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ロシアで「日本車」と言えば、いろいろなブランドが思い浮かぶ。しかし、少し特殊な地位を占めている車がある。それがトヨタ・カムリだ。
ロシア人にとってカムリは、単なる中型セダンではない。長年にわたって「日本車らしい日本車」の代表格として扱われてきた。頑丈で、静かで、壊れにくく、そして何となく威厳がある。中古車になっても妙に高い。走行距離がかなり伸びていても、「まあ、カムリだから」と許されてしまう。ロシアの自動車市場では、ほとんど一種の文化現象である。

ところが、時代は変わった。
現在ロシアで流通している新しい世代、XV80型カムリを見ると、少々面白い事実に気づく。この「本物の日本車」を、ロシア人が日本車としてありがたがりながら購入している一方で、その多くは中国からやって来るのである。
もちろん、これは中国メーカーが勝手にカムリを作っているという意味ではない。XV80はれっきとしたトヨタであり、中国では広汽トヨタ(GAC Toyota)の工場で生産されている。トヨタ自身も中国で2006年からカムリの現地生産を続けている。つまり、「中国製トヨタ」という表現には少し違和感があるかもしれないが、事実としてカムリはかなり以前から中国で作られてきた車なのだ。
ただし、ロシア人の感覚からすると話は少し違う。
「トヨタ・カムリ」と聞いた瞬間に頭に浮かぶのは、なぜか「日本」「信頼性」「日本人が真面目に作った車」といったイメージである。ところが、XV80になると、そのカムリが中国から船に乗ってやって来る。
しかも、これは単なる輸入車ではない。ロシアでは現在、公式な新車供給がなく、並行輸入という形で中国仕様のカムリが入ってきている。つまり、かつてロシアの道路で「日本車の王様」のような顔をしていたカムリが、今では中国から来るという、なかなか皮肉な状況になっている。
ここで重要なのは、「中国製だから品質が悪い」という単純な話ではない。むしろ現在のトヨタにとって中国は巨大な生産拠点であり、広汽トヨタはトヨタと中国の広汽集団による正式な合弁会社である。中国で作られたカムリは、正真正銘トヨタ・カムリだ。
だからこそ面白い。
ロシアのカムリファンが「やっぱり日本車はいい」と言いながら、中国生産のXV80に乗る。車のエンブレムには堂々と「TOYOTA」と書いてある。ボンネットを開けても「中国メーカーの謎のエンジン」が出てくるわけではない。それでも、その車が海を渡ってロシアに来たルートをたどれば、日本ではなく中国に行き着く。
これは自動車産業のグローバル化を非常に分かりやすく表している。昔なら「日本車=日本で作られた車」というイメージでも、それほど問題はなかった。しかし現在のトヨタは世界中に生産拠点を持っている。カムリも例外ではなく、中国、アメリカ、日本、タイなど、複数の国で生産されている。
そしてロシア人にとっては、ここにちょっとした心理的なねじれが生まれる。
「中国車はちょっと……でも日本車なら大丈夫」
「これは日本車ですよ」
「どこで作ったの?」
「中国です」
……という会話が成立してしまうのである。
もちろん、カムリを買う人にとって重要なのは生産国だけではない。乗り心地、信頼性、装備、ハイブリッドシステム、部品供給、整備性など、実際に所有してみなければ分からないことも多い。だから、XV80が本当にロシアのカムリファンを満足させるのかについては、結局オーナーの声を聞くのが一番早い。
トヨタ・カムリXV80のオーナーレビュー を読むとかなり興味深い。中国仕様ならではの装備や使い勝手についても、カタログだけでは分からない「現実のカムリ」が見えてくる。
結局のところ、カムリは面白いところまで来た。
ロシアでは今でも「日本車の代表」として見られている。しかし、その「日本車」は中国で作られている。しかも、それを作っているのは中国の新興メーカーではなく、トヨタ自身の中国合弁会社である。
つまり、ロシア人が愛してきた「日本のカムリ」は、いつの間にか国籍という概念をかなり複雑にしてしまった。
日本のブランド、中国の工場、ロシアの道路。そしてハンドルを握るロシア人は、「やっぱり日本車はいいな」と満足している。
なんともグローバル化した「純粋な日本車」である。