momokoの*Tinierタブロイド・創刊号

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2015.04.05
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脳の疾患がもとで起きた奇妙な現象:生きているのに死んでいる、自分と他人の区別ができないなど5つのケース

no title

 脳の異常が我々の思考や人格形成に大きな影響を与えるというのは 前回記事 にした通りだ。ここではさらに、脳の疾患がもとで引き起こされた、5つのケースを見ていくことにしよう。



1.自分自身の顔がわからない

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 人間の顔を識別する能力はすばらしい。わたしたちは、いたるところに顔を見つけ出す。これは「シミュラクラ現象」と呼ばれるもので、相手が敵か味方か識別するため、あるいは相手の行動や感情を予測するため、本能的に点線に顔を見いだそうとし、それを覚えるる専用のメカニズムのようなものを持っているのだ

 ところが、紡錘状回と呼ばれる脳の底部にある組織が卒中などで損傷すると、このメカニズムが失われ、顔の区別がまったくできなくなってしまう。もはや、顔を覚えるのが苦手といった域ではなく、社会的に深刻な問題になる可能性がある。ある患者は、ほかの男性を自分のパートナーと間違えたり、昨夜デートした相手と翌日にすれ違ってもわからなかったりといったことがあるという。

 また、映画を観ていても、どの登場人物がどの人なのか一致せず、理解するのに忙しすぎて、ちっとも楽しめないという人もいる。

 こうした症状がある人たちは、歩き方や服や髪型、会った時の状況などから、相手を識別するという次善策を講じて、混乱を回避している場合が多い。約2.5%の人たちが、顔の識別ができないこの相貌失認(失顔症)に苦しんでいると言われているが、自分で気がついていない人も多い。オリバー・サックスは、著作『妻を帽子とまちがえた男』の中で、自分が診察した失顔症の患者のことを書いている。

人の顔が覚えられない、表情が識別できない。50人に1人いると言われている「相貌失認」とは?



2.自分の夫が別人だと思い込む女性

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 1923年、フランスの精神科医ジョゼフ・カプグラらが非常に奇妙な患者について報告した。この患者マダムMは、自分の夫が別人と入れ替わっていると主張した。夫だけでなく、家族や友人や隣人がすべて別人になっているという。

 失顔症と違って、マダムMは彼らの顔をよく覚えていたが、彼らは“にせもの”だと思い込んでいるのだ。それ以来、医者の名前をとってこの症状はカプグラ症候群と呼ばれるようになった。ミセスDは、“偽”の夫とベッドを共にするのを拒み、寝室のドアに鍵をかけて、息子に銃を持ってくるよう頼んだという。

 これは統合失調症のような精神疾患や特定の脳損傷とよく結びつけられる。神経科学者のヴィラヤヌル・ラマチャンドランによると、この問題はふたつの脳システムの異常が関わっているという。人の顔を認識する役目を担う紡錘状回と、人に対する感情反応を担当する辺縁系と扁桃体という脳の部位がある。普通なら、夫や母親のように自分が愛している人を見ると、感情反応が起こるが、顔認識システムと感情反応システムの間のリンクが損傷すると、愛する人を見てもなんとも思わなくなる。

 ラマチャンドランは、この損傷したリンクがカプグラ症候群を引き起こしているという仮説をたてている。カプグラ症候群の患者は、自分の母親を見ても、母親に似ていると思うだけで、通常の温かな愛情を感じない。この人が本当に自分の母親なら、なんの感情もわかないのはどうしてだろう? だから、きっと母親ではないに違いないと思ってしまうのだという。


3.自分は死んだと思い込んでいる男性 

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 2012年に報告された日本人の患者の場合はかなり深刻な症状だった。彼は医者に、どうやら自分は死んでいるらしいので、意見を訊きたいと言ったのだという。ありえない話なので、医者は可能性のある原因を調べ、脳の右半球で酸欠による細胞組織の壊死である梗塞が起こっていることを発見した。

 こうした錯覚は何例か報告されているが、単刀直入に自分は死んでいると信じるケースはない。多くの場合、患者は自分の体の一部がないとか、自分の体に関して虚無妄想を抱いたりする。初めてこの症状が報告されたのは1788年、スイスの哲学者シャルル・ボネによるもの。自分は死んでいるとあくまで断言する年輩の女性が、家族に喪に服するよう強要した。結局、家族は折れて、喪に服するふりをしたという。

 それから1世紀ほどしてから、フランスの神経学者ジュール・コタールが、内臓がまったくなく、自分は不死だと信じている女性の症例を報告し、彼の名にちなんでコタール症候群と名づけられた。血液がない、何年も排泄していないなどと主張する患者もいたという。死んでいるのに、まだ埋葬されていないことをとても心配する88歳の男性や、脳や腸が消えてしまったとか、体が透けていると言い張る者もいた。シャワーを浴びないのは、自分が溶けて排水溝に流れてしまうのではないか不安だからという女性もいた。

 カプグラ症候群のように、コタール症候群も感情反応が知覚器官から分離してしまったことが問題で、紡錘状回と扁桃体の損傷に関連しているようだ。この場合、患者は家族に対する親しみや感覚を失うのではなく、自分自身または自分の体の一部に対する感覚を失ってしまうのだ。

自分はもう死んでいる。自分がゾンビと思い込んでしまう奇妙な病「コタール症候群」



4.1単語しか話せない男性

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1861年、ルイス・ヴィクター・ルボルニュは51歳で死んだ。彼は30歳から亡くなるまでの21年間、実質的にしゃべることができなかった。まったく言葉を話せなかったわけではなく、”tan”というような1音節だけは発することができた。何度もtanとしか言わないので、言語学の専門家であるピエール・ポール・ブローカは、彼の症状に興味を抱いた。

 ルボルニュは知性的な人間で、周囲のことがわかっていて、自分がどこに、どれくらいの間いたかということを伝える能力はあったが、言語を使うことをまったく忘れてしまっているのだという。

 彼は1音節しか発することができなかったため、なにを訊かれてもたいてい同じ言葉を2回繰り返すだけだった。彼はさまざまな仕草を交えて「タン、タン」と答える。だから、彼は「タン」というあだ名で呼ばれていた。

 ルボルニュが亡くなった後、ブローカは遺体を解剖し、脳の前頭回の後下部に損傷を見つけた。その部位は、今ではブローカ野という言語に関係する場所だということは知られている。

 のちの研究で、ブローカ野は単なる言語中枢というより、もっと複雑なシステムであることが判明した。まわりのたくさんの部位が言語を生み出すのに多く関わっているのだ。ブローカは言語は脳の特定の場所に集中していることに初めて気づいた人間だった。彼の研究によって、わたしたちの心は万能知性ではなく、高度に特殊業務をこなすたくさんのパーツで成り立っていることを初めて示すこととなった。


5.目が見えないのにそれを否定する人たち、またはその逆(アントン症候群)

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 アントン症候群の人たちは、脳の視覚中枢が損傷していて、ものを見ることができない。だが、本人たちはそのことに気づいていない。見えないことを否定し、見えているふりをする。

 患者が家具などにつまずいたり、ひとりで出歩けなくなったりして、初めてまわりは患者の目が機能していないことがわかる。行く手にある壁や閉まっているドアを通り抜けようとしたり、実際にはそこにいない人や物のことを描写しようとし始めたら疑いはさらに強まる。

 この障害は後頭葉の損傷によるもので、有線皮質の損傷が原因の盲視(光源や他の視覚的刺激を正確に感じ取る盲人の能力)とは逆のパターン。盲視の患者はたいていまったく見えないか、片方の目が見えないと主張し、見えていることを否定する。これは、脳の視覚野と言語を司る部位の連携不全が原因ではないかというのがひとつの説だ。





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最終更新日  2015.04.06 01:35:24


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