雨の日は音楽を

雨の日は音楽を

2022年12月31日
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カテゴリ: 歌曲
 陰鬱な墓場を抜けて、一応元気よく旅を続けている若者だが、 ​​​​​突然素早いリズムの伴奏が始まる。本当に「冬の旅」を初めて聴いていた者には、あまりの落差に驚いてしまう。最初の威勢のいい伴奏の4小節はフォルテ指定なのに、歌が始まる5小節目からピアノ指定になっている。歌詞も日本人の筆者には理解できそうもない。唯一思うのは、「この人酔っ払ってる?」である。一応このブログのタイトルにも入れたが、筆者は "Mut" は「勇気」ではなく、「空元気(からげんき)」だろうと思っている。

 あまり試みたことはないのだが、この22番だけは翻訳するとこうなるのではないかと思う。まず「なにかに酔っている」前提の翻訳であるが、江戸弁・東京弁はお許しを。とにかく「自棄(やけ)に」なっての発言と捕らえることができそうである。​


翻訳案#1
   てやんでぇ、雪のやろうが顔にベタベタ
   くっつきやがるから、払ってばかり
   ああ、くさくさすっから、
   歌でも歌おうか

   おいっ!俺は気弱になってるかも
   でもそんなこたぁ気にしねぇ!
   愚痴はいうめえ、愚痴はおバカの
   独り言さぁ

   ひどい風も吹雪も なんのその
   俺等で楽しくやろうぜぃ  
   神様が出てこないなら

   俺等が神様になってやろうぜぃ!

次はちょっとだけ真面目に翻訳

   雪が顔に叩きつけてくる
   僕は雪を払い落とす
   とかく気落ちするから
   歌でも歌おう

   心のなかで何を言っても
   耳は傾けないぞ
   どんなに不満を心が言っても
   感じないんだぞ

   さあこの世の人々と楽しくやろう
   雨風なぞ何のその
   神この世におわせねば
   我等、神にならん

何れにせよ、呑んだくれの寝言に近い。5小節目からの歌を本当にピアノで歌うというのは誰でも躊躇うのだろう。だって、旅の途中であたりに人気が無い場所で、そんなに小声で歌うのは、理解できない。ピアノ指示は、伴奏についており、歌詞を独白と見れば、現実の世界から、自分の心の世界に入った若者は、自由にメゾピアノからメゾフォルテくらいに歌い、心が内向していることを示すべきなのではないだろうか。CDなどで確認しても、ひっそりと歌っている例はあまりない。メゾフォルテくらいで歌って、「お茶を濁している」状態だと筆者は断じる。伴奏の威勢の良さに乗って、あまり強く怒鳴るのも感心はしないが。伴奏は、その外界と若者の心の独白を意識して演奏すべきである。

 この若者の身になって考えれば、この歌のように自らを慰め、奮い立たせようとしているが、心の奥底では自分の空元気に気づいている。狂気と自棄の間を埋める心のクッションなのだろう。

 ベーレンライター版などでは、第3連の始まる37小節目に二重線が引かれていることに注目したい。歌詞も第3連では初めて若者は"ich" 「私」ではなく、"wir" 「我等」としていることに注目すべきである。さすがにこの時代に、単数形の「神様」になるぞなどという歌詞はまずかろう。作詞者のミュラーにも遠慮はあるだろうし、シューベルトも妙なところでゴタゴタしたくなかったのだろうか。勢い余っての発言だから許せということであるらしい。単数形の「神様」がいらっしゃらないなら、私達が「異教の神々」に成ってしまおうかなくらいのニュアンスであろう。

 第3連はメゾフォルテの伴奏が小節の頭から始まり、歌もそれに合わせるかのように、熱っぽく合わせてゆく。第3連は歌詞が2小節の間奏を挟んで繰り返される形式で、全体が4連から成立するかのような構成になっている。3連の二度目の繰り返しは、自棄になった若者の心の叫びとしてフォルテで表現すべきなのだろう。

 第1連と2連の上行形と下降形で叙述と命令文のようになっている組み合わせが何度も出るが、各々の前半部分をピアノで自信なげに歌い、後半はやや力強く歌って、問答のような対比感を成立させるという歌い方も試してみたい。

筆者が注意喚起をしたいのは、リズムに乗って、38, 44, 50,56小節の末尾の、"hinein" "sein" が4分音符なのを忘れてしまわないようにという点である。その前の8分音符の繰り返しにつられてしまうと、余りに弾み過ぎて聞こえるからである。






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Last updated  2022年12月31日 19時41分06秒
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