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2008.04.18
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カテゴリ: let me sleep beside you


今、僕は、ロープを吊るし終わり、それを視界の隅に捉えながら、君への最後の手紙を書いている。


「美莉へ。

この手紙を君が読むときにはすでに、僕は、この世にはいない。

せめて何とか今の僕のことをただ正直に君に伝えたいと思っているのだけれど、
はっきりいって、それすら、今の僕には難しい。
でも、せめて、君に少しくらいは何か説明できるだろうか。

幼い頃からいつのまにか、いや、もしかしたら先天的に僕は、闇を内包していた。
歳を重ねるにつれ、その存在は僕の中で大きな範囲を占めるようになっていった。
僕は僕の中で次々に分裂する闇たちに、席を譲り続けてきたようなもんなんだ。
なぜ、と聞かれても答えようがない。
それが、僕だから、とでもいうしかないんだ。

美莉、君に出会った日のことを、僕は今でもよく覚えているよ。
慶介と間違えたことで、とてもすまなそうに、恥ずかしそうに謝る君の顔。
とてもとてもかわいかった。

僕はもう、あの頃には、自分の死を濃密に意識していた。
でも、君と出会ったことで、全ては保留された。
無邪気に笑う君の笑顔、かわいい声、ころころ変わる表情。
何度も君に会うことで、どんどん愛しさが増していった。
前の恋人と思いも寄らない形で別れることになって、
もう誰も愛することなんてないだろうと思っていた僕の心に、
君は、強烈な勢いで入り込んできた。

そして、いつも明るい君が、少し不安げに、それでも溢れる思いとともに、僕に、
「私、あなたが、スキでスキで仕方ないの」
と伝えてくれた時、
「僕も」
と答えながら、
本当に久しぶりに、生きているのも、捨てたもんじゃないって思えたんだ。

君と過ごした3年間は、とても幸せだった。

でも、僕の中の闇は、弱さは、消えてはくれなかった。
保留されている時間は、とても短かった。
君に出会ったことで生まれた生きることの喜び、そして、生きることへの執着の中、
どんどんと加速度を増していく僕の闇。
僕は、君の前から消えたくない一心で、凪子(前の恋人だ)に連絡をした。
凪子には僕の闇の部分を吸収するという、特殊な能力があったんだ。
そして、凪子に、添い寝をしてもらい闇をわずかながら減少させることで、
僕は辛うじて、闇に支配されることから免れ得ていた。
ただ、こんな秘密を抱え、君をずっと裏切ってきたことはいい結果を生むわけがなかった。

美莉、君が何もかも話してくれることで、
僕を信頼しきっている様子を見ることで、
いつも後ろめたさと、申し訳なさに包まれた。

そこにつけこんでさらに、闇は増幅した。

もちろん、美莉のせいなんかじゃない。
全ては、僕の弱さのせいなんだ。

本当は、美莉とちゃんと別れてから、
美莉がちゃんと次の幸せを見つけてから、
死ぬべきだったと、今、この瞬間も思っている。
でも、なかなか切り出せないまま、こうして、どうしようもないところまできてしまった。
君への想いが、僕をこの世に引き止めていたから。
君を失って、生きていくことはできなかったんだ。

僕は、今から、死ぬよ。

美莉、君はきっと嘆き悲しみ、自責の念にかられ、涙にくれる日々を送るだろう。

でも、美莉。
君は何も僕の事で、自分を責める必要はない。
君は僕に、生きる喜びだけを与えてくれた。
君が笑うだけで、僕の世界は明るくなり、
月明かりに照らされた、何の憂いもない寝顔は、僕に闇を忘れさせた。

君は僕の光だった。

ずっとずっと君に照らされて生きていけたら、と、甘い妄想も抱いたけれど、
僕の中の闇は、そう簡単には僕を解放してくれはしなかった。

だから、僕はこうすることを選ぶんだ。
あの闇が僕の全てを包んでしまう前に。
僕の光であり、僕の全てであった、君を道連れにしてしまう前に。

君を連れて行かないことだけが、今の僕にできる精一杯のこと、なんだ。

ミリ、ミリがいたことで、僕は、こうして、なんの恐怖もなく死の世界に入っていける。
それなのに、後に残して、君だけに、辛い思いをさせること、本当にすまなく思う。

僕のことは早く忘れて欲しい。
僕は君に何もできなかった。
僕は君に何も与えられなかった。
もしも君が僕自身に、あるいは、僕といることで、
何か明るい幸せなものを見ていたのなら、
それは、僕が放つ光ではなく、
君自身が放つ光の反射を見ていたに過ぎない。
そう、君が太陽で、僕が月であるかのように。

今こうして1人でいる僕には闇しかない。

どれだけ、君を愛していても。

美莉、ごめんな。

                                     紘人。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

しかし、

プリントアウトすることも、メール送信することもできず、
僕はデータを削除する。
言い訳をするくらいなら、死ななければいい。
美莉の今後を心配するくらいなら、生きてそばにいてやればいい。

でも、もう、無理なんだ。

ただ、紙に、「ミリへ ごめんな。 紘人」とだけ書いてテーブルに置く。
結局、堂々と伝えられるのは、この言葉だけ。

そして、最後に思うのも、きっと、この言葉だけ。

ごめんな、美莉。

僕は、父に電話を入れ、ロープを見上げ、立ち上がった。



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最終更新日  2008.04.18 02:04:37
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