ヘナヘナライター 生態日記

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加藤美保

加藤美保

2008.07.27
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「 ユナイテッド93
見たい作品がレンタル中だったので軽い気持ちで手に取ったこの作品。すごい良い拾いものをしたという感じだ。

アメリカで同時多発テロが起こったのは2001年9月11日。7年経った今でも、崩れ落ちる世界貿易センターが映し出されたあの映像を忘れることはできない。当時、私はアメリカ留学に関する書籍を執筆していて、実際にアメリカの大学を卒業してニューヨークで働く日本人女性に電話インタビューを行うことになっていた。ところが9月11日に、彼女の知人が貿易センターで事件の犠牲になってしまったために、ショックが落ち着くまで電話取材を延期したことがあった。当時、ニューヨークに在住している他の方からも、「窓から見えていたあの貿易センタービルが突然見えなくなって、ものすごくショックを受けている」という内容のメールを頂いたことがある。だから私にとってもあの連続テロ事件は対岸の火事どころでの話ではなく、相当なインパクトで脳裏に刻まれることになった。

同時多発テロでは計4機の飛行機が犠牲になっている。そして、本作が取り上げているのは、この日最後の犠牲となったユナイテッド航空93便である。テロ事件に巻き込まれた飛行機の中で、唯一目的地に到達することなく墜落した便である。

この映画の特徴のひとつとして挙げられるのは、著名な俳優が一切出演していないということ。さらに、映画を観終わった後に印象に残る俳優もまた存在しない。というのも、この作品には視聴者が感情移入してしまうようなセンチメンタルなエピソードの類が一切描かれていないからだ。犠牲者となった乗客や乗務員がヒロイズムで描かれることもないし、事件を計画実行したテロリスト達をことさら悪人に描くこともない。カメラはただ淡々と、事件当日の様子を時系列で追い続けていく。
物語の序盤、93便に乗客が次々と乗り込んでいく様子が、まるで誰かがその場にいてカメラで撮影しているかのようなリアリティーで丹念に映しだされていく。地味なシーンながらこのシーンの演出は見事というほかはない。そこにあるのは、名もない平凡な人々の当たり前の日常。ひとりひとりに生活があり人生があり、93便を降りた後に行くべき場所がある。そう、普通だったら通過点のひとつでしかなかった飛行機が、実は人生の最終地点になってしまう。目の前で繰り広げられるありふれた日常の顛末を視聴者である私たちだけが知っている。この日常と非日常の対比が見事なのだ。

リアリティーと言えば、パイロットや客室乗務員役にはその職業の経験者が起用されているという。特に管制官役の一部は、事件当時実際に勤務していた管制官が本人役を演じ(CASTでは「As Himself」と示されている)、さらに空港との無線等には、事件当時の実際の音声が一部使用されている。これだけのこだわりで演出してるだけに、事件が発生してからの緊張感はものすごい。軍、航空会社、管制室、全てが混乱し、誰も事態を把握できぬまま飛行機が次々と墜落していく。呼びかけても反応しなくなる飛行機。初めは誰もその意味がわからない。そして、ディスプレイいっぱいに広がる飛行中の機を示す何千もの赤い点滅が、事件勃発と共にものすごい恐怖感で人々に迫ってくる。その点滅のどこかハイジャック犯が潜んでいることに気がつくからだ。パニックを起こす管制官。あやうく接触しそうになる飛行機。混乱する現場。ついに、テレビのモニターが、煙を上げて崩れ落ちるセンタービルを映し出す。
この後、カメラは93便内に戻る。

その瞬間の生々しいやり取りが、ボイスレコーダーに記憶されているという。さらに乗客の一部は、機内電話から乗客と犯人グループの攻防の様子を実況し続けていた。

冷徹なまでのリアリズムな姿勢を貫き透した監督が、自身の強い意思を封じ込めたシーンが、作品の最後に用意されている。
飛行機が地面に衝突する寸前、乗客たちは神に祈る。そして、犯人グループもまた神に祈る。
それぞれの違う神に、人々は最後の祈りをささげている。このシーンに彼はどんな思いを込めたのだろう。

監督は『ボーン・スプレマシー(04)』で有名なイングランド出身のポール・グリーングラス。骨太な演出家だ。





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Last updated  2008.07.28 00:38:23 コメント(23) | コメントを書く
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