Labyrinth of Time

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2010年08月11日
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カテゴリ: カテゴリ未分類
ノーベル賞授賞作家のデビュー作である。
率直にいうと、読みにくかった。
いや、翻訳物だということを考えると、読みやすい部類だったかもしれない。
だが、個人的にはなかなか進まなかった。
その理由を考えながら、感想じみたものを書いてみようと思う。

本作はいわゆる少年漂流記ものだが、他の作品とは異なる特筆すべき点として、人間に潜む“野生”を描きだしたことが挙げられるだろう。
少年たちは漂流してやってきた当初は、イギリスの紳士的な気質を兼ね合わせた、いわゆる“文化的な”人間であった。
だからほら貝が鳴れば、みんな集まって会議をするし、ほら貝を持っているものが発言権を持つというルールはきちんと守られていた。
もっと細かくいえば、リーダーなど役割分担を決めたり、家を建てたり、のろしを上げたり、イギリスにいた頃と同じようにある程度文化的な生活を送っていた。

崩壊の始まりを象徴する事件はもちろんブタ狩りである。
ある少年が自分の担当だったにもかかわらず、火から離れ、ブタを狩ることに夢中になってしまう。
ブタを見事に射止め、肉は手に入れることができたが、結果、船が通ったのにのろしが上がっていなかったので気付いてもらえず、結果、救出されるチャンスを逃す。
リーダーはこのことを咎めるが、肉が手に入ったことはそれまで果実などで飢えを我慢していた少年たちにとっては嬉しいことであった。
そのため、少年の間違いは正しい行いとされ、文化的な生活が崩れ始める。
この後、仲間を殺したりと、道理を失っていく様がまざまざと描かれ、最後のリーダーが必死で逃げるシーンなんかは本当に圧巻である。
息を吐くのも忘れるとはこのことか、と思わせられるほどだ。
その後の救出されるときの落差もすごい。
野生に還っていた彼らが、救助してくれる人の登場で一気に文化人へと戻るのが分かる。
さっと青ざめている様子が、想像できる。
この温度差には愕然とさせられた。

リーダーの「最初はうまくやっていたんです」という言葉がずしりと肩にのしかかってくる。
結局道理とはなんなのだろうか。
生きていく上で必要なものなのだろうか。
文化的な生活を営む上ではもちろん必要だろう。
だが、これを持っていたために、リーダーは死にかけた。


おそらく私が読みにくいと感じた原因はここにある。
この作品は道理という着物を脱ぎ捨て、野生の本性そのままに生きる少年たちを道理を保持している人間側から描いている。
読んでいて感じたのは、野生に還った少年たちの行動は道理的には間違っているが、それを指摘したところでその時の波にはかなわず、むしろリーダーの実行しようとしていることが本当に必要なことなのか、その説得力がなくなっていく様子が何とも辛い、ということであった。
野蛮に転じてでも、その場で楽しく、おいしいものを食べていける道を取るか、理性を保ち、来るかどうか分かりもしない救助を待ちながら制度に縛られた生活を送る道を取るか。
普段なら後者を選べるが、この物語を読んでいるとだんだんと前者のほうがよいのではないかと思えてくる。
前者を選ぶのには確かに違和感と抵抗があるのだが、同時に全てを開放できるということが魅力的に思えてくる。
自分を抑えつけなければならない抑圧感。
ほとんどの人が付いてきてくれないことによる自信喪失。
うまくいかないことによる絶望。
本来は正統派の側なのに、こういった苦痛が展開的に続いたことが読みにくかった要因だと思われる。

結局はハッピーエンドのほうが私は好きなのだろうか。
あるいはいっそのこと狂った方を正統派のように書きたててくれればよかったのかもしれない。
それはそれでラストは唖然としてよいのではないだろうか。
・・・きっと気のせいだな笑





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最終更新日  2010年08月11日 21時20分32秒
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