Iちゃんの店には、彼が釣った魚の写真が飾ってある。「小料理」にしては、とても大きなブラックバスとシーバス(スズキ)の写真で、お客さんの目を引いている。
Y君も、写真をじっと見つめている。Y君は釣りをしないが、自称「魚大好き人間」で、さっそくスズキの写真を指差して「この魚は何という名前ですか?」と聞いてきた。「何だと思う?」と僕。衝撃的な答えが返ってくる。
「アンコウ!」。
?...似ても似つかないではないか。おまえ、どういう感性で発言しているのだ!S君と僕は、声を裏返してのた打ち回る。気を取り直すまで、若干の時間を要する。
僕は、恐る恐るブラックバスの写真を指差し、「それでは、この魚は何だと思う?」と聞いてみる。衝撃的な答えが待ち構えていた。
「んー、ニシキゴイ!」
S君と僕は、声を裏返してのた打ち回る。よりによってコイとは。しかも「ニシキ」付き。何でも言えばいいってもんじゃない。こんなにオツムの弱いヤツにかまっていられない。

Iちゃんの仕込んでくれたイワシが来る。30cm級の大きなイワシを、手間隙かけて調理してある。ちょいとワサビを乗せて、そのままいただく。酢の染み込み塩梅が絶妙。幸せの一瞬だ。
ところで、イワシは魚へんに弱いと書く。読んで字のごとく、繊細な魚なのだ。
ちなみに、頭へんに弱いと書くとY君になる。煮ても焼いても食えないので要注意。「美味いっすね、この魚」と喜ぶY君に、僕はあえてイワシの名前を告げなかった。