暇物語~頭の中の世界へ~

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アステくん

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Jun 17, 2018
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カテゴリ: 小説
とある商店街の一角にずっと開店しないお店がありました

古美術のお店だとか,元々店などなかったという噂もありますが
そのお店はずっとシャッターが下りたまま…

でもそのお店は存在するのです.
必要な時に必要な人にだけ開かれるそのお店.

少しだけそのお店を覗いてみましょうか…

ここはとある商店街「地娯楽商店街」

都会であるようで田舎でもある、人通りも多いようで少なくもある
なんとも不思議な商店街.



昼も夜も平日も休日も…

ある日の夕刻,一人の男が商店街を歩いている
しかしお店を見るでもなく,目的を持っているようにも見えず
ただただ彷徨っているようにも見えた

「あー腹減った…」
そういってポケットを探したがお金は出てこず…
「万引きでもする、いやいっそ年寄りでも襲うか…」
男が本気でそう思った時,商店街の端っこまで来ていた.

戻って悪いことをしようかとしたその時,店の軒先にぶら下がっている
板が目に入った

『何でも買います 何でも売ります』


開いており,乱雑に物が積まれた店内が目に入ってきた

「こんな店あったっけ?」

男は吸い込まれるようにお店に入った

店内は薄暗く,BGMもかかっていない

意外と奥行きがあり,両サイドに積まれた荷物のせいで


「いらっしゃいませ~だす」

甲高い子供のような声が静かな店内に響き渡った

しかし姿は見えない.
そのまま一歩二歩とゆっくり奥へと進んでいくと羽音と共に
天井付近を飛ぶ影に気づいた

「オウム?」

そう思って天井を見上げた
段々目が慣れてきて見えるようになってきたなと思ったら
飛んでいるものの姿も確認できるようになった

「んんん?」

男は思わず二度見をして声が漏れた

なんと言っていいか…
一番似ているのは蝙蝠に見えますが尻尾が長く
羽根も体に対して大きく,今まで見たこともない
生物だった.

「店主!お客さんだよ~だす」

先ほどと同じ声がその生物から聞こえた

とてもそんな声を出すような生物には見えなかったが
店の奥に飛んで行ってしまった

男はその生物が飛んでいった店の奥に歩みを進めた

すると薄暗いお店の中でもひときわ明るい光を放つ瓶を
天井からつるし,その光で何か読んでいる店主であろう
人の姿が見えた

先ほどの生物がその店主の傍でお辞儀をした

「こちらへどうぞ~だす」

店主はお客となる男に一瞥もくれずに物読みに耽っている

「なんのご用でしょうか~だす」

奇妙な生き物はおそらく笑顔であろう口角を上げた表情で問いかけてくる

普段であればこんな薄暗い店内で奇妙な生物に話しかけられて
逃げてしまっても不思議じゃない状況でもあまりにも
現実離れしているせいか男はその生物の問いかけに答えた

「いや,店の前になんでも買いますってあったから…」

その答えを聞いた奇妙な生物は表情を変えずに答えた

「はい,この萬屋は何でも買います売りますをもっとーとしてます~だす」
「お客様のお持ちである宝石貴金属や才能、命までも~だす!!!」

「命?」
男は首をかしげた.何でもとは言えそんなものは売れるのか?
臓器売買とか犯罪の身代わりとか?
この店は犯罪にかかわる危険な店だと男は思ったが
それでも金がもらえるなら…と思い話を聞くことにした

「見た目お客様が当店にお売りできるものといえば命くらいかと~だす」
「あ、お買い上げですか?当店の品は貴重なものが多いのでお客様の
 予算で買える物はないかと思いますよ~だす」
「命を売って得たお金で買うっていうなら多少相談に乗っても~だす」

奇妙な生物の話は止まらず,男は段々不愉快になってきたように見えた

その時店主は読んでいた本を静かに閉じ上に上げたかと本の角を
奇妙な生物の頭に向けて振り下ろした.

「ふげっ!!!」

そう言って奇妙な生物は下を噛んだようで痛みに悶えていた

「だからいきなり角はやめてって…」

小さな声で震える生物を見て店主は初めて口を開いた
「綺羅,接客は客商売の基本と教えているでしょう?」

その声で店主は男だとわかった.

なんせ店主の風貌は「長髪」「華奢」「メガネ」と
一見しただけでは男か女かわからなかったからだ.

「我々はお客さんがいて初めて糧を得ることができます」
「以後注意するように」

正直接客という点では綺羅と呼ばれた奇妙な生物のほうが
よっぽどましだったと男は思ったが、綺羅という生物が
口から吐いている液体の色が黒だということが気になって
指摘できなかった
店主は本を机に置き,男の目をじっと見つめたように感じたが
メガネもレンズが厚くその奥は見えない.そして感情を感じない声で
男に語りかけた

「それで?ご希望は?」

男は店内の雰囲気や目の前で起きている状況に飲まれ気味に
なりながら口を開いた
「金がほしい」
「でも宝石や珍しく売れそうなものは持ってない」
「さっきこの生物は命とも言った」
「臓器だか戸籍だか知らないが買ってくれるものなら何でもいい」

男の話を静かに聞いていた店主は徐に口を開いた

「わかりました.ではあなたの寿命を売ってください」
「見たところあなたの寿命は45年残っています」
「1日1000円で買います.1年365日で36万5千円」
「10年で365万円,40年分売っていただければ1460万になります」

普通であればこんな提案怪しくて受け入れられないと思うが
男は『1460万』という金額に魅惑され頭は金一色になった

「寿命を売れば1400万くれるのか?売る売る!何でも売る!!」

男は即決し前のめりになった

「ありがとうございます.商談成立ということで」

今まで座っていた店主はゆっくり立ち上がり背中側の引き出しから
1枚の書類を出してきた

「契約書になります」

なんとも不思議な字で書いている書類を出されたが内容を読むことは
できなかった

「私はお金を準備してきます.綺羅、契約に関して説明しておいてください」

店主は店の奥に消えていった.綺羅と呼ばれる生物はふらふらしながら
男の前に飛んできた.口からはまだ黒い液体が出ている

「し、失礼しました~だす.ご契約ありがとう~だす」

まだ体が少し震えているようだった

「こ、これから契約に関して読み上げるのでよく聞いててほしい~だす」
「一度しか説明しないので~だす」

「1.本契約は両者合意の基で結ばれるものである」
「2.双方希望するものを交換した時点より有効とする」
「3.本契約は他言無用.誰かに話した時点で契約破棄となる」
「4.契約破棄となった場合,契約品の返却はしない」
「5.4.の代償として何をされても文句を言わない」
「6.取引が完全に終了した場合,今回の記憶は消させてもらう」

正直男は金の事しか頭になく説明の細かい部分まで聞いていないようだった

そうしているうちに店主が奥から札束を持って現れた

「綺羅,契約の説明は済みましたか?」

「はい~だす」

店主は男の前にお金を積み上げ,契約書とペンを置いた

「何か疑問はありますか?」

男はすぐにペンをとりサインをした

しかしあと一字をのこしペンが止まって口を開いた

「40年寿命を売るって事は俺はあと5年後に死ぬのか?」

死の恐怖からか少し冷静になった男は店主を見て言った

店主は表情を崩さず答えた

「その通りです」

その言葉を聞いて男は躊躇したそぶりを見せた
それもそのはずである

いくらお金がほしいとは言えあと5年で死ぬと聞けば
躊躇しない人はいないだろう
しかし店主は男の心を見透かすように言葉を続けた

「買い戻すことも可能です」
「金額は少し変わるかも知れませんがこのお金を元手に
 今以上稼げば元の寿命より長く生きることもできますよ」

その言葉を聞いて男は最後の一文字を書いた.

そして積まれたお金を手にした瞬間契約書が宙に浮き光輝きだした

男はその様子に言葉を失ったが店主や綺羅に動揺はないようであった

店主は契約書の下に手の平を持っていった

「契約成立」

そういって店主は手を握ると契約書は握りつぶされこぶしから炎が上がった

再び開かれた店主の手には燃えカスすら残っていなかった

男があっけにとられていると店主は再び本を読み始める

「綺羅、お客様がお帰りです」
「失礼のないようにお見送りを」

男はお金が手に入ったのでこんな怪しい店から早く出ていきたいと
思ったため,後ろを振り返り出口に向かって歩き出した

がしかし歩いても歩いても出口は見えない

『あれ?こんな遠かったっけ?』

そう思っていると綺羅と呼ばれる生物が目の前に現れた

「このお店は入り口はあっても出口はないんだ~だす」
「今から元の世界に戻す~ずら」
そういって羽根で男の顔をはさんだ

「ありがとうございました~だす」
「くれぐれも契約内容をお忘れなく~だす」

そういったかと思うと目が光ったためその眩しさに男は目を瞑った

男が再び目を開けると商店街の道路に立っていた

先ほどの店のほうを見るとシャッターもおり板も下がっていなかった

それでも手には札束を握っており,あれは夢ではなく現実だったと
認識することもできました…

5年後~

男はあれからたまに商店街に足を運んだが例のお店はいつもシャッターが下りていた

「今日こそは頼むぜ.そろそろ寿命が尽きる頃なんだからよ」

男が店の前に立った時,5年前と同じように板がぶら下がっていた

「何でも買います 何でも売ります」

男はほっとした表情を浮かべ店へと入っていった

店の中は相変わらず乱雑に物が置かれている

5年前は店の雰囲気に恐る恐る進んでいた男であったが
今回は遠慮なく進んでいく

「いらっしゃいませ~にゃん」

例の甲高い声が響いた

「にゃん?前からそうだっけか?」

少し違和感を感じながらも店主の元へたどり着いた

「ようこそ~にゃん」
「当店はお客様第一をモットーに…」

以前と変わらず奇妙な生物が早口で話し続ける

あれから5年たったがこの生物と同じものを見たことがない

「あれ?お客様は確か…5年ほど前に寿命を売ってくださった…」

以前綺羅と呼ばれていた生物が気づいた

しかし店主は相変わらず何か読み物から目を上げない

「以前と比べて様子が変わりましたね~にゃん」
「今はだいぶお金を持っていそうですね~にゃん」

その言葉を聞いて店主が顔を上げた

そして目をじっと見透かされた…気がした

以前と似た…というより以前とまったく同じ格好をしているように思う

記憶便りではあるが服装,メガネ,髪の長さまで同じように思う

「今日はどういったご用意ですか?にゃん」

「今日は買いに来た。以前売った寿命をな」
男はそう言って持っていたバックを机に置いた

「1億ある.これで売った寿命40年分を買い戻したい」
「売る側の利益も考えて1億だ.文句はないだろう?」
「早くしろ.そろそろ寿命がなくなるんだろ?落ち着かないのさ」

男はそう言って店主に詰め寄った

店主は徐に読んでいた本を閉じてバックの横に置いた

「1億ですか…お客様の場合1億ですと購入できる寿命は10日ですね」

男は店主の言葉を聞いて理解ができなかった.

「は?10日?違う違う.俺がほしいのは40年分だよ」

必死な男に対して店主は冷静に言葉を返す

「ですからお客様の場合,寿命は1日1000万となるんです」
「ですので1億だと10日ということになります」

男はその言葉を聞いて声を荒げた

「はぁ?ふざけたこと言ってんじゃねーよ!」
「売ったときは1日1000円だぞ?それがどうして買う時に1000万になるんだよ!!」
「おかしいだろうがよー!!!!」

男は机を叩いた

それでも店主は動じない。

「あなたは寿命を売ったお金を基にして人を苦しめましたね?」
「高利貸し,詐欺行為などあなたのせいで苦しんだ人が大勢いますね?」
「残念ながらあなたは地獄行きなんですよねぇ」

男は動揺した

確かに寿命を売った金を増やすため多くの犯罪行為に手を染めた

その結果,今の財力を築いたのである

「なぜわかる…?」

不意に綺羅が男の前に現れた.

「わかるんだよ.うちら神だからな」

いつもの甲高い声ではなく,地の底から響いてくるような恐怖を煽る
ような声である

「綺羅,正確に言えばあなたは神ではないでしょう?」

綺羅は長い舌を出しふて腐れた表情をした

「神ってなんだよ…そもそも綺羅ってなんなんだよ!!」
「お前らなんなんだよ!!!」

「死神です.」

男は言葉を失った

『死神って???』

男は変わらずの口調で話しを続ける

「あなたは悪人だ.悪人に売る寿命は高いんです」
「地獄に行く人を長くこの世に留めて置くことはリスクが高い」
「こちらもそれなりの報酬をいただかないと割に合わないんです」

綺羅はおとなしくしているが不気味な雰囲気はどんどん増している

「あなたが善人だったら100歳を超える寿命が買えたんですけどねぇ」

その言葉を聞いてい男が絞り出すような声をだした

「お前らふざけてんのか?いい加減にしないと殴るぞ!!」

男はこぶしを握り締め店主の前に差し出した

それでも店主も綺羅も顔色を変えない

「殴れよ.こいつが殴られるとこ見てみたいわ!」

そういって綺羅は大きな笑い声をあげた

店主は変わらず男を見ている

「ふっざけやがって!!!」

男はこぶしを店主の顔に向けて殴りかかった

その瞬間,男の体は宙に舞い,激しく床に落ちた

男はなぜ自分が床に叩きつけられたか理解できないが
襲ってきた痛みに顔をゆがめた

「くっそ,今仲間呼ぶからな!覚悟しろよ!!」

しかし携帯はつながらない

電波がないのである

「なぜつながんねぇんだよ!!」

店主は軽くため息をついた

「で?どうします?10日分買いますか?」

「ふざんけんな!誰がそんなん買うか!!!」

男がそう怒鳴った瞬間,目の前に一枚の紙が現れた

それは5年前に書いた契約書だった

「では取引終了ですね.契約書に基づき記憶を消させていただきます」

そう言って店主は綺羅を指差した

「我に寄り添う使い魔よ.その力をもってこの男に忘却を与えよ」

その言葉を聞いて綺羅は今まで見たことのない邪悪な笑みを浮かべた

そして綺羅の体が店の天井に届くくらい大きくなり
口には牙が生え,両手の爪もより鋭くなった

「じゃあな.俺はよく地獄へ行くんだ.また会おうぜ」

そう言って綺羅は大きな口で男を飲み込んだ…

それから一か月後の新聞に小さくこんな記事が載った

「男性 自分が運転する車が突如爆発し死亡」
「詐欺容疑で手配されている男か」

ニュースにもなったが誰の記憶にも残らなかった

その男は間違いなくあの店で寿命を売った男だが
死んだ理由は寿命が尽きたからかわからない

誰かの恨みにより殺されたか
運が悪かったのか
それとも…

ただその記事を読んだ綺羅が大きく笑っているのだけは確かかもしれない…



いつも閉まっているお店があります

でも営業はしているみたいです

もしあなたがお客になったら,あなたは何を売りますか?

第一話 終





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Last updated  Mar 13, 2019 10:15:36 PM
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