2007.02.18
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毎週日曜更新! 「ブログ」がテーマの連続サイコドラマ

第十話


 時子は、田町病院からT市の市街地に少し走った河原にいた。
枯れた草の上にハンカチを敷き、風に打たれる。冷たい風が、少し紅潮したほほに心地よい。この先が堰になっているのか、水がざわめきながら流れる音が、静かに響いている。

「書くだけじゃ何かが足りない。いつも足りない気がするの」

 Moonは、そう話していたのだった。だから「私を探してほしい」のだと。時子は腑に落ちなかった。彼女の言葉からすれば、ブログの回線を通じた接触だけでなく、なま身のふれあいが欲しいということなのだろうか。PCやケータイを通じたコミュニケーションの世の中で、ぬくもりのあるふれあいが足りない・・。それを求めて、無数にあるブログの海の中に「私を探して」と、石を投げる。本当の自分を深く理解してくれる人を求めて。

「・・うぅぅぅぅ。うそくせぇ」

 時子はうなった。理屈は分かるのだが、心から納得できないのだ。人間の行動というのは、そ
んなに小難しくない。もっと直接的な衝動があるはずだ。「性的な衝動からです」と言ってくれた方がずっと腑に落ちる。
「まだ到達していない」。時子はそう思った。「私を探して」というメッセージの本当の意味、その答えには。それとも、答えなど、意味などもともとないのだろうか、という疑問がかすめ、ますます不安になる。

そもそも人は何故ブログを書くのだろう。「もてたいんです」「注目を浴びたいんです」「お金をもうけたいんです」。言ってしまうと身もふたもないが、ほとんどのケースはこれらに該当するような気がしてしまう。考えてみると、ブログだけの話じゃない。仕事をすること、生活をすること、すべてにこうしたプリミティブな情動が作用しているように感じる。そして、それでいいのだ、と思う。そうした情動に基づくことが健康的であるし、根本はそれであっても、その作業は別の価値を生む。例えば、お金を得るために、人に満足してもらえるものを作ろうとする。人の役に立つ。そうして世の中は回っているのだと思う。

「私がルポを書くのは・・」

 時子は、30になってもなお恋に臆病な自分を思った。

「私の場合は、やっぱりもてたいからかなぁ」

 口にしてしまうと、時子は自分が下等動物になったような気がしたが、それもいいかと思い直した。幾分、気が楽になった。その途端、問題は何も解決していないことを思い出した。やばい。
(続く)

【この小説はフィクションです】






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Last updated  2007.02.18 09:20:36
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