2007.02.25
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毎週日曜更新! 「ブログ」がテーマの連続サイコドラマ

第十一話


「・・がーっ」

 むしゃくしゃした時子の足は、銀座の古びたビルに向かっていた。「瞬~MATATAKI~」という、文芸系のマイナー雑誌を作っている小さな出版社だ。以前から気になっていた。少しやけっぱち気味に飛び込んで、午前中の混乱をぶつけてみたくなったのだ。「このもつれた紐をうまくほどく編集者がいれば見てみたいもんだっ」。そんな気分だった。

「まあ、どうぞ」

 青いパーテーションで区切っただけの応接に通された。向こうに見える波打ったガラスが、ここは本当に銀座なのかと思うくらい古めかしい。それに目の前にいる編集者らしき男性も(名刺には星野十三と書いてあった)初老の紳士という感じであり、ブログに理解があるかどうか。
 時子は、手短に今のところの構想を話した。五郎に説明するよりも、すんなり話せた。初対面だからか。

「綾瀬さん、とおっしゃいましたね」

 バカにされるかと思ったが、星野は意外にも真剣な目で見つめ返してきた。

「あなたはブログを書いたことがありますか?」
「あります。けど、取材現場のこぼれ話とかで、あまり更新したりする方じゃありませんし・・」


 テーブルの上で手を結んだまま、時子をのぞき込んでくる視線は、相変わらずまっすぐだ。この人は本気だ。私も本気で答えよう・・、そう思った。

「私はあるんですよ」

 そう言って、星野は表情を緩めた。

「・・綾瀬さん、少しはずかしい話になりそうだ。外で話してもいいですか? 少し歩きましょう」

 薄暗くなった中央通り。ビルの間の空に、月がうっすらと浮かんでいる。この時間帯の街はとても美しいと、時子は思う。
星野は、トレンチコートを揺らしながらぽつぽつと話す。

「『私を探して』という言葉の意味は、私には分かりません。それは綾瀬さん、あなたが見つけることです。しかし・・」
「しかし、何ですか?」
「・・綾瀬さんは、最初その言葉を見たとき、どう思ったのですか?」

 不意な質問に、時子は少し戸惑った。こんな時はあせっちゃいけない、と、時子はすーっと力を抜いた。

「・・すごく・・すごく孤独な言葉のように思ったんです」

「いや、どうだったかな・・」

 このあたりが、まだ言葉にできてないんだよな、と時子は思う。

「最初に感じたことというのは、肝心です。それは、取材が終わるまで、大切にとっておかないといけない。そうしないと方向を見失います」

 時子は、驚いて星野の横顔を見た。この人と話していると、本当に紐がほどけそうだ。

「思い出してみてください」



「・・・たぶん、それがみんなの声のような気がしたんです。ネットの住人たちの、寂しさの声というか」
「ほう」

 星野は足を止めた。

「それです。それですよ」

時子も止まると、星野は時子の顔をのぞき込んでいた。

「その方向で考えればいいだけです」

 星野は時子に向けた笑みをくずさないまま続けた。

「では私は、缶コーヒーを買ってきますから、あなたはあの公園で座っていてください」

「えっ?」




【この小説はフィクションです】













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Last updated  2007.02.25 16:35:37
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