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2009.02.22
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カテゴリ: 株式投資


植野 大作 氏

野村証券 金融経済研究所
投資調査部長


 2月17日、オバマ米大統領は、景気対策法案に署名した。総額7872億ドル、日本円換算で約72兆円という巨額の経済対策が、今後実施される。この結果、米国の2009年度(08年10月~09年9月)の財政赤字は、名目国内総生産(GDP)比10%近辺まで、大幅に拡大することがほぼ確実だ。

 超大型景気対策の実施はオバマ新大統領の選挙公約であったため、新政権の発足前から、市場参加者の間では「米国の財政赤字拡大に伴うドルの暴落懸念」を唱える向きが増えている。実際、過去約20年間の経験則を振り返ってみると、ドル実効為替相場と米国の財政収支の間には、数年程度の時差を伴った順相関が存在しているように見える。「米国財政赤字の拡大がドルの信任を毀損(きそん)するリスク」は、今後の為替相場を考える上で真剣な検討に値する課題であると言える。今後、米国財政赤字の急拡大に伴うドルの暴落懸念は、果たして実現するのだろうか。

堅調なドル相場の謎を解く鍵

 興味深いのは、オバマ政権誕生前後から、財政赤字の拡大懸念を無視するような形でドル相場が堅調に推移しているという事実だ。実際、年末年始のドル円相場は一時的に1ドル=90円を割り込む局面もあったが、90円前後の水準では意外に底堅い。また、この間ドルは欧州諸国、資源国、新興国の通貨に対しては軒並み暴騰しており、世界的には最近のドルはむしろ強勢を誇っている。財政赤字の拡大に伴うドルの暴落懸念が実現しそうな兆候は、今のところ認められない。

 この謎を解く鍵は、米国の経常収支赤字の動きにありそうだ。現在、米国の急速な景気悪化を反映して、経常赤字は縮小している。米国の財政赤字は足下で急拡大しているが、米国の国内総支出に占める政府部門の構成比は、約2割に過ぎない。国内総支出の7割以上を占める家計部門は現在、借金拡大に依存した過剰消費や過大投資の修正を迫られており、貯蓄投資収支の面で強制的な赤字削減を余儀なくされているのが実情だ。この結果、官民合わせた米国全体の貯蓄投資収支の赤字はむしろ縮小し、海外部門への必要借金額、すなわち経常赤字額が縮小している。




ドル暴落を防ぐ出口戦略

 現時点では、米国の財政出動による赤字拡大は、瀕死(ひんし)の米国経済を景気後退の深淵から救出するために投与せざるを得ない劇薬であり、言わば「必要悪」のような存在だ。長期的には副作用を伴うリスクがあるからといって、財政無策を選択した場合、米国経済の病状はさらに悪化し、市場の落胆と混乱はむしろ深刻化する。市場参加者が切望していた政策を実行に移す行為が、直ちに金融市場の混乱を誘発する可能性は小さい。

 したがって、米国の財政赤字拡大の後遺症がドル相場の価格形成に甚大な悪影響を及ぼすか否かは、将来米国経済が回復に向かい始める時期の出口戦略の優劣によって決することになろう。景気が回復し、国内民需と経常赤字の拡大が始まる時期に、財政規律の維持に必要な歳出削減が実施できれば、ドル暴落回避の可能性が高まる一方、米国経済が健康体になっても副作用の強い薬の服用を続けていると、ドル価値の崩落懸念が現実味を帯びてくるかもしれない。

 いずれにしろ、財政赤字の拡大によるドル暴落懸念の当否は、出口戦略とのセットで語られるべきで、財政赤字とドル暴落を単純に結びつける議論はあまりにも短絡的だ。米国の財政赤字問題は、今後のドル相場を考える上で避けては通れない課題だが、今年というよりは、むしろ来年以降のテーマになると考えられる。


NIKKEI NET





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最終更新日  2009.02.22 23:04:02


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