2019.08.21
テーマ： 金田一耕助を語ろう。(39)
カテゴリ： 映画 病院坂の首縊りの家
確かにこの６年間は写真館を守るため
少額の援助を法眼家から
頂いてはきたのも事実だが
あの秘密をずっと漏らさず守ってやっているのだから
先方にとっては安いものだろう
法眼病院が新しい屋敷に移転してしまってから
写真館への 客足もめっきり遠のいてしまった
この歴史ある本條写真館はたしかに
館そのものも老朽化しているし
記念撮影用の背景設備だってボロボロだ
直吉の背広も一張羅で一着しかないし
機材も全てなにもかもが古い
明治大正昭和の歴史を写真に保存しているとは
聞こえはいいかもしれないが
古いだけでありがたがれたところで
本條家が栄えるわけではない
戦後復興の掛け声は周りで大きく聞こえてきてはいるが
この波に乗り遅れないように
儂がなんとかしないといけない
何しろ我が本條家は
明治から続く老舗写真館なのだから
わし の代でつぶすわけにはいかない
倅は進駐軍物資の横流しで
チマチマとやっているようだが
どうせ法を犯すのなら
大きなことをしないと実入りは小さい
このわしが考えているのはスケールが違う
この家を守るためにも
歴史はあるが客は少ない
今の小さい写真館から大きく脱皮して
神式仏式キリスト教式の
儀礼を執り行うことが可能な
結婚関連一切を取り仕切れる近代経営に乗り出してやる
ずっと野ざらしにされている廃ビルを
有効利用してやろうというのだから
弥生奥様だって文句は無いはずだ
使っていないものを書類上適正な価格で
こちらに譲りうけるだけなのだからな
いや大きな結婚式場ビルをこれから運営するのだから
全面改装しなけりゃならん
今まで古い写真館への設備投資ができるほどの
多額を一度に要求したわけではない
これまでのツケを払ってもらう感じで
やっぱりその分も奥様に面倒をみてもらおうか
買ってもらいたいものがあると言えば
またすんなり金を出すはずだ
確かに今回のお願いは
今までとはケタが違うかもしれんが
逆に今までが少なすぎたにすぎん
親父の紋十郎もえらい遺産を残してくれたものだ
ありがたいありがたい
しかしあの廃ビル視察中に
天井から鉄製の大きな南部風鈴が落ちてきた時は肝が縮んだ
まさかとは思うが
弥生奥様がわしを殺そうとでも考えたのか
今までずっと言いなりで金を出し続けてきたあの奥様が
本当にわしを殺そうとしているのか
非力な女が一人であんなたいそうな細工ができるものか
いや違う 奥様ではない
ちょうどいいところに探偵を名乗る若造がやってきた
こいつに色々探らせよう
いやしかしわしが奥様を恐喝しているのは
バレてはいけない
なんでわしがあの廃ビルに行ったのかが
大っぴらになるのも避けたい
あの細工をしたやつを探し出してもらえればいいだけだ
いったいどこの誰がこんなことをしているのか
仮に窮鼠が猫を噛んでいるならこちらにも考えがある
脅しを強くすれば良いだけだからな
わしの命を狙って落ちてきたのも風鈴
空き屋敷の婚礼写真で二人の間に吊られていたのも風鈴
あの空き屋敷にもう一度きて撮れと言われたのも風鈴
季節外れの風鈴がこう続いてわしに関わってくるなんて
どうにも薄気味悪くて なんだか 何か引っかかる
妙な胸騒ぎがして直吉と一緒に空き屋敷に来てみたら
どこにも風鈴なんぞなくて
見つけたのは生首だ
狂っている若造共の考えは分からんが
つまらん事件に巻き込まれるのは厄介だ
そんなことより
こんなにおおっぴらに大勢の前で
弥生奥様にご挨拶ができるとは思わなかった
周りにバレなかっただろうか少し心配だったわい
しかしなんで お嬢様がいわくつきの空き屋敷で
婚礼写真なのぞ頼んだのだろうかと
不思議に思っておったが
写っていたのは小雪というみなしごだったのか
このわしでさえ 由香里お嬢様に違いないと思わされた
いやわしだけではないぞ
同居していると言っていた五十嵐の坊ちゃんやその母親も
由香里お嬢様に違いないと言っていたのに
でもまあ
由香里お嬢様もあの空き屋敷にやってきたのだから
他人のそら似というやつなのかもしれんな
もうそんなことはどうでもええ
わしには他に考えなきゃいけないことが山ほどあるんだ
倅の直吉は前線で被弾しもはや子供を作れる体ではない
結婚式場を運営しようとしているこのわしの血を
継いでくれる血縁がいないというのも皮肉だが
事業が軌道に乗ったならいずれは養子でももらい
本條の名だけでも引き継がせたいものだ
弟子の黙太郎はどうだろう
戦災孤児で喰いっぱぐれているところを拾ってきたが
仕込めばいっぱしの写真屋になりそうだ
さあ今日も先代たちの乾板でも造影してみようか
まだ他にも珍しいものが写っているかもしれん
金田一耕助の事件匣 市川崑×石坂浩二 劇場版・金田一耕助シリーズ DVD-BOX [ 市川崑 ]
金田一耕助 病院坂の首縊りの家 法眼 五十嵐 石坂浩二 市川崑 劇場版
病院坂の首縊りの家 [ 石坂浩二 ]
少額の援助を法眼家から
頂いてはきたのも事実だが
あの秘密をずっと漏らさず守ってやっているのだから
先方にとっては安いものだろう
法眼病院が新しい屋敷に移転してしまってから
写真館への 客足もめっきり遠のいてしまった
この歴史ある本條写真館はたしかに
館そのものも老朽化しているし
記念撮影用の背景設備だってボロボロだ
直吉の背広も一張羅で一着しかないし
機材も全てなにもかもが古い
明治大正昭和の歴史を写真に保存しているとは
聞こえはいいかもしれないが
古いだけでありがたがれたところで
本條家が栄えるわけではない
戦後復興の掛け声は周りで大きく聞こえてきてはいるが
この波に乗り遅れないように
儂がなんとかしないといけない
何しろ我が本條家は
明治から続く老舗写真館なのだから
わし の代でつぶすわけにはいかない
倅は進駐軍物資の横流しで
チマチマとやっているようだが
どうせ法を犯すのなら
大きなことをしないと実入りは小さい
このわしが考えているのはスケールが違う
この家を守るためにも
歴史はあるが客は少ない
今の小さい写真館から大きく脱皮して
神式仏式キリスト教式の
儀礼を執り行うことが可能な
結婚関連一切を取り仕切れる近代経営に乗り出してやる
ずっと野ざらしにされている廃ビルを
有効利用してやろうというのだから
弥生奥様だって文句は無いはずだ
使っていないものを書類上適正な価格で
こちらに譲りうけるだけなのだからな
いや大きな結婚式場ビルをこれから運営するのだから
全面改装しなけりゃならん
今まで古い写真館への設備投資ができるほどの
多額を一度に要求したわけではない
これまでのツケを払ってもらう感じで
やっぱりその分も奥様に面倒をみてもらおうか
買ってもらいたいものがあると言えば
またすんなり金を出すはずだ
確かに今回のお願いは
今までとはケタが違うかもしれんが
逆に今までが少なすぎたにすぎん
親父の紋十郎もえらい遺産を残してくれたものだ
ありがたいありがたい
しかしあの廃ビル視察中に
天井から鉄製の大きな南部風鈴が落ちてきた時は肝が縮んだ
まさかとは思うが
弥生奥様がわしを殺そうとでも考えたのか
今までずっと言いなりで金を出し続けてきたあの奥様が
本当にわしを殺そうとしているのか
非力な女が一人であんなたいそうな細工ができるものか
いや違う 奥様ではない
ちょうどいいところに探偵を名乗る若造がやってきた
こいつに色々探らせよう
いやしかしわしが奥様を恐喝しているのは
バレてはいけない
なんでわしがあの廃ビルに行ったのかが
大っぴらになるのも避けたい
あの細工をしたやつを探し出してもらえればいいだけだ
いったいどこの誰がこんなことをしているのか
仮に窮鼠が猫を噛んでいるならこちらにも考えがある
脅しを強くすれば良いだけだからな
わしの命を狙って落ちてきたのも風鈴
空き屋敷の婚礼写真で二人の間に吊られていたのも風鈴
あの空き屋敷にもう一度きて撮れと言われたのも風鈴
季節外れの風鈴がこう続いてわしに関わってくるなんて
どうにも薄気味悪くて なんだか 何か引っかかる
妙な胸騒ぎがして直吉と一緒に空き屋敷に来てみたら
どこにも風鈴なんぞなくて
見つけたのは生首だ
狂っている若造共の考えは分からんが
つまらん事件に巻き込まれるのは厄介だ
そんなことより
こんなにおおっぴらに大勢の前で
弥生奥様にご挨拶ができるとは思わなかった
周りにバレなかっただろうか少し心配だったわい
しかしなんで お嬢様がいわくつきの空き屋敷で
婚礼写真なのぞ頼んだのだろうかと
不思議に思っておったが
写っていたのは小雪というみなしごだったのか
このわしでさえ 由香里お嬢様に違いないと思わされた
いやわしだけではないぞ
同居していると言っていた五十嵐の坊ちゃんやその母親も
由香里お嬢様に違いないと言っていたのに
でもまあ
由香里お嬢様もあの空き屋敷にやってきたのだから
他人のそら似というやつなのかもしれんな
もうそんなことはどうでもええ
わしには他に考えなきゃいけないことが山ほどあるんだ
倅の直吉は前線で被弾しもはや子供を作れる体ではない
結婚式場を運営しようとしているこのわしの血を
継いでくれる血縁がいないというのも皮肉だが
事業が軌道に乗ったならいずれは養子でももらい
本條の名だけでも引き継がせたいものだ
弟子の黙太郎はどうだろう
戦災孤児で喰いっぱぐれているところを拾ってきたが
仕込めばいっぱしの写真屋になりそうだ
さあ今日も先代たちの乾板でも造影してみようか
まだ他にも珍しいものが写っているかもしれん
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