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2007年04月22日
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JR京都駅に降り立った邦彦は腕時計に目をやった。午前10:15。この春、五条大学に入学した息子と待ち合わせの12時までには暫らく時間が有るようであった。

忙しなく蠢く人混みに揉まれながら邦彦は改めて構内を見回してみた。三十数年ぶりの駅内は何もかもすっかり新調されて様変わりしていた。

そして息子が大学へ行く歳になったのだからほっと安堵を覚えると同時に今更ながら邦彦は歳月の流れを感じた。

・・・達治がもう大学生か・・早いものだ・・達治は俺が若かった頃に過ごした楽しかった様な学生生活が始まろうとしている・・・・

邦彦は郷愁にも似た思いに浸ると何処か遠くの方で列車の発車する車掌の呼び笛の音を胸の奥深くで聞いていた。

・・・あれは 米原行きの発車する呼び笛・・トンネルを越えて数分走ると母校がある山科・・・行ってみよう・・・

突如、邦彦は何者かに操られるかのように知らず知らずに足が動き発車間際の列車に飛び乗っていた。

邦彦がよろめく如く駆け込むと列車の扉はJR京都駅の構内の風景を遮るように閉まった。そして幽かなGを身体に感じながら発車していく。

駅を出ると列車は直ぐにトンネルの中へ吸い込まれるように入っていった。明るかった車窓は幕を切って落としたかの様に暗転した。



すると・・その映像の中に内海先輩が横切っていく。そして続いて軽音楽部の玲子が通り過ぎて行く。

邦彦は似た人の見間違いかと思って振り返って見た。しかし車内はまだるい空気が流れていて先程車窓に写った人は居なかった。

懐かしむ思いでの幻想を見たのだろうかと訝しく膚で感じた邦彦はその時点で何か奇異な事が起こりつつある事に気づくべきであったのだろう。

トンネルをぬけると そこは・・・山科で あ っ た。

一瞬、目を差す程の明るさに思考が朧に霞んだようになった。しかしそれも僅かな時を過ぎるとゆっくりと焦点が会ってきたのか確り思考の中に写る映像を捕らえだしてきていた。

列車は山科駅の構内へ滑りこんで行く。慣性のGに身体を持って行かれそうになるのをあがらうように邦彦は足を踏みしめた。

「やましな~やましな~・・・・」

やがて列車は止まった。

国鉄山科駅の改札口を出ると目に飛び込んでくる風景が何もかも懐かしい。まるで三十数年前が昨日の風景と同じように お な じ・・・・・

いや全く同じ風景である。

・・・・・不思議だなあ~聞いたところによると駅前は再開発されてデパートができたと新聞に載っていた気がしたのだが・・・・・



突如、声をかけられた。邦彦がその声の方を振り向くと佐々木が笑っている。

「いや なに ちょっとね」

「さっき学校へ行ってきたら三時間目の授業 鈴木教授がお休みとかで休校らしいぜ」

佐々木は涼しい顔で言って近づいてきた。邦彦も何ひとつ不審に思わずその言葉に喜んだ。

佐々木は喫茶店にしけこむ様に誘ったが邦彦は迷わず悪友達の屯する雀荘グリーンへ直行していた。扉を開けると何時もの慣れ親しんだ牌の音が打ち寄せる波の囁きのように押し寄せてきた。



邦彦は黙って春樹の席の後ろに座って春樹の配牌を覗きこんだ。何だか以前に見た事の有るような配牌だ。

・・・・これは 七順目あたりに間六満を引いて 憲がふってくるんじゃないかな~・・・

邦彦が思った通り憲は西を切って春樹にふりこんだ。こんな場面何処かで見た事があると邦彦は思った。暫らくすると邦彦は春樹が抜けたので席を代わって牌を握った。指触りが心地良い。つい軽口が飛び出してくる。

「少年 老い安く 学成り難し さあ 真剣に人生のお勉強お勉強 オット そのチーピン ポンね」

「オット その手は桑名の焼き蛤 こっちとらリーチとくらー」

邦彦は酔う程に頭の天辺までどぷりと麻雀に浸かっていた。実に心地良い。ふっと我に返って気づくと場面は試験前 厚い教科書を数冊傍らに積んで目を血ばせらしていた。

「やれば出来るじゃない なんだこれが拮抗するから この作用が抑えられるんだ・・・」

試験用紙はどうにか黒く解答用紙を埋める事はできた。全く分からない問題は新しく自分自身で問題を作って解答しておいたし。それでも分からない所には笑い話をひとつ書き足しておいた。

邦彦は勉強も少し面白くなってきていた。教授達の言っている言葉がじんわりと身に沁みてくる。

そんなある日空手部の後輩と一緒に歩いていると前から歩いて来る女の子がニコリと微笑んだ。邦彦は咄嗟に後輩を見た。後輩の知り合いかと思ったからである。しかし後輩も怪訝な顔をしている。

「おい!知り合いか?」

「いえ 邦先輩の方に笑ったんじゃないですか」

「バカ云え 俺が女なんか知っている訳ないだろ 雀荘とクラブとの往復で合間に授業を受けているだけだからなあ~まあ人違いだろ それより飯を食いにいこうか」

と言いながら学校の近くの定食屋で二人で昼飯を食っていた時である。邦彦はふと箸を止め眉根を寄せて何かを思い出そうとしていた。そして自覚も無しに口が開いた。

「さっきの女(こ)な・・・左藤芙美子と言うんだ」

「なんだ やっぱり先輩知っているんじゃないですか そうならそうと端から言えば良いのに 左藤芙美子ですか 何クラブ所属です」

「おい 今 何て言った?左藤芙美子って言ったか・・・・・」

「先輩が言ったんじゃないですか 知っているんでしょ」

邦彦はなおも何処か遠くを見るような目で何かを思い出そうとしている。しかしそれは漠として明瞭な輪郭を持ってこない。

「不思議だな~俺は本当に名前なんて知らないんだ なのにそんな名前がふっと頭の中に浮かんで来て」

そんな事があった明くる日、すっかり昨日の事は忘れていた。そして 邦彦は何時もの様にグリーンで悪友達と卓を囲んで宜しくやっていた。

「春樹 悪いなそのサンピン ロン ザンクな・・・」

「ささしょげないで 良い子だかね これからこれか」

とその時であった。邦彦の手が不意に止まって立ち上がった。

「あ!ごめん 俺 今から人に会いに行かなくちゃ」

するとメンバーの三人は不平たらたら

「それは ないじぇ 今始めたところじゃないか デートでもあるまいし邦彦に第一そんな相手が居るわけないじゃん」

邦彦はそんなメンバーの不満を軽くいなしながら自信を持って答えた。しかしその答えがどうも要領を得ない。

「それが デートなんだ でもなあ~ それが約束はしている気はするのだけれど ぼ~っとして何処だかはっきり思い浮かばないんだ おまけにいったい誰とだかも分からない」

「ゲー!妄想かよ それで麻雀を途中で止めて行こうってか バカじゃないか」

そこで邦彦は少し不安になったがどうしても胸の内に湧き起こった衝動を抑える事が出来なかった。

「じゃあ~取り合えずは左藤芙美子って言う事で場所は京都駅。時間は・・・時間は・・PM1:00」

「じゃあって なんだよ じゃあって おまけに左藤芙美子って女(こ)知ってるのか?」

邦彦は又もや首を傾げながら

「良く分からないけれど そんな名前がふと浮かんで来て 多分その女(こ)と遠い先に何か起こりそうな気がして・・・・処で今何時?・・・行かなくっちゃ」

と言うが早いか国鉄山科駅へ駆けて行った。あまりに一生懸命駆けたので邦彦は息がすっかり上がって苦しい。でも運良く遣って来た列車に飛び乗った。

・・・・ハア ハア ハア やけに息苦しい 会いに行かなくては 会いに・・・ハア ハア・・・・

邦彦の耳奥深くで呼び笛の音が響いている。長く長く音を伸ばしてそしてそれはやがて深い闇の彼方へと消えて行った。

kyoutoステイションに三十数年ぶりに降り立った達治は何もかもリニュウアルされた構内に目を見張った。それでこの春、東山大学に入学した娘の春香との待ち合わせのカフェAZが何処に在るか分からず迷いそうだ。

達治は母芙美子に電通してPCにて検索してもらった。手元に送られてきた指示に従うと直ぐにカフェAZに行き着く事が出来た。

コーヒーをひと口飲んだ達治はやっと落ち着いたのか手元の端末器に目を落とした。AM10:15。春香との待ち合わせまで1時間弱ある。

持て余した時間が達治をふーっと遠い学生時代に誘っていく。悪友達の若かりし頃の顔が浮かんでは消え、消えては叉浮かんでいく。何処行きか知らないけれど列車の発車する呼び笛が遠くで鳴っている。





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最終更新日  2007年04月28日 22時16分39秒
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