momokoの*Tinierタブロイド・創刊号

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2020.03.13
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東京五輪の開催は、絶望的である。建設予定のスタジアムはすでに破壊されているし、高層ビル群は崩れ落ちた。我らが首都・ネオ東京は崩壊した――。もちろんこれはフィクションである。今から37年前に連載開始された大友克洋の『AKIRA』。

 この作品が2020年の東京五輪を予言していたとして、今再び注目を集めている。ここ数年、人気ストリートブランド「supreme」とコラボしたり、渋谷に建設されていたPARCOの工事現場の壁に描かれたり、更にはNetflixでの新作アニメの製作が発表されるなど、AKIRAの人気は確実に再燃してきている。

東京の再開発とAKIRA再燃

 なぜ、今『AKIRA』なのか。2020年の東京五輪開催を「予言」していたことは確かにセンセーショナルである。最近も「東京オリンピック開催迄あと147日 国民の力で成功させよう」という看板に「中止だ中止」という落書きがされている描写が作中にあったことと、コロナウイルスの蔓延が結び付けられ、「本当に中止されるのでは」などという憶測も拡散した。(参照:J-castニュース)

 しかし、これだけならば都市伝説のレベルに留まるワケだが、現に企業による『AKIRA』を使用した企画が実現されてきた。例えば、渋谷PARCOのウォールアート。2017年5月頃から約2年に渡り、その工事現場の壁いっぱいに漫画版『AKIRA』の絵が描かれていた。『AKIRA』といえば、高層ビル群の破壊と再生である。東京五輪に向けて再開発が進められた2019年の東京と『AKIRA』の世界は完全にシンクロする。

 従来、2つのものを隔てるはずの壁だが、このウォールアートはAKIRAの世界(ネオ東京)と私たちの世界(東京)を繋げることに成功した。渋谷を訪れたAKIRAファンは、この写真を撮ってシェアした。SNSによってこのウォールアートはより多くの人に拡散された。こうして、2年間の工事という期間でさえ、見事PARCOは若者や渋谷の象徴であり続けた。予言のセンセーショナルさ、シェアしたくなるアート。『AKIRA』に白羽の矢が立ったのも頷ける。

 しかし、一つの疑問が残る。新生PARCOは若者だけではなく、「全方位」の年齢層をターゲットにしているとはいえ(注1)、『AKIRA』は30年も前に連載が終わっている作品である。そもそも若い世代で人気があるのだろうか。

supremeとparcoの戦略



 2017年、若者に人気のストリートブランド「supreme」が『AKIRA』とコラボし、パーカーやTシャツが販売された。店の前には行列ができ、この時の商品は今でも高値で取引されている。なぜ『AKIRA』を身につけるかといえば、ファッションとしても絵がカッコイイからであるが、それだけではない。



 日本のヒップホップシーンにおいても、ここ数年「AKIRA」にまつわるファッションやリリックがよく発信されている。例えば、vividboooyというアーティストは、「RELAXING」(2019)というMVで鉄雄のイラストがプリントされたTシャツを着ている。

 他にも同作に関連する楽曲には、LIL Jの「AKIRA」(2019)、TENG GANG STARRの「Livin’ The Dream feat. MIYACHI」(2017)、Fuji Taito「Bangarang」(2017)ゆるふわギャングの「Dippin’ Shake」(2016)などがある。いずれの曲も、周りの人間や大人たちに幻滅しつつも、自身のかっこよさを自慢している所が興味深い。個人的には元気をもらえる。

 このように、ヒップホップの楽曲を通して若い世代にも『AKIRA』が浸透してきているのである。私の所感ではあるが、ヒップホップのイベントに来る人たちは、とても若い。20代前半かそれ以下ではないか。

 90年後半~00年代に生まれた彼らは、いわゆる「Z世代」にあたる。彼らの特徴として、デジタルネイティブであり、SNSに投稿したら話題になりそうなものを好むとされる。企業はその特徴を理解してマーケティングしようとしている。

 要するに、『AKIRA』をモチーフにした楽曲が配信され、若い世代にも知られるようになり、コラボグッズが販売されると入手が困難になり高額化、さらに楽曲やコラボアイテムをSNSで多くの人がシェアし、コラボグッズへの需要がさらに大きくなり、売り上げが増加するという形だ。PARCOもsupremeも、このような戦略に基づいて、同作とのコラボを推進してきた。そしてそれが、若者の間での『AKIRA』の再燃に繋がっている。

鉄雄に自己投影しても鉄雄になれなかった私たち

 だが、なぜヒップホップアーティストは『AKIRA』を好むのか。それを知るには、同作のキャラクターそのものを知る必要がある。この作品の主要なキャラクターは、全てをもっている男・金田正太郎と、そのかつての親友の島鉄雄である。金田はカッコいいバイクに乗り、いつも鉄雄の前を走っていた。だから鉄雄は金田を妬む。

 そんな折、鉄雄は組織から逃げる超能力者と不意に激突し、事故に遭う。危うく一命をとりとめたが、彼もまた組織の実験体とされてしまう。そしてとうとう彼の力はコントロール不可能なものとなり、組織の大人たちは彼を殺そうとする。それに対して、鉄雄は反抗……いやそれどころではない。力の覚醒をもって彼らを黙らせるのだ。先ほど紹介したカニエの「stronger」では、カニエ自身が覚醒した鉄雄を演じ、敵をぶっ飛ばすシーンを再現している。

 その強大な力は、ネオ東京を破壊。その後、彼は帝国を築きあげ、王であるかのように振る舞う。ヒップホップアーティストはこの鉄雄の「力」の面を評価し、自身となぞらえることでセルフエンパワメントしているようだ。おそらく私達読者もこのような読み味で『AKIRA』を堪能するのではないだろうか。

 物語から一つの構図を取り出せば、大人と青年の対立といえるだろう。それも、大人が青年側を支配しようとするが、青年側の「覚醒」により圧倒的な勝利に終わるという物語だ。それだけに、「PARCO」や「supreme」で広告戦略を考える”大人たち”が「AKIRA」を利用することで若い世代にアプローチし、まんまと若い世代側もそれに絡め取られてしまうという現実は、皮肉なものである。仮に「AKIRA」が東京オリンピックの開催(あるいは中止?)の予言を的中させていたとしても、私達は『AKIRA』のキャラクターにはなりえなかったのだ……。

金田だったら……



 私も彼のように生きていく。金田のバイクはなくても、自分の人生のハンドルくらいは自分で握れるのだ。オリンピックが中止になろうと、東京が崩壊しようと、鉄雄にはなれないとしても、私は走り続けてやる――。「お前には無理」、そう言われたっていい。私の中には金田が生きている。だから、こう言い返すだけだ。「ピーキーすぎてお前にゃ無理だよ」(でも私には出来るんだよ!)

(注1)今回は、詳しく触れるスペースがないのだが、「PARCO」は6階でアニメ・ゲーム系のショップを、3階でストリート系のショップを新たに展開させている。アニメファンにも支持され、ストリートファッションとも親和性の高い「AKIRA」がオープニングイベントに起用されたのは、このような背景もまたあるからだろう。(参照:日経ビジネス「脱「若者ビル」、渋谷パルコの全方位作戦は功を奏すか」|2019年11月19日)


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最終更新日  2020.03.13 21:17:58


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