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玄関のドアを開けると奥から足早に近づいてくる足音がした。
「香織、どうしたの?庭にもいないし・・・」
「あ、ごめん、すぐそこでブルースのマスターに偶然出会って立ち話
してたの」
香織が一歩横にずれて高木が一歩前に進んだ。
「こんにちは。高木と申します。突然ですいません」
「あ、あなたはあの・・・」
裕也と香織は香織の父親と高木をせわしなく見返したあと、お互いの
目が口ほどにものを言い始めた。
(裕也、これ何?この状態って)
(俺に言われても、わかるわけないじゃん)
(あ、ひょっとしてこの二人、既知の間柄じゃないの)
(ありえるな・・オヤジさんの次のセリフでわかるだろ、きっと)
(なるほど・・・)
「あなた中野通りの「ブルース」のマスターでしょ、一度行ったこと
あるんですよ」
「あ、そうでしたか」
「はい・・・そうですか、うちの娘とお知り合いでしたか、さあどうぞ
お上がり下さい、どうぞ。おーい、かあさん。ブルースのマスターが
見えたよお茶入れて」
「あ、いえ、すぐに帰りますから・・・」
香織パパは聞いちゃいない。彼は自分の味方が欲しいのだから、
『そうですか、香織が何時もお世話になっています』から話を進め
られる、そんな相手なら大歓迎なのである。
それから約30分間、香織パパの独壇場と化しはじめた頃合い
を計ったかのように香織ママの声が居間に響いた。
「あなた、高木さんはあなたじゃなくて、香織と裕也君にお話が
おありなんじゃないの、それなのにあなたったら、まるで高木さんを
有力な有権者と思い込んだ区議会議員の立候補者みたいでしょ!」
これには流石の香織パパも言葉を失くし、伊達家に静寂が訪れた。
ここを千載一遇のチャンスとばかりマスターが口火を切った。
「今日は急にお伺いしまして大変失礼しました」
香織ママはニッコリして頷き
「高木さん、またいらしてくださいね、今度は選挙演説のまねなんか
させませんから」
香織パパはこれだけ言われても頭をかいて照れ笑いをうかべている。
いい人・・・みんなが香織パパみたいだったら争そい事など、起き
ないだろうな。
「では失礼します」と高木と裕也が頭を下げてドアの前に立ったが、
何故か香織までもが深々と頭を下げた。
「ママ、ありがとう、ちょっと出てくる」
3人は足早に玄関を離れてからようやく声に出して笑った。
「香織君のお母さん、面白いひとだねえ、お父さんの話を選挙演説に
例えられた時には笑いをこらえるのにお腹が痛かったよ」
思い出しては3人同時に腹を抱えて笑った。
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