雨の日は音楽を

雨の日は音楽を

2022年07月15日
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カテゴリ: 歌曲
 夕闇の中を若者は絶望しつつも更に歩く。雑木林を抜けて、深夜になっても歩き続け、集落に出たが深夜であるので村の中を通り過ぎるのだが、村人は皆が寝ているようだ。

 曲は1小節目から犬の吠え声を模したかのようなピアノの右手と不安な左手の低音部が続く。八分の十二の拍数で、若者が足音を殺してゆっくりと歩いているのを、シューベルトが巧みに表現している。曲全体に犬が吠えるのではなく、途切れるのは、18-28小節の間で、若者が心のなかで村人の無邪気に寝ていることを、半ば羨み半ば見下して村人の夢さえ品定めしつつ、歩みを進めている間。それはちょうど村の広場を通過して、家並みが戻ってそこで飼われている犬に気取られるまでの空白というところか。

 この伴奏部分も最初に自身が作曲した「冬の旅」が、聴かせた友人から不評だったのは残念だが、撥弦楽器のチェンバロで弾くと更に不気味だったのだろう。ピアノで弾くと美しすぎてちょっと不気味さが失せるのは、あの世でシューベルトは残念に思ったかなと筆者は思っている。

 犬はまだ吠え続けているが、若者は家々の中の人間に思いを馳せる。ああ、ぐっすり眠っているんだな。幸せに暮らして、更に手に入らないもの "hoffen, was sie noch übrig ließen" まで夢で求めているんだな。

 ここまで考えを巡らした若者は気がつく。そうだ自分も手に入らないものを夢見て... ここまで思った若者は、狂気の縁まで追い込まれても、残っていた理性で、自分の夢が既に終わったことの実感が湧いてくる。何ということをしてしまったのか!親方の娘と恋仲になんて不思議ではないし、親方の都合で政略結婚?だっておかしなことではなかった。それを逆上して、失恋したのでどこか別の町の親方に紹介してくれと親方に願い出ることもせず、未練がましく女の部屋に「お休み」などとわけのわからん落書きまでして出奔。所持金も減ってきているし、行く宛もない。親方の紹介状なども持たない職人は、浮浪者と同じ扱いをされても文句は言えないだろう。


 このブログの読者の中に、当時の職人としての正しい行いはどうだったかおわかりの方はいらっしゃらないだろうか。臆病な筆者だったら、夜逃げ・出奔せずに、まず親方のところに行って、娘の婚約の祝いを述べて、同時に本当は好きだったので辛いこと、できれば他の町の親方のところに紹介して欲しいことを伝えるだろう。旅費を準備して娘にもお幸せにと声をかけ、親方にそれまでの感謝を伝え、紹介状を懐にいわば円満退社?が餓死を免れる唯一の方法だったのではなかろうか。まあ親方が激怒して放り出されたら、この若者と同じことになるのだが。

 でもロマン派は死ぬことさえ超越してしまう。たとえどのような結末になろうとも、何の成果も挙げずとも、情熱(たぶん死への憧れも)とともに行動するのだ。読者もこのあたりまで聴いてくると、実際にこの若者が存在したら、死しか未来に見えないだろうと思う。筆者も感情移入しているから、この若者の未来に待っているものは、乞食か餓死しか見えず同情しているだろう。冬の最中だから乞食になっても大変そうだし、やはり餓死・凍死か。

 全体として足音さえ潜めて歩く若者なので、伴奏もひっそりと進むし、歌の部分もひっそりと、いわばぶつぶつ独り言のように進行すべきだろう。:

 第3連の 「自分の夢は全部終わって」"Ich bin zu Ende mit allen Träumen," いるのだから、犬どもよ吠えて私を追い出せという歌詞で、若者の正気を再確認するのだろう。この正気はまもなく薄れることになるのだが、まだ失恋の夢の中。


 できるだけ村人が驚き咎めないように、足音まで潜めて歩く若者なので、ピアノ伴奏は全体として、足元近くではなく、家並みの裏や家の中から吠える犬として演奏してほしい。ぶつぶつと小声で独り言を言いながら歩く若者なので、この「ぶつぶつ」感をだせればなとは思うのだが如何なものであろうか。まあ、楽しそうに歌う曲ではないのは、皆が認めるところではある。唯一強くなるのは、一番最後の「ぐずぐずする」 " säumen " だけ、それも激して声に出しそうになって、すぐに音量を落としたかのように Fp となっていることに注目しよう。もう村を抜けるところまで歩いてきたのだろうか。











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Last updated  2022年07月15日 11時59分32秒
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