夢中人

夢中人

2010.08.31
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混乱の一夜が明け、不思議とすっきりした気持ちで目が覚めた。

まだ明けきらない5時。
自然と瞼をひらいたあたしは、ちくちくと射すような不安と絶望が、ほんの少し癒えたことを知る。そして睡眠と言う名のCURE、自然治癒力の恐ろしさを知った。

こんなに早い段階でこんな曲面を迎えるなんて、予想もしていなかった。
まったく連絡の取れなかった週末を超え、さすがに痺れを切らせてメールしたその何時間かのち、あたしの携帯はとんでもないインフォメーションを連れて来たのだった。

『ちょっと問題が起こって、連絡が取りづらい状況になりました。メールはこちらにお願いします』
 今まで知らなかった新しいアドレスと共に。

 あの動揺を、なんと例えればいいのだろう。

 仕事の連絡だけ、よそよそしい内容で素早く送った。そして返ってきた彼からのメールもまた、絶望的にビジネスライクだった・・・
 後悔と、自責の念。
 わからないことへの不安。
 見えなさ。
 切り捨てられようとしている自分への、憐憫。そう、憐憫。

手当たり次第に電話して、女友達の声を聞いた。
それでもやらなければいけない仕事は山積みで、だけど彼が繋いでくれたこの家のwi-fiを使う気にはどうしてもなれなかった。そしていつしか、眠ってしまった。
ああ、いつのまにこんなに彼を好きになってしまっていたのだろう。
まるでそれはいつの間にか満ちてきた潮が岩場の潮だまりを満たすような圧倒的な自然さ、静けさだった。あたしはそこに自ら溺れようとしていたのだった。足を取られ、そのまま動けなくなることを喜んでいた。どうせそのうち逢えなくなることを、どうせ完全に手に入る相手ではないことを知りながら、どうしても抗えなかったこの一連の熱い衝動。
気付けばその海の色に、芯まで真っ青に染まっていたのだった。
それでもよかったのだ、

もっと彼の生きてきた道を、彼の観てきたものを、あたし自身の人生にすり合わせて行きたかった。まだまだ勉強したいことがたくさんあった。彼と出会えた意味はそこにあると思っていた。彼との恋はこれからひとりで生きていくための、準備のうちのひとつだと。
仕事の仕方さえも。
それがあたしの、彼への愛だった。
そうやって彼はあたしの一部になり、いつか融け合い、
あなたの愛したあたしだから、あなたに恥じない生き方をしよう

あなたの渡り方を自分の渡り方にしよう
そうして、いつかそれもあたしの生き方になると。

きっと一生忘れないだろう、あの痛い痛いひりひりした心でハンドルを握って、246を走った昨日の夜、頭がまっしろになって眉間にしわを寄せながら、それでも明日のためにガソリンを入れに行ったあの日の情けない情景を。
こんなに痛くても辛くても、前にしか進んでゆけない生命という巨大な営み。喉がかわいて水分を求めてしまう身体。
今日もまた、生きてしまう自分。
進んでしまう時間軸。
天空は回り、太陽は空を横切る。
そして夜が来て、また朝が来る。
それが心底恨めしかった。どうしてこんなになってまで、あたしはばかみたいに生きてしまうのだろう。ひとはそんなには、簡単にへこたれない。
そのことへの耐えられないもどかしさ。
泣きながらでももう、進むしかない、いや、勝手に進んでしまうのだ、エスカレーターみたく、自分は止まりたくても勝手に。

もう逢えないのかもしれなかった。
こんなメール1本で呆気なく終わるほどの関係性じゃないと、誰が言えるだろう。
それにしても、こんなにもこんなにも、早い破綻がやってくるなんて。
まだあの写真ももらってない、あの曲も覚えてない、あの夜あなたが付けた胸の花びらのような痣も、こんなにも鮮やかに残っているというのに。
待てばいいの?いつまで?
どんな気持ちでやりすごせばいいの?
せめてあたしから逃げないで、話して欲しかった。






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Last updated  2010.08.31 08:25:40


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