レバノン編


-「やはりシリア=恐い国なのか」
-「ベイルートキリスト教徒たちの享楽的生活」

シリアのダマスカスからレバノンのベイルートに向かうバスの中で、ベイルート生まれベイルート育ちのシリア人(シャディー、23歳)に会い、結局ベイルートでは、一人暮らしの彼の家に5日間とも泊めてもった。
レバノンはビブロスという遺跡に行った以外はあまり観光せず(腹痛を起こしたせいもあって)、それかといってベイルートを隈なく歩いたわけではなく、多くの時間を彼の家で過ごし、彼の部屋にたむろする友人達と過ごしていた。
彼ら全員がクリスチャンだ。
レバノンと言うと、僕は「中東」=イスラム教の国という連想をしていたが、実は人口の半分近くがクリスチャンであり、現大統領もクリスチャンである。二次対戦中にフランスから独立をする時に、各宗教、宗派の人口の比率によって、新国家の重要な行政のポストが振り分けられた。当時、最大宗派であったクリスチャンには大統領と国軍最高司令官の地位が分配され、ついでスンニ派モスリムには首相、シーア派モスリムには国会議長、となった。その後レバノンはシーア派モスリムとクリスチャンの間で内戦を経験している。
内戦の後遺症もあって、シャディーと友人たちはモスリンのことをあまりよく思っていない。
シャディーにとっては(彼はほとんどレバノン人)、イスラエル以上に、先ずシリアが厄介者の国らしい。経済的には断然レバノンの方が豊かだが(賃金水準の差は10倍以上、物価は5倍以上)、国家予算の60%をつぎ込むシリアの軍事力は圧倒的にレバノンを凌駕している。
で、シリア側は、2次大戦前はフランス統治下で同じ国であったことなど理由からも、(単純化していえば)「俺がお前をイスラエルから守ってやるから、金をよこせ。仲良くやろうじゃないか兄弟」、と言う感じ。
レバノンにしてみれば、1985年にイスラエルのベイルート侵攻終了以降は、イスラエルの北部地区にレバノン側から水を供給することを含めて、イスラエルとは一応の決着は着いている様で、レバノン人(のクリスチャン)は、イスラエルよりもシリアのレバノン支配を嫌がっている。
具体的には、賃金水準が10分の1以下のシリア人がビザなしでなだれ込んできて、レバノン人の仕事を奪っている。実際、シャディーも彼の友達の多くも、大学を卒業しても仕事がなく、シャディーはフランスか、他の外国でしか就職できないのではないかと考えている。
クリスチャンとモスリムの人口比率でも、かつてはクリスチャンが多数派だったが、今ではモスリムの方が多数になり、このままモスリムのシリア人が増え、且つクリスチャンに比べて、ずっと多くの子どもを作りたがるモスリムの人口が増えたら、そのうち大統領もモスリムになり、シリアに、モスリムに、自分達の国を乗っ取られるのではないかとクリスチャンたちは強く恐れている。
レバノン大統領(クリスチャン)は、確かに難しい立場にあると思う。イスラエルの脅威も全くなくなった訳ではなく、それかといってシリアに支配されてしまう脅威の方がもっと大きい。もしレバノン大統領が、「シリア人追い出し(又はモスリム追い出し)政策」を取ったら、SHADYに言わせれば「シリアの手によって殺される」そうだ。実際にレバノン内にもシリアの秘密警察はいるらしいし、レバノン政府自体も秘密警察を持っているらしい。
こういう意味では、「やはりシリア=恐い国」なのかな。
「人々は良い人たちだけど、政府・政治は別」とSHADYも言っていた。
ところで、レバノンの若いクリスチャン達はシリアのモスリムと大違いで、かなり自由な、というより享楽的な生活をしている。中流の彼らでさえ3人に一人が車を持ち、たいていはフランス語で大学教育を受けている。ジーンズや靴などについてブランドの話をしたり、洋楽音楽や映画の話をしたり。
確かに、シリアの人々の素朴さと比較すると、彼らの生活スタイルはずっと洗練されているし、ベイルートの中心街の雰囲気をみても「中東のパリ」といわれてもおかしくないほど、フランスの通りの雰囲気と中東独自の雰囲気が美しく調和している。
彼らは卒業しても仕事がないせいもあるのだが、倹約をするわけではなく、SHADYの家に夜遅くまでたむろして、カードをやったり、ハシシをやったりしているし、男女の付き合いについてもシリアと比較にならないほどフリー、つまりフリーセックスだ。SHADYの部屋にくる女の子の一人はどうも彼らの「共有物」のようになっていたし、僕を車でビブロスに連れて行ってくれたジョセフという男も、「今日スリランカの女の所に行くんだ。寝ようよ、といったらいいよ、と言ってくれた」といってニヤニヤ笑っていた。
売春も密かにだがライセンス化されていて、彼らにとっても「Something ordinary」ということであった。(因みに、「口で20ドル、本番60ドル」とのこと)。
僕に好意を持ってくれた彼らを僕は好きだし、僕も一緒になってエロ話に参加していたが、ダマスカスであったパレスチナ人、ザメールの、あの愉快な心を持っているが、やや禁欲的で、慎み深く、熱い思いと優しさを合わせ持った人間性の方にすごく魅力を感じた。
どちらも僕にたいして友好的で良い人であったが、生まれと、環境がこんなに人間を変えるとは・・・



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