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エデンの東
最初に感じたのは、異端だってこと。
白い羊の群れがあるとして、主人公・キャルは一匹だけ黒い羊だってこと。
家族の中で、地域の中で、彼だけがどこかしら異端でした。
「人と違う」ってことが、小さな田舎町の閉鎖的な場所ではどれだけ生き辛いことなんだろうって思いました。
キャルには居場所も理解者もなくて。
普通、唯一味方になってくれるだろう家族の中でも異端。
父親はバカみたいに善良すぎる男。双子の兄も、父の価値観と同じものを持っている善良な少年。
地域の人々も、うっとうしいくらいの善良さで。
・・・・「善良である」って過ぎると罪悪なんだわ!って思いました。
悪気のない善意って怖いというか、うっとおしいのだと。
狭い地域でしか通用しない価値観ってあると思うんですが。
広い・・・っていうかもっと多様な人がいる場所でなら、「個性」で済むことでも、その狭い場所で・・・一つの価値観しかない場所では、それは「間違いだ」とされる。
価値観が違うだけなのに、「お前は間違っている」と否定される。
キャルはそうやって育った子供のように見えました。
平たく言うと「仲間はずれ」。
父と兄は一緒。地域の人も同じ価値観。
誰にも理解されず、認められずにそこに居る少年キャルは、いつもぽつん、と人の輪から外れているように舞台から見えました。
ある時、キャルは父と話しができます。
兄がいないときで、二人きりで。
自分を理解しない、認めない父親が、気にかけてくれます。
自分を理解できていないことを気づいていて、それを悔やんでいます。
そして、「人は道を選ぶことができるんだ」とキャルに言います。
どういうふうに生きるか、変わるかは自分次第なのだと。
そこから、キャルは変わります。
父に、周囲に認めさせる自分になれるかもしれない、と希望が持てたから。
父親に自分を見てもらえただけ。
そんな小さなきっかけ、些細な出来事だけでそんなに変わるほど嬉しかったのかこの子は・・・と、人が違ったように前向きに明るくなる彼を見て胸が痛みました。
人の輪からはずれて、手に入らないものを眺めてるような風情の、寂しい切ないまつもとキャルの姿もやたら可愛らしいんですが。
父の愛情や居場所を得られるかもしれない、と積極的になって自分で動くまつもとキャルも、ものすごく可愛らしいです。
捨てられたわん公みたいな風情から、尻尾振ってるわんころみたいな可愛らしさ・・・・(あれ?)
当たり前ですが、普段の雰囲気とは全く違う彼が見れて楽しかったですよ?
「耳を出す髪形だと幼くなるから嫌だ」って彼が雑誌で言ってたのがわかりました。
そういう髪型だと、細い首筋もあらわになるから、細さが強調されてやたら少年っぽくなるんですね。
もてあまし気味ように見える長いリーチも、裾を入れたシャツのせいでわかる胴の細さも、未熟っていうか未成熟で不安定な少年っぽさを強調してて今回の役にぴったりだなあって思いました。
って・・・正直に言うとやたら可愛いんですよ。
やられました。新しい魅力を発見してしまいましたね。
反則だろう・・・・まつもとさんよ・・・(何がだ)。
あ、横道にそれました。
兄の恋人でアブラと言う女性がいます。
彼女も最初はキャルを苦手に思っていましたが、次第に彼を理解し惹かれるようになります。
彼女を見ていて、女性はやはり強いのだなって思いました。
現実をしっかり見て、適応するために考え、状況を受け入れて道を探る。
当時のアメリカで女性の地位は低いのですが、弱い存在なのに、時には母親のように毅然として叱り支える。
自分の意思を持っている。
そういうアブラの姿を格好いい女性だなって思いました。
クライマックス。
今まで父のために頑張ってきて、期待が頂点まで高まったその瞬間に、その父の手でそれが粉々に砕かれてしまいます。
頂点からどん底へ。
・・・そこからの彼が、痛くて痛くてたまりませんでした。
苦しくて悲しくて悔しくてやるせない感情が、壊れていく彼を見ながら伝わってきました。
そこからの一連の潤君の動きに目が離せなくなります。
彼を見ていると、感情を元に演技を作るタイプなのかなって思います。
実際に湧き上がった感情が表情を作り、動きを作り、空気を作る。
あの苦しくて悲しいどうしようもなさ、って感情を、潤君を発信源にして会場全体も感じていたのでしょうね。
壊れたように笑い、泣き、叫ぶ彼を見ていてそう思いました。
あちこちですすり泣きが聞こえてきました(私も涙目状態)。
壊れてしまったキャルが衝動的にとった行動・言葉のせいで周りの人間の運命が一気に狂っていまいます。
キャルと兄の双子には、出生に関する秘密があって。
それをキャルが昨夜の修羅場でばらしてしまったんですが、兄はその事実を表面上は冷静に受け止めながらも、実際は受け止めきれずに現実逃避してしまいます。
時節は大戦下のアメリカ。
「軍隊に行って現実を見てくる」
兄はそう言い残して家族や恋人を置いて志願して戦争へ行きました。
キャルのせいで兄は戦場へ行き、父はショックで脳卒中に。
傷ついて帰ってきたキャルに、痛恨の事実が知らされます。
意識の戻らない父親に、「ごめんなさい」と繰り返しますが返事はありません。
聖書に「カインとアベル」の話があります。
カインは嫉妬から兄弟のアベルを殺してしまい、住んでいた楽園「エデン」の地を追われて「エデン」の地の東に住みます。
・・・タイトルですね。
そこは、アベルが罪を背負いながら暮らした土地の名前。
今まで可愛がってくれていた父の友人は、「父と兄をあんな目にあわせたお前はカインだ」と言います。
この地を去って「エデンの東」へ行けと。
受け止めきれない重すぎる事実に崩れるキャル。
部屋を、家を出ようとするキャルをアブラが追いかけます。
重い病人のいるエデンなんてない、ここはすでに楽園ではない。
ここが「エデンの東」の地なのだと。
だから、ここで父親の看病をしなさい、ここにいなさい、と彼女は言います。
その会話の中で、彼女は恋人も斬ります。
「戦争なんかにいかなくたって、現実はここにあるのに」と。
このあたりのくだりは、アブラがとても格好よかったです。
覚悟を決めた女性は、毅然としていて母親のような強さだなあと。
部屋を出ていってしまったキャルを気にかけつつ、アブラは反応のない彼の父に必死に語りかけます。
キャルの孤独さを救えるのはあなただけなのだと。
水をやらない植物が枯れてしまうように、愛情をもらえない人間も枯れてしまうのだと。
だから彼を愛してあげてください、と。
自分もキャルを愛しているから、彼を救って欲しいのだと。
アブラが彼の父に呼びかける全面には、後悔で泣き崩れるキャル。
リビングでね、嗚咽しながら、もう立っていられなくなってしまってその場に崩れてうずくまるのですが。
私の見た3回とも少し変わっていたんですが、崩れながらテーブルクロスにすがり付いて泣くキャル。
ある時はクロスを頭から被って幼い子供みたいな仕草で。
崩れてそのままテーブルの下に頭をもぐりこませて泣く姿。
クロスにすがりついて、顔が見える位置で丸まって泣き続ける姿。
愛情に飢えている幼い子供って言う風情の彼でした。
(楽日を見た友人の話では、ただ静かに大粒の涙をこぼし続ける表現に変わっていたそうです)。
呼びかけるアブラに答えて、意識不明だった父親の片手が動きます。
恐る恐る近寄るキャル。
二人だけにしてあげようと、アブラは部屋を出ます。
後悔していることを伝えるキャルに、父の手がゆっくりあがり、その頭を撫でます。
私はここのなでなでが好きだったんですが、2回目以降変わってしまってただ弱弱しく手を振るだけになっちゃいました。
その方が重病人っぽい感じがして話的にはいいかなって思いましたが・・・撫でるほうが私は好きでした~。
そこへ近所のおばさんが乱入。
場の空気も読めずに土足で暴れまわるような善意を押し付ける彼女を、キャルは一喝して追い出すわけなんですが。
場面転換にもいい味を出していたおばさんで、今回も少し空気が変わって笑いが起きました。
彼女が去った後、父の口元に耳をよせたキャルはふいに笑い出し・・・驚いて駆け込んできたアブラが訳を尋ねます。
父は、再びキャルに「人は道を選ぶことができる」と言いました。
あのウルサイ婦人を追い出してくれたのは、お前は正しい道を選んだ、と。
病床でもそんなことを言うあたりアメリカ人かぁ・・・って笑いが起こりましたが。
父は、こうなってもまだ同じことを言えるだけの善良さがありました。
そして、キャルにこれから先も自分の面倒を見るように言います。
どこにもいかずに、ここで。自分の側で。
父はキャルを拒絶しなかったんですね。許していました。
愛情を伝えたわけです。
ラストシーン。
傍らにいるアブラと、父の手を握って笑う。
そんな場面で終わりました。
上からそこだけに柔らかく当たる光と聖歌でしょうか、優しい音楽。
天上からの光とかそういうイメージなのでしょうか。
ああ、この子は許されたのだなあって思いました。
こんな場面ですが、この子は救われたのだと。
自分でもよくわからないのですが、ラストのその場面でふるふるっときてしまい、本気で泣けてしまいました。
この子は、やっとあんなに望んでいた居場所を得たのだと。
こんな形だけども。
暗転になって、すぐに沸き起こる拍手。
その中で、しばらく動けない自分がいました。
泣けて泣けてしょうがなくて。
拍手したい気持ちも勿論あったんですが、とにかくもう少しだけゆっくり泣かせて欲しくて。もう少しだけ余韻に浸らせてもらいたくて。
カーテンコールで出てきた潤君もしっかり舞台のキャルをまとわりつかせた感じで涙目のままでしたが。
会場側もしっかり涙目・泣き顔だらけだったと思われます(笑。
カーテンコールは3回。
全員と手を打ってたり、舞台の上のほうにある橋を横切って現れたり、最後に投げキスをして客席を騒がせたり、と色々でした。
私は、自分の楽日である3度目のカーテンコールの最後でのお手振りが嬉しかったですがね♪(当然振り返します!
約三時間(休憩含む)っていう長丁場でしたが、あっと言う間に過ぎてしまいました。
ただ、すっごい集中しすぎたせいか、見てるだけなのにものすごく疲れてましたが・・・。
演ってる方は相当大変だろうなって思ますね。
台詞も多いし叫んだり泣いたり・・・第一長い!(笑。
一ヶ月間、無事に終えられることをこっそりここからお祈りいたします。
素敵な時間をありがとう。
そう思いました。
(そして長ーーい私的感想を読んで下さってありがとうございました。)
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