前門の虎、後門の狼 <年子を抱えて>

前門の虎、後門の狼 <年子を抱えて>

早かった仮釈放




 安城市のスーパーで、生後11ヶ月の男児が通り魔に刺殺されるという痛ましい事件がおきた。同じ幼子をもつ母親として、あまりにもやりきれず、ニュースを聞くたびに憤り、涙が出そうになる。最愛の我が子を突如失った親の悲しみは到底計りしることができない。

 容疑者の生い立ちから今日に至るまでの生きざまが報道されていた。貧困、家族の離散など、薄幸の連続だったようだが、だからといって同情はできない。世の中には、不遇にもめげず強く生きている人がたくさんいる。自分の腹いせのために、通りすがりの他人の命を奪うことなど絶対に許されない。ましてや、社会で一番の弱者である子どもに情け容赦なく刃を向けるような人間は、人間ではない!

 凶悪犯罪がおきるたびに不思議に思うのは、被害者より加害者の人権が優先されていることだ。少年犯罪では被害者が泣き寝入りするケースが多い。また、女性暴行事件などは刑が軽すぎるのではないだろうか。弁護側はよく、育った環境や社会が悪いために犯行に及んだなどと責任転嫁の主張をするが、なぜ加害者の人権をそんなに擁護するのだろうか。被害者の人権についてはどう思っているのだろうか。

 憲法では、被害者の権利についての条文はどこにもない。事件がおこると、被害者やその家族のプライバシーがあらわにされてしまい、救済されるどころか、不幸に追い討ちをかけられる例も少なくないし、たとえ容疑者に極刑が下されたとしても、何の罪もない我が子の命を奪われた親の心は一生休まらない。このどうしようもない現実を思うと、胸が詰まって仕方がない。

 容疑者は10日ほど前に刑務所を仮釈放されたばかりで、入所していた更正保護施設を勝手に抜け出しての犯行であった。逮捕された時の所持金はゼロで、犯行に使った刃物は店内で盗んだものであった。服役者が刑期を終えて出所する場合、当面の生活に困らないよう、お金や住まい、仕事、身元引受人などについて刑務所側は調べていないのだろうか。刑務所は社会福祉施設ではないから、そこまで面倒みられないと言われればそれまでだが、出所しても生活できない服役者は、窃盗などを繰り返す恐れがあり、再犯の可能性も高いだろう。罪など犯していない人でも仕事がなかなか見つからない時代である。出所後、社会にうまく溶け込んでいけるような指導が必要といえるだろう。

 ところで、仮釈放というのは、刑期が満了する以前に刑務所から出てくることをいう。悔悟の情や更正意欲があり、再犯の恐れがないと判断されることが条件である。仮釈放後は、身元引受人のもとで生活しつつ(いない場合は更正保護施設)、保護観察の下で社会復帰をめざす。

 今回の容疑者は、窃盗罪などで服役、1月下旬に仮釈放され更正保護施設に入所、事件の5日前から消息を絶った。結果として大事件をおこしたのだから、やはり仮釈放に問題があったとしか言いようがない。容疑者は「殺せとお告げが…」などと供述しているが、この異常さは服役中に気づかれなかったのだろうか。

 おそらく、「殺人」ということに何も感じていないのだろう。愛する子どもや家族を失う悲しみを微塵もわかっていないのだろう。だから平気で人を殺すし、その罪の重さもわかっていない。これこそが最大の問題で、いくら刑務所に入っても何の意味もない。

 小さな子どもを見たら、かわいいと思うのが自然の情愛というものだろう。子どもを狙った残忍な事件が急増している今日、人間としての心が失われている人間が山ほどいるのだと思わざるを得ない。人間の尊厳、倫理観や道徳心が身についていないのだ。そんな中、この事件で近くにいた若い女性が、殺された男児の姉(3歳)を、身をていしてかばった。その機転と勇気に感服した。



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