りじょん

2004.12.19
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銀魂編6




 朝の空気に、大きな溜息がまじる。

 「幸せが逃げますぜィ」

 溜息の主――副長は、廊下から声をかけてきた沖田を見上げる。

 「逃がしてる張本人が何言ってやがる」
 「逃がしちまう土方さんが悪いんでさァ。…あの二人のことですかい?」

 沖田はそっと、襖に寄りかかって座る。
 書類を片付けながら、副長はまた、息を吐く。

 「何だって女がこの真撰組に入りやがる」
 「アンタもいい加減しつこいなァ。そんなんで世の中わたっていけるもんかィ」
 「お前はいいのかよ」
 「局長が決めたことでさァ。…こう言や土方さんも大概納得するもんだと思ってやしたがね」

 にたりとする沖田に、副長は半眼になる。

 「そりゃあ、大概はな。でもそりゃア――」

 鳶の声が行く空を見上げ。

 「あんな連中じゃなきゃの話だ。」

 ――ずざざざざッ!!!

 廊下の向こうから、何かが駆け込んできた。
 副長はうんざりと、沖田は相変わらずのポーカーフェイスでそれを迎える。

 「きやしたね」

 「おっきったっさーん!! モーニン!!」
 「おはよーございまぁっす副長ー!」

 朝から騒々しいこの二人――昨日入隊したばかりの、井上さんと翠さんである。
 副長の溜息の原因。

 「うるせェ、黙れ、よそへいけ」

 つれない副長に、

 「やっだ、別に土方さんになんか会いに来てないわよっ! 私が用があるのは沖田さんで!」
 「私が用があるのは副長です★沖田さんに興味はないですんで安心して下せえ!」

 一人は嘲笑し、一人はときめく。


 「何の用なんだ! 昨夜から何度も何度も何度も…」
 「土方さん、朝から騒々しいですぜィ」
 「そうそう! 沖田さんの言うとおり!」
 「いやー実は用って言うのはですねー」

 ごちゃごちゃごちゃ…と朝っぱらから混戦する会話。
 何が何だかさっぱりだ。

 「だァッ! やかましい、何なんだ、それでッ!!」

 沸点の最も低い副長が台を返す。
 飛び散る吸殻。
 井上さんと翠さんは、それぞれの目当ての人の前に座り、にっへり笑った。

 「名前の話なんですけど!!!!」

 鳶が鳴く。

 「…名前ですかい?」
 「はいっ、沖田さん!」

 「…お前らのか?」
 「えぇ、副長!!」

 「「やっぱ仲間になったからには、多少フレンドリーに!!」」

 二人は声をそろえて叫んだ。

 (山崎女とか嫌過ぎですから!!)
 (私なんかまだ一度も呼ばれたことないわよっ!!)
 ((あんな風に呼ばれてェっ!!))

 「どうかしたのか? 総悟、トシ」

((そうあんな…風に……って、あれ?))

 屯所中に響き渡る声に、局長始め隊士がぞろぞろ集まりだした。

「局長! コードネームが欲しいと今、交渉していた次第で……!!」

 べしいっ

「コードネームじゃなくて、フレンドリーな呼び方をして頂こうと思いましてね!!」
 翠さんは井上さんへのつっこみと同時にまくし立てた。

「山崎女とかじゃ、山崎君の女バージョンみたいじゃないですか!!」
「それもいいけどね!」

 べしいっ

 更に井上さんに決まるつっこみ。
 局長以下の隊士たちはなんともはや呆れ顔だ。
 しばしの間の後、局長が口を開いた。

「……でなんて呼ばれたいんだね?」

「はいは~い!!」
 井上さんが高々と手を挙げた。
 ……そんな必要性はどこにもないのであるが。
 まずは……と、びしいっと土方さんを指さす。
 ……失礼極まりない。

「つっちーと!!」

 ……はぁ?
 そんな感じの目線が井上さんに送られる。
 特に土方さんのそれはきつい。

「……そう、呼んでほしいのか?」

 恐る恐る、局長が尋ねると、井上さんはぶんぶんと首を横に振った。

「私が土方さんを呼ぶ呼び方?」

 ……朝、鳥のさえずりが心地よい……。

「あほかぁぁぁぁぁ……!!」

 その情景は土方さん、翠さんの怒鳴り声一発でぶち崩れてしまったが。

「何考えてんのよ! 朝からでけぇ声だしよってからに!!」

 べしいっ……ばしいっ……

 本日三回目の……いや、土方さんも加わって……四回目のつっこみが井上さんの背中と後頭部に入る。

「だいたい、なんでつっちーなのよ! あんた、まさか……まだ『つちかた』って覚えてんじゃないでしょうね!」

 井上さんは何も答えない。
(しまった……!!)
 とは思いつつ、何も答えない。
 ぶっちゃけ、図星だからである。
(『ひじかた』だっけ! この人!!)
 ……その通りである。

「まぁ、いいじゃん! 私はつちか……否、否、ひじかたさんのことを『つちのこ』呼ばわりするからっ★」

「思いっきり、今つちかたっていったろう! 自分で矛盾に気づけえっっ……!! さっきよりエスカレートしてるし!! しかも呼ばわりっておま……」

 激高する土方さんの肩に沖田さんの手がぽんと乗った。

「いいじゃないですか、『つちのこ』さん……ぶはあっ」

「吹き出してんじゃねぇ……っ!!!」








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