2006年01月07日
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2005年9月16日


■金融商品の基礎

 個人の資産運用について訊かれた場合、筆者は、「シンプルでコストの安い商品を選ぶべきだ」という原則に則ってお答えすることが殆どなのですが、今回は、この理由を説明しておきましょう。もちろん、この原則は論理的に考えられたものですから、機関投資家の運用にあっても基本は同じです。
 まず、金融商品というもののイメージを考えてみましょう。金融商品は、基本的に、プロが参加する(プロだけとは限りませんが)マーケットから、株式なり、債券なり、外国為替なりといった「素材」を調達して、これを売り手がパッケージングして顧客に売るものです。
 この際、物理の質量保存の法則と似ていますが、「素材」の提供するリターンを、「売り手」(運用会社、販売会社等を総称)と「顧客」が分け合う形になっています。つまり「素材のリターン」=「売り手の取り分」+「顧客が得るリターン」という関係が常に成立します。


■フェアな市場とくらべる

 ここで、「マーケット」というもののイメージですが、たとえば株式市場というマーケットを考える時に、図1のようなイメージを頭に浮かべると便利です。
第十五回 図1

 これは、縦軸に期待リターン、横軸にリスクを取った、証券アナリスト試験の「証券分析」によくあるような図ですが(ちなみに、筆者は証券アナリスト資格を持っていませんが)、この無リスク金利(リスクフリーレート)からTOPIXを表す点を結んで引いた斜めの直線は、市場参加者が市場で取引可能な期待リターンとリスクの組み合わせを表しています。株式のポートフォリオとして、TOPIXがリターン/リスクの効率がベストなのかという点に関しては、大いに疑問がありますが、この右方に点在する個別の株式よりは適切に分散投資されたポートフォリオの方が効率はいいでしょう。取りあえずTOPIXを最も効率の良い株式ポートフォリオの代わりだと思って眺めてください。(以下、理論的な話なので、しばらく、売買コストを無視し、借入金利と運用金利を同一と仮定して議論しています)
 直線上の各点は、たとえば無リスク金利の点とTOPIXの間のちょうど中間の点は、資金をTOPIXと短期金融資産(有担保コールなど)に半々に分けると実現できますし、TOPIXよりも右側のグラフ上の点は、お金を借り入れてTOPIXに投資(信用取引も含む)するか、先物やオプションを使うと実現できます。
 この直線上の点は、これに投資した瞬間は、反対売買してポジションをゼロにすることができます。 つまり、この線上の点を売り買いすることは、その時点では損も得もないということです。
 たとえば、ここで株式に投資する投資信託を考えると、分散投資されたポートフォリオですから、リスクはTOPIXの近辺ですが、コスト(信託報酬+年率換算した販売手数料)分だけ期待リターンが落ちた点を買っているということです。
「その時点のマーケットの条件と比較した損得」 とは区別して考えるべきでしょう。
 たとえば、この図で、住宅ローンの返済のようなものを考えると、これは「リスクがゼロで、期待リターンが無リスク金利+銀行のスプレッド」の資産に投資するのと同じ効果ですから、これは「市場の条件」(=斜めの線上にある条件)よりも明らかに良い条件ということになります。
 たとえば、今、5000万円持っているとして、信託報酬が1.5%の投資信託への投資と、無リスク金利よりも1.5%(=ローンのスプレッド)高い住宅ローンの返済の、二つの選択肢、及び「株式市場」があるとします。この場合、この5000万円でたとえば、「株式100%のリスクポジションが欲しい」と思った場合には、A「住宅ローンを返して、先物を5000万円分買い立てる」のとB「投信に5000万円投資する」のとでは、「マーケットの条件」を境に、Aが+年率1.5%、Bが-1.5%の意思決定の損得差が出来ます。
「返済に勝る運用無し」 という金言(?)の、これが背景にある原理でもあります。  


■複数の資産の場合

 株式以外にもリスク資産はあります。その他のリスク資産の「市場」を同様に描いてみたのが図2です。

第十五回 図2

 株式、債券、不動産、その他、どの資産のリターン/リスク効率がいいかは、この図に描いた順番とは限りませんが、はっきりしていることは、これらを組み合わせたポートフォリオが単体のどの資産よりも良い効率を提供するということです。
 複数のリスク資産に分散投資すると効率の良い運用が出来る、ということがこの図の教訓です。
 なお、ついでに解説しておきますが、銀行間の外貨預金の期待リターンは、自国通貨建てで考えた場合、どの通貨が高くなるということはない、「事前には」イーブンの世界のはずです。しかし、外貨預金には為替リスクがあるので、外貨預金の市場は、リスクだけがあって、期待リターンは無リスク金利と同じ、というのが基本的な姿になります。この点に関しては、専門家も入門書ももちろん一般投資家も誤解が多いと感じるので、付け加えておきます。


■意思決定時点の「損得」と結果の「運」を区別する

 もちろん、筆者がコスト高を嫌う投資信託だって事後的に運用結果のいいファンドがあるでしょう(同様に、ひどく悪い結果のファンドもあるはずですが)。
 但し、こうした「結果の良し悪し」は、後になってみなければ分からないことです。もちろん、TOPIXそのものに投資しても結果の良し悪しはあるのですが、これはフェアな市場で取引したその結果によるもので、投資信託のように、フェアなマーケットからマイナスに離れた条件に事後的な運の良し悪しを加えたものとは性質が違います。
金融商品を検討する時は、先ず「フェアなマーケットから上下にどれだけ離れているか」を考えるべき であり、「商品選択の事後的な良し悪し」のリターンとこれを区別して、前者を優先して評価すべきだ、というのが筆者の基本的な考え方です。
 たぶん、これが上手い個人投資家以前に 「賢い金融消費者」 になるための第一歩でもあります。商品を売る側は、それぞれの資産(たとえば株式)の相場観や、個々の商品の良し悪しの評価を、フェアなマーケットからの条件に混ぜて、商品を売って、自分の側は確実な利益(顧客のマイナスは売り手の利益)を得ようとするはずですが、ここで、顧客の側は、「自分の欲しいリスクを、最も低コストにマーケットから調達するにはどうすればいいか」と考えると、売り手側のペースにはまらずに済みます。
 以上が、シンプルでローコストな商品をお勧めする背景です。ここのところ、ネット証券の手数料が一段と下がったので、「複数の銘柄を(ネット証券で!)買う」という選択肢が一層「フェアなマーケット」に近づくことになりました。うるさ型の書き手としても、喜ばしく思っています。

以上






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最終更新日  2006年02月10日 01時49分37秒
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