俺だって苦しかったんだ。と、何度言いたくなったことか。10代の頃は、どうして自分が?と泣いたこともあるくらいだ。いや、今だって思う。どうしてよりによって俺なんだ。笑ってしまう。しかし、ここだけの話だが、俺も女とやったことがある。もちろんチサトじゃない。あれは、ボストンに行っていた時だからもう十数年前になるのか。ボストン支社で支社長秘書をしていた人妻だった。まだ20代半ばで、最初は人妻だなんて思わなかった。海外勤務が初めての俺に親切に色々教えてくれた。もちろんその時は、秘書の仕事の範囲内だったのだが、だんだんその範囲を逸脱して俺に近付いてくるのがわかった。が、気付いた時は遅かった。彼女はアメリカ人の夫と別れると言うほど完全におかしくなっていた。彼女は俺と初めて会った時から好意を持っていたと言った。俺もその気になってくれている、と信じていた、と。一週間ほど話し合い、説得して、やっと「一度だけ寝てくれたらあなたのことは忘れる」と彼女は言った。確かに言ったのだ。だが、女のそんな言葉を信用した俺はとんだ馬鹿者だった。

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