今が生死

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2023.01.19
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テーマ: 宮沢賢治(13)
カテゴリ: 読書
宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」をモチーフにした演劇を観に行ってから宮沢賢治に関する本を色々読んでいるが、その中に東大戦没学生の手記「はるかなる山河に」があった。これは東大生が学徒出征して、戦死した学生たちの手記をまとめたものだ。
それを読んでいたらその手記の中に宮沢賢治の童話のことを書いていた学生がいたので紹介する。
それは経済学部学生 佐々木八郎さんの手記で東大2年生の時、昭和18年11月10日の出陣に際して書かれたものである。彼は昭和20年4月14日沖縄の海上で特攻隊員としての任務を果たして戦死した人である。その手記の題は「愛と戦と死」だった。副題は宮沢賢治の「烏の北斗七星」に関連してだった。
冒頭から宮沢賢治について書いているのでそのまま引用させて頂く。
「宮沢賢治はその生い立ち、性格から、その身につけた風格から、僕の最も敬愛し、思慕する詩人の一人であるが、彼の思想、言葉を変えて言えば、彼の全作品の底に流れている一貫したもの、それがまた僕の心を強く打たないではおかないのだ。『世界が全体幸福にならない中は個人の幸福はありえない』という句に集約表現される彼の理想、正しく清く健やかなものー人間の人間としての美しさへの愛、とても一口には言いつくせない、深みのある、東洋的の香りの高い、しかも暖かみのこもったその思想、それがいつか僕自身の中に育まれてきていた人間や社会に対する理想にピッタリ合うのである。『烏の北斗七星』中に描出された彼の戦争観が、そのままに僕の現在の気持ちを現しているといえるような気がする。
佐々木さんがそれほどまでにほれ込んだ賢治の『烏の北斗七星』とはどんな童話なのかと青空文庫で検索してプリントアウトして読んだ。A4版5枚の童話だった。烏の軍隊が山烏と戦争する話で、烏の大尉にはいいなずけの烏がいた。大尉は明日山烏との戦争に自分に出撃命令が出された。戦争なので死ぬかもしれない。その時はいいなずけは解除だから他の烏の所に嫁に行ってくれというが、いいなずけは「それはあまりにひどいわ」と泣き崩れる。戦争は大尉などの活躍で山烏に勝つことができて大尉は少佐に昇級する。
昇格した少佐は北斗七星に向かって「どうか憎むことのできない敵を殺さないでいいように早くこの世界がなりますように、そのためならば、私の体などは何べん引き裂かれてもかまいません」と祈る。
これが大体のあらすじだが佐々木さんががなぜ特攻隊を志願したかについては「日本に生まれた人間としてその運命のままに戦い、お互いが全力を尽くすところに世界史の進歩もあると信じ、人間らしく卑怯でないように生きたい」としているが志願理由を文章にするのは難しかったと思う。
その時の青年たちの考えは様々だったと思うが、基本的にはお国のために尽くすというのは子供の時から刷り込まれた考えで、そのためには命も惜しまないと考えた若者は多かったと思う。そのような状況の中で宮沢賢治に憧れた青年がいたのかと思うと救われたような気がした一方、戦争の悲惨さを改めて思った。





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Last updated  2023.01.20 12:43:59
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Re:特攻隊志願兵の中に宮沢賢治に憧憬していた青年がいた(01/19)  
かんぼう さん
宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」をモチーフにした演劇を観に行ってから宮沢賢治に関する本を色々読んでいるが、その中に東大戦没学生の手記「はるかなる山河に」があった。
昇格した少佐は北斗七星に向かって「どうか憎むことのできない敵を殺さないでいいように早くこの世界がなりますように、そのためならば、私の体などは何べん引き裂かれてもかまいません」と祈る。
◎貴方は本当によく本を読みますね。読むスピードが速いですね。
ご指摘の通りです。今もなお宮沢賢治が令和の国民い大きなメツセージを本を通して送り続けている偉人です。
法華経の思想が凄いですね。
彼は牧口恒三郎先生のような生き方をすればあの時から広宣流布の流れが起きていたのでしょうね。 (2023.01.20 08:56:00)

本を読むスピードは遅いです  
楽天星no1  さん
かんぼうさんへ

「よく本を読みますね。読むスピードが速いですね」

本を読むスピードはかなり遅い方です。「日蓮の思想とその生涯」を読み始めましたが御書が随所に引用されており、牧口、戸田、池田の3代の会長の書籍からも引用されており、御書の読解力があまりない小生は中々前に進めません。その途中で宮沢賢治が出てくると「日蓮の思想とその生涯」はそっちのけで宮沢賢治関連の本を読んでしまうという傾向があり、「日蓮の思想とその生涯」は置いてけぼりです。
宮沢賢治の童話の殆どは法華経をバックボーンにした作品だと思います。
生前にそれらが評価されたら社会に対する影響力も違ったでしょうね。 (2023.01.20 13:06:53)

Re:本を読むスピードは遅いです(01/19)  
かんぼう さん
楽天星no1さんへ
「日蓮の思想とその生涯」を読み始めましたが御書が随所に引用されており、牧口、戸田、池田の3代の会長の書籍からも引用されており、御書の読解力があまりない小生は中々前に進めません。
◎本は読みやすい楽な本ほど早く読めますね。
法華経とか御書は難芸難儀です。こうした本は本物なんですね。
特に御書は奥が深くて理解するには信心の心が無いと読めないですね。
どうしても理解する読解力で詰まってしまいますね。何度も読んでそれなりに理解していく。幾山河の道のりです。御義口伝が読破出来たら御本仏に命、志の魂が理解できます。
奥が深いですよ。
御書が最高の経典ですね。 (2023.01.21 08:34:29)

古文の読解力  
楽天星no1  さん
かんぼうさんへ

「御義口伝が読破出来たら御本仏の命、志の魂が理解できます」

口語文でない古文は難しいです。高校で習ったことがありますがその後は縁が薄かったので久しぶりに接すると外国語のように感じてしまいます。
おっしゃる通り身読で理解していこうと思います。ありがとうございました。


(2023.01.21 13:40:16)

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