1993年07月02日
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【真夏の邂逅】第5日目


 7/2


 寝ていると汗をかいて起きてしまった。
 ちょっと着込みすぎたらしい。
 外へ出てみると一面の星。
 顔が日に焼けてヒリヒリする。

 2:15、まだ暗い中を出発。
 北海道の朝は早いのだ。



 海に出るために音類に向かう。
 牧場を通ると犬が二匹、近づいてくる。
 一匹は飼い犬だが、もう一匹は野良のようである。
 そして、しばし奴らと戯れるうちに陽が昇った。

 さて、その牧場をぬけるとあまりにも唐突に何もなくなった。
 サロベツ原野に入ったのだ。

 不気味な羽音を立てて謎の鳥が飛んでいる。
 空気を切り裂くような音。
 ここはまさに地の果てである、と思う。

 未確認の生物がそのまま生息していても少しもおかしくないように思える。
 湖面はあくまでも青く、おそらく人が手を触れたこともないのだろう。
 静けさにつつまれたそのたたずまいには神々しささえ感じられた。

 原野を過ぎ、森林地帯を熊の出現に怯えつつ通り、海に出る。
 海岸には原始植物が生い茂っている。

 実際なぜだか女物の下着などがところどころに落ちていた。
 風が強い。


 7:30サロベツ駐車公園で昼寝(朝寝か?)。
 30分ほどで目覚める。
 足の裏がやたら痛い。

 久々に自分の顔を見たら妙な焼け具合だった。
 コーネリアス(映画.「猿の惑星」より)を思い出した。

 歩き続ける。
 左の足に加えて、右ヒザにも痛みを覚える。
 自分を鼓舞しながら行く。
 だが、先々のことどもなど思いめぐらし暗澹たる気持ちになる。
 ゆうべ洗った服を乾かしながらゆく。
 風が強いのですぐに乾いた。


 正午過ぎ、天塩の町に着く。
 イカ天弁当を買い、路傍にて食う。
 高校生を満載したバスがその横を通り抜ける。
 みな僕のことをジロジロと眺める。

 遠別を目ざし、ひたすら歩く。
 近道をしようと思い、町道を歩くが大ハマリ。
 砂利道があるきにくいことこの上ない。
 さらに途中で工事のため道がぶったぎれていた。
 しかたなく元の国道に復帰する。
 まったくのところ、これはだいぶこたえた。

 今日は遠別の旅館に泊まるつもりで歩いている。
 こうやって宿泊すると決めているときにはなるべく早い時間に着きたいものだ。
 それだけ休む時間が長くなるし、旅館の食事の時間にも間に合わせたいと思う。
 だが、たびたび道に腰を下ろして休息をしなければならなかった。
 靴を脱ぎ、マッサージをしながら思った。
 ああ、足が壊れるかもしれない。

 この時は実にこの旅を通じてもっとも弱気になった時であった。
 果たして旅をまっとうできるのだろうかという不安が胸の中でぐるぐると渦巻く。
 思えば体も野蛮な旅に慣れていず、疲労もあったのだろう。
 後から考えれば馬鹿みたいに精神が不安定になっていた。

 だが、18:00、なんとか遠別に着く。
 旅館に泊まる。
 近くのスーパーで買い物。
 夕陽を見に行く。
 風呂に入り、自宅に電話。 
 20:00寝る。


 旅館では、久しぶりに風呂に入った。
 ここに宿泊している人間も幾人かはいるようだが、風呂場には僕のほか誰もいない。

 僕は旅の垢をごしごし洗い流すと、湯船に浸かった。
 ゆらゆらと立ちのぼる湯気を見ていると本当に生き返ったような気がした。
 そして思った。

 今は旅を始めたばかりだ。
 だから先はものすごく長い。
 でも、一歩でも足を踏み出せば、それだけ目的地に近づくのだ。
 すこしづつでも終わりに向かって近づいてゆく。
 そう思うとえらく気分が楽になって、クヨクヨするのはもうやめようという気分になった。
 今日はここに泊まることにしてよかった。
 無人駅や原っぱではまたどんなことを考えていたかわからない。


 さて、旅に出る際、家族には細かいことはいっさい何も言わず、ただ、北のほうへ、
 とだけ言っておいた。
 本当は何も言わずに行くつもりだったのだが、
 玄関を出るときにばったり母に出くわしてしまった。
 リュックを背負っているのである。
 いくらなんでもどこかへ行くのだろうということぐらいわかる。

 「今度はどこへ行くの。」
 「北の方へ・・・。」

 というわけで家族は今回の計画について多くを知らない。
 ただ歩いて旅をするのは初めてではないので、旅に出たといえば、
 ああ、歩くんだな、とごく自然に思うはずである。
 過去、二回の旅では東京―秋田、小田原―京都をそれぞれともに17日間で歩いている。
 だから今度もその程度の距離のものだと思っているにちがいない。
 まあ日本を縦断するといってもたいして驚くような人たちでもないが、
 万が一、ごちゃごちゃ言い出したら何かと面倒なので、
 なるべく極秘裏に事を進めようと思っていたのだ。
 だが計画の一端はすでに露呈してしまっているのだからしょうがない。
 ただ鹿児島まで行くことは、まだしばらく言うまい。
 まあ、どうでもよいことではあるが・・・。
 電話でも今、北海道にいるとだけ言っておいた。





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最終更新日  2004年07月02日 19時03分38秒
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