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カテゴリ: 小説・詩など


 ぷちぷちシリーズ
 小野寺・老刑事事件簿ファイル2・ぬいぐるみに愛を込めて(上)

 もう秋本番である。残暑は厳しかったが、なんとか季節が秋に変化してくれた。あの地獄の暑い部屋も過ごしやすい季節になったかと思うと嬉しくてならない。でもこの頃は呪われているのかも知れない。そう思える事件を今担当している。
 考えぬ事にした。もう直ぐ定年である。目の前の事件を精一杯解決すればいいだけ。小野寺刑事は自分に言い聞かしていた。

 ダイイング・メッセージがあった。

 「ジタク ツクエ」

 これを見た瞬間いやな予感がした。まさかと思った。世の中には偶然の一致がある。そして新聞にも事件は載る。そう思うしかなかった。事件の詳細は載せないハズだか。先入観念はよくない。現場第一主義だ。

 机を探した。出てきて欲しくないものが出てきた。決して俺が置いたものではない事は色んな人が見ているので間違えない。その為にみんなで時間差をつけずに行ったのだから何度も言うが間違えない。



 こちらの行動を見透かしている様な、ふざけた文章だ。今回は直ぐに権力を発動して、プロバイダーに該当ソースの開示を求めるはずだったのだか、それも出来ないじゃないか。今回が初めてじゃないので捜査本部内は何とも言えない雰囲気を醸し出していた。誤認逮捕じゃないよな。前回の犯人は逮捕され、以前書かれたものはてっきりホトケさんが書いたものだと思っていたが、今回同じような内容が出された事により、状況は一転してこれを書いた人物は別にいる。確認した所前回の変な文章は何処にも出されていない事が判明している。

 今回は、例の文章に踊らされずに、独自で解決しようと心に誓った。そして、このふざけた文章を考えた奴を白日も元に晒せてやる。罪状は不法侵入でも、証拠隠滅でも何でも構わない。
 電波塔と言えば二つの話題を思い出す。何とかと言う映画の舞台になったりした筈だ。
そして新たに第2電波塔を建設するとかしないとかでその候補地が話題になっていた。そしてダンスと言えば……
 あ、駄目だ。すっかりあちらの思う壺に嵌っている気がする。こんな文章より独自で解決せねばならない。

 まずは整理しよう。ガイシャは男27歳。独身。第一発見者は、この別荘の管理人Fさん。朝見回りに来た際にドアが開いていたので不審に思い中に入って発見したとの事。発見した時には既に亡くなっていた。そこで通報した。
 死亡推定時刻は、昨日の20時から21時頃。死亡原因は出血多量によるもの。鋭利な刃物での腹を刺されて事によるものだ。
 致命傷ではないが鈍器で殴られたような痕もある。怨恨関係は現在不明。
 気持ちがあの文章を見る度に滅入る事にもなるのだが、気合を入れ直して捜査にあたろう。
 現場に行くぞ。上着をさっと取ると、まずは聞き込みからだ。そう言うと現場へ向かうのだった。

 聞き込みをしていると、事実が明らかになって来た。ガイシャはあまり評判はよく無かったみたいだ。挨拶もろくにしないと言うのが近所を聞き込んでの共通した感想である。そして最近は金回りが非常に良かったらしい。車も新車に替えた。しかも国産ではない。

 派手な女遊びをしているのではないかとの情報もある。見る度に隣に居る女性が変わっている。これは裏を取らないと行けない重要な情報だ。その一人は聞いた相手が知っている女性だった。夏子さんでキャバクラに勤めている女性、独身、年齢は23歳。住所は市内に住んでいてこちらにも度々来ていたが最近は見ないとの事。男の方が最近は違う女性と歩いているのを見かけた。

 鑑識の報告では、着衣にたまごの殻と思われるものが付着していた。そして胃の内容物からもたまごの白身と黄身が見つかっている。ゆで卵の可能性が高いな。手帳にメモして行った。どんな細かい事でも、それから発展する可能性があるのでメモは欠かせない。何度このメモに助けて貰ったか分からない。
 たまご料理を食べて時間が経たずに殺されたと言う線が妥当だと。自宅まで遠いのでこちらの近くでたまごを料理している食べ物屋を探してみるか。
 パタッと手帳を閉じた。


 男女の二人連れだった。どうも口論をしていて、最後はこの店にも文句を言って店長を呼べなどと叫んでいた。結局はこんな安物の店に二度と来ないとの捨て台詞を言って女性の方がお金を払って帰ったらしい。
 口論も、断片的だが聞こえて覚えているとの事だった。
 図書館がドウコウ。手術代はどうするの。金ならある。
 その時間帯の伝票を見せて貰った。そして入店19:25の該当だと思われる伝票があった。
 そして、殻つきのゆで卵が付いている定食を注文していた。
 女の方は特に印象がなく余り覚えていなとの事だった。
 部下にアルバイトが終わったらもっと詳細聞くために署まで来てもらう様に頼んだ。

 そのアルバイトが終わる間に別の所で聞き込む。秋と言っても残暑が厳しい。体に堪える。
 例の女性について聞き込みをした。キャバクラ勤めだ。週に何度かは、昼間、ダンス教室に通っている。ダンスをするのお金を稼ぐために、今の仕事についているみたいだ。ダンスで生計を立てたいだが現実には難しい。色々な関門がある。仮に才能だけがあるだけでは駄目だ。天性の素質、才能、努力、そして運。
 あとはお金だそうだ。金で買えることもあるのか全て金嫌な時代だ。

 あのアルバイトの店員の証言を聞いてから、その女の所へアリバイを聞きに行くとしようか。
 署に戻るともう既に別の署員がアルバイト店員の事情聴取を済ませていた。聴取書を丹念に見る。そして、重要なところはメモに写した。
 さて、本丸の方を攻めに行くか。

 部下と一緒に、例の女の所に来た。
 玄関先でいいと言うとでも、私が落ち着かないのでと部屋どうぞ招き入れられる。そこは1Kのコジンマリとした部屋であった。
 部屋の中を観察してみると、本の中に明らかに図書館から借りたと思われる本も含まれていた。そして犬のぬいぐるみが置いてあった。
 ちょっと気になり聞いてみる。
「ぬいぐるみ好きなんですか?」
「あぁ、そのぬいぐるみ可愛いでしょう。以前実家で飼っていた犬の代わりなんです。その犬は病気で死んでしまいましたけど。その時の首輪をしてあげているです。本当にそん犬はむいぐるみみたいに動かないのでよくお客さんがぬいぐるみと思って触っていると突然動くのでびっくりされていましたよ。私も知っていて何も言わないでまた驚くかなと思いながら、黙って見てました」
「あぁ、そうですが。可愛いですね」
「刑事さんもそう思います」
「ところで、この方とはどんな関係ですか」
「恋人でした」
「それで、立ち入った事を聞きますが、肉体関係の方は」
「あぁ。ありました。私は将来結婚するつもりでした」
「でしたとの事でしたが、別れたと言う事でよろしいですね」
「そうです。別れました」
「どちらから、別れを切り出されましたか。その理由は何でしたか?」
「彼からです。別れた理由は、君にはもう飽きたから、子供みたいに変な出来もしない夢ばっかり追っている君に愛想を付かしたと言う理由です」
 淡々と話していたが、この話をしている最中から薄っすらと涙が滲んでいるように見えた。
「そうですか。十日の夜はどちらに居ましたか」
「その夜の時間帯は、金沢から返る電車の中でした」
「ほう、具体的には何時の電車で」
「時間は忘れたのですが夕方のサンダーバードに乗りました」
「何か証明するものとか人とか居ますか」
「金沢では友人が居て証明はしてくれるとは思いますよ」
「分かりました、またお邪魔するかもしれません」
 そう言うと聞き込みはここまでにして彼女の家を後にした。

「かなり臭いですが、アリバイがありそうですね」
 後輩が言った。
「そうだな。裏を取ろう」

 時刻表と睨めっこをしていた。
「面白いですね。サンダーバードが乗ったのが事実とすると京都まで出てそれからのぞみですか」
「そうだな。色々なルートがあるな。反対方向で京都方面、米原経由とか、正方向の越後湯沢まで行って乗り換えとか」
「概して反対方向の方が少しの差だが早いのも面白いよなぁ」
「金沢駅を18時43分に出発する特急サンダーバード46号に乗り京都駅まで行く。そうして、京都で新幹線のぞみ50号に乗り換え東京まで。東京駅でも結局23:29に着くから犯行は不可能って事になる」

「これでアリバイが証明されたと言う事ですかねぇ」
「今のところはなぁ」
「さて振り出しか、もう一度荒い直すぞ」
 そう言うと後輩と一緒に署を出て行った。

 現場百回と言う。見落としがない様に丹念に見る。あとは地道な聞き込み。そして裏どり。急がば回れとはよく言ったものだ。丹念にやっていると良いことが多数あった。そして、今回もあると確信している。だから、歩き回るそれが俺達の仕事だ。
 今は、ITだとかインターネットだとか情報が大切だと言う。それも一つ武器にはなる事は確かだ。だが全てがそこで片付くとも限らない。だから、前近代的だとか何とか言われようが、足で稼ぐそれが一番だと思う。

 また現状保存してある現場に到着した。明日には、現状保存も解除される。この別荘から荷物を引き上げて、その後は当面は空き家になる。借り手が現れるの良いのだが…… 実際はこんな殺人事件が起きたので難しいと思える。
 明日になると踏み入れる事もないかも知れないし、何も無くなった部屋を見ても仕方ないかも知れない。そこで、最後に自分の眼で見たかったのだ。
 例のメッセージを見る。これに支配されても行けないとは思うがついつい見たくなったり考えたりする。少なくとも分かっているのは、不可解なメモは残されていたって事実は変わり様が無い。
 イカンイカン俺とした事がと頭を数回ポンポンと叩いた。

 メモには、図書館の文字が。
 図書館かこちらも当たってみるか。写真を手にすると、近くの図書館に向かった。
 何時も事だかそう簡単に有力な情報は手にして居なかった。仕方ないのは仕方ないとしてこの多い人の中で印象深く覚えるのはよほど印象がないと難しいのではないだろうか。
 だから、係り員の人も例え見ていても分からないのが実情じゃないか。

 進展なく、署に戻って来た。こんな日もあるさ。ただ、絶対に犯人は捕まえる。それしかない。それが俺の仕事だ。自分に言い聞かせる。

 <つづく>





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最終更新日  2006年10月01日 10時30分51秒 コメントを書く
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