オトキチ日記

アリラン祭

アリラン祭

アリラン祭は今年は8月15日から10月15日まで開かれるとやら。

旅行前はアリラン祭がどうとかは全く考へなかつた。
北朝鮮がどういふところかが全てであつて、見せるための祭りなんぞを見るよりはナマの北朝鮮を見たい
と思つてゐた。

いまはアリラン祭を見たいと思ふ。
ひとつにはサーカスに素直に感心したからで、サーカスでこれならアリラン祭はいかほどであらうかと
思つた次第。

アリラン祭については李さんにいくつか聞いた。
演者が10万人、観客が15万人、併せて25万人の大イベント。
これだけのマスゲームは北朝鮮以外では見られない。
「世界で他にはない」「世界で唯一の場所」といふのはアリラン祭についてはその通りであらう。

「アリランといふのはどういふ意味なのですか?」
「リランといふのは人の名前ですね。アといふのは呼びかけるときの言葉です。ですからアリランといふ
のは、リランさんよ、といふやうな感じの言葉です」
人の名前とは知りませんでした。恋人が愛しいリランさんを呼ぶ言葉だとか。

「8月15日から10月15日まで、雨の日以外は毎日行われます」
「半年前から、地域単位や職場単位で練習が行われます。総監督がゐて、それらのグループを総合的にま
とめます」
練習半年、本番3ヶ月。
なるほど凄いと思ふ。
同時に、それだけのエネルギーを建設や修理や、つまりは民生のために使へばもう少し豊かな暮しができる
のだらうにとも思ふ。
それだけの人間がそれだけの時間を「非生産的な」労働に費やしてゐるのだつたら、物不足も当り前だらう。

で、かうも聞いてみた。
「アリラン祭は何の目的で行はれるのですか?」
李さんは少し考へてから「わが国は集団主義の国ですから集団の強さを表わす意味もありますね」
なるほど。

日本人でアリラン祭を3日続けて見た人がゐたとか。
しかも、帰国後、すぐにまた北朝鮮の査証を申請して翌月また見にきたとか。
「あの人は凄かつたですね」とキムさんも驚いたやうす。

「でもアリラン祭は1回だけでは全部を観られないのは確かです」と李さん。「1回目はグラウンドを観ま
す。2回目はスタンドを観ます。3回目は空中を観ます。これでやつと全部が見終はります」

「そもそもの発祥は何から始まつたのですか?」
この質問にはキムさんが答へたのだが、
「元々は日本から始まつたと聞いてゐます」といふときの嫌さうだつたこと。
答へにくいことを聞いてしまつてごめんなさい。

「マスゲームといふ言ひ方ではなかつたと聞いてゐますが」
ああ、さうか、高校野球の人文字か、と思ひ当つた。
PL学園とかがやつてゐた奴。
あれがさうか。
それから、たぶん、あの宗教団体がやつてゐたやつ。
あれもあのころは人文字と言つてゐた。
PL学園の人文字よりはかなり進化してゐて「まるで絵のやうな」人文字だつた気がする。

いまの北朝鮮のマスゲームはスタンド(タテ)のみならずグラウンド(ヨコ)に拡がり、更に空中も駆使し
た総合芸術なのだとか。
これはその通りで、金丸信が一発でやられたのも無理はなかつたのだらう。
「真心を感じた」とか言つたんだよな、あの平成の妖怪親父は。

ちなみに金丸信は相当に好感を持たれてゐた。
最後は脱税に問はれて零落した晩年を送つたと説明したらキムさんは残念さうな表情だつた。

さて、それで私が考へたこと。
アリラン祭を止めて、そのアリラン祭に費やす労力を他にまはせば、もつと暮しは豊かになるだらう。
電気も使へるやうになるだらうし、ボコボコの道路も直せるだらうし、高速道路を延々と歩くのも、せめて
自転車に乗れるやうになるかもしれない。

でも、それが人民の幸福なのだらうか。

逆にいへば電気や道路や自転車を捨てても、アリラン祭を行ふことのはうが人民の幸福なのかもしれないと
いふことだ。

例へば、リオのカーニバルをするブラジルの人に向つて、カーニバルはお金の無駄、時間の無駄だから、そ
んなものは止めて貯金しなさいと言つても、相手にされまい。
さういふ感じだ。

しかし、本気で観光に力を入れてマスゲームで外貨を稼ぐ気なら、いくらでも稼げるとも思ふ。
日本からでも直行便を復活させて(片道12時間は辛すぎる)、料金を安くして、キムさん出演のTVCMで
も流せば、どつと観光客は来る。

でも、それには、観光客1人に3人が付くやうなことをしてゐては駄目で、携帯電話持込禁止なんてしてゐて
は駄目で、平壌の町をガイドなしで自由には歩けないなんてしてゐては駄目で、つまりは普通の国のやうに
普通に開放しなければ駄目で、それをしたら現体制は崩壊するわけだから、さうなるとマスゲームはもう出
来なくなつてゐるわけで、これは、山アラシのジレンマといふやつか?

(17.8.18記す)

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