その笛は柏木が生前いつも愛用していたものであり、大将自身も何度となくその音色を耳にしてきた。自分ではこの笛の真価を十分に引き出せるほど巧みに吹くことはできない。
2026.09.03
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源氏物語〔36帖 横笛 14〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。秋の夜にいつまでも長居していては、亡くなった人から咎められるような気もするので、今日はこれで帰ることにしよう。また日を改め、新しい気持ちで訪ねて来たい。この楽器はそのまま置いておいてもらえないだろうか。人生にはいつ何が起こるかわからない。不意の別れが訪れないとも限らないので、それが気がかりなのだと語った。それでも大将は真正面から恋心を打ち明けようとはせず、遠回しな言葉の中にだけ思いを忍ばせて別れを告げた。その気持ちは十分に伝わるほどでありながら、最後の一線だけは越えようとしなかった。大将を見送った御息所は、「今夜の風雅なひとときをとがめる人などおりますまい。昔のことを思い出させるようなお話も、ほんの少ししか聞かせてもらえなかったのが残念でならない」と伝え、贈り物に一本の笛を添えて大将のもとへ届けさせた。笛は単なる餞別ではなく、亡き柏木を思い起こさせる形見でもある。
2026.09.02
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源氏物語〔36帖 横笛 12〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。言葉に出さないことこそ、口にする以上によく気持ちを表すものだ。人目を恥じているその様子に、かえって心が現れているように見えると詠んだ。それに応えるように宮は、想夫恋の終わりの部分だけを静かに合わせて弾き、夜更けの哀しみだけはよく聞き分けられるが、それ以外に何を語ればよいのだろうと返した。宮の爪音は実に趣深く、琵琶という大まかな響きを持つ楽器でありながら、長年磨き上げられた技が加わることで、澄み切った気高い音色となって夜気の中へ溶け込んでいった。ほんのわずかな時間しか演奏しなかったにもかかわらず、その響きは深く心に残り、大将はもっと聞きたいという思いを抑えきれなかった。宮はそれ以上弾こうとはせず、静かに手を止めてしまったため、大将は物足りなさを覚えながらも、その慎み深さにますます心を奪われた。やがて大将は名残惜しそうに立ち上がり、今夜は風流に心を任せて、さまざまなことをお見せしてしまった。
2026.09.01
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源氏物語〔36帖 横笛 13〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。言葉に出さないことこそ、口にする以上によく気持ちを表すものだ。人目を恥じているその様子に、かえって心が現れているように見えると詠んだ。それに応えるように宮は、想夫恋の終わりの部分だけを静かに合わせて弾き、夜更けの哀しみだけはよく聞き分けられるが、それ以外に何を語ればよいのだろうと返した。宮の爪音は実に趣深く、琵琶という大まかな響きを持つ楽器でありながら、長年磨き上げられた技が加わることで、澄み切った気高い音色となって夜気の中へ溶け込んでいった。ほんのわずかな時間しか演奏しなかったにもかかわらず、その響きは深く心に残り、大将はもっと聞きたいという思いを抑えきれなかった。宮はそれ以上弾こうとはせず、静かに手を止めてしまったため、大将は物足りなさを覚えながらも、その慎み深さにますます心を奪われた。やがて大将は名残惜しそうに立ち上がり、今夜は風流に心を任せて、さまざまなことをお見せしてしまった。
2026.09.01
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源氏物語〔36帖 横笛 11〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。月が昇り、秋の澄みきった夜空を雁の群れが鳴き交わしながら渡っていく。その姿を眺める宮は、自分には寄り添う者もなく、遠くへ連れ立って飛んで行ける雁たちのほうが、よほど孤独ではないのだろうと思った。冷たく澄んだ風が身に染みて吹き込んでくるのに心を動かされ、宮は十三絃の琴を静かに爪弾いた。その控えめでありながら深い響きは、夜の静けさとよく調和し、大将の心をいっそう強く引きつけた。もっとその音色を聞いていたいという思いに駆られた大将は、そばにあった琵琶を借り受け、「想夫恋」を弾き始めた。大将は少し照れたように笑いながら、自信があるように見えるのは気恥ずかしい。この曲だけは一緒に演奏してもらえるだけの理由がある」と言って、御簾の奥にいる宮へ合奏を勧めた。しかし宮は、この曲には人前で演奏することへの恥ずかしさがとりわけ強く感じられ、すぐには手を伸ばそうとはしなかった。ただ琵琶の響きに耳を傾け、その音色に心の奥まで染み入るような思いだけを味わっていた。
2026.08.31
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源氏物語〔36帖 横笛 10〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。院の御前で内親王様がた にいろいろの芸事のお稽古をおさせになりましたころには、音楽の才はおありになるというよ うな御批評をお受けあそばした宮様ですが、あれ以来はぼんやりとしておしまいになりまして、 毎日なさいますことはお物思いだけでございますから、音楽も結局寂しさを慰めるものではないという。そのような気がしますと御息所は言う。ごもっともなことですよ。恋しさの限りだにある世なりせば(つらきをしひて歎かざら まし)大将は歎息をして楽器を前へ押しやった。楽器に故人の音がついているかどうかが、私どもにわかりますほどお弾きになって見てくださいませ。みじめにめいっております。われわれの耳だけでも助けてくださいませ。私よりも御縁の深い方のあそばすものにこそ故人の芸術のうかがわれるものがあるでしょうから、ぜひ宮様のを承りたい御簾のそばに近く和琴を押し寄せて大将はこう言うのであるが、すぐに気軽く御承引あそば すものでないことを知っている大将は、強いても望みはしなかった。
2026.08.30
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源氏物語〔36帖 横笛 9〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。 植え込みの花草が虫の音に満ちた野のように乱れた夕明りのもと の夜を大将はながめていた。そこに出たままになっていた和琴を引き寄せてみると、それは律 の調子に合わされてあって、よく弾き馴らされて人間の香に染んだなつかしいものであった。 こんな趣味の美しい女住居に放縦な癖のついた男が来たなら、自制もできずに醜態を見せるこ とがあるのであろう、とこんなことも心に思いながら大将は和琴を弾いていた。これは柏木が 生前よく弾いていた楽器である。ある曲のおもしろい一節だけを弾いたあとで、大将は、ことに和琴は名手というべき人でしたがね。忘れがたいあの人の芸術の妙味は宮様へお伝 わりしているでしょうから、私はそれを承りたいのですがと言うと、あの不幸のございましてからは、全くこうしたことに無関心におなりあそばしまして、お小さいころのお稽古弾きと申し上げるほどのこともあそばしませんと言う。
2026.08.29
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源氏物語〔36帖 横笛 8〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。 きわめてよい機会を見つけて自分は真相も知っておきたいし、故人が煩悶していた話もお耳に入れることにしたいと常に思っていた。物哀れな気のする夕方に大将は一条の宮をお訪ねした。柔らかいしめやかな感じがまずして 宮は今まで琴などを弾いておいでになったものらしかった。来訪者を長く立たせておくことも できなくて、人々はいつもの南の中の座敷へ案内した。今までこの辺の座敷に出ていた人が奥 へいざってはいった気配が何となく覚えられて、衣擦れの音と衣の香が散り、艶な気分を味わ った。いつもの御息所が出て来て柏木の話などを双方でした。自身の所は人出入りも多く幾人 もの子供が始終家の中を騒がしくしているのに馴れている大将には御殿の中の静かさがことさ ら身にしむように思われた。以前よりもまた荒れてきたような気はするが、さすがに貴人の住 居らしい品は備わっていた。
2026.08.28
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源氏物語〔36帖 横笛 7〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。 若君は笑っているだけで何のことであるとも知らない。 そそくさと院のお膝をおりてほかへ這って行く。月日に添って顔のかわいくなっていくこの人 に院は愛をお感じになって、過去の不祥事など忘れておしまいになりそうである。この愛すべ き子を自分が得る因縁の過程として意外なことも起ったのであろう。すべて前生の約束事な のであろうと思召されることに少しの慰めが見いだされた。自分の宿命というものも必ずしも 完全なものではなかった。幾人かの妻妾の中でも最も尊貴で、好配偶者たるべき人はすでに尼 になっておいでになるではないかとお思いになると、今もなお誘惑にたやすく負けておしまい になった宮がお恨めしかった。 大将は柏木が命の終わりにとどめた一言を心一つに思い出して何事であったかいぶかしいと 院に申し上げて見たく思い、その時の御表情などでお心も読みたいと願っているが、淡くほの かに想像のつくこともあるために、かえって思いやりのないお尋ねを持ち出して不快なお気持 ちにおさせしてはならない。
2026.08.27
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源氏物語〔36帖 横笛 6〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。口の悪い女房たちが何を言うか分からないと冗談を言いながら若君を御自身の膝へ抱き取りになり 「この子の眉がすばらしい。小さい子を見ないせいか、これくらいの時はただ 赤ん坊らしい顔しかしていないものだと思っていたのだが、この子はすでに美しい貴公子の相 があるのは危険なこととも思われる。内親王もおられる家の中でこんな人が大きくなって いっては、どちらにも心の苦労をさせなければならぬ日が必ず来るだろう。しかし皆のその遠 い将来は私の見ることのできないものなのだ。『花の盛りはありなめど』(逢ひ見んことは命なりけり)だね」こうお言いになって若君の顔を見守っていた。縁起のよいことと女房たちは言っていた。若君は歯茎から出始めてむずがゆい気のする歯で物が噛みたいころで、竹の子をかかえ込んでよだれをたらしながらどこもかも噛み試みている。「変わった風流男だね」と院は冗談を言い、竹の子を離してしまい、憂きふしも忘れずながらくれ竹の子は捨てがたき物にぞありける
2026.08.26
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源氏物語〔36帖 横笛 5〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。若君は乳母のそばで眠っていたが、目を覚ますと這って来て六条院の袖にまとわりついた。その姿はたいへん愛らしかった。白い羅の下着に支那風の小模様がある紅梅色の上着を長く引きずり、小さな子供らしく着物だけが後ろへずれていた。肌は白く、姿はすらりとして柳の木を削って作ったように美しい。頭は露草の汁で染めたような青さだった。口元は整い、上品に長い眉には柏木の面影があった。しかし柏木もこれほどまでに美しい容姿ではなかった。女三の宮にもあまり似ておらず、すでに備わっている気高い風采だけを見ると、鏡に映る自分の子のようにも思われた。六条院はそんな若君を静かに見つめていた。若君はもう立って二、三歩ほど歩けるようになっていた。やがて竹の子を載せた広蓋のそばへ近づき、何も分からないまま手で掻き回し、その一本を口にくわえては放り出した。その様子を見た六条院は笑いながら、行儀が悪いね。あれはどこかへ隠したほうがいい。食べ物ばかり欲しがる子だと、冗談を言う。
2026.08.25
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源氏物語〔36帖 横笛 4〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。娘を託された自分が誠実でなければならないと気遣う思いも、年老いた今はいっそう強くなっているのだろうと考え、その心情を気の毒に思い女三の宮は慎ましく返事を書き、使者には青鈍色の綾一襲を贈った。書き損じた紙が几帳のそばに見えていたので六条院が手に取ると、力のない細い字で次のように書いた。「うき世にはあらぬところのゆかしくて背く山路に思ひこそ入れ」と書かれていた。「あなたを心配している父上に、こんな山奥へ入りたいなどと思わせることを書いてはいけません」と六条院は穏やかに言った。女三の宮は出家してから、同じ部屋にいても顔をなるべく見られないようにしていた。しかし美しい額の髪や整った顔立ちは幼い子供のようにあどけなく、いかにも可憐だった。その姿を見るたびに、なぜこのような境遇にしてしまったのかと後悔し、自分はまた罪を重ねているような思いにとらわれた。そのため几帳だけを間に立てて隔てながらも、よそよそしく見えないよう心を配っていた。
2026.08.24
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源氏物語〔36帖 横笛 3〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。その中であなたを思いながらこれを掘らせたので、ほんのわずかだが受け取ってほしいと記した。そして、「世を別れ入りなん道は後るとも同じところを君も尋ねよ」と詠み、自分が先に往生しても同じ浄土へ来られるよう、さらに仏道の修行に励まなければならないと諭した。女三の宮がその手紙を涙ぐみながら読んでいるところへ六条院が訪れた。宮がいつもより寂しそうに手紙を読み、そばに漆器の広蓋が置かれているのを見て不思議に思ったが、それは朱雀院から届けられた贈り物だった。六条院も手紙に目を通し、その内容に深く心を動かされた。老衰が進み、もう今日か明日にも命が尽きるかもしれないと思いながら、娘に会えないことを嘆く父の思いが率直に記されていた。同じ浄土へ来るようにという言葉は僧がよく口にするものではあったが、この手紙には朱雀院自身の切実な実感がそのまま表れていると六条院は感じた。朱雀院は本心からそう願っていた。
2026.08.23
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源氏物語〔36帖 横笛 2〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。また慰めとして未亡人となった一条の宮にも多くの品を贈ることを忘れなかった。兄弟以上の情けを故人に尽くす夕霧の姿を見て、大臣も夫人も、これほど深い志があったとは思わなかったと喜び、あらためて亡き子を惜しんだ。法要の華やかさにも柏木が生前に持っていた勢いが表れ、両親は栄えていた姿を思い返して悲しみを深めた。朱雀院は、女二の宮も不幸な境遇となり、出家した女三の宮も世俗の幸福とは縁のない暮らしを送っていることを父として残念に思っていたが、今さらこの世の出来事に執着しても仕方がないと自らに言い聞かせ、その思いを胸にしまっていた。仏道の勤めをするたびに、女三の宮も同じように修行を続けていると思い浮かべていた。女三の宮が出家してからは、それまで以上に折に触れて手紙を送り、父として変わらぬ気遣いを示して、朱雀院は寺の近くの林で採れた竹の子や、そのあたりの山で掘った自然薯に山里らしい新鮮な趣を感じ、女三の宮へ贈った。手紙にはさまざまなことを書き添えたあと、春の野山は霞に包まれている。
2026.08.22
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源氏物語〔36帖 横笛 1〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。「柏木」は衛門督の死、その後の人々の悲しみや秘密が中心でしたが、「横笛」ではその後の人間関係、とくに柏木の残したものをめぐる苦しみや、源氏・夕霧・女三の宮などの心の動きが続いていく。権大納言柏木の死を惜しむ者は多く、月日が過ぎてもなお恋しく思う人ばかりだった。六条院も同じだった。もともと関係の薄い人物であっても、何か一つでも優れたところを持つ者が亡くなれば深く悲しむ人だった。柏木は朝夕六条院へ出入りする身近な存在であり、多くの者の中でも特に愛すべき男として見ていたため、一つの問題は別としてたびたび心に思い浮かべていた。四十九日の法要では厚い志を示す読経料を寄進した。事情を知らない幼い若君の顔を見るたびに悲しみは深まり、そのほかにも法要のため黄金百両を贈った。事情を知らない柏木の父大臣は、その厚意に何度も感激して礼を述べた。夕霧も従兄であり、妻の兄であり、親友でもあった柏木の法要を盛大に営もうと心を尽くした。
2026.08.21
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源氏物語〔35帖 柏木49〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。柏木の面影をとどめるものは何もないと思って、その死を惜しんでいた。やがて秋になると、若君は這い回るようになった。その愛らしさは言葉に尽くせないほどで、六条院は人前だけでなく心の底からかわいがり、いつも自分の腕に抱いて大切に育てていた。こうして「柏木」の巻は終わる。栄華を誇った若き貴公子は、許されぬ恋の罪と悔恨を胸に抱えたまま短い生涯を閉じた。しかし死後も多くの人々に惜しまれ、その名は帝から友人、家族に至るまで人々の心の中に生き続けた。一方で、誰にも知られぬ秘密として残された若君だけが、柏木の血を受け継ぐ唯一の存在だった。だがその真実は表に出ることなく、やがて若君は源氏の子として成長していくことになる。次の「横笛」の巻では、柏木を失った人々の悲しみと、残された者たちの思いがさらに描かれていく。(完)明日より36帖 横笛(よこぶえ)を公開予定。
2026.08.20
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源氏物語〔35帖 柏木48〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。容姿の美醜などは問題ではなく、よほど人目に余るものでない限り、それだけで心が離れたり他の女性に移ったりすることは自分にはできないと左大将は考えていた。清楚な直衣姿の左大将は背が高く堂々としており、女房たちは、六条院は優雅で愛嬌のある美しさを持ち、男らしく華やかで、心を奪われると噂し合った。そして、できることなら女三の宮の新しい夫となり、いつも宮のそばにいてくれればよいのにとまで願う者もいた。左大将は「右将軍が墓に草はじめて青し」と口ずさみながら、友を失った詩人の気持ちを重ね合わせていた。世の人々もまた、数か月前に亡くなった柏木を惜しまぬ者はなく、帝でさえ追憶した。音楽の催しのたびに「ああ、衛門督がいてくれたなら」と思い、何かにつけて柏木の名を口にしない人はいなかった。まして六条院の悲しみは月日とともに深まるばかりであった。院は女三の宮の若君を、誰にも知られていないまま、ひそかに柏木の形見として愛していた。しかし周囲の人々は真実を知らない。
2026.08.19
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源氏物語〔35帖 柏木47〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。病床にあった御息所が姿を現し、左大将も姿勢を正し、改めて挨拶を交わした。御息所は悲しみのあまり体調を崩し、ぼんやりと日々を送っているが、左大将の度重なる見舞いに励まされて出て来たのだと語った。左大将も、故人を悲しむのは当然だが、あまり深く嘆き続けては体に障り、この世の出来事は前世からの因縁による。この世の出来事は前世からの因縁により、悲しみも永遠には続かないと慰めた。左大将は、噂に聞いていた以上に女三の宮が優美で気品ある女性であることを知った。そして若くして夫を失った悲しみに加え、人々から不幸な女性として憐れまれることまで苦しんでいるのだろうと思ううちに、同情は次第に恋心へと変わった。自分でも変化に気づきながら、御息所を通じて宮の様子を熱心に尋ねた。人の価値は性格によって決まり、尊ぶべき女性とそうでない女性は内面によって分かれるものだと思っていた。そして衛門督を親しく扱われたように、自分も他人と思わず接してほしいと、露骨ではないながらも、深い好意をにじませるようになっていた。
2026.08.18
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源氏物語〔35帖 柏木46〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。互いに枝を重ね合って頼り合う姿が実によい」と語った。そしてさらに簾の近くへ寄り、葉守の神のお許しがあるなら、御簾の隔てを取り払い、もっと近くでお目にかかりたいものだと歌に託して気持ちを伝えた。左大将は一段高くなった室の長押に外から寄りかかるようにしていた。その姿は柔らかく優雅だ。女房たちは、こうして気を許している時は、また格別に美しく見えると小声でささやき合った。先ほどまで左大将と話していた少将の君という女房が取り次ぎ役となり、長く姿を見せない女三の宮も、ようやく返事をすることに。悲しみに閉ざされた宮と左大将との間に、御簾越しながら静かな対話が始まろうとしていた。女三の宮は少将の君を通して、「柏木という葉を守る神がいらっしゃるとしても、人を親しくさせる宿の梢ではないでしょう」と歌を返した。突然そのようなことを言われるのは、かえって好意が疑われるからだという慎み深い返事であった。もっともな答えだと感じた左大将は、思わず微笑んだ。
2026.08.17
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源氏物語〔35帖 柏木45〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。枝を思うままに伸ばしていた。茂る草むらを見ていると、秋になれば虫の音が響くであろう様子まで想像され、左大将はしみじみとした哀愁に包まれた。喪中の邸では御簾の代わりに伊予簾が掛けられ、室内には鈍色の几帳が透けて見えていた。その落ち着いた色合いは夏の気配の中でかえって涼しげだった。女童たちの鈍色の汗袗の袖や、後ろ姿の髪がちらりと見えるのも上品であったが、やはり鈍色という色は、見る者に悲しみを思い起こさせる色で、今日は左大将は女三の宮の座敷の縁近くに席を取ろうとした。女房たちはいつものように御息所に応対を頼んだが、この頃は病がちで、今日も横になっていた。御息所が現れるまで、女房たちが応対している間、左大将は青々とした庭木を眺めていた。自然は人の悲しみとは関係なく生命に満ちている。しかしその美しさがかえって胸を痛めた。柏の木と楓が若葉を茂らせ、枝を交わし合って立っている姿を見て、左大将は女房に向かって「よほど深い縁のある木なのだろう。
2026.08.16
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源氏物語〔35帖 柏木44〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。さらに左大弁も、春を待つ前に花が散ってしまった恨みを歌に託した。皆の心に、柏木の早すぎる死への惜別が深く残っていた。大納言柏木の法事は盛大に営まれた。妹である左大将夫人が兄のために供養を尽くしたのはもちろん、左大将自身も真心を込めて供物を整え、読経のための寄進にも惜しみなく力を尽くした。その友情は生前と変わらず深く、柏木の死後も変わることはなかった。そして左大将は一条の宮へも絶えず見舞いの言葉を送り続け、残された女三の宮を気遣っていた。四月になり、初夏の空には爽やかな気配が満ちていた。木々は一斉に若葉を広げ、どこを見ても緑に包まれていたが、悲しみに閉ざされた。邸ではその鮮やかささえ寂しく感じられた。母君の御息所と女三の宮は、長く続く喪の日々の中で退屈と悲しさに沈んでいた。そんな折、左大将が再び訪ねて来た。庭の草は青く伸び、敷砂の隙間には蓬が力強く広がっていた。林泉を愛した柏木が丹精していた植え込みや花々も、今は手入れする者がない。
2026.08.15
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源氏物語〔35帖 柏木43〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。大臣は、自分の母を失った時以上の悲しみはないと思っていたが、今度の苦しみはそれとは比べものにならないと語った。柏木は朝廷の恩を受けて地位を得るにつれ、多くの人が頼る存在となっていたため、その死を惜しむ者も多かった。しかし自分にとっては官位や勢力を失ったことが悲しいのではない。何の肩書も持たない一人の息子としての柏木が恋しくてならないのだと言った。この悲しみを慰めるものなどあるはずもないと嘆き、空を見上げて深くため息をついた。夕暮れになると雲は鈍色にかすみ、花の散った桜の梢が寂しく浮かび上がり、大臣はその姿にようやく気づいたほど、息子を失った悲しみに心を奪われていた。左大将が帰った後、御息所は歌を書いて返した。亡き人を失った悲しみの中で、春の霞さえ喪服をまとったように見えるという心を詠んだものであった。これに対して左大将も、柏木自身もまさか自分が先に逝き、残された人々が夕霞のような喪の衣を着ることになるとは思わなかっただろうと返した。
2026.08.14
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源氏物語〔35帖 柏木42〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。左大将は柏木の晩年を振り返り、若いころの柏木は冷静で理知的な人だったが、亡くなる数年前からは心細そうな顔を見せることが多くなった。人生について深く考えた末に達した澄み切った境地なのかもしれないが、それでは以前の生き生きとした魅力まで失われると心配になり、時には忠告めいたことも言った。柏木は逆に自分を憐れむような優しい眼差しを向けるばかりで、左大将は、何よりも女三の宮が深い悲しみの中にいることを聞き、気の毒でならないと語った。その口調には亡き友への情愛と、残された宮を思いやる真心があふれて、しばらく懐かしい昔話を交わした後、左大将はなお名残惜しく静かに邸を後にした。衛門督は大将より五、六歳年上だったが、若々しく女性的な柔らかさを持つ人物で、一方の大将は重厚で端正な姿をしており、顔立ちの美しさは際立っていた。若い女房たちは悲しみを忘れるほどその姿に見入り、帰ろうとする大将を見送った。庭の桜を眺めながら大将は歌を口にしたが、尼姿を連想させる表現は避けた。
2026.08.13
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源氏物語〔35帖 柏木41〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。再び逢うことのできる命の尊さを詠んだ。さらに散った枝を残した桜の歌を自然に口ずさむと、一条の御息所からも返歌が届けられ、御息所は才気あふれるほどではなかったが、以前から才女と評判だった更衣らしい気の利いた歌を返してきたので、大将は評判に違わぬ人物だと感じた。その後、大将は太政大臣家を訪れた。子息たちに案内されながら離れ座敷へ向かったが、舅のもとへ無遠慮に入ることをためらった。そこで目にした大臣の姿は変わり果てていた。かつて端麗だった顔はやせ衰え、髭も伸びたままで、親を失った時より子を失った後の衰えの方が深いという世間の言葉そのままだった。大将は顔を見るなり涙があふれた。一条の宮を訪ねてきた話でも、涙もろくなっていた大臣は涙を流し、亡き柏木の思い出を語り、大将が一条の御息所から託された歌を見せると、大臣は涙でかすむ目を押し懸命に読み取った。老いと悲しみで誇りに満ちていた面影は失われていたが、「玉は貫く」という言葉だけは胸に深く突き刺さり、再び涙がこぼれた。
2026.08.12
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源氏物語〔35帖 柏木39〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。大臣夫妻の悲しみも深いと聞いているが、柏木が最も心配していたのは妻である女三の宮のことだと思うと、宮の悲嘆がどれほどのものか胸が痛むと語り、その途中にも何度も涙をぬぐった。気高く美しい姿に深い情愛がにじみ、御息所も思わず声を詰まらせた。御息所は、この世の悲しみは避けられないと話す。自らをも励ましているが、まだ若い女三の宮は悲しみに沈み切り、このまま後を追ってしまうのではないかと心配になるほど嘆き続けていると話した。そして、自分だけが年老いて生き残り、大納言を失い、さらに娘を若くして未亡人にしてしまう運命を見届けねばならないことが、何よりもつらいと涙ながらに語った。長い人生を生きてきた母でさえ耐え難い悲しみなのだから、若い宮の心の傷がどれほど深いものか、左大将には痛いほど理解できた。御息所はさらに胸の内を語った。女三の宮の結婚話が持ち上がった当初、自分は賛成ではなかったという。しかし柏木の父である大臣が熱心に進め、法皇も許す様子だった。
2026.08.11
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源氏物語〔35帖 柏木40〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。自分の考えが古すぎるのだろうと思い直して結婚を受け入れた。だが今となっては、もっと強く反対していれば、このような不幸な結果を避けられたのではないかと悔やんでいた。もともと宮という高貴な人は、よほど深い縁でもない限り結婚などせず、神聖な存在として大切に守られるべきだと昔気質の考えを抱いていた。中途半端な形で若くして未亡人となった宮を見るにつけ、いっそ悲しみのまま命を終えたほうが幸せなのではないかとさえ思う。しかし実際にはそんなふうに諦め切れるものではなく、悲しみの中で日々を送っているのだった。その中で唯一の慰めとなっていたのが、左大将からたびたび届く心のこもった見舞いの手紙だった。これほど親切にしてくれるのも、柏木が最期に宮のことを頼み残したからと思うと、柏木は決して愛情深い夫には見えなかったものの、最後には誰に対しても宮を気遣う遺言を残していたことがわかり、悲しみの中にもかすかな慰めがあることを知ったと語った。そして御息所は言葉の途中で涙にくれ、大将も涙を流した。
2026.08.11
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源氏物語〔35帖 柏木38〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。柏木が亡くなってからの邸は、女房たちまで喪服をまとい、何もかもが沈んだ空気に包まれていた。ある日、高い前駆の声とともに車が門前に止まると、女房の中には、亡くなった殿がお帰りになったのかと思ったと泣き出す者までいた。最初はいつものように左大弁や参議あたりの来訪かと思われていた。姿を現した左大将は気品と美しさを兼ね備え、立ち居振る舞いまで見事で、人々の目を引いた。客は南向きの座敷に通され、女房だけに応対させるのは失礼だとして、宮の母である御息所が自ら姿を見せた。左大将は、柏木への悲しみは遺族にも劣らないが、立場上それを十分に表すことができなかったと語った。そして柏木が最期に女三の宮のことを託していった以上、自分もできる限り力になりたいと思っていると打ち明けた。本当ならもっと早く見舞いたかったが、宮中の神事や穢れを避けるしきたりもあり、さらに庭先から形式的に挨拶するだけでは自分の気持ちが済まなかったため、訪問が遅れてしまったのだという。
2026.08.10
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源氏物語〔35帖 柏木37〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。大臣夫妻は思い出せば悲しみが募るばかりで、かえって成仏の妨げになると言うだけで、生きながら魂を失った人のようになっていた。未亡人となった落葉の宮の悲しみはさらに深かった。最期の病床にも立ち会えないまま夫を失ってしまったからだ。広い邸は日を追うごとに寂れ、仕える人々も少しずつ去っていった。柏木に恩を受けた人は宮を訪れ、敬意を示した。柏木が愛用していた鷹や馬を預かっていた家臣たちも、主人を失って力を落としながら出仕していたが、その姿を見るだけで宮の心は痛んだ。柏木が日常使っていた品々がそのまま残されており、いつも手にしていた琵琶や和琴は今では弦も張られず静かに置かれている。それらを見るたびに在りし日の姿が思い出され、悲しみはいっそう深くなった。庭では季節が巡り、木々は霞み、花は時を違えず咲こうとしていた。しかし自然だけが変わらず美しく移りゆく様子は、宮に人の世のはかなさを感じさせたが春が訪れようとしていることが、何よりも寂しく悲しく思われたのである。
2026.08.09
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