母よ  ~第一章 生きていた母~




いっそ・・・

いっそ私を殺しておくれ・・・

私の体を切り刻んで川に捨てておくれ・・・


あなたはこの言葉を聞いて何を思いますか?


母は僕の前から消え去った。
死んだのか生きているのかわからない。
ただ僕は父と住んでいる。
僕は母を知らない。
母の温もりを知らずに育った。
顔は白黒の写真で一、二度見たことがあるが・・・。

母さんは男と駆け落ちしたんだ。
父さんは捨てられたんだよ。
あんなクズ・・・。

右手にガラスのコップを持って父が涙を流しながら言った。
父さんはまだ母を愛している・・・。

木造の平屋。
僕の部屋は玄関から一番離れている部屋だ。
部屋の中にはアルミパイプのベッドと机。
そして壁にはロック歌手のポスター。
そして小さなテレビの前にプレステ。

父は銀行員。
エリートだ。
金はあるが、父は愛に飢えている。
ただ父の偉いところが、他の女に手を出さない。
どんなにさびしかろうが、どんなに辛かろうが他の女には興味を持たない。
子供にとってはかなり嬉しい。

16にもなって新しく若い女なんか来られたら困る以外のなにものでもない。
ただでさえ女の苦手な僕が・・・。

ある日こんな電話が来た。
「あのすいません、霧沼さんのお宅ですか?」
「はい、どちら様でしょう?」
「桜木といいます。竜一くんいるかしら?」
「はい、僕ですけど・・・。何か?」
「あの・・・・・・。」
「ツーツーツー」

女の声だった。
なんで僕の名前を知っているんだ?
君が悪いとしか言いようがない。
父が銀行員をやっているせいなのか、よくセールスの電話や訪問のやつがくる。
それなのか?
でも名乗ったからな・・・・。
桜木・・・・・。

あ~~~~~~~~~~~~~。
考えたら頭が痛くなってきた。
ま、いいや。
父さんに夜話せばいいや。

「父さん、今日女の人から電話来た。」
「なんていう人だ?」
「桜木って人。」
「・・・そうか。」
「知り合いなの?まさか父さん女ができたんじゃ。」
「違うよ。仕事仲間だ。」
「ふ~ん。じゃあなんで用件を告げなかったんだろう。」
「なんでだろうな・・・。」

「あの、昨日電話した桜木です。」
「あ、どうも。父さんなら仕事場ですけど。」
「あ、違うの。竜一くん。お母さん知ってる?」
「知らないですよ。顔くらいしか。」
「なんでいないか知ってる?」
「男作って出て行ったって、父さんが言ってますけど。」
「それはウソよ。」
「え?」
「ツーツーツー。」

なんなんだ?
ちょっと父さんに言わない事にした。

「桜木です。」
「あ、どうも。」
「あのね・・・・。」
「はい。」
「私、お母さんよ。」
「・・・・!」
「竜一!お母さんよ。ごめんね、遅くなって・・・。」
「母さん?・・・・・」
「う・・・う・・・ごめんね・・・・」
「ガチャン。」

なんなんだ?
母さんだって。
ウソに決まってる。
でも女は泣いていた。
謝った・・・。
母さんなのか?

「父さん、桜木って人に会わせてよ。」
「また、どうして?」
「いや・・・今日母さんなんだって言われた。」
「・・・そうだよ。」
「マジなの!!!」
「うん。」
「父さん、母さんとなにかあった?」
「あ~うん。死んだばあちゃんが母さんを嫌ってな。ほうきで叩いたり、怒鳴り散らしたり。ひどかったよ。」
「あのばあちゃんが?」
「うん。物置に閉じ込めてたこともあったよ。」
「うわ~。ひっで~な。」
「それで母さん病気になっちゃってな。母さんが迷惑かけたくないからって言って別れたんだ。」
「・・・ふ~ん。」
「来週の土曜会わせてやる。丁度会う予定だったんだ。」
「あ・・・うん。」

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