乾いた心を癒す音

乾いた心を癒す音

主人と従者 1



そうして、以前は標的として、また現在では自分が仕えるべき主人としてそばにいるその人の寝顔を盗み見た。


三国一の美姫と言っても誤りでは無いその姿は、しかしシェラの焦がれる意思の強さをひそめ、物足りないような印象さえ彼に与えていた。
しかし、一度殺気のかけらでも見せようものなら、本来の猛々しい、輝くばかりの強さを瞬時に纏うであろうことも彼は知っていた。




無防備だ、とも思う。


少し前までは毒や暗器、あらゆるものを用いて命を狙っていたのだ。
その自分を前によくもここまで、と思う。


この姿は主人の自分に対する信頼の表れでも、自分の強さを信じる驕りでもない。
彼の人はだれよりも『生』を重んじている。

理性や、時には本人の意志をも越え、生きる本能のみの獣になる。



この人は今、その本能の許すままにただ瞼を落としているにすぎない。





私はその、誰よりも強い生に最も魅かれるのかもしれない。


私の持つ『自由』と言う名の枷は、常に自分を以前の闇の中へと引きずり込もうとする。

それは甘い、とても甘美な誘惑だ。
自分のような者にとって、それが、その存在の証明方法が、何より簡単なものだからだ。


自分には彼のような『生』に対する執着はない。
それは、彼のように自分を必要とする人も、帰りたい場所も無いからかもしれない。

しかし、誰に必要とされなくとも、焦がれる場所が無くとも、それでも唯一守りたいものがある。





© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: