2006年01月03日
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2005年5月20日

(1)キャッシュフロー表方式の欠点

 マネー運用の本を読むと、人生計画を考えることと資産運用が密接に関係するとしばしば強調されますが、では具体的にどうすればいいかをスッキリと書いたものがなかなか見あたりません。
 よくあるのは、将来のお金の出入りの数字を費目毎に埋めてゆく「キャッシュフロー表」と呼ばれるようなものですが、 数字をたくさん入れる必要があって相当に煩雑です。将来の収入は不確かですし、支出もその時々の事情で変化しますから、 正確に書けるものではありません。また、それぞれのキャッシュフローの不確実性がバラバラなので、これを幾ら眺めていても、 「現在幾らの運用リスクを取ることが出来るか」という肝心のポイントが分かりません。 悪くすると、運用資金を支出の目的別に区切ってしまい、それぞれに運用商品をあてはめるような、非効率的な運用計画にはまってしまいます。 将来のお金のやりくりをイメージするには有益であっても、この種の表をお金の運用計画のベースにするのは不十分です。

(2)個人版のB/S、P/L

 そこで、簡単な家計の自己点検プロセスを提案してみたいと思います。
 まず、ご自分の家計に関する数字を6つほど集めて下さい。数字はそれほど厳密でなくても結構です。 状況を大まかに掴むことができれば十分です。  用意する数字は、 (A)金融資産 (B)実物資産 (C)短期負債 (D)長期負債、それに(X)年間収入 (Y)年間支出  のたった6つで結構です。 現状について正直に、メモ用紙にでも書いてみて下さい。
 「金融資産」は、現金・預金・株式・投資信託など簡単に(数日で)換金できるものの合計額です。 「実物資産」は、主に不動産、高い車をお持ちの場合は自動車が含まれるでしょうが、取得価格ではなくて、 現状で売れる価格を正直に書いて下さい。企業も個人も意思決定のための現状把握は「時価評価」が大原則です。 「短期負債」はカードローンなどの残高で、はっきり言ってこれはゼロが望ましい。 「長期負債」は住宅ローンあるいは自動車ローンなどでしょう。まずは名目のローン残高で結構ですが、厳密には、 これも時価評価しなければならないので、多くの場合、名目上の残高よりも大きなものになることを覚えておいて下さい (借金とは何とも損なものなのです)。「収入」、「支出」は税引き後の現実に近い数字をこれも正直に書いて下さい。
 これらの数字を、図1のような形に書いてみて下さい。ついでに、(A+B)から(C+D)を引いて (E)自己資本 (Z)年間余裕額 を求めて下さい。
 これで 家計版の簡易バランスシートと損益計算書 が出来ました。 「自己資本」は企業なら株主資本、つまりストックのレベルの余裕でありプラス額、 「年間余裕額」は企業なら利益、つまりフローのレベルの余裕額を表します。
 企業でも遠い将来の収入・支出が不確実なのは家計と同じですが、バランスシートや損益計算書を見て、  どの程度の運用リスクに耐えうるかを考えながら資金運用を行います。家計の場合も、基本は一緒です。

第七回 図1

(3)投資に向かない家計のパターン

 この程度の簡単な分析でも、家計について、いろいろな問題点を見つけることが出来ます。 まず 短期負債が金融資産を上回る(C>A)家計は、何れも対策を要します。 カードローンなどの借金の利率は、株式など通常の運用の期待収益率を上回るので、早急に借金を返すことが重要であり、 売却できる実物資産(B)があれば売却を検討してもいいでしょう。 これにさらに住宅ローンが加わって、且つ住宅が値下がりしているケースは、自己資本(E)がマイナス(債務超過)に なっており、家計の「再建計画」の策定と実行が必要です。ともかくローンを減らすことを最優先に考えなければなりませんが、 共稼ぎにして年間収入(X)を増やすとか、生活を切りつめて年間支出(Y)を抑えるといったことも考えなければならないでしょう。 「将来稼げるから、大丈夫だろう」という甘い考えは禁物です。

第七回 図2
 短期負債が存在しなくても、住宅ローンが大きくて差し引きの自己資本(E)がマイナスになる家計や、 自己資本がぎりぎりプラスでも、住宅ローンが残っているような家計は、ハッキリ言って、リスクを取った運用には向きません。
住宅ローンのある家計は投資(たとえば株式投資)に向かない 、と言い切ってしまうと、 日本では投資できる家計が大幅に減ってしまいそうですが、まとまったお金があれば、投資するよりもローンを返済する方が、 有利であり同時に健全です。たとえば、住宅ローンを借りている銀行が、ボーナス時などに投資信託や投資型年金保険の ようなものを勧めることがあるとすれば、その銀行員は顧客にとって悪魔かそうでなければ貧乏神のような存在です。
 現実に住宅ローンを抱えている人が多く、また住宅ローンをはじめとする個人向けのローンが金融機関の大きな収益源に なっていることもあってか、「住宅ローンは別に考えて、お金の運用は運用として考えましょう」といった手合いのアドバイスも あるようですが、そのような運用をするとリスクが過大になりがちですし、 資産・負債両サイドで金融機関にコストを払うことになる ので、非常に割の悪い状態に陥ります。


(4)リスク資産に投資できる家計のパターン

 ローンのない家計は、リスク資産での運用を検討してもいいでしょう。 しかし、年間支出額(Y)に対して自己資本(E)の蓄えが乏しい場合は、あまり大きなリスクを取ることができません。
 自己資本の蓄えがどの程度あればいいのかということについては、一律に機械的に決めることはできませんが、 自己資本が年間支出額の二倍から三倍あって、かつこれが金融資産でカバーされていれば、 ある程度安心な家計と見ていいでしょう。 但し、年間余裕額は安定的にプラスであることが必要でしょう。 支出が収入を上回って、年間余裕額がマイナスの場合には、相当に大きな余裕がないと安心とはいえません。
 一方、大きな支出の予定のない高齢者の家計のような場合には、自己資本の大きさが十分にあれば、 年間余裕額がマイナスであっても大丈夫でしょう。
家計を安全にする自己資本を早急に蓄えることは非常に効果的です。 ある程度の備えを持てば、生命保険にお金をかけずに済みます。 生命保険とは、一言で言えば「損な賭け」です。 貯金も頼れる身内もない若年夫婦に子供が出来たような、仕方がない場合を除いて、 なるべく入らずに済ませるのが賢いと思います。

第七回 図3

 何れにしても、 (E)自己資本 (Z)年間余裕額 (Y)年間支出、それに個々の家計の事情を考えて、 「金融資産運用で1年間に損しても問題のない上限額」を考えることが重要です。
 若いサラリーマンの家計はローンもないかわりに、大きな資産もない、という家計が多いでしょう。 こうした家計はどう考えるべきでしょうか。厳しいアドバイスが書いてある本では、年収ないし支出の2年分の蓄えがなければ、 リスクを取った運用はダメと書いてあることがありますが、筆者はそこまでストイックに考えなくてもいいと思っています。 若いサラリーマンの場合、本人の「人的資本」(将来の稼ぎの割引現在価値と考えてください)が 豊かで健康も安定していることが多いので、たとえば1年間の損失上限を年間余裕額(Z)よりも十分小さく抑えておけば、 株式などで運用しても構わないと思います。将来、もう少しお金を持ったときのために、 運用に慣れておくことはいいことではないでしょうか。
 もちろん、図3の最初に掲げたような、無借金で資産が豊富、且つ支出を大幅に上回る支出があるというような 活力のある家計が理想的です。こうした家計なら、相当のリスクを取ることが出来ますが、年間余裕額(企業では利益に相当)や バランスシートを考えながらリスクの大きさを決めなければならないのは、企業の経営と一緒です。









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最終更新日  2006年02月10日 00時52分04秒
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