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August 21, 2006
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 僕たちを乗せた車が辿り着いた先は、ある店の前だった。
「雪穂さん、ここはどこですか?」
 僕の知らない土地に着いたために出た質問であり、ちゃんと目的地に着いたのかという確認でもあった。
「見ての通り、ペットショップ」
 雪穂さんは躊躇いもなく中に入ろうとする。
「ちょっと待ってください」
 雪穂さんは入り口の前で振り向いた。
「もしかして、ここでシロの代わりを買うなんて言うつもりじゃないですよね」
 僕にシロを返せないような理由があって、代わりに黒い猫を買って誤魔化そうというつもりなのかもしれないと思った。

 まるで猫と家族同然の付き合いをしている人間の言葉に聞こえた。だが、僕の言いたいことはもっと現実的なことだった。
「ちゃんと返すから、黙って付いてきなさい」
 そう言うと雪穂さんはペットショップの中に入っていった。
「はい」
 ペットショップを見上げながらため息をつく。
 外観を見ると、このペットショップは一部を除けばまともだった。
 まめな店員がいるのかしっかり掃除は行き届いており、プランターの中では植物が花を咲かせている。きっと衛生面は問題ないだろう。少なくとも、近隣から苦情が出るようなことはなさそうだった。
 ただ、問題は看板だ。出入り口のドアの上、二段にわたって店名を大きく掲げているのだが、その店名に込められた意味は、よく分からない。
『ペットショップ、Homeless』
 ペットショップという文字がなかったら、ここがどういう建物なのか、誰も分からないだろう。
 Homeless、ホームレス。



 信じられないことが起こった。
 信じられないことなんて昨日、今日と僕の周りで何回か起こっているから、もう慣れたと思っていた。それは勘違いだ。信じられないことは信じられないから信じられないことなのだ。
「あれ? 兄ちゃん」
 きょとんとした顔でこちらを見る夏美。それは僕も同じだった。何でこのペットショップに夏美がいるのだろうか?
 僕は言った。

「何って、見れば分かるじゃない」
 よく見れば、夏美の足元には、シロがいた。
「何でシロがいるんだ?」
「それは、探し出してくれたからよ」
「探してくれたって、誰が?」
 一体誰がシロを探し出したのだろう、と思っては見たものの、シロは雪穂さんに連れ去られていったままなので答えはすぐに分かった。
「雪穂さんか」
「雪穂さんよ」
 僕たちはほとんど同じタイミングでほとんど同じ事を言っていた。
「何? 二人して」
 自分の名前が聞こえたからやってきたのか、雪穂さんはペットショップの奥の方から一人の若い男性を伴って出てきた。
「雪穂さん」
 僕は続けた。
「どこに行ってたんですか?」
 僕が店に入ったときは夏美しかいなかった。だが、ここに僕を連れてきて、僕より先に店内に入ったのは、他ならぬ雪穂さんだった。
「ちょっと、奥の方にいたの」
 答えは歯切れの悪いものだった。僕には雪穂さんが困惑しているように見えた。
「そんなことより、あなたたちに聞きたいことがあるから、そっちに座ってちょうだい」
 雪穂さんは客用に用意された椅子を指した。
「それと、篠塚君はお茶でも用意して」
「はい。すぐに持ってきますね」
 雪穂さんとともに現れた男性は篠塚さんという人らしい。篠塚さんはお茶を淹れるために店の奥に戻っていった。

 このペットショップは外装からも予想できる通り、内装もきれいだった。よく磨かれたタイルの床と、ほどほどに置かれている観葉植物。それらがお客さんを不快にさせることはまず無いだろう。檻に入れられた動物たちも毛並みが整っていて実に健康そうだ。ペットショップとして良いお店であることは間違いなかった。もちろん、名前を除けばの話だが。
 篠塚さん、そして雪穂さんがここの店員であることも間違いないだろう。二人は先ほどから店の奥に入っている。中に入っていいのは当然、店員だけだろう。

 目の前に紅茶が並べられた。四つの椅子と真ん中に置かれたテーブルに四人が座る。隣に夏美、対面に雪穂さんと篠塚さんが座るという配置だ。
「まず聞きたいことがあるんだけど」
 雪穂さんは言った。
「二人は知り合いなの?」
「二人っていうと、僕と夏美のことですか?」
 他にないだろうが、僕は一応聞いた。
「そう。あんたたちは一体どういう関係?」
 隠すようなことでもないので、僕は答えた。
「兄妹ですよ」
 僕の答えを聞くと、雪穂さんと篠塚さんはお互いに顔を見合わせた。
「兄妹、兄妹よ。そういうことなんだわ。篠塚君、分かった?」
「はい、分かりました。僕は手続きを済ませておきますから、話を先に進めててください」
 そう言うと篠塚さんはシロを連れて店の奥に行ってしまった。
「何があったの? 私たちが兄妹だと何が分かるわけ?」
 夏美の疑問は僕の疑問でもあった。僕たち兄妹と雪穂さんたちの間には理解と言う名の壁があった。
「二人にもちゃんと説明するから、これから話すあたしの話を良く聞いて」
「はあ、分かりました」





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Last updated  August 21, 2006 11:47:31 PM
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