マジョルカより愛を込めて

マジョルカより愛を込めて

2007.01.11
XML
カテゴリ: 脳腫瘍
翌日の土曜日。1月12日。

Y医師が朝の回診に来たときに尋ねた。

「3時からの説明に私も立ち合わせていただけますか?
・・・先生・・私・・、ガンなんですよね」

「誰が言ったの?」

「母から聞きました」

「ガンなんかじゃないですよ! まだ詳しく検査する必要はありますが、ガンじゃありません。

そう、お母さんが言ったの。

そんなこと聞いて、びっくりしたでしょ。可哀想にねえ」 



びっくりするのは、Y医師の言葉の方だ。


母が脳転移などという話を捏造するわけがない。

同席していた弟も聞いた説明だ。それを今になって覆すとは一体何なのだ。



お昼過ぎに家族が到着し、私は今朝のY医師との会話を伝えた。

家族は仰天した。

「狐につままれたみたいだわ・・・」母は立ち尽くした。

「でも、良い方に転んだのだから、とにかく説明を聞いてからにしましょう」

そういいながら母は、そばにあった椅子に腰掛けた。


3時前に弟が呼ばれて、1人でナース・ステーションに出かけた。

入院時に私の知らないところで、私の病状が話されていた。

今度も同じで、真実を私には隠すつもりなのかもしれない。





しばらくして、弟が戻ってきた。

Y医師は、私の頭の中にあるのは「転移しにくいおとなしい顔つきの腫瘍のようだ」

という見解を話したという。


だったらなぜ弟だけを先に呼んだのだ? 合点がいかない話だ。


「嘘ついていないでしょうね?」 私は弟に疑いの目を向けた。



弟は、嘘をつくのが下手だ。

確かに今は微かに笑みを浮かべていて、気持ちに余裕がありそうに見えた。

どうやら嘘ではないらしい。


5分ほど経って、ナースが車椅子を持って迎えに来た。

「先生に納得がいくまで聞いてね」


ナース・ステーションの奥に、Y医師が机に向かって座り、
Y医師の後方にK医師と3人のナースが記録を取るためノートを手にして立っていた。

なにやら物々しい雰囲気だ。

あんなに散々検査をしたCTやMRIのフィルムなどの資料は、一切用意されてなかった。


最初に私が口火を切った。

「先生、私、ガンじゃないんですか?」

「そう、お母さん、ガンだなんて言うから、娘さんが驚いちゃったじゃないですか」

Y医師は母の方に向かって手を振った。


「だって、先生、そう写真を見ながら」と言いかけた母を、弟が「まあまあ」と遮った。

「お母さんが先走って患者さんに話したのは、精神的にも追い詰められているせいでしょうから、

まず今日は話の分かる息子さんに説明をしました」


Y医師の言葉に母が息を呑んだが、弟が母に目で合図を送った。


「回診のときにも患者さん本人に話しましたが、ガンではありません。

今後さらに詳しい検査が必要ですが、O病院に転院を希望しているのなら、

その旨を紹介状に書きます。

ただし転院の理由は、患者さん側の希望ということにしてもらわないと困ります」


自分には非がないことをあくまで主張するつもりらしい。


湧き上がってくる腹立たしさを必死に押さえて私は同意した。

「はい分かりました。私が希望して転院したいということで結構です」


「姉はO病院に転院を希望していますが、家族で話し合って、
S病院にしようということになりまして・・・」


「ええ、紹介状はどこの病院でも書きますよ。
S病院なら、部長のことも良く知っていますから大丈夫ですよ」

「先生、では月曜日は祝日ですので、火曜日にS病院に私が手続きに行きたいと思います。
資料を貸し出していただけますか?」

母が身を乗り出した。

「いいえ、差し上げますよ。
えーと、では私からS病院に電話して、説明しておきますよ。
そのほうが話が早いでしょう。
火曜日の8時半以降にここにいらしてください。資料を渡しますから」


病室に戻ると、母は「まるで私が悪者扱いだ」と憤慨した。

弟も「あれは絶対に失礼な話だよな。Y先生は入院した時に
『これ位大きい(と拳を突き出し)腫瘍が3つあります。
』と確かに言ったよ!」と母の言葉に同意して憤った。


だが形はどうあれ、転院の許可を得たのには間違いがない。

家族は転院の許可にも喜んだが、腫瘍が悪性のものではないということを何よりも喜び安堵した。


でも・・・右手は微かに震えている。字も書けない。
右足が突っ張る感じは相変わらず残っていた。

本当に悪いものではないのだろうか???


夜の闇とともに、またあの2人が現れた。

しつこい死神だ。


そして振り払っても振り払っても消えないイメージが湧いて出てきていた。

前の年の春、桜の花に見送られて逝ったノンちゃんのお別れ会の遺影が、
私の写真になっているのだ・・・。

〈ノンちゃん、お願い。私を助けて〉





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2007.01.12 22:59:44
コメント(0) | コメントを書く
[脳腫瘍] カテゴリの最新記事


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ
画像認証
上の画像で表示されている数字を入力して下さい。


利用規約 に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、 こちら をご確認ください。


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

Keyword Search

▼キーワード検索

Profile

majo-ruka

majo-ruka

Calendar

Favorite Blog

毎日が ケセ ラ … じゃすみん123さん
ガン闘病と始まる女… ルー・アイテークさん

Comments

majo-ruka @ セリカさん お久しぶりです♪o(*^▽^*)o~♪ お疲れ様で…
セリカ205 @ お疲れ様です。 こちらも仕事に疲れ更新をサボってます…。…
majo-ruka @ ね! セリカ205さん お久です。 何だか…
セリカ205 @ 疲れるね。 職場復帰当初から知らない仕事の連続、 …
majo-ruka @ Re:外装交換(06/29) セリカさん >私はヴォダ(ソフバン)ですが…

© Rakuten Group, Inc.

Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: