C h i p a s h e r r y D a i a r y
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ハマナスの実が色づき始めた。 ハマナスと聞いて、まったく花を見たことのない人を除いてだが、野菜の茄子を連想する人はいないだろう。 では、梨を連想する人はいるだろうか。 普通、ハマナスといったら赤い花の他に知床岬、森繁久弥さん、はまなす国体その他のはまなす何とか、皇太子妃の御花、などなど・・・ そこで「はまなす」は方言です。「ハマナシ」が正しいのです、などと言っても誰も相手にしないだろう。しかし、はまなすは方言なのだ。たしかにこの辺の古手の人たちは「すつ、はつまんはあるべさ」などと言うが、これは「七、八万はあるでしょ」という意味である。昔はハマナスは、銚子あたりまで群落を作っていたというが、言語的な地図からいうと、シ→ス と発音する地域の植物だから、ハマナスの意味するところはハマナシ、つまり浜辺にあるナシというのが妥当な線であろう。ではナシの意味するところは何か。偽果である点を除いて、全然、梨とは似ていないではないか。 果物には、分類上、真果と偽果がある。子房壁がふくらんで実になるものが真果で、バラ科でいえば、真果にはモモ、ウメ、サクランボなどがあたる。子房壁以外の部分がふくらんでできるのが偽果で、これにはナシ、リンゴ、イチゴなどがあたる。ある植物学者の説によると、日本の古代人は果実をモモ、ナシ、クリの三種に分けていたのではないかという。簡単に言ってしまえば果実のなかに種が一個だけあるのが「モモ」、中に芯があって種が沢山はいっているのが「ナシ」、回すとクルクル回り中をえぐって食べるような硬いカラを持つものが「クリ」である。古代人の分類に従ってハマナスの実を切って見ると、丁度イチゴを裏返しにしたような構造をしており、中からびっくりするくらい沢山の種が出てくるから、これは「ナシ」である。 シーボルトもこの植物をハマナシとして報告しているが、色々な文献によると、すでにその時代には江戸の園芸愛好家の間ではハマナスで通用していたらしい。 では何故シーボルトは「ハマナシ」と言ったのか。昔はハマナスは銚子あたりまで群落を作っていたが、そのもっと昔にはシをスと言わない地域にもあったのだろうと推測される。乱獲か、気候の変化か、何かが原因でシをスといわない地域のハマナスはなくなってしまい、シをスと発音する地域にのみ、残った。ところが今はシをスと発音する言葉の方が滅びかけているのだ・・・・。
2006年08月27日
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