Sketch Book*

Sketch Book*

サイダー*




■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



細い一本道。20代前半の女があるく。
まるで何かを確かめるように、ゆっくり確実に歩いていた。

***


高校に入ってまだ3ヶ月ちょっと。瑞樹は学校へ向かう。
友達に会いたいのはもちろんだけど、同じ学校にいる彼氏に会いにいくというのが主な理由だった。
彼氏の秀正は自分で言うのも恥ずかしくないくらいかっこいい自慢の彼氏だった。
その上ありえないくらい優しくて頭がよくて、部活のサッカーでも1年生の中ではうまい。
瑞樹はそんな自慢の彼氏のことが大好きだった。

付き合って2ヶ月ほど。ちょうど夏休みでお祭りがあるからって秀正と一緒にいこうということになった。
何を着ていこう、手つなげるかな、うまく話せるかな。
不安でいっぱいだったけど嬉しくて仕方がなくて顔の筋肉は終始疲れる様子もなく緩む。

待ち合わせについていつものように話をしながら歩き始める。路上ライブなんかみたりしながら話す。
その空気もすごくお気に入りだった。秀正の笑顔がかわいくて仕方がなかった。

すこし暗くなってきて、そろそろ花火が始まるころ、少し急ごうって言って人ごみを歩く。
トンッ。瑞樹の前を歩く秀正の手に瑞樹の手が一瞬当たる。
ちょっとびっくりして手を引こうとした瑞樹の手を秀正が何気ないように包む。
秀正は一度も振り返らずに瑞樹の手を包んだ。まるで壊れ物を守るように。
照れてるんだって気づいたとき、瑞樹の顔はまたほころんだ。
いつも当たり前のこの行為が新鮮に感じられる。

手を絡ませたまま花火を見上げる。きょろきょろと右と左で上がる花火をみる秀正。
花火よりもどっちみればいいんだよぉ~なんて言ってる秀正をみてクスクスわらいが出る瑞樹。
幸せ。

そのままずっと二人は手をつないだままでいた。手もその感触に慣れてきていたのかそれがあたりまえの感覚になっていた。
同じ温度の手のひらはもうつながっているような気さえするほど。

もう時間は10時を回っていた。そろそろ帰らないといけない。
そう思うと手のひらが別々のものな感覚が戻ってきた。
帰らないといけないということは、この居心地のいい手を離さないといけないという事。
大通りよりも車の少ない道を瑞樹は案内する。秀正の家とは反対方向で、お祭りは瑞樹の地元であったものだった。
道案内。あとは一本道なのに瑞樹は手を離したくなくて一緒に歩いた。

すると途中で秀正がジュース買いたいっていったからフッと手を離した。風が通る。
離したことで本当に今までヒトツに繋がっていたような感じが大きくなった。
手の温度がだんだん下がっていってる。ちょっと寂しくなっていたら秀正が笑いながら言った。

いままでずっと手繋いでたから変な感覚するね。

後姿でそういった。サイダーのジュースを買っている姿はやっぱり照れていた。
同じ事思ってたんだ。そう思うと瑞樹は寂しさをわすれてまた顔をほころばせた。

大通りが見えると、今日の楽しさが嘘のように現実に引き戻された。ここで反対方向に歩かないといけない。
寂しさにまばたきより少し長く目を閉じた。まだ一緒にいたい。

じゃぁ、ここで。小さく笑ったがうまく笑えなかった気がした。
そのとき秀正が瑞樹に小さいキスをくれた。その顔はやっぱり照れていた。
キスなんて毎日くらいしていたのに、違うもののように感じた。

やっぱり顔がほころぶ。今度はホントの笑顔で言えた。

『またね。』

帰り道は早足になった。後ろを振り向けないまま家まで帰った。
その日何度もみた秀正の照れている姿を思い出した。口元に、サイダーの薫りが残ったままだった。

その2ヵ月後二人は本当に手を離し、別々の道を歩くことになった。
瑞樹はそれでもしばらく秀正のことが好きでしょうがなかった。


****


細い一本道を20代前半の女が歩いていた。
大通りに出ると進んできた方向にむけてまた一歩一歩何かを確かめるように歩いていった。

ばいばい。
そうつぶやいた手にはサイダーのペットボトル。
サイダーの薫りが、女を包んだままだった。


+ サイダー +




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