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#宮沢賢治 #AIイラスト東北砕石工場長鈴木東蔵あて「炭酸石灰広告文案」1930年5月17日農業合理化の尖端に!!稲作麦作養蚕いづれにもいかにも適順な気候で同慶の至りであります。かくこうも啼いて大豆を播くころになりましたが石灰はご用意でありませうか。私ども製作の炭酸石灰は木灰或は燐酸と混じ乃至直接に種子に接触せしめて何等の害なく効果は全育成期に通じます。大豆をよく作ることは単に収量を増すばかりでなく又地味を肥す結果ともなりますのでぜひご使用をねがひます。直接の石灰肥料間接の燐酸及加里肥料たる炭酸石灰を!
2024.05.31
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇六八エレキや鳥がばしゃばしゃ翔べば一九二七、五、一四、エレキや鳥がばしゃばしゃ翔べば九基に亘る林のなかで枯れた巨きな一本杉がもう専門の避雷針とも見られるかたち……けふもまだ熱はさがらず Nymph, Nymbus, Nymphaea,……杉をめぐって水いろなのは羊歯から花を借りて来て梢いっぱい飾りをつけたやくざな檞の樹ででもあらう……最后に 火山屑地帯の 小麦に就て調査せよ……雲は淫らな尾を曳いてしづかに森をかけちがふ
2024.05.31
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#宮沢賢治 #AIイラスト休息そのきらびやかな空間の上部にはきんぽうげが咲き (上等の butter-cup(バツタカツプ)ですが 牛酪(バター)よりは硫黄と蜜とです)下にはつめくさや芹があるぶりき細工のとんぼが飛び雨はぱちぱち鳴つてゐる (よしきりはなく なく それにぐみの木だつてあるのだ)からだを草に投げだせば雲には白いとこも黒いとこもあつてみんなぎらぎら湧いてゐる帽子をとつて投げつければ黒いきのこしやつぽふんぞりかへればあたまはどての向ふに行くあくびをすればそらにも悪魔がでて来てひかる このかれくさはやはらかだ もう極上のクツシヨンだ雲はみんなむしられて青ぞらは巨きな網の目になつたそれが底びかりする鉱物板だ よしきりはひつきりなしにやり ひでりはパチパチ降つてくる
2024.05.30
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇六七鬼語四五、十三、そんなに無事が苦しいならあの死刑の残りの一族をおまへのうちへ乗り込ませやう(感想)宮沢賢治には珍しいホラー系の詩です。日常が平和すぎて刺激が足りない、とかぜいたくなことをいっている人への警告かもしれません。「死刑の残りの一族」とは何者かわかりませんが、そんな連中が家に来たら怖いですねえ。今回のイラストのプロンプトでは「1930年の少女雑誌のカラー挿絵風に」と指定しました。なかなか怖い感じにできました。
2024.05.29
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇六六今日こそわたくしは一九二七、五、一二、今日こそわたくしはどんなにしてあの光る青い虻どもが風のなかから迷って来て縄やガラスのしきりのなかで留守中飛んだりはねたりするかすっかり見届けたつもりである(解説)AIイラストはbingで作成しました。プロンプトは、黒い帽子黒いコートの坊主頭の痩せた日本人青年男性が虫眼鏡で虻を観察している 虻が風の中でガラスや縄の間を飛んでいる 1930年の日本の高級住宅の室内 1930年の日本の少女雑誌のカラー挿絵風に
2024.05.28
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇六五さっきは陽が五、十二、さっきは陽が草地から来たのにこんどはひかる雲の裂け目から来やうとする今年もすっかり手がひゞ入ってしまった みだれた雲と たくさんの羽虫風は吹くけれども山鳩はなくのである
2024.05.27
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇六四失せたと思ったアンテリナムが五、十二、 失せたと思ったアンテリナムが みんな立派に育ってゐたキンキン光る青朱子のそら あすこの花壇を それでぎらぎらさせられるのだ風の向ふの崖の方でわづかな蝉の声がするいったいわたくしはいつ蜂雀に夏を約束したのか(解説)アンテリナムとはキンギョソウのことです。草丈0.5~1mで金魚のヒレに似たひらひらした美しい花を咲かせます。花色は赤ピンク白黄色などたくさんあります。
2024.05.26
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#宮沢賢治 #AIイラスト手簡雨がぽしゃぽしゃ降ってゐます。心象の明滅をきれぎれに降る透明な雨です。ぬれるのはすぎなやすいば、ひのきの髪は延び過ぎました。私の胸腔は暗くて熱くもう醗酵をはじめたんぢゃないかと思ひます。雨にぬれた緑のどてのこっちをゴム引きの青泥いろのマントがゆっくりゆっくり行くといふのは実にこれはつらいことなのです。あなたは今どこに居られますか。早くも私の右のこの黄ばんだ陰の空間にまっすぐに立ってゐられますか。雨も一層すきとほって強くなりましたし。誰か子供が噛んでゐるのではありませんか。向ふではあの男が咽喉をぶつぶつ鳴らします。いま私は廊下へ出やうと思ひます。どうか十ぺんだけ一諸に往来して下さい。その白びかりの巨きなすあしであすこのつめたい板を私と一諸にふんで下さい。(一九二二、五、一二、)
2024.05.25
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#宮沢賢治 #AIイラスト風景雲はたよりないカルボン酸さくらは咲いて日にひかりまた風が来てくさを吹けば截られたたらの木もふるふ さつきはすなつちに廐肥(きうひ)をまぶし (いま青ガラスの模型の底になつてゐる)ひばりのダムダム弾がいきなりそらに飛びだせば 風は青い喪神をふき 黄金の草 ゆするゆする 雲はたよりないカルボン酸 さくらが日に光るのはゐなか風だ
2024.05.24
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#宮沢賢治 #AIイラスト三三七国立公園候補地に関する意見一九二五、五、一一、どうですか この鎔岩流は殺風景なもんですなあ噴き出してから何年たつかは知りませんがかう日が照ると空気の渦がぐらぐらたってまるで大きな鍋ですないたゞきの雪もあをあを煮えさうですまあパンをおあがりなさいいったいこゝをどういふわけで、国立公園候補地にみんなが運動せんですかいや可能性それは充分ありますよもちろん山をぜんたいですうしろの方の火口湖 温泉 もちろんですな鞍掛山もむろんですぜんたい鞍掛山はですUr-Iwate とも申すべく大地獄よりまだ前の大きな火口のヘりですからなさうしてこゝは特に地獄にこしらえる愛嬌たっぷり東洋風にやるですな鎗のかたちの赤い柵枯木を凄くあしらひましてあちこち花を植えますな花といってもなんですなきちがひなすびまむしさうそれから黒いとりかぶとなど、とにかく悪くやることですなさうして置いて、世界中から集った猾るいやつらや悪どいやつの頭をみんな剃ってやりあちこち石で門を組む死出の山路のほととぎす三途の川のかちわたし六道の辻えんまの庁から胎内くぐりはだしでぐるぐるひっぱりまはしそれで罪障消滅として天国行きのにせ免状を売りつけるしまひはそこの三つ森山で交響楽をやりますな第一楽章 アレグロブリオははねるがごとく第二楽章 アンダンテ やゝうなるがごとく第三楽章 なげくがごとく第四楽章 死の気持ちよくあるとほりはじめは大へんかなしくてそれからだんだん歓喜になって最后は山のこっちの方へ野砲を二門かくして置いて電気でずどんと実弾をやるAワンだなと思ったときはもうほんものの三途の川へ行ってるですなところがこゝで予習をつんでゐますから誰もすこしもまごつかない またわたくしもまごつかないさあパンをおあがりなさい向ふの山は七時雨陶器に描いた藍の絵であいつがつまり背景ですな
2024.05.23
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#宮沢賢治 #AIイラスト三三六春谷暁臥一九二五、五、一一、酪塩のにほひが帽子いっぱいで温く小さな暗室をつくり谷のかしらの雪をかぶった円錐のなごり水のやうに枯草(くさ)をわたる風の流れとまっしろにゆれる朝の烈しい日光から薄い睡酸を護ってゐる……その雪山の裾かけて 播き散らされた銅粉と あかるく亘る禁慾の天……佐一が向ふに中学生の制服でたぶんはしゃっぽも顔へかぶせ灌木藪をすかして射すキネオラマ的ひかりのなかに夜通しあるいたつかれのため情操青く透明らしい……コバルトガラスのかけらやこな! あちこちどしゃどしゃ抛げ散らされた 安山岩の塊と あをあを燃える山の岩塩(しほ)……ゆふべ凍った斜子(なゝこ)の月を茄子焼山からこゝらへかけて夜通しぶうぶう鳴らした鳥がいま一ぴきも翔けてゐずしづまりかへってゐるところはやっぱり餌をとるのでなくて石竹いろの動因だった……佐一もおほかたそれらしかった 育牛部から山(やま)地へ抜けて 放牧柵を越えたとき 水銀いろのひかりのなかで 杖や窪地や水晶や いろいろ春の象徴を ぼつりぼつりと拾ってゐた…… (蕩児高橋亨一が しばし無雲の天に往き 数の綵女とうち笑みて ふたたび地上にかへりしに この世のをみなみな怪(け)しく そのかみ帯びしプラチナと ひるの夢とを組みなせし 鎖もわれにはなにかせんとぞ嘆きける) 羯阿迦(ぎやあ ぎあ) 居る居る鳥が立派に居るぞ 羯阿迦 まさにゆふべとちがった鳥だ 羯阿迦 鳥とは青い紐である 羯阿迦 二十八ポイント五! 羯阿迦 二十七! 羯阿迦 二十七!はじめの方が声もたしかにみじかいのに二十八ポイント五とはどういふわけだ帽子をなげて眼をひらけもう二里半だつめたい風がながれる(解説)岩手山を夜間登山し岩手山神社で野宿した宮沢賢治と中学5年生の友人森佐一は朝を迎えました。「あかるく亘る禁慾の天」とあり宮沢賢治の禁欲主義を思わせます。「石竹いろ」はピンクに近い薄い赤色です。「餌をとるのでなくて/石竹いろの動因」は食欲でない行動原理ですから鳥の繁殖欲すなわち性欲のことだと思われます。「佐一もおほかたそれらしかった(略)いろいろ春の象徴を/ぼつりぼつりと拾ってゐた」ということは中学5年生(現在の高校2年生)の旺盛な性欲が芸術に昇華して美しい鉱石などを拾う行動になった様子を宮沢賢治は観察していたものと思われます。
2024.05.22
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#宮沢賢治 #AIイラスト三三五つめたい風はそらで吹き一九二五、五、一〇、つめたい風はそらで吹き黒黒そよぐ松の針ここはくらかけ山の凄まじい谷の下で雪ものぞけば銀斜子の月も凍ってさはしぎどもがつめたい風を怒ってぶうぶう飛んでゐる しかもこの風の底の しづかな月夜のかれくさは みなニッケルのあまるがむで あちこち風致よくならぶものは ごくうつくしいりんごの木だ そんな木立のはるかなはてでは ガラスの鳥も軋ってゐるさはしぎは北のでこぼこの地平線でもなきわたくしは寒さにがたがたふるえる 氷雨が降ってゐるのではない かしはがかれはを鳴らすのだ(解説)1928年5月10日28歳の宮沢賢治は友人の盛岡中学校5年森佐一と岩手山夜間登山にでかけました。松林で野宿しましたが寒くて眠れず岩手山神社の倉庫のソバガラに潜って寝ました。
2024.05.21
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#宮沢賢治 #AIイラスト雲の信号あゝいゝな、せいせいするな風が吹くし農具はぴかぴか光つてゐるし山はぼんやり岩頸(がんけい)だつて岩鐘(がんしやう)だつてみんな時間のないころのゆめをみてゐるのだ そのとき雲の信号は もう青白い春の 禁慾のそら高く掲(かゝ)げられてゐた山はぼんやりきつと四本杉には今夜は雁もおりてくる
2024.05.20
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇六三五、九、これらは素樸なアイヌ風の木柵でありますえゝ家の前の桑の木をYの字に仕立てて見たのでありますがそれでも家計は立たなかったのです四月は苗代の水が黒くてくらい空気の小さな渦が毎日つぶつぶそらから降ってそこを烏ががあがあ啼いて通ったのでありますどういふものでございませうか斯ういふ角だった石ころだらけのいっぱいにすぎなやよもぎの生えてしまった畑を子供を生みながらまた前の子供のぼろ着物を綴り合せながらまた炊爨と村の義理首尾とをしながら一家のあらゆる不満や慾望を負ひながらわづかに粗渋な食と年中六時間の睡りをとりながらこれらの黒いかつぎした女の人たちが耕すのでありますこの人たちはまたちゃうど二円代の肥料のかはりにあんな笹山を一反歩ほど切りひらくのでありますそしてここでは蕎麦が二斗まいて四斗とれますこの人たちはいったい牢獄につながれたたくさんの革命家や不遇に了へた多くの芸術家これら近代的な英雄たちに果して比肩し得ぬものでございませうか
2024.05.19
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇六二墓地をすっかり square にして五、九、墓地をすっかり square にして古くからの馬頭観音はとりのけたし枝垂れの巨きな桜はきれいに伐ってしまったその崖下を昔からのけはしい山川が春は春らしくながれてゐる小林区が行ってしまってから苗圃は荒れた粟畑になり腐植も減ってあちこち茶いろにぶちてしまった針金製のインクラインが鼠いろの凝灰岩を吊してつぎつぎ川からのぼってくる 日あたりの荒い岩かどを 巡礼のこゝろもちで つゝましく 西の温泉から帰ってくる 百姓の家族たち
2024.05.18
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇六一五、九、ひわいろの笹で埋めた嶺線にぼしゃぼしゃならんだ青ぞらの小松であるその谷がみな蔭になりその六方石谷みな蔭になりお辰のうちのすももの花がいっぱいにそこにうかんでゐる一尺角の木の格子で組みあげた実に頑丈な木小屋である 下の温泉宿の看板娘は嫁に行き おとなもこどももあかんぼも みんないっぱい灼いたりんごを食ったのであるそのときお辰は黒い絹に赤い縞のはいったエヂプト風の雪ばかまをはいてお嫁さんに随いて行ったのである
2024.05.17
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇六〇五、九、苹果のえだを兎に食はれました桜んぼの方は食ひませんで桃もやっぱり食はれました そらそら その食はれた苹果の樹の幽霊が その谷にたっていっぱい花をつけてゐるでないか
2024.05.16
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇五九開墾地検察一九二七、五、九、……墓地がすっかり変ったなあ…………なあにそれすっかり整理したもんでがす…………ここに巨きなしだれ桜があったがねえ…………なあにそれ 青年団総出でやったもんでがす 観音さんも潰されあした…………としよりたちが負けたんだねえ…………なあに総一ぁたった一人できかなぐなって それで誰(だ)っても負げるんでがんす…………苗圃のあともずゐぶんひどく荒れたねえ…………なあにそれ お上でうんと肥料したづんで これで六年無肥料でがす…………あちこち茶いろにぶちだしてゐる…………はあ、 苹果の枝 兎に食はれあした 桜んぼの方は食ひあせんで 桃もやっぱり食はれあした…………兎はとらなけあいけないよ それでも兎の食はない種類といふんなら 花には薔薇につつじかな 果樹ではやっぱり梅だらう…………桜んぼの方は食ひませんで 苹果と桃をたべたので…………そらそら その苹果の樹の幽霊だらう その谷そこに突ったって いっぱい花をつけてるやつは…………はあ…………針金製の鉄索か この崖下で切り出すんだな…………はあ 鉛の丸五の仕事でがあす…………そんなにこれが売れるかねえ…………はあ 耐火性だって云って売ってます…………耐火性さなこの石は あれだな開墾地は…………はあ 上流の橋渡って参りあす……
2024.05.15
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇五九一九二七、五、九、芽をだしたために大へん白っぽく甘酸っぱくなった山である このわづかな休息の時間に 上層の風と交通するための第一の条件は そんな肥った空気のふぐや あはれなレデーを 煙幕でもって退却させることである ……川なめらかにくすんでながれ…… 実に見給へ 傾斜地にできた すばらしい杉の方陣である 諸君よ五月になると 林のなかのあらゆる木 あらゆるその藪のなかのいちいちの枝 みなことごとくやはらかな芽をひろげるのである 川にぶくひかってながれ退職の警察署長のむすめが水いろの上着を着て電車にのって小学校に出勤しながらまちの古いブルジョア出身の技術者を少しの厭悪で見てゐたのである こゝはひどい日蔭だ ぎざぎざの松倉山の下のその日蔭である あんまり永くとまってゐたくない けれどもいったい これを岩頸だなんて誰が云ふのか
2024.05.14
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇五八電車一九二七、五、九、銀のモナドのちらばるそらと逞ましい村長の肩……べルを鳴らしてカーヴを切る べルといふより小さな銅鑼だ……はんの木立は東邦風に水路のヘりにならんで立つはんの木立の向ふの方で黒衣のこども燐酸を播く……ガンガン鳴らして飛ばして行く……田を鋤く馬と白いシャツ胆礬いろの山の尾根町へ出て行く小さくやさしい貴女たちの群 (今日はどこらへおいでです) (はあ組合へ金策に)さあっと曇る村長の顔……うしろを過ぎるひばの木二本……風が行ってしまった池のやうにいま晴れわたる村長の顔……ベルを鳴らして一さん奔る…… 栗の林の向ふの方で ざぶざぶ水をわたる音 それから何か光など 崩れるやうなわらひ声(解説)鉄道の開通は農村生活を向上させる一方、消費文化を流入させ農家女性が電車に乗って借金に行く事態もうみだしました。宮沢賢治の父や祖父は私鉄を経営していました。財閥の家に生まれた宮沢賢治の複雑な感情が表現されています。当時の花巻の実際の電車はAIイラストより横幅が狭く、馬面電車と呼ばれました。
2024.05.13
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#宮沢賢治 #AIイラスト #ウクライナ九三曠原淑女一九二四、五、八、日ざしがほのかに降ってくればまたうらぶれの風も吹くにはとこやぶのうしろから二人のおんながのぼって来るけらを着 粗い縄をまとひ萱草の花のやうにわらひながらゆっくりふたりがすすんでくるその蓋のついた小さな手桶は今日ははたけへのみ水を入れて来たのだ今日でない日は青いつるつるの蓴菜を入れ欠けた朱塗の椀をうかべて朝の爽やかなうちに町へ売りにも来たりする鍬を二梃たゞしくけらにしばりつけてゐるので曠原の淑女たちよあなたがたはウクライナの舞手のやうに見える……風よたのしいおまへのことばを もっとはっきり このひとたちにきこえるやうに云ってくれ……
2024.05.12
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇五七五、七、古びた水いろの薄明穹のなかに巨きな鼠いろの葉牡丹ののびたつころにパラスもきらきらひかり町は二層の水のなか そこに二つのナスタンシヤ焔 またアークライトの下を行く犬 さうでございます このお児さんは 植物界に於る魔術師になられるでありませう月が出ればたちまち木の枝の影と網 そこに白い建物のゴシック風の幽霊 肥料を商ふさびしい部落を通るとき その片屋根がみな貝殻に変装されて 海りんごのにほひがいっぱいであったむかしわたくしはこの学校のなかったときその森の下の神主の子で大学を終へたばかりの友だちと春のいまごろこゝをあるいて居りましたそのとき青い燐光の菓子でこしらえた雁は西にかかって居りましたしみちはくさぼといっしょにけむり友だちのたばこのけむりもながれましたわたくしは遠い停車場の一れつのあかりをのぞみそれが一つの巨きな建物のやうに見えますことからその建物の舎監にならうと云ひましたそしてまもなくこの学校がたちわたくしはそのがらんとした巨きな寄宿舎の舎監に任命されました恋人が雪の夜何べんも黒いマントをかついで男のふうをしてわたくしをたづねてまゐりましたそしてもう何もかもすぎてしまったのです ごらんなさい 遊園地の電燈が 天にのぼって行くのです のぼれない灯が あすこでかなしく漂ふのです
2024.05.11
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇五六一九二七、五、七、秘事念仏の大元締が今日は息子と妻を使って、北上ぎしへ陸稲(おかぼ)播き、 なまぬるい南の風は 川を溯ってやってくる秘事念仏のかみさんは乾いた牛の糞(コヤシ)を捧げもう導師とも恩人ともじぶんの夫をおがむばかり 緑青いろの巨きな蠅が 牛の糞をとびめぐる秘事念仏の大元締は麦稈帽子をあみだにかぶり黒いずぼんにわらじをはいてよちよちあるく烏を追ふ 紺紙の雲には日が熟し 川は鉛と銀とをながす秘事念仏の大元締はむすこがぼんやり楊をながめ口をあくのを情けながってどなって石をなげつける 楊の花は黄いろに崩れ 川ははげしい針になる下流のやぶからぽろっと出る紅毛まがひの郵便屋
2024.05.10
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#宮沢賢治 #AIイラスト三三三(無題 「遠足統率」草稿)一九二五、五、七、風はやはらかなチモシイを吹くしあんまりいゝとこへ来たもんだし約十五分間分れとかなんとか中尉どのがやってしまったもんだからもう生徒らは手に負へない蜜蜂といったいどっちだそこに一本古ぼけたレントゲンの木が枝にぶつぶつ硫黄の粉を噴いてゐる幾層暗むその梢で日はかゞやかに分劃する向ふはリチウムの焔をあげる花樹の群また青々と風に消えるから松の列それから例の大斧劈皺を示してかすむ死火山の雪だ羊舎を出て来た生徒らが羊の眼(まなこ)が蛍のやうに光ってゐたとおどろいてゐる遠くに行ってた生徒らは緑青いろに光ってゐる七つ森ではつゝどりどもがいまごろ寝ぼけた機関銃などうってゐるこんどは鶯がセセッション式に啼いたので歩兵少尉がしかつめらしく手をかざすそら大へんだ誰か電線に石を投げた羊舎からは顔に沢山針をさしたやうな犬が出て来るし井戸では紺の滑車も軋り蜜蜂ばかり歓語の網を織りつゞける
2024.05.09
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#宮沢賢治 #AIイラスト九〇一九二四、五、六、祠の前のちしゃのいろした草はらに木影がまだらに降ってゐる……鳥はコバルト山に翔け……ちしゃのいろした草地のはてに杉がもくもくならんでゐる……鳥はコバルト山に翔け……那智先生の筆塚が青ぐもやまた氷雲の底で錏(びた)のかたちの粉苔をつける……鳥はコバルト山に翔け……二本の巨きなとゞまつが荒さんで青く塚のうしろに立ってゐる……鳥はコバルト山に翔け……樹はこの夏の計画を蒼々として雲に描く……鳥はあっちでもこっちでも 朝のピッコロを吹いてゐる……
2024.05.08
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇五五五、三、こぶしの咲ききれぎれに雲のとぶこの巨きななまこ山のはてに紅い一つの擦り傷があるそれがわたくしも花壇をつくってゐる花巻温泉の遊園地なのだ
2024.05.07
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇五四五、三、何と云はれてもわたくしはひかる水玉つめたい雫すきとほった雨つぶを枝いっぱいにみてた若い山ぐみの木なのである
2024.05.06
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇五三測量一九二七、五、三、早いはなしが巨きな赤い毒蕈(ぶすきのこ)だなところがおよそきのこならどんな大きなきのこでもひとりで崩れてひとりで雨にとかされるおい!りんとひっぱれ!りんとひっぱれったら!山の上は雲のラムネどうだ親方一ぱいやるかあすこのとこのラムネをさ
2024.05.05
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#宮沢賢治 #AIイラスト七〇九春一九二六、五、二、陽が照って鳥が啼きあちこちの楢の林も、けむるときぎちぎちと鳴る 汚ない掌を、おれはこれからもつことになる
2024.05.04
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#宮沢賢治 #AIイラスト七〇六村娘一九二六、五、二、畑を過ぎる鳥の影青々ひかる山の稜雪菜の薹を手にくだきひばりと川を聴きながらうつつにひととものがたる
2024.05.03
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#宮沢賢治 #AIイラスト一〇五二ドラビダ風一九二七、五、一、生温い風が川下から吹いて砂土が乾き草も乾くドラビダ風のかつぎして紺紙の雲に踊るやうに耕しまた吐息して牛糞を盛り往来する 業(カルマ)は旋り 日は熟す楊の芽みな黄いろにぼうけ川は空諦と銀とを流し生温い風が南から吹いて吹いて植えたキャベヂが萎れて白くひるがへる 梵の教衆の哂ひは遠く チーゼル ダイアデム 緑いろした地しばりの蔓風は白い砂を吹く吹くもういくつの小さな砂丘が畑のなかにできたことか汗と戦慄牛糞に集るものは迦須弥から来た緑青いろの蠅である ヴェッサンタラ王婆羅門に王子を施したとき 紺いろをした山の稜さへふるえたのだ右へまはれ左へまはれ汗も酸えて風が吹く吹く もし摩尼の珠を得たらば まづすべての耕者と工作者から 日に二時間の負ひ目を買はう
2024.05.02
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#宮沢賢治 #AIイラスト1918年4月30日21歳の宮沢賢治は盛岡高等農林学校を退学になり明治大学に行った親友の保阪嘉内にあてて、葉書を出しました。御手紙ありがたう存じますまた私の古い手紙などを御読み下さったりありがたうございます。どうかどうかあんな私のかたよった語を過信しないで下さい。あなたみづからかゞやく波のたゞなかに進み入り深くその底をも究めやがては人天集ってあなたの説法を希ふやうにおなりになるのを祈ります。けれどもそれが喜びではないのでせう。さうならうとしてのみ私共は進むのではない筈です。どうか私のやうながさつなものをもあなたと一諸に行かせて下さい。 さよなら
2024.05.01
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