その10
あの日も・・・
いつものように少しドキドキしながら
花沢類の隣りに座って
澄み渡る青い空を2人でボーっと眺めながら
時折 チラッとキレイな横顔を盗み見ては 感嘆の溜息を漏らしたり
ビー玉みたいにすき透った瞳と視線が絡み合って
一段と高鳴る心臓を押さえて精一杯の笑顔で笑ってみたり
あたしの至福の時間を過ごしていた
ドタドタドタっ
と、騒がしい足音がして重いはずのガラスのドアが
風に吹かれたかのように軽く開けられた
扉の向うから珍しく息を切らして
駆け上がってきたのは西門さんだった
不吉の伝達者・・・ 西門 総二郎
西門のバカやろー。
息を切らしながらオデコにうっすらと光る汗を手で拭いながら
「 類っ! やっぱりココか。探したぜ、静が帰ってきたんだぜっ!
お前とやり直したいって言って あの静が髪を振り乱して
類を捜してたんだぜ 」
あたしのことなんて見えてないのかっ!
この、不吉な悪魔めっ
固まるあたしを尻目に花沢類は表情も変えずにスタッと立ち上がっ
そのままカンカンっと小気味いい足音を立てて去って行った
その小気味いい足音が
あたしにさよならって言ってるみたいで
その軽い足取りが
あたしにあんたの役目は終わったよって言ってるみたいで
あたしはその場に、情けなくペタリと座り込んだまま
花沢類に声を掛けることも 立って追いかける事も
手を伸ばす事も 何も出来なかった
ただ 情けなく 微動だにせずに座っていただけだった
「 まきのっ! おいっ、牧野っ 」
悪魔の囁き、いや怒鳴り声・・・
じゃなくて西門さんに呼ばれてはじめて我に返って
体制を整えて座りなおして何でもないような顔を今更作ってみる
「 バレバレっだつうの 」
そういって、ピンっとはじかれるオデコ
そんなに痛くなんて無いのに全然
ちっとも痛くなんか無いのに
じわじわと溢れそうになる涙を堪えてると
涙がひとつの大きな雫になってあたしの手の甲にポタポタと落ちて
そこから流れ落ちた涙がコンクリートに大きな染みを作る
あたしのほんの少しの幸せ・・・さようなら
![]()

