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「あの梅の木は」 第12話 次の日、仕事終わってすぐ香織に電話を入れた。 「裕也、私も今電話しようと思ってたとこ」 「やっぱ気になるよな」 「そりゃそうよぉ、お酒の力を借りて何とか眠れたけど、 目覚めた瞬間にあの木のことが気になってリビングに下りてって 窓の外を見てたら、『おはよう!』ってママが大きな声で 言ったから、そんな大きな声出さなくてもって言ったら『もう、 これで3度目だけど!』って叱られちゃった・・・」 「そっか、やっぱり気になるよな、俺も同じだから今日にでも ブルースに行ってみるよ」 「でも、またお仕事のじゃまをしちゃ悪いじゃない?」 「うん、だからラストオーダーのちょい前に行ってマスター のご都合を聞いてみるつもりだ」 「あ、それがいいわね。じゃあ私を迎えに来てくれる?」 「え、俺はいいけど、昨日の今日じゃ香織パパの頭に角が生える んじゃないか?」 「平気よ、いくらパパが頭に角を立てても、ママは女版桃太郎だし、 私は1の子分だから、大丈夫」 「・・・・・・・・・・・・」 「うん?どうかした?」 「いや、ちょっと俺の未来図が頭をよぎって・・・」 「私が女版桃太郎で、娘が1の子分っていう家族構成になったらっ て?・・あれ、どうした?」 「いや、俺の思い過ごしだよな」 「いいえ、君の想像は当たってます、百パー当たると思うよ」 「うへーー・・・」 電話の向こうで、香織の豪快な笑い声がした。 「じゃあラストオーダーに間に合うように、迎えに来てね、いい?」 「ああ、わかった・・・」 「元気出せよ、裕也君、がはは、ガチャ!」 (電話切る音、声に出すか?普通・・・) 喫茶「ブルース」の一日は 1stオープンが11時~13時まで 2nd オープン 18時~21時まで ラストオーダーは20時 アルコールは無し、ノンアルコールビールは最近需要が増えて きたので置くようになった。 その日、二人が「ブルース」のドアを開けたのは19時50分 頃、もうすぐラストオーダーという時間である。 「いらっしゃい、おや今日は遅い時間で、もうすぐラストです けど・・・」 「はい、分かっています。僕はカレー大盛りで、」 「私も同じのお願いします」 「?大盛りってこと?」 「はい、ちょっとお腹空いちゃって・・・」 「カレーの大盛り二つですね」 「はい、お願いします」 「かしこまりました」 やがて21時閉店の時間。 店内に残るのは、ラストオーダーでコーヒーを注文した裕也と香織 の二人一組だけとなった。 客を送り出したあとマスターはテーブルを片づけ始めた。 トレイとダスターを手にして先ほどまでお客さんがいた テーブルを拭き食器を片づけていく。 「マスター、手伝います。カウンターの上にあるトレイとダスター お借りしますね」 マスターは気さくに応じた。 「何か話があるみたいだから、お願いしようか」 香織が立ち上がり、 「じゃあ、マスター、裕也が手伝っている間にお会計をお願い してもいいですか?」 マスターは香織の申し出を受けて裕也に目をやった。 「マスター、良かったらそうして下さい」 「そうかい、じゃあ悪いけど」 会計を済ますと、マスターはカウンターの中に入って 「話は洗い物をしながらでいい?」 「はい、お願いします。というかお忙しい時にすいません」 「いや、他ならぬ常連さんのことだから」 「ありがとうございます」 香織も同時に頭を下げる。 「実は僕らの身の回りで、ちょっと不思議なことがありまして」 「不思議なこと?」 「はい、それが僕のような文系の頭では難しすぎて」 「私がマスターに聞いてもらえたら、って彼に言ったんです」 「ほう、それは一体?」 「マスター、あの南台3丁目の信号の角っこの八百屋さん、 ご存じじゃないですか?」 「・・ああ、谷川のこと?」 「はい。以前母とあの八百屋さんで買い物してて、その時偶然 マスターがいらしてジャガイモ、玉ねぎとかを買われていて、 あそこの若いご主人と少しだけ立ち話をされてました。で、 マスターが帰られた後、ご主人が教えてくれたんです、『彼 は僕なんかとは違って大学で物理学を専攻してて、同級生の 中じゃとても優秀な奴なんです』って・・・」 「あいつ、余計なことを・・・じゃあ僕に話ってのは、理系 の知識を要することなわけ?」 再び裕也が香織からバトンを受ける。 「五次元の関係だと思うんです・・なのでどういうことなの か、僕らが体験したことがちょっと・いや、かなり変わっ てまして・・・」 「ほう、それは一体どういうことなのか、聞きたいね」 「あの、ぼくらは今でも構いませんが、マスターはお仕事 終わられたばかりで、ご都合の良い日、店休日とかその 前夜でもマスターに合わせますから」 「いや、今聞くよ、最近退屈な毎日でね、何だか面白そうだし 聞かせて」 「あの、知識のない僕らにとっては、眠れなくなることもあって 、それでお知恵をおかりしようと」 裕也の真剣な眼差しを見て、マスターは頭をかいた。 「すまない、じっくり聞かせてもらうから、先に洗い物済ませて いい?」 「お願いします」 二人は声をそろえて言い、頭を下げた。 いつも有難うございます。(^^♪
2026.05.04
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前号終了間際のあらすじ 「話は梅の木のことだぞ、俺たちにとっちゃ、下手な怪談話より 怖えだろ・・」 「ちょっと、酔い醒める・・・」 そう言った香織も目つきを変えて裕也と顔を見合わせた。「あの梅の木は」 第11話「何か・・・いや、誰かがいたようなって・まさか人影が見えた なんて言わないでしょうね、裕也」 「そのまさか・だと思う・俺が目を見開いた瞬間、見られた!と 思ったのか、その人影はあわてて俺に背を向けて・・・」 そこまで言って裕也は自身の言葉でその光景がよみがえり、背筋が 凍る思いがして思わずゾクッと身を震わせた。 裕也の凍る思いが香織にも伝わったようで、彼女は裕也の腕を強く 掴みながら先を知りたがった。 「ねえ裕也、その先は?『俺に背を向けて』のその先は?」 「なんだよ、お前震えてんじゃん。怖いんだろ?」 「そうだけど・・怖いもの見たさって、あるでしょ、あれよ」 裕也は香織の好奇心の旺盛さに呆れたが、それが彼の心に余裕を もたらしてくれたことに気付かずに・鼻で笑って応えた。 「俺に背を向けて・・・梅の木に・・入って行った?いや、消えて ・・った? 香織、思いだしたらまたゾクっっとしたじゃないか 背中がさあ・・・」 「人のせいにしないの!さっきは鼻で笑ってたくせに!元はと言えば 裕也が見てしまったからでしょ・・それを・・・」 確かにそうだったと思い直し、香織の『それを』という言葉を 具体的に言い直した。 「あれは、なんと言うか、半透明な感じになって・人がだよ、梅の 木の向こうに入ってったと言うか、消えてったというか・・・そんな 感じだったんだ」 今度こそ、香織は背筋が凍るような錯覚に襲われ両肩をすくめた。 「まるで、パラレルワールドみたいな・・・!!」 ハッとしたように背筋を伸ばした香織の変化に裕也が気付いて 「どうした?なにか思い出したようだけど」 「そう、そうなのよ!パラレルワールドって自分で言って思い出した の」 「なにを?」 「ブルースのマスターはね、大学が理系で物理学とか専攻してたって そんな話聞いたことがあるのよ、行ってみない?」 軽く首をひねった後、裕也も香織に同意した。 「行ってみるか、どうせ二人でああだこうだと考えてみたところで、 結論出そうにないしな・・・問題は信じてもらえるかどうかだけど」 「そこよね・・・知識はあっても経験値ゼロじゃね・・・」 「まあ、俺たちはその知識さえ持ち合わせてないんだし、行って 話してみて、だめなら他の手を考えるとしようぜ」 「うん、そうと決まったら飲み直ししようよ裕也」 「だな、このままじゃ眠れやしない」 「なにやってんだよ、二人で、早くこっちこっち!」 リビングでママにも相手をしてもらえなかったのだろう 香織パパが嬉しそうに手招きしている。 「香織パパに負けないくらい飲まなきゃな」 「そりゃ大変だわ!」 いつも有難うございます。(^^♪
2026.04.29
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「あの梅の木は」 第10話 香織ママはアルコールが適度にまわってくると、普段に増して陽気に なる。 「でさあ、香織、あんたたちどこまで進んだの?」 「な、なによ!急にそんな話、パパもいるっていうのに!」 それまで裕也と話が弾んでいた香織パパが振り返って首をつっこむ。 「なになに、なんのことだ進んでいるって?」 「もう、おとうさんったら地獄耳なんだから、いいのよ男同士で他愛も ない話に花をさかせていれば」 「何だよ、そんな邪険にしなくてもいいだろ!教えてくれよー」 香織が両親の間に立ちはだかって言った。 「いいえ!パパには絶対に教えません!」 仁王立ちで、おまけに拳をにぎって言い切る娘の姿に、父親は成す術も なく、 「何だよ、そんなに怒ることないだろ・・・」 語尾が消え入りそうである。 裕也はそんな父と娘のやりとりを見て、吹き出しそうになり、あわてて 口を手で塞いだ。 「ママ!・・・」 「分かった、もう聞かないから・・・あなたも余計な詮索しないこと! 分かった!?」 「じゅうぶん、分かりました・・・」 「まあまあ、もうそのくらいで、お父さん、ほら飲みなおしましょ」 「うん、裕也君は優しいなあ、やっぱり男同士だな、うん・・・」 すっかりしょげ返った父を見て、母と娘は顔を見合わせて噴き出した。 裕也は咳払いで香織に自分の方を見るように促がし、顔を小刻みに振った。 顔には「もう許してやれよ」と書いてある。 自分のグラスにビールを注ごうと身体の向きを変えた裕也の目に! (あれは何だ!?) 彼の目が庭が見えるガラス窓に釘付けとなったがそれは一瞬のことで、 直ぐに立ち上がり、窓に近づいていく。 香織が異変を察知した。 「どうかしたの?裕也?」 「今、梅の木のところに・・・」 そう返事をしながら彼の手はすでに窓のサッシを開け始めていた。 そばに来た香織が 「どうかしたの?・・・」 そう言いながら彼の目線を追って梅の木を見る。 「今、なんか・・いや誰かがいたような・・・」 「やだ、まだ怪談話には早すぎるでしょ、飲みすぎじゃないの?」 「話は梅の木のことだぞ、俺たちにとっちゃ、下手な怪談話より 怖えだろ・・」 「ちょっと、酔い醒める・・・」 そう言った香織も目つきを変えて裕也と顔を見合わせた。 いつも有難うございます。♪
2026.04.23
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「あの梅の木は」 第9話 〇申し訳ございません、署名の件、問題点があり取り止めとさせて頂きます。 お騒がせして申し訳ありませんでした。 「俺が本気だとか言うけど、お前は、香織はどうなんだ、さっき 滝沢精肉店の反応を自分で確かめたんだろ、どう思った?」 「・・・正直に言うとね・・・認めたくないんだよね」 「認めたくない?」 「うん、だって・・・本当に裕也が次元の隙間に落ちて向こうからやって来たのなら、中一の時に知り合った 裕也とは別人ってことにならない?『アナタ』は・・・」 香織が口にした『アナタ』は裕也にとんでもない衝撃を与えた。 その衝撃は、裕也の中に後悔の念を呼び起こした。 (あの梅の木に違和感を感じることさえ無かったら・・・ 例え違和感を持ったとしても、こんなこと、誰かに相談した ところで解決できるとは思えない。そんな難問を打ち明けられた 香織をどれだけ悩ませたんだ! 俺は香織との間に大きな溝を作ってしまったのか?) 香織は香織で、裕也の表情の変化から彼が今、大きな衝撃を 受けていることを感じ取っていた。 (『アナタ』の一言、それは口にすべきでは無かった!一番 辛いのは異次元に跳ばされてしまった裕也本人なのに!) 「裕也!ごめんなさい!さっきは『 別人だ』なんて言って、 おまけに『アナタは』って、冷たい言い方をしてしまって・・ 傷付いたよね、本当にごめん!」 「いや、香織は全然悪くない、悪いのは、今日香織に確認して もらってこの不安を共有してもらおうとした俺の方なんだ」 「・・・・・・・・」 「男のくせに情けない奴だ俺は!」 香織が首を振って裕也の言葉を否定する。 「そんなことない!こんなこと経験したひとなんて誰一人いない んじゃない!?、それこそ『事実は小説より奇なり』っていう 類のことでしょう?男も女もないわよ、自分のこと責めることない!」 危なかった、裕也はよそを向いて瞼を指でぬぐった。 「ああ、もう今日はこれまにでしとこう!言い出しっぺが言うのもなんだけど」 「そうね・・・今夜はもう飲んじゃうお酒!」 「え、それって俺も・・・」 「しょうがない、お酒の力でも借りなきゃ眠れないでしょ今夜は!」 とは言え、そうそう朝帰りを続ける訳にもいかず、今日は香織の家で 夕食に続いて飲み始めた。そしてまた例の人が墓穴を掘ることに。 「裕也君はそのソファで寝ていいから」 と裕也と香織が座るソファを指さした。 例によって香織ママが助け船を出す。 「そんな可哀そうなこと言わないの、裕也君は香織の部屋で寝るでしょ 婚約してるんだから」 「またそんなこと言って、お母さんは少し軽すぎないか?」 「あら、夜中にソファを抜け出して私の部屋に忍び込んで来てた のはどなたでしたっけ?」 「おい、かあさん、娘の前でそんなこと言うなよー」 またしても伊達家のリビングが笑いに包まれた。いつも有難うございます。読んで頂けると励みになります。♪
2026.04.16
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「あの梅の木は」 第8話 「俺はここで待ってるから」 裕也が指さしたのは、中野と杉並の区堺に沿って曲がるその角、 つまりは石橋豆腐店の角が見える児童公園のベンチだった。 「わかった・『伊藤ハムの太いソーセージ状のハンバーグ』を 下さい、でいいのよね?」 「うん、それでいい。悪いけど頼む」 頷いた香織は道の向こう側に渡り、やがて石橋豆腐店の角を曲がった。 待つこと約10分、手提げの買い物袋を下げた香織が道の両側を 確認しながら道を渡り、歩道を進み公園に入って来た。 一目でご機嫌斜めだとわかる顔つきだ。 「よ、悪かったねえ、まあこれでも飲んで」 裕也は待ってる間に近くの自販機で買ったコーラを差し出した。 香織は手にしていた手提げを裕也に預けてコーラを受け取ると、 ゴクゴク喉を鳴らして500ミリの半分近くまで飲んでしまった。 「おー、豪快だねえ」 「誰かさんのお陰でねー!すっごい喉渇いた、フー・・・」 「はいはい、ほんと悪かった。で、どうだった反応は?」 「結構引いてたよおばさん。それからご主人に『また伊藤ハムの ハンバーグだって、うちで扱ったこと無いのにねえ』って怪訝な顔 されちゃったよー、先にお母さんから頼まれた分を注文しとくん だったよ~」 「やっぱりなあ、そうかーやっぱり・・・」 「ねえ聞いてる?」 「あ、わるい、聞いてるよもちろん。俺ん時と同じだやっぱりな」 「何がやっぱりなの?ちゃんと説明してよね」 「うん、あれだよ『桜の木と梅の木』の『伊藤ハムのハンバーグ』 バージョンってことなんだよ」 「えー、木の場合は桜と梅の2種類だけど、今日のは『伊藤ハム のハンバーグ』だけじゃない。どう同じなのよ」 「簡単だろ、香織んちの庭に桜の時は売ってあって、梅のときは 売るどころか扱ったことも無いっていう、『有る無しバージョン』 ってことさ」 「裕也・・・」 「何?」 「あんた簡単に言ってるけど、それってもう世界がここだけじゃない って、一つだけじゃないって認めちゃってるってことになるんだよ、 それ分かって言ってる?」 「勿論さ・・・そうなるだろ?」 「ちゃんとあたしの目を見て言って」 裕也は目に力を込めて 「それしか考えられないだろ」 「本気だ、こいつ・・・」 いつも有難う御座います♪
2026.04.11
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「あの梅の木は」 第7話「裕也、何してるの?」 裕也は香織の声で気が付いた。 伊達家の玄関先で梅の木に見入っていたことに・・・。 梅の木の向こうに、桜の木が重なって見えた気がしたような、 そんな錯覚に陥っていたのである。 「あ、うん、今行く」 玄関のドアを閉めながら香織は裕也の顔をのぞく。 「どうかしたの?心ここにあらずって感じだよ」 「ごめん、後で話す・・・」 「あら、いらっしゃい裕也君、久しぶりねえ、さあ 上がって上がって」 「どうも、ご無沙汰してます。これ少しですけど」 途中で買ったショートケーキの入った、テイクアウト用の 手提げボックスを差し上げた。 「あら、そんな気を遣わなくていいのに、でもありがとう」 手提げボックスを手に香織ママはいそいそとキッチンに向かった。 裕也がリビングに入り、「おじさん、こんにちはお邪魔します」 と言い終わらないうちに、香織の父親が不機嫌な声を出す。 「裕也君さあ、嫁入り前の娘を朝帰りさせるっていうのは、 ちょっとそれはないんじゃないか?」 「あ、すいません気を付けます・・・」 「あらお父さん、うちの父に同じこと何度言われたかしらねえ」 キッチンからダイニングテーブルに手巻き寿司のネタを運んできた 香織ママから耳の痛いセリフが香織パパに届いた。 「おいおい、それを今言うかね?」 「でも、お母さんの言うとおりなんでしょ?」 「お母さん、香織に話しちゃったのかい?それはないよー」 香織パパが頭をかいてバツのわるそうな顔をしたので、リビング にみんなの笑いが起きた。 笑いに包まれた伊達家のリビングダイニングでの賑やかな食事会は 手巻き寿司の好物のネタを巡る香織パパと裕也との争奪戦によって 一層賑やかなものとなった。 やがて、寿司ネタが尽きる前に、全員がごちそうさまを言い箸を 置いた。裕也は自分の立場と感謝の気持ちをこめて重ねて言う。 「ごちそうさま、香織ママすごく美味しかったです」 「気に入ってもらって良かったわ、また作ったげるわよ」 「はい、期待してます」 香織ママは立ち上がりながら 「そうやって喜んでくれると作り甲斐があるわー、誰かと違って」 その誰かさんが苦々しげに 「なんだよー俺ばっか。このふたりには何のペナルティもないの?」 「それもそうね・・・じゃあ」と香織に目をむけた。 「香織、あとで買い物に行ってくれる?」 香織が快く引き受けると、横から裕也が 「それ、俺も一緒に行くよ、俺、急に4丁目の滝沢精肉店のメンチカ ツが食べたくなってさあ」 「え、じゃあサミットには行かないの?」 「いや、行くよ。メンチカツを途中で俺んとこに置いてね」 「なんかめんどうね・・・」 「うん、ちょっと訳ありなんだ」 「・・あそう、じゃ後で・・」 「ああ・・・」 訳ありと聞いては仕方もなく、香織は母親のとなりに行くと、 買ってくるものをスマホにメモっている。 「あ、でも香織あなた明日仕事・・・買い物してたら、裕也君と ゆっくりしてらんないでしょ?」 「あれ、言ってなかった?明日は先週の土曜に休日出勤した代休 だって」 「ああ、そう言えば・・じゃあ頼んじゃおうかしら」 「うん、いいよ、じゃあ行ってくる」 香織は裕也を目で促がして、共に玄関に向かう。 玄関のドアを閉めると香織が裕也に聞きただす。 「訳ありって、どんな?」 「滝沢精肉店でメンチカツを頼んだあとでこう聞いて欲しいんだ」 「伊藤ハムのだったと思うんだけど、『太くてこんくらいの(両手で 長さを示してみせた)ハンバーグが今も売ってるか』ってね」 「伊藤ハムのハンバーグ?」 「そう、香織は知ってる?」 「・・・ハンバーグのレトルトなら知ってるけど・・・それは太い ソーセージみたいね。裕也は知ってたわけね?」 「正しくは、憶えてる、だね・・・香織んちのあれが桜の木だった ら、香織もきっと『知ってた』はず」 この時香織はその答えを持ち合わせてなく、傾げた首は元に戻ったが すぐに閃いた。 「読めた!その時お店の人は『おかしなことを聞くなあ』って顔する わけでしょ?」 「当たり!さすがだなあ、それを香織にも確認して不思議さを俺と 共有して欲しいんだ」 「わかった、やってみましょー!」 「そんな、張り切らなくてもいいから」そろそろ桜が満開です。皆さんの所はどうですか?読んで頂けると嬉しいです。(^^)/
2026.04.04
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「あの梅の木は」 第6話 「うん、あそこにしよう」 裕也が振り返りながら立ち止まり、続ける。 「駅ビルに新しい鰻屋が出来たの知ってる?」 「うん?知らないけど、これからそこに行くの?」 香織の声に混ざった疑問のトーンは裕也が鰻を好きじゃないのを 知っているからだ。 「うん、こないだ帰りの電車で小島と会ったんだけど。笹塚駅に 福岡の柳川名物『鰻のせいろ蒸し』の店がオープンしたって教えて くれて、その足であいつは千歳烏山だけど、俺に付き合ってくれて 一緒に食べに行ったんだ」 「そっか、そう言えば聞いたことあったっけ、裕也は鰻だめだけど 柳川の『せいろ蒸し』なら食べるって」 「そう、あの店のは小骨も無いし、蒸し具合も、三百年も注ぎ足し たというタレも絶妙でね・・やばい思い出しただけでヨダレが・・」 「じゃあ今日は『鰻のせいろ蒸し』にする?」 「ようし、今日は俺のおごりだ!」 「やったー!」 ちょうど横断歩道が青になり、ふたりは急ぎ足で中野通りを渡り、 京王線笹塚駅に向かった。 50分ほどしてバカ旨だった『鰻のせいろ蒸し』を堪能したふたりは 店を出て甲州街道を渡り、十号通り商店街を抜けて裕也のマンション に着いた。 裕也は靴を脱ぐとPCデスクの上にカバンを置き、着替えを始めた。 「香織、フロの仕度・・・」 「言われなくてもやってます」 見ると香織はすでにバスタブをさっと洗ってお湯をためるスイッチを 自動にしていた。裕也がスウェットの上下に着替えてベッドで横に なっていたので 「横になってると寝落ちしちゃうからー」 「大丈夫、今日は一人じゃ寝ないから」 「あら、そうなの?」 「鰻、食ったから大丈夫」 香織は裕也の目が光を増しているのに気付いた 「やばそうな目をしてる」 「えー、『期待してる』の間違いじゃないの?」 「ばか・・・」 「一緒に入る?フロ」 「もう、懲りないわねえ、忘れちゃったの?『バスタブ落水事件』」 以前、裕也の強くしつこい要望を仕方なく香織がOKしたのだが 裕也が焦って足を滑らせて頭からバスタブに落ちたのを香織が面白が って『バスタブ落水事件』と命名して以来、裕也をからかう為に 使っている。これを言われると流石に裕也も黙るしかない。 何事もなく、交代で入浴を済ませたあと、冷えたビールを飲んで 「プハーッ!」を合図に裕也は香織の手を引いて行く、鰻の効能が 関係したのであろう、有無を言わさない力と気迫に満ちていた。 裕也が譲らない20%の照明の下、久しぶりだったせいなのか、いや やはり鰻の効能が関係したのであろう、この夜の2人は情熱の嵐の 中にいた。 翌日は日曜日なので、ゆっくりしていても良かったのだが、10時頃 香織のスマホに着信があった。 「お母さんだ・・もしもし、うん起きてるよ・・・手巻き寿司? ちょっと待って」 裕也を見ると大きく頷いている。 「うん、裕也も食べたいって、・・・分かったじゃあお昼前には うん、じゃあ・・・」 「手巻き寿司か、久しぶりだ」 「裕也、好きだもんね手巻き寿司」 「うん、じゃあカフェでケーキでも買ってくか」 「お母さんはいちごのショートケーキね」 「覚えてるよ」 手土産を買って香織の家に着いた。玄関の手前で裕也は庭を見る 「・・・梅の木だな・・・」とつぶやき首を振った。更新しました。お読み頂けると嬉しいです。
2026.03.29
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※訂正箇所があります。第4話のすれ違いのことで 「俺、思うんだけど・・先週のあれ・・やっぱおかしいって」 後々、時間軸の狂いが生じてきますので、訂正します。 「俺、思うんだけど・・高二の秋のあれ・・やっぱおかしいって」 が正解で、その二行後の「先週」も「あの日」と書き変えます。 読み辛くてすみません。 「あの梅の木は」 第5話 「例えばだけど・・・その前にちょっと聞くけど」 「うん」 間が空いた。 「今、間が空いただろ・・・」 「うん、何だかわざとらしかった」 「うん、『間があく』っていう言葉、『あく』は漢字だと『空く』と 書くのが正しいらしい。ググってみたらそうあったんだ」 「何が言いたいのか分かんないんだけど?」 「そうだよな・・・『空く』っていう漢字は、これまで埋まっていた 時間や場所が、使われてない状態になることらしい。分かる?」 「うん・・・いや、未だピンと来ない」 裕也は僅かに残っていた珈琲を飲み干した。 「要するにだ・・・あの時に・・あの気味悪いすれ違いの時、な」 「確かに今思い出しても、ちょっとね・・・」 「あの時、すれ違った4人・・・全員がただすれ違っただけなのか? そんなふうに考えてみたら」 「・・・・裕也、あんた何が言いたいの?」 「だから、今言ったように・・こう、時間の流れが『空く』という 状態になった時に、たまたまその場所に居合わせたとしたら・・・ どうだ?」 「どうだって言われても、私にはさっぱり見当もつかない・・・」 「だからあ、その『空いた』時間のすき間にその場所を通りかかった 人がいたとしたら・・まあ、俺たちのことなんだけど、そしてその すき間から誰かが出てきて、反対にそのすき間にこちら側の誰かが 落ちるとか、入り込んじゃったりしたなら・・・おまけにそれが 起きて直ぐにすき間が塞がる。そういうことが起きたとしたら?」 「こちら側とどこかの世界で人が入れ替わっちゃう!?」 「なんだ、香織もSF的な発想できるんじゃないか」 「・・誰かさんの影響でしょ・・あんな映画ばかり付き合わされて きたから・・・」 裕也の耳に香織の皮肉は届かなかったようで 「『空いた』時間の仕業だとしたら、梅と桜のことも説明できるんじゃ ない?」 「・・・もう少し」 「だから、あのすれ違いの時、誰かがあちら側とこちら側に迷い込んで そのまま、『空いた』時間が塞がっていたとしたら、両方の香織んちの 庭に違う木が植えてあっても、不思議は無くないか?」 「あ!・・・え、でも今の今まで学校も会社もそれまでの人生も環境も その全てに違和感を感じる事って無かったでしょ?それなのに庭の木、 それだけが違うっておかしくない?」 「俺もそれには気付いていたさ、じゃあ聞くけど、香織はあのすれ違い のあと、何か不思議な経験してないか?」 「・・・思い当たらないわ・・まさか、裕也、あなたまだあるの? そうだとしても・・あたしお腹空いちゃった。先ずは腹ごしらえしない?」 「賛成だね・・・頭も疲れてるみたいだし」 カウンター横のレジにはすでにマスターがいた。 「今日はすみません、大きな声出しちゃって」 「うん、けど今日は2人の貸し切りみたいなものだったからね」 そう言った矢先にドアが開いた。 「いらっしゃい」 マスターが裕也の耳元でささやいた。 「これから仕事が始まりそうだよ」 さて今日は何を食べようか。遅くなりました。時間も…♪どうぞよろしくお願い致します。
2026.03.24
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あのアオサギ君の所にお嫁さんが来ました!あれからずっとアオサギ君のことが気になっているマトリックスAですが一昨日から、なんと!アオサギ君のところにお嫁さんが(アオサギ君よりやや小さめ?細い、が正解かもですが、優しい感じがしてあれは十中八九お嫁さんでしょう!)が来たのです!アオサギの巣作りは、例年2月下旬から5月上旬にかけてということですから、多分今は2人して巣作りの最中かと。今日はお嫁さんが一人で来ていたから、思うに交代で餌を捕りに来ているのではないでしょうか。夕方過ぎにはアオサギ君が来ていたので、声をかけてみました。「おーい、アオサギくーん!」「あ、おじさんお久しぶりです。お元気ですか?」「うん、元気だよありがとう。ところで、ひょっとして君お嫁さんをもらったのかい?」「あ、わかりましたか?つい最近なんです」「やっぱりね、おめでとう、良かったね。今度おじさんにも紹介してよ」「あ、ありがとうございます。はい、おじさんとの時間が合ったら、その時に紹介しますね」「うん、そうしてくれると嬉しいなあ、ところで、交代でここに来ているけど、もしかして巣作りでも始めたのかな」「おじさんは感がいいですねえ、そうなんです。僕たちの産卵期は4月から5月の初め頃なので今のうちに準備をしておくんですよ」「そうか、大変だね。忙しい時に邪魔をしちゃいけないから、今日はこれで失礼するよ奥さんによろしくね」奥さんという言葉を聞いたアオサギ君は普段血の気の少ない顔をほんのり赤らめて「はい、わかりました。おじさんすみませんが、餌を捕る仕事にもどりますね」「そうだね、しっかり頑張って!寒いから気を付けてね」「はーい、おじさんも」久しぶりにアオサギ君と話ができたマトリックスAおじさんは(帰ったら内の奥さんにこの話を聞かせてやろう)そう決めて鼻歌交じり、ご機嫌で車を走らせましたとさ。久々のメルヘン更新です。(^^)/
2026.03.09
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「あの梅の木は」 第4話 「どうかした?」 普段はそっとしといてくれるマスターだが、 「すみません、ちょっと不思議なことがあって・・・」 香織が彼の右手をつかみ強めに引いた。裕也が振り返る。 「この話、マスター、いや、誰にしても信じないわよ。 私たちだって訳がわかんないことでしょ・・・」 裕也は、少しだけ引きつっているであろう顔に笑みを浮かべて マスターに言った。 「・・・あ、なんでもないんです。すいません」 「あ、そう?・・それじゃあ・・・」 マスターはそう言うと、親指と人差し指を大きく縦に広げておいて 両方の指の間隔を縮めてくっつけた。 (もう少し声を落として)というジェスチャーだろう。 裕也は頷いてからちょこんと頭を下げた。 コーヒーをもう一口すすって裕也が言う。 「俺、思うんだけど・・高二の秋のあれ・・・やっぱおかしいって」 裕也に言われて香織も思い出していた。 あの日、新宿で映画を観た帰り道、京王線笹塚駅で電車を降りて、 甲州街道をわたり十号通り商店街に入ったと同時に・・・ 2人と、顔も着てる物も、年恰好も瓜二つなカップルがやってきた。 後で聞いたら裕也もそうだったと知ったのは、香織の胸の鼓動が 高まり、周囲の音は聞こえず、目をそらそうとしても大きく見開いた目が、 勝手に相手を凝視することを、コントロール出来なかった。 向こうの2人も香織たちと同じ状態にある。 不思議だが、多分間違いないだろう それはお互いのカップルがすれ違うまで続いたのである。 時間にしてどのくらいだったのだろうか? すれ違った瞬間に、『やっと終わった・・・』と感じたのは一時的な 感覚?それとも願望だったのか? 香織は、裕也が制止する間もなくこれから甲州街道を渡って笹塚駅に 向かおうとする2人を振り返った。 驚いた!向こうも女性だけが振り返っていたのだ! 2人の女性は、はっとして踵を返し2度と振り返らずその場を 去ったのだ・・・もうひとつ不思議なのが、あの出来事が、特に 振り返ったあの瞬間が、今も・・・続いている、そんな感覚が残って いること・・・ 「あのことと、この梅の木が、何か関係あるっていうの?」 裕也は答えず、視線をコーヒーカップに移し、次いで窓の外「中野 通り」に移して珈琲を一口すすった。 「不思議なことが重なれば、関連付けても不思議はない、違うか?」 更新、早くて不思議、ですか?本人は不思議に思っています。(^^?今回もよろしくお願いします。
2026.03.08
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「あの梅の木は」 第3話「これ、梅じゃなくて・・・」 「どう見ても サ・ク・ラ だろ」 「・・・・・・・・・・」 香織 香織? 「香織!」 「あ、!呼んだ?」 「ああ、3回もな・・・どうだ?」 「さくら みたい・・・」 「みたいじゃなくて桜そのものだろ、幹の模様だけでも分かるだろ? 違いがさぁ・・・」 それには答えず香織も上着からスマホを取り出す。 「あたしは、合格祝いだからこそ梅の花を・・・と思って撮ってた はず・・・」 香織は視野に異常な接近を感じる 目の前、直近に裕也の顔が・・・ちょっと引きながら 「何?この近さ・・」 言い終わらないうちに、裕也の唇が香織のに重なる。 「う!・・・」 「何よ、急に・・・」 「香織のその真剣な眼差し、特に眉間にしわを寄せたとこ、そそる んだ・・我慢できなくて」 「何よ、人が探し物してるときに・・・勝手に・・あ、また!」 今度はちょっと長めのキス。裕也がメニューで2人を隠した。 唇が離れても香織の指はスマホの画面の上で動かない。 「ほら、何か探してたんだろ?」 裕也が顎をしゃくるように香織を促す。 香織がキリっと裕也をひと睨みして操作を続ける。 「あんなことしたって、ことはアルコール・・・」 「うん、昨夜はアルコール摂取量ゼロです」 「仕方ない、今夜は裕也んち行くわ」 「ホント!?やったー!!」 「ほんと、子供なんだから」 言いつつ、香織も俯きながら白い歯を見せた。 「あったわ、これ!・・・」 指で画像を拡大して覗き込む。 「ほら、やっぱり梅の花よ!」 彼女のスマホは、ひったくられるように裕也の手に移った。 「ほんとだ、確かにこれは梅の木・・・」 「でしょ、裕也のがおかしいのよ・・・」 「それは無いだろ、同じ日に同じ場所を撮ったんだぜ」 ふたりのスマホに保存されていた「梅の木」も「桜の木」も 同じ日付。 都内の高校だと合格発表は3月初旬なので、梅の花は咲いていて 不思議はないし、東京の桜の開花は例年だと3月中旬以降から だから、咲いてなくてもおかしくない。 「これ、一体どうなってる!?」 2人が同時に驚き、声が大きく響いた。 幸い店内に2人以外の客はいなかったが、オーナーの耳には 届いたようだ。 今、福岡は雨が降ってます。このブログの更新が珍しく順調だから?お立ち寄り頂けたら嬉しいです。(^^♪
2026.03.02
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「あの梅の木は」 第2話 「え?」 「だから、お前んちの庭にあるあの木は、昔から梅の花を咲かせてた かって聞いてるんだ」 「裕也、あんた今会社で何かこう・・・めちゃめちゃ難しい仕事を 任されてんの?それで神経がすり減ってるとか?」 「まあ、キャッチコピーなんて空から降りてきて頭ん中で花開く、 みたいなところあるから、普通はイライラするようだけどな、俺は 結構楽しんでるから、神経がすり減るってことは・・・」 「ない?」 「ああ、俺は主にキャッチフレーズを担当してるからな、ニュースを 見てると、『これ、どうにかならないか?』っていうふうに、ニュー スが問題提起してくれてるところがあるから、助かるんだ」 「なるほど・・・」 「それに担当のスタッフ以外の発案も有り難く受け付けるからな、 予想外に焦りはないんだな・・・躍起になるとかえって降りてこない ものなんだよなあ・・・って話がそれてないか?」 「ごめん、梅の木の話だった」 「それだよ~、気持ちはそっちに振られてたんだよ俺はー」 「うん、でも答えは決まってるから」 「あの木は昔から梅だったって、そう言うの?」 香織が大きく頷いた。 「ちょっと待ってろ」 上目使いに香織を見ながら上着のポケットに手を入れる。 裕也が取り出したのはスマホ。 「俺たち、中坊の頃からお互いの家を行き来してたよな」 「うん、だって父親同士が友達だったし、中1の時に裕也んち 越してきたでしょ九州から」 この2人の父親たちは、裕也の東京の親戚が営む木材店でバイトし ていた香織の父親と、たまたま遊びに来てた裕也の父親が出会った。 偶然にも2人は同じ大学だったし、なにより気が合って、それ以来 の親友である。 「そう、で、これが高校受験に合格した時かな、この写真」 裕也のスマホに映し出された1枚の写真、それは日付からして 2人が揃って同じ高校の受験に合格したのを2家族が集まって 祝った時のもの。 裕也から受け取って画像を指で拡大しながら香織が 「これ、合格発表の直後だから、もう咲いてていいはずよね 梅の花・・・」 「木の幹とか枝ぶりを見てみ、梅の木かどうか・・・」 「え!?」 「出たな、本日2回目の『え?』が・・・」 こんにちは。 意外でしょ?こんなに早い更新なんて! お読み頂ければ嬉しいです。(^^♪
2026.02.25
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「あの梅の木は」 第一話 勝 裕也 主人公 かつ ゆうや 小島 洋 裕也の親友 こじま ひろし 伊達 香織 裕也の恋人 だて かおり 伊達 明 香織の弟 だて あきら スマホの呼び出し音が・・・ 「よお、もう終わったのか?」 「うん、今日は珍しく早く上がったの」 「そっか、じゃあ今からブルース寄るか?」 「そうだね、裕也は今どこ?」 「もうじき笹塚だから、あと15分てとこかな」 「OK、あたしは今マンションの手前なのね、引き返してから行く。 だからあと7~8分で着くわね」 「じゃあ悪いけど、ちょいと待っててくれ」 「わっかりました」 ほぼ15分後 窓側のいつもの席で文庫本を読んでる香織に、窓ガラスを軽くつつい て到着を知らせ、裕也は入り口に向かう。 香織は白い歯を見せて本にしおりを挟む。 裕也は店に入るとカウンターの中にいるオーナーに 「いつものをお願いします」と言って香織の向かいに座る。 「珍しく早かったんだねえ」 「でしょ、小説を読みながら裕也を待つなんてね。いつもはあたしが 待たせてんのに」 「そうだよぉ、待つ身の辛さが分かっただろ?」 「オーバーねえ、待つ身の辛さだなんて」 「あ、いや、今日のことだけじゃなくて、俺が待たされてんのは、図書館の 本を全部読んでしまえるレベルだぜ」 「それじゃあ何、君が長ーい間待たされてるのって、結婚にゴーサイン 出さないあたしに責任があるって、そう言いたいわけ?」 「そうじゃないか」と言いかけた裕也が、その言葉を飲み込んだのは、 香織の顔から笑みが消え、突き刺すように裕也の目を睨みつけたからだ。 「違うでしょ!君の酒量が並みになったら、そしたらいつでも結婚したげる っていう・・・それを実行できない君のせいでしょうが!」 「声が大きいよー」 彼はそう言ってカウンターを見た。 案の定、オーナーは口元に笑いを含ませて呆れたように首を振っている。 それで、この二人のやり取りが今日に始まった事ではないということが 知れる。 やがてオーナーが二人の前にコーヒーを置きながら 「待たされてんのは、ボクも・・・ね」 この二人、実は大学生の頃に結婚の約束をしていて、その時から 「ぼくらの結婚式には、いらして下さいね」とお願いしていたのである。 また今日も、カウンターにもどるオーナーの背中に向けていつものように 「す、すみません」と これにオーナーは、振り返ることもなく手を振って見せた。 コーヒーを一口すすった裕也は、そのままソーサーにカップを置き 「俺、今日は香織に確認したいことがあってさぁ・・・」 「何?深刻な顔して・・・」 「こないだお前んちに寄ったら梅の木があったけど・・・」 「うん、あるよ・・・」 「あれって、昔から梅の木だったか?」 「え?」 お久しぶりです。読んで頂けると幸いです。♪
2026.02.18
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お知らせ致します。今日明日に、新しい小説を更新出来そうな感じです。多分、出来そうです。お時間のある時に訪問いただければ幸いです。
2026.02.18
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小説 「scene clipper」 最終話 「戻って来たなあ・・・」「ホント、それ実感したわ、ほんの1週間なのに」「俺も今そう感じてたよ、久しぶりって感じる、何でだ?」 リョウは横断歩道の前で左右に首を振りながらため息をついた。「甲州街道だぜマリ・・・」「分かり切ったことを・・・そういうあたしも今そう言いかけてたけど」 信号が変わって渡り始める。「ん?」「なに?」「いや、何か今、不思議な感覚に陥ってた」「へえ、どんな?」「なんだか、九州から東京へ戻って来たというより、過去から今に戻って来た、そんな気分になったんだ・・・変だよな」「普通なら変だけど、リョウさんならあるかも。だってご先祖が五代将軍に拝謁・・遠くからでも顔を見てる。あたしの家も水城の家だって江戸時代からここに住んでるわけだし、ひょっとしたらあたしたち、その頃にも会ってたりするかもだしね」「いいねえ、俺そういうの好きだな、ロマンがあるじゃないか・・・」甲州街道を渡って左に折れ、「大一元」でマリは中華飯と豚の角煮を、リョウはいつもの天津飯と豚の角煮を注文し、先ずはスーパードライで乾杯!「やっぱ、豚の角煮は『大一元』だよな」 すると、店の大将が、「まいど、お二人お知り合いだったんですね?」「あれ、二人で来んの初めてだった?」とマリに振る「そうだよ、前に言ってたじゃない、『お互い昔っから通ってんのに会ったこと無いよねえ』ってさあ」「・・・ああ、そうだったそうだった!」笑いながら「大将、これからは二人で寄してもらうから、よろしくね」「そうね、あたしたち揃って大将の豚の角煮、大好きだから」マリが満面の笑みを浮かべて大将にそう言うと、流石に普段は無口な大将が軽く頭を下げて言ったもんだ。「そいつはどうも」不器用な彼なりの控えめな喜色の浮かべ具合が、リョウは気に入っている。「よし、先ずは乾杯といくか」「マリ、お疲れ様。遠くまで付き合ってくれてありがとうね」「いや、楽しかったよ。今は確かにちょっと疲れてるけどね」「かんぱーい!」 腹を満たしたら、もう部屋に帰ってベッドに倒れこむことだけが、二人を支配していた。やがて見慣れた十号通り商店街を抜けて「水道道路」に出た。ここは昔、杉並区の和泉給水所と新宿区の淀橋浄水場を結んでいた玉川上水路を埋め立ててつくられたため、こう呼ばれているらしい。水道道路を渡り、見慣れた街並みを新鮮な気分で歩き、抜けて、ドアの前では鍵を開けるのさえもどかしくて、「ロックしといて」というマリの声が聞こえた気がした。 翌日は二人で冷蔵庫の中を満たすべく、買い物して、午後には水城ファミリーや上妻+彼女に声をかけてささやかに食事会を楽しみ、そして翌日からは南台を中心に新たな日々が始まったのである。 小説「scene clipper」は一先ずこれでお開きとします。 間の空いた話にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
2026.02.05
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今日、久しぶりに「となりのトトロ」を観ました。さつき、メイちゃん、かんた君、お父さん、おばあちゃん、、みんな素晴らしい!もう何度も観たのに、改めて観てみて、涙ぐんでしまいましたよ。なんだか心が洗われるようでした!思うのですが、このアニメを世界中の指導者たちに見せてはどうだろう。少しは人間の温かい心を思い出す?・・・だったらいいな。
2026.01.10
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小説 「scene clipper」 again 第20話 語る方も聴く側も、ひとつふたつ駅を戻ることが出来たなら もうひとつ話ができた、聴けた。 口にこそ出さないが、一行の表情に同じ想いを、読み取れた気がしてリョウは車窓に目を転じた。 品川駅で山手線に乗り換える。 青木さんたち一行はお迎えの車があるそうなので、ここでお別れすることになった。 「リョウ君、本当にありがとう。田島さんの墓参という大きな目的を果たせただけでなく、いろんな珍しいものを見聞きさせてもらいました。礼を言いますよ」 そう言って頭を下げられた。 「あ、困ります。どうかそのようなことは為さらないで下さい」 滅多に目にすることのない、青木氏が人に頭を下げる姿を見て・・・ケンさんが目を大きく見開いた。 それから俺に向き直って 「リョウさん、本当にありがとう。このことは一生わすれません」 その清々しい振る舞いに感動して返事はまず首を横に振ってから 「青木さんやケンさんにそんなに喜んでもらえて、こっちこそ礼を言わせて下さい、ありがとう」 「また連絡していいかな?」 「もちろん、また飲もうね」 何時もそうだが、気に入った人との別れは例えひとときであっても、名残惜しいものだ。 「なんか、いいよね男の背中と、それを見送る男も・・・」 「・・・そう、かな・・・」 「さてと、私たちも帰るとしますか」 「うん、で、どっちにする?」 「外回りで新宿から京王新線で笹塚。それか渋谷で京王井の頭線に乗り換えて明大前から京王線でってこと?」 「だね、・・・上妻が部屋にいたら、寄ってみるなら渋谷で京王井の頭線に乗り換えて・・・」 マリが話を折る、疲れてるなやっぱり・・・。 「下北に寄るのなら、悪いけど・・・」 「そうだな、・・・今日のところは新宿から新線で帰るか」 「無理してない?」 「いや、正直言って流石に俺も疲れてなくは無い・・・」 「そっか、リョウさんもモンスターじゃなかったんだ」 「そりゃそうさ、結構な強行軍だったからな・・・マリにも栄養と休息が必要みたいだし、今日はどこかで旨いメシ食って風呂に入って寝るとしようぜ」 「賛成、上妻さんに電話も明日に、できたらそうして・・・」 「了解しました、マリさま」 「うん、よろしい!」 二人で声に出して笑った。それは久しぶりのことだった。 いつもありがとうございます。これが今年の〆になります。ちょっと早いですが、良いお年をお迎えください。
2025.12.28
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小説 「scene clipper」 again 第19話品川までは、まだまだだね、と思い「もうひとつ、品川までの話です」「京王線千歳烏山に第一号店がある新宿のライブハウスに僕と当時の仲間たちはよく通ってました。床も壁も赤レンガ造りでして、壁にはビートルズ4人のパブミラーが飾り付けてあって、欧米人たちにも人気の店でした」「それは、そんな店があったのか、そんな店なら私も行ってみたかった・・・というか、今その店は?」「残念ながら、もうありません。歌舞伎町に移転したんですが、昔とは趣が違っているらしくて、一度覗いてみた友人が『もう行かねえ』ときっぱり言い切ってまして、私も彼とほぼ同じ趣味なので行ってません」「おっと、また話の腰を折ってしまったね。悪かった」「いえ、・・・そのお店、今思い出してみると記憶にあることがいくつかありました。これはその内のひとつなんですが、何年か前、そこで飲んでました。連れは日本人1人と米・豪1人ずつ、あと英が2人。何度か来てたら親しくなって・・・」「ほう、それじゃあリョウ君は英語話せるのかい?」「ほんの少しです。ヨーロッパを1人でバイトしながら1年でペラペラになって帰国した先輩がいまして、先輩って言ってもその方は九州じゃなくて浦和のご出身でして、わからない部分はその方が訳してくれたので、ドライブしたり、温泉行ったり・・・でもライブハウスで会うのが一番多かったですね」「あの日、何時ものように音楽談義に花を咲かせていたんですが、連中が指さす方を見るとドイツ人が2人、ドイツ語って意味不明でもドイツ語だと見当がつくんですね。その内の一人に呼び止められまして。するとビール瓶片手にしたそいつが言うんです、英語で、「ww2は残念だった。次(ww3だろうね)は頑張ろうな」その声が聞こえたんでしょう、欧米人ってドイツ人を嫌ってるのが多くて、英のTが険しい顔で僕を呼ぶんです。僕は手で『抑えろ』と合図してドイツ野郎に向き直り中指を立てて見せてやりました。しらけた奴を残して席に戻ると、みんなが立ち上がってハイタッチ!米のJなどはニッコリ笑って「リョウちゃん、あれでいい上出来だ!」と言ってくれましたね・・・ドイツ人、たまにとんでもないのがいる、というお話でした」「いやいや、リョウ君の経験は本当に多岐に渡るねえ、どうしてかねえ・・・君にはなにか特別な役目があるんじゃないだろうか?私にはそう思えるんだなあ・・・」先ほどから、車窓を、立ち並ぶビルが占めるようになってきていた。こんばんは。書けるときにはさっと、一気に書き上げる事が出来るのですが・・・(-_-;)
2025.12.04
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小説 「scene clipper」 again 第18話「あの、私の父親の話なんですけど・・・これは短くまとめられると思います・・・東京に着くまでに話し終えるはずです」 「私は、君に任せると言ったはずだね」 「そうでしたね、では・・・父は先の戦争で駆逐艦に乗船していました」 「ほう、海軍さんか・・・どちらへ行かれたのかな」 「はい、南の方でして・・・太平洋に出てしばらくすると赤道を通過して、その際に『赤道を越えた、こんな所まで来たのか』と一時的に戦時であることを忘れて感慨にふけったと話してくれました。その時私も父の思い出に溶け込んだ気分になったことを覚えています。赤道なんて見たこともないのに、父と思い出を共有できたつもりになってしまうなんて可笑しな話ですが」 「思うに・・・」そう言ったあと、青木氏は空間に視線を貼り付けるような眼差しとなり、直ぐに視線をリョウに向けた。 「私が思うに、君はお父さんのことが大好きだった・・・ちがうかな?」 「はい、それは東京にきて初めて認識したのですが。朝方夢を見て目を覚ますと、枕が濡れていて、夢の中の登場人物は毎回、父親だったという、そんな夢を何度か見ました。申し訳ないけど、母の夢は殆ど見てません。母には内緒ですが」 「気持ちは分かるが、夢の中身を選ぶことなんて出来やしないんだから・・・それでも気にしてしまう、優しい人だね君は」 照れ隠しに頭をかいて、先を続けた。 「父は、我々には想像することさえできませんが、米海軍の艦船と激しく、何度も撃ち合って・・・一度なんかは大きな弾丸が頭の直ぐそばを飛び越えて駆逐艦の向こうに落ちて行った。 それは戦友たちから聞かされたことで「ああ、そうだったのか」と・・・自分では何が起きたのか全く分からず、失神していたらしく、気が付いたら、火傷したかのように、こめかみの辺りがヒリヒリしていたそうです」 「うーん!」青木氏がのけぞり、腕を組みながら感嘆の声を上げた。 「それは・・・君のお父さんは、相当運の強い人だったんだなあ!」 「はい、父が言うには『わしだけじゃない、生きて帰った者はみんな何かしら幸運に恵まれていて、奇跡的に生き残った者の話を聞いたり、実際にこの目で見たことも一度や二度じゃない』そう言ってましたね」 「うん、そうだろうな・・・私は戦場は未経験だから分からないが、空襲で難を逃れた人たちの話を聞くと、前日に田舎へ疎開していて助かった。そんな話を聞かされたものだったよ」 「やはり、運不運てあるんですね。私の父は駆逐艦を2隻続けて撃沈されたのですが、2回とも助かりました。で、もう乘る艦船が無くなって、南の島にあった航空基地に配属されたそうです。そこでは米軍の戦闘機がやってきて爆弾を落とす。それで空いた滑走路の穴に土を埋めて自軍の航空機が離着陸できるように整備する任務につきました。そこに米軍機が爆弾を投下して行くのですが、その内みんな慣れてきて、米軍機が爆弾を投下した位置から、風向き等を計算すれば、どの辺に落ちると予測出来ていたそうなのです」 「なるほど、命がけだから学びも早かったのだろうね・・・しかし本当に命がけだな・・・そうやって内地の我々を守ってくれていた・・・どれだけ感謝しようと足りはしない」 「ある日、また米軍機の空襲があった時の事、作業中だった父と同じ隊の人達は、直ぐに風の向きを読んで『あっちだ!あのヤシの林の裏に走れ!』と誰かが言い、父を始め全員に異論は無く一斉に走り出しました。けれど何故か父は途中で足がもつれて滑走路上に倒れてしまいました」 マリを入れた全員が前のめりになった!リョウの話す、その先を、多分リョウの父親の身の安否を案じる思いが姿勢に表れたのだろう。 だが、リョウはのどが渇いていた。身近にあったお茶のボトルを取り上げて一口飲む。 青木氏はやや気短になっていたのだろう、思わず膝を片手で叩いた。 「その時父は、『しまった!もう間に合わない!』反射的にそういう結論に達して覚悟を決めたそうで、遠い日本で暮らす歳老いた父親の面影が頭に浮かんで思わず『父さん!』と・・・ けれどその瞬間、一陣の強風が父の背後から吹き抜けていったと・・・もうタイミング的に堕ちていて不思議ない爆弾の破裂音がしない?『不発弾?』そう思った次の瞬間、破裂音と共に大地が揺れた!文字通り生きた心地のしない父でしたが、顔を上げる事が出来た・・・『ん?身体が動く、どこも痛くない』前方には爆煙と炎も少し上がっている・・・『これは一体!?・・・もしかして!』そのもしかしては当たっていました。全員の予測では滑走路に落ちたはずの爆弾は、強風にあおられ、逃げ延びたはずの戦友の皆さんがいたヤシの林に落ちてしまったのです・・・ すみません、もう少しで品川駅に着いて解散することなるというのに、暗い話になっちゃいましたね」 「いや、私がお願いしたことだし、それに無事に戦地から日本に帰って来られた方たちは、少なからず強運に恵まれた方たちだ。そしてその方々が帰国後、懸命に働いてこられたから、こうやって日本は復興できたわけだ。そこを思えば、遠い国で散華された方々には申し訳ないが、この国を、そして家族を守ろうと命をかけて戦ってくださった戦友の為にも、懸命に働いてこられたのじゃないかな君のお父さんも・・・それは亡くなった戦友の皆さんも認めて、いや感謝して下さっていると信じるよ私は」 「ありがとうございます。父に聞かせてあげたかった・・・本当にありがとうございました」 リョウの頬に涙が伝わり落ちてゆく、それは品川駅まで止まることはなかった。39日ぶりです。ご用とお急ぎでない方、ちょっとお寄りになられませんか。
2025.10.29
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小説 「scene clipper」 again 第17話 「ちょっと待ってください・・・あれ?あの後どうなったんだっけか?」 腕を掴み、支える気持ちを送ってくれているマリの手に己の手を重ねて無言の礼を言い、青木氏を振り返り言葉をつなぐ。「先ほどの事、親友に打ち明けた時も今のように・・・何と言いますか、意識が一瞬の間飛ぶという感覚になりました。思うに、あまりに不思議な体験なので、私の未熟な能力では判断が危ういから受け入れがたく、維持するのにも骨が折れるということなのだと思います。あ、あの後ですが、本堂での読経が終わると、全て元通りになりました」「ほう、そうか・・・先ずは君に害がなかったようで一安心」「有難う御座います。・・・ですが、私の動揺と知人のそれとが、著しく重いと見て取れたのでしょう、知人の妹さんが」「二人とも、なんだかボーっとして・・・そんなんじゃ帰り道車の運転、危なくて心配だわ・・・いいわ、私がお坊様に診ていただくようにお願いするから、いらっしゃいな」 「私が訳もわからず、きょとんとしているのを見て、知人が教えてくれました」「あいつ、さっきは取り乱していたけれど、ああ見えて妙に腹の座ったところもあるんだ。お坊様というのは誰あろう、さっきの読経の第一声を調声(ちょうしょう)発音(はっとん)したご本人でね、このあたりでは生き仏のようにあがめられているんだ」「俺たちがそんな人に会わせてもらえるの?」「なんというか・・・あいつはあのお坊様に気に入られてて、『面白いおなごじゃの』とか言っていつでも会ってくれる。だから信者でもないのに今日こうして境内に入り散策まで許可してもらえた、そういう・・・おっと!なんとお連れしたみたいだぞ、あいつ!」 「おお、これは確か、この子の兄さんだったね。・・・ということは、迷える方はあなたかの?」とリョウを認め、自ら歩みよって来た。 リョウの手前、数10センチのところで足を止めてじっとリョウの目を覗く「不安で一杯、じゃな。驚くほど素直だから見やすい」「・・・・・」「その緊張をもたらした原因は、先ほどその目で見た世間に稀な光景じゃろう・・・心配は無用。あなたは狂ってはいない。正常だ。自分の目を信じなされるがよい。ちと多用でな、これで失礼する」「あ、ありがとうございました」するとそのお坊様は振り返られて「いつでも訪ねておいでなさい。話すことがありそうだ。わしは川合兼道(かわいけんどう)という。あなたの名は?」「はい、小林 了と申します」「記憶しました。何時にてもお訪ねあれ」 「そう言うと、静かに緩やかな小川の流れのようにすいすいと歩いて行かれました」 青木氏は腕を組み、さも愉快そうに笑って言った。「うんうん、不思議だが君ならありそうな出会いじゃないか、実に愉快だ」傍らでは、マリも嬉しそうに青木氏を見て頷いている。 いつもお立ち寄りいただき、有難うございます。
2025.09.20
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小説「ゲノムと体験が織りなす記憶」 第 16 話ではなくて、今回から勝手ながら前のタイトルに戻します。そして文中でも触れていますが、あまり前後を考えないで書きます。言うならば「ショート・ショート」というあの形式に近くなるかと・・・なので「以前に読んだ気がする」こともあり得ますのでその辺をどうぞお汲み取り下さい。 小説 「scene clipper」 again 第16話 リョウは意を決したように、と言えば多少大げさに聞こえるが、性格的に彼は目上の人、特に尊敬する人物に対して慎重になる傾向がある。 「青木さん、ここから東京まで、あまり時間がありませんし、お考えのようにこれから直接お会いする機会は限られてくると思いますので、順番や内容を検討することを避けて思い出したままに僕の体験したことをお話しさせていただこうかと考えますが如何でしょう」青木氏はリョウの予想通り頷いた。「それで結構です。元々私の方がお願いしたこと。君に任せますよ」「ありがとうございます。口幅ったい言い方で恐縮ですが、私の体験は、普通の方々の一般的な常識では測れない場合を含みますので、その点ご了承ください」「君に普通ではない何かを感じたから、聞かせてもらいたいのです。もしかしたら、途中で口をはさむ事が有るかもしれないが、それ以外に君を迷わせるつもりはない。どうか思いのままに語り聞かせて欲しい」リョウは青木氏の誠意ある申し出に感謝して頭を下げた。 「それではお言葉に甘えて・・・最初に思い出したことから・・・」(いきなりこの話か・・・でもあれこれ考えている時間はない・・・) 「いきなりですが、あるお寺の、あれは新築落慶法要にお邪魔した時のことです。そのころ交流のあった知人に誘われて関東の西のはずれの方にあるお寺さんに出掛けました。法要が始まる前に境内の中とか裏手の庭、これは立派で、庭園と呼べる類いの様相でして、まだ木の香が匂う本堂や鐘楼、一切経堂を拝見して裏庭に回りますと、細長い池がありました。そこには立派な鯉がゆらゆらとゆっくり泳いでいました。少しの間眺めていますと、木版の乾いた音が聞こえてきました。そばに今日この法要に誘ってくれた知人とその妹さんがいましたが、知人曰く「あれは相当に硬い木を長く寝かせて作ったのだろうな。何とも言えない響きがあるね」私も同意して聴いてましたら、今度は本堂内部から鐘の音がしました。余韻は長く続きそう・・・そう感じた次の瞬間にそれは起こったのです。このままだとその内降り出すかもしれないと思うほどの雲が低く垂れ込んでいたのですが、本堂の大屋根の上空を覆う雲にポッカリと孔が空いて尚且つ広がって、多分直径で10メートルほどもあったでしょう、そこから陽光がまるでスポットライトのように本堂の大屋根を照らした・・・あまりの光景に声も出せずにいるところへ、今度は何処からともなく20~30羽の鳩が飛来し本堂の大屋根の陽光が照らしだしたところへ静かに舞い降りてきて停まったではありませんか、ぼくらは驚くというか言葉を失って互いの顔を見合って「何だこれは!」と、彼の妹さんは声も出せずにいるのがわかりました」そこまで一気に話してリョウはつばを飲み込んでしまった。「それは一体・・・」青木さんだけでなく、ケンさんもそして隣で聞いていたマリも信じられない、という顔をしているが無理もない。 「俄かには信じがたいですよね、われわれ当事者でさえ・・・半信半疑、いや殆ど狐に騙されたとしか・・・しかし、更に驚いたのは、あろうことか見渡してみると、その光景に肝を飛ばしているのは我々のみの様子!中に入れなかった、一般の参詣者は我々3名が見るその光景に全く気づいてないらしい。「ご住職のお経声は相変わらず素晴らしいわね」とか「いや、立派に新築成って私らも鼻が高いよ」などと呑気に談笑しているではありませんか!そのことに更に驚愕した私と知人はまたも顔を見合わせて「いったいこれはどうなって・・・」知人は我慢できなくなったのか、周囲の人達に「あんたら、あの光景が見えてないのか?」と詰問し始めたのです。その都度返ってくる返事は「君は一体なにを言ってるんだ?しっかりしなさい」ついに諦めた知人は妹さんの様子がおかしいのに気づいた。「○○美、どうかしたのか?何を言ってる?」すると妹さんの悲鳴のような声が我々二人の耳を打った。「あれは、おにいちゃん、映画の撮影かなにかでしょ?そうよね」「○○美、なにを言ってる!お前にも見えているんだろ?」「何が?・・・」私は次第に気持ち悪くなってきました。知人の表情にもそれが伺えたように記憶しています。「おにいちゃん、あれ見て!すごいよ・・・」「ん?何のことだ?」「あれよ、池の鯉。さっきまであちこちで好きに泳いでいたのに今は・・一か所に集まって本堂の方に頭を向けてゆらゆら揺らめきながもじっと大人しくしている・・・不思議ねえ」知人と私は妹さんの言われることが本当だと知って、更に驚いたものでした。他の光景は激しく首を振って否定していながら、鯉のことは見たままに認識している。「もう気味が悪いの一言につきる出来事でしたね」「確かに薄気味悪い話だね・・・ところでその後どうなったんだろう、それらの現象は?」確かに・・・周りの視線もケンさん、マリ、若い衆もみんな同じ気持ちでいるようである。「・・・ちょっと待ってください・・・あれ?あの後どうなったんだ?」マリがリョウの腕を掴んで「しっかり・・・して」とつぶやいた。長い間、ご無沙汰しておりました。久々の更新、お時間あればお読みいただけると幸いです。
2025.09.01
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今日明日には書けそうな気がしてきました・・・。
2025.09.01
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皆さんご存知のことと思いますが、ただのデブさんが、お亡くなりになりました。ショックです。思いがけないほどのショックを受けています。ただのさん、良くというか毎日、このブログを訪れて頂いてました。ご存知のようにわたしのブログは不定期もいいところ。それでもただのさんは、毎日訪問コメント頂き、励みにさせていただいておりました。わたしの返信コメントが苛立って、礼を欠いてしまって後悔した日もありました。それでもあの方は訪れて下さいました。何とも優しく誠実で・・・懐の大きな方でした。なかなかあのような人はいません。寂しいです。悲しいです。これほど大きな喪失感を受けるとは思いもよらないこと・・・。今すぐにでも書き始めてただのさんに喜んで貰いたいのに・・・。時間がかかっても、必ず再開します。ただのさんの優しさに報いる為にも。
2025.08.18
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小説「ゲノムと体験が織りなす記憶」 第 15 話皆さん、こんばんは。突然「書け」という言葉が頭に浮かんできました。まるで命令するような意思を感じて・・・では書き始めます。 小説「ゲノムと体験が織りなす記憶」 第 15 話 そろそろ、全員が食べ終えたようだ。「では、ぼちぼち話を再開したいと思います」「すまん、ケンたちがまだなんだよ。私たちの弁当の空き箱を処分してくれているのでね、もう少し待ってもらえないだろうか」「分かりました・・・噂をすれば、戻ってきましたね。彼らが席に着いたら始めましょうか」「はい、そうしてください」 マリは当然俺の隣りにいて、ケンさんをはじめ若い人達も席に着くとリョウの方を注視している。自分たちの尊敬する長が聴きたがる話をする者だから、それだけだろうか・・・。 「私は二十歳で努めていた仕事を辞めて東京に来たのですが、動機は、夢の中で「東京へ行け」という命令を受けたからです。頭はそれほど狂っているとは思えないのですが、その命令には逆らえない力が込められていまして・・・恐らくは、我が家の初代「小林又右衛門」ではないかと・・・確証はありません。直感でした。上京してみて少しづつ確信に変わっていくのですが・・・何しろ高一の時以来の上京でしたが、今度は何かが違っていました。何だか懐かしいのですよ。たった二度目の事なのに、すごく懐かしい。私だけじゃなく、似たような経験をお持ちの方がいらっしゃると思うのですが?」 「うん、それは私にもある。例えば戦後九州を訪れた際に強くそれを感じたのだよ」俺はうなづいた。(青木さんは叔父との出会いの時を、思い出されているのだろう) 「それからの事をお話しする前に、触れておこうと思うのですが、私の所は本家と二軒の分家が「小林」の名前を京都のある方から頂きました。あと数軒あった分家は元の名前を名乗っています。我々3軒に名前を下さったのはある公家の血を引いたお方で、その方がある時、五代将軍徳川綱吉公に招待されまして江戸城に参りました。その時私どもの初代がそのお方の警護役として京都から江戸城までの往き帰り、片時もそばを離れることなく主人を守り通しました。因みに初代は大地主の長男でしたが剣術が好きで代を次男に譲り大阪で剣術道場に通い、免許皆伝の腕前だったとか、それで雇われたのでしょう。マリが差し出したペットボトルのお茶を一口飲んで話を続ける。「これは私も以前は知らなかったのですが、綱吉公は生類憐みの令だけでなく、儒学も奨励していて、ご自分で大名や公家などを集めて講義のようなこともされていたとか、それでうちの初代がお仕えしていた公家さんにもお声がかかったのだろうということでした」「それでは、君のご先祖は歴史上の人物をその目で見たわけだ。私の先祖は徳川譜代の旗本だったから、何かしら縁を感じるねぇ」リョウは嬉し気に頷いた。自分でも何かしらの縁を青木氏に感じていたからだ。いつも有難うございます。今日はここまでです。また書きますね。
2025.07.15
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前略、暑中お見舞い申し上げます。毎日、暑いですねぇ。皆さま、如何お過ごしでしょうか。ただでさえ滞りがちなわたくし目の小説ですが、この暑さでは尚更なのでございます。久しぶりの夏休みということで・・・。今しばらくの遅滞が濃厚でございます。
2025.07.07
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小説「ゲノムと体験が織りなす記憶」 第 14 話用を終えて先ず青木氏が、続いてリョウが戻ってきた。「さて、では続けますね」「うむ、お願いする」 周りを、特にマリを見ると彼女も楽しみにしてくれていたのか、リョウが口を開くのを待ち構えている様子だ。「今度の歴史上の人物は、江戸時代末期とグッと近代になりますがネームバリューは引けを取りません。勝海舟と坂本龍馬が主体となるのですから。幕末の日本の国事における課題を議論することを朝廷より認められた「参預会議」なるものが設けられましたが、そこへ長崎にいたフランス軍艦が下関を砲撃するらしいという情報が入り、徳川慶喜公がこれを阻止するために勝海舟を差し向けた。勝海舟と坂本龍馬とその一行は幕府の軍艦長崎丸にて神戸操練所を出港、翌日、豊後の佐賀関に着きました」「豊後とは今の大分県だね」「はい、私たちは今朝がたまで当時の豊後の国にいました」そこで青木氏が大きく頷いた。「陸路なら14~15日を要すのに翌日に着いたことを一行は驚き海路の認識を新たにしたのですが、そこで彼らは私の故郷に形ある足跡を残すことになりました」「形ある?」そう言うと青木氏は身を乗り出した。 「はい、私の故郷で船を降りたのはその後を、陸路でということですが、あの当時は未だ、ちゃんとした宿の無い漁村でしたからあるお寺に草鞋を脱いだわけです。そして、お寺を辞する際にお礼にとお布施を施した。そのお寺では・・・もうその頃には勝海舟、坂本龍馬の名は全国に流布していたのでしょうか? ま、とにかくお寺さんは記念にとそのお布施で法衣(僧侶が身に纏うもの)を新調した。それは代々お寺の宝物となり・・・なりますよね」「そりゃそうだろう!日本の大転換期に多大な貢献を成し遂げた、偉人のお二方なのだよ。それは立派な宝物ですよ・・・ん?まさか君は・・・」「はい、拝見させていただきました。テレビでも取り上げられたことがあるくらい有名な話です、これは」「うーん、歴史好きな私には、垂涎ものの物事を君はいくつも見聞きしているんだねえ」 軽くため息をついた青木氏は座席の背面に上体をあずけると、首を回し窓の外を見ながら、「ここはどの辺だろう?」と言い、ケンさんが「もうすぐ岡山です」「もう、そんなに進んだのか?休憩してる時間はありそうかな?リョウ君」「もうそろそろお昼ですから、腹ごしらえはしておきたいですね。なあに、私の話はあと一つ二つで終わりますから大丈夫、間に合うと思いますよ」「そうか・・なら、弁当にするか・・・ケン」「はい、只今」「私たちのも今用意しますから」そう言ってマリは立ち上がった。何時も応援、ありがとうございます。
2025.06.02
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小説「ゲノムと体験が織りなす記憶」 第 13 話「会長から仰って頂いたので、確認させて頂きます。さきほど、なるべく早いうちにと申しましたが、仕事を優先させて頂きますね」「勿論です、すべて君に任せます」ケンさんのリョウを見る目がいつもと違う光を帯びているあれは、嫉妬のようなもの?何しろケンさんは青木氏を親のように思っているから・・。 「それでは、次を紹介させていただきます。これはぐっと若い年代になりますが、私の町には平家の末裔が住む地域があります」これに、再び青木氏が身を乗り出した。「君の話は・・・何とも私が興味を持つ事ばかりだが、大分県に平家の末裔がいたという、その手の話は聞いたことが無い。根拠を知りたい・・・すまない、話を途中で遮ってしまったね。どうか続けてください」「はい、青木さんもご存じの通り、あの壇ノ浦の戦いで破れた平家の末裔の人達です。実は私も中学生の頃はまだ知らなかったのです。思うにやはり皆さん質素に暮らしておられたから町の人達もそっとしていたのでしょう。あの方々に限らず、私の町には瀬戸内海の海賊が時の勢力者によって解散の憂き目にあい、瀬戸内海内外の場所に散らばって密かに住み暮らしていてその人たちが漁師となって住み着いたとされていますが、彼らの事も決して外部に漏らさず・・・。なのに今私がその事に触れるのは、今ではもうあの地域に溶け込んでしまっていて詮索の方法もないといいますか、元々誰も噂にさえしてこなかった。そういう性分と言いますか、私の町の者は、自分たちの町の気風や決まりを守り、溶け込み、穏やかに暮らしていれば、疎外しないという、そういう優しさを持っていたようです」 「そうだろうね。それだからこそ平家の人達も腰を落ち着ける気になられたのだろう・・・」「はい、それでもあの人たち・・・後に僕と親しくなった彼もその地域で生まれ育ったのですが、海賊の残党の人達は土地の者と同じ平地で暮らしましたが、平家の人達はちょっと高い山の上で暮らしてましたね。多分その容姿が我々と違っていて目立つことを危惧したのでしょうけれど」「容姿が違うとは?」「はい、彼らは一様に色白で面長、一重瞼でおまけに眉が薄いのです。私を見ればお分かりのように、九州の人は色黒ではっきりした顔立ちが特徴的ですから、かれらはどうしても目立ちます。今はもうそのくらいのことで偏見を持つ人は、私の町でなくともどこにもいないでしょうけれど、あの時代、あの容姿で歩いていれば、源氏の流れを汲む者にとっては放っておけない存在でしたでしょうから・・・しかし、遺伝子というんですか、何百年も九州で暮らしていても、お公家さんのような容姿が変わらないというのは、原因は大体予想できますが・・・。初めて彼の家に招待されて、ご家族やお隣さんとお会いした時には、失礼とは思いながらまじまじと顔の違いに見入ってしまいましたね・・・」青木氏のみならず、マリまで横に座っていて俺の顔を見ながら話しに聞き入っている。青木氏は一瞬言いよどんだ様子を見せたが、口を開いた。「それは、恐らくは長い間、一族以外の人と婚姻関係を結ばなかったからかも知れないね」「そうなのでしょうね。しかし、あの容姿の人達の中にいると、何かこう・・・時代を間違えているような、というか・・・まるで大河ドラマの中に身を置いたような、そんな風に錯覚したのを覚えています」「ははは、大河ドラマは良かったなあ、でも私も歴史に興味あるから、ちょっと体験してみたかったね、うん・・・」 「歴史に興味のある人ならそう思うかも知れませんね。まだ他にも歴史上の人物の話がありますが、失礼してお手洗いに行ってきますね」「なんだ、君もか?私も行くよ」読んでいただき有難う御座います。
2025.05.10
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これは渋谷区笹塚にあった「福寿」先日上京した折に、友達と思い出話に花を咲かせた、懐かしい中華そば屋さんです。今は、もう存在しませんが、大将の人柄の良さと透き通った鶏がらスープの美味しい中華そば♪が気に入って足繫く通っていました。追記 中野区出身の友達から情報がありました。「福寿」には、あの渡辺謙さん、タモリさんも来店されていたそうです。♪私は残念ながら一度もお見掛けしていません。小説「ゲノムと体験が織りなす記憶」 第 12 話つい先程まで、どんなふうに話を始めようか?考えていた・・・良く思われたい気持ちが心の中を占めようとしていた。悪い癖だ。よし、知っていること、それが真実かどうかはさておいて、知っていることをありのままに伝えれば、それでいいのだから。それより、目の前でじっと待ってくれている青木氏をこれ以上待たせてはいけない。 「はい、それではお話をさせて頂きます。実は、私が生まれたあの町には恐ろしく古い歴史を持つ神社がありまして。なんと創建は紀元前667年なんです・・・」「君、それは!それが本当ならば日本の始まりである皇紀よりも古いことになるぞ!」「はい、ご存知のように、日本の歴史は神武天皇が即位された年で、西暦では紀元前660年ですから、かの神社の創建は皇紀より7年も古い、そういう事になります。神社の制札に記された縁起によれば、紀元前667年に即位前の神武天皇が海路豊予海峡に差し掛かったおり、急に船が動かなくなり難儀していたところ、地元の海女姉妹が海底深く潜り、海を治める大蛸が持っていた神剣を取り上げたところ、海が静まり。海女姉妹は剣を神武天皇に捧げた。その剣を神武天皇が御神体として祓戸(はらへど)の神を奉り、建国を請願した。とされています」「・・・何とも、それは・・・是非ともその神社を訪れてみたい。何時とは言わないが、リョウくん、また案内を頼みたい・・・君の都合のつく時で構わないから・・・そんなことなら今回・・・実に惜しい事をした」(会長はそれほど歴史に強い関心をもたれていたのか・・・。俺こそ知ってさえいたなら・・・)「分かりました。いずれなるべく早いうちに実現させましょうか」「どうか私の我儘を許して欲しい」そう言って青木氏は深々と頭を下げたのだった。 いつも有難うございます。
2025.04.29
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皆さんこんばんは。突然ですが、東京に行ってきました。今、ブログの中で東京で知り合った人たち、その中で、青木氏のこと、ケンさんのこと、などについてお話を展開していますが、その方々とは違う意味でそれはそれは、一言で言い表せないほどお世話になった方々、それはご一家ですが、再会の願いも果たせないまま、その おじさん、おばさんが相次いでお亡くなりになりました。何ともなんとも、悲しくて、でも、いろんな障害があって葬式に参列できずにいました。まるで砂を嚙むような思いとはあの日々の私の無念さ、あのことでしょう。来る日も来る日も、心に雲がかかっているようでやり切れない思いの毎日でしたが、ついに!やっと念願だったお仏壇と遺影に手を合わせること事が叶う、その日がやって来たのです!皆さんにお知らせもせず、申し訳ないことでしたが、全ての障害が取り払われたと知った私ははやる気持ちを抑えきれず、懐かしい東京へ向けて旅立ちました。懐かしいお二人の遺影に手を合わせると、あの頃のことが走馬灯のように蘇ります。夢と仕事に全力で走っていた私は、帰省もままならずにいた。それをお二人は不憫に思っていてくれた。そう思わずにはいられない日々でした。頻繫に食事に招待して下さり、特におじさんは忙しい中、一流の腕をふるってご馳走を食べさせて下さいました。なにしろおじさんは、あの上皇上皇后陛下のご成婚のみぎりに料理人の一人として腕を振るわれたほどの一流の料理人です。作って下さった料理の美味い事と言ったらとても口に出して言い表せないほどの美味しい料理でございました。その御子息である御兄弟に歓迎されました。あれほど喜んでもらえるとは思いもせず、熱いものがこみ上げてきて、どうにも人前に出れないようにくしゃくしゃの顔をさらけ出す始末・・・。懐かしい東京、懐かしい人たちとの温かい交流の数々を思い出し、語り合う私と記念に写真を撮ろうと何度も言い、その度に忘れて昔話に夢中となり、とうとう一枚の写真も撮れないまま・・・。それでも時間は容赦なく過ぎてゆきました。帰りは長男のS君が、バス停まで送ってくれて、自分が濡れるのに構わず私に自分の傘を差し掛けるのです。断っても断っても・・・「そんなに優しくしてくれると帰りたくなくなるじゃない!」そう言っても聞きません。優しいけれど意地の強いところはおじさんに似てる・・・。弟のH君は池袋の街中で人目も憚らず、ハグしてくれた。「会いたかったよー」と感極まった声でね、こっちも抑えていた感情が解き放たれてしまう。なんて温かい人たち!!ご両親と同じ血が流れていることを強く感じた。「来てくれてありがとう」と何度も言ってくれたけれど、それは俺のセリフ。あんなに歓迎してくれて・・・ありがとう、本当にありがとうございました!!!また会いにゆくよそれまで元気にしててねー!
2025.04.17
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小説「ゲノムと体験が織りなす記憶」 第 11 話青木氏との話を進める上で、皆さんのお耳に入れておきたいことがあります。皆さんは「神通力」という言葉を耳にした事がありますか?少しだけお話しましょう。 「神通力」(時間の部)1秒を広げて、無限に広げて、その中を出入りできたなら、過去と未来を繋げて時の輪を作り、自在に往来する。未来を知ろうとする知恵の光は時計回りに進み、過去を知ろうとする知恵の光は反時計回りに進む。時計回りに進む光の意思を「先導智」(せんどうち)と言い、反時計回りに進む光の意思を「過導智」(かどうち)と言う。これらの意思を自在に使える力は「神通力」の一つと言える。 「過去」に関して、人は行く事は叶わなくとも、歴史的事実を書物で識り、今に残る建造物や旧跡を訪ねて「ここであんな事があったのか!」と往時の出来事に思いをはせて登場人物たちを偲ぶことさえ可能ですね。その魅力は、往時の出来事を変えることが出来ないからだと思うのです。勿論、新しい資料が発見されて多少の変化が生じることもあり得るが、そのことで過去を知りたいという欲求が損なわれることはなく、むしろ反対に「だから歴史は面白い」となるのでは? それに対して「未来」はどうでしょうか?「過去」と違い、遺跡も書物も当然、存在しません。そうなると、先を想像することになる。まことに人という生き物は、なんと「知りたがり」なのでしょう。ここまでの話の最中に、皆さんの頭には既に「SF物の小説や映画」が登場している事でしょうね。そして、ここで絶対に欠かせない「現在」が浮上してきますよ、うん、それはもう絶対に外せない。我々が生きている「今」だから?それは勿論そうなんですが、「現在」は「過去」と「未来」の「出発点」であると同時に「回帰点」でもあるからでしょう。 面白いですねえ、「過去」も「未来」も両方とも行ってみたい。けれど帰って来れないと不安? 否、「現在」がないと「過去」にも「未来」にも行けないだけでなく、帰って来れないと「困る」わけですね。人間の「知りたい欲求」が詰め込まれたSF物の映画、ウケるはずですね。 それでは、次回は青木氏の「さて、君の故郷はどんな街なのかな?先ずそれを聞かせてくれるかい」に応える僕の話から始めることにします。いつも有難うございます。
2025.03.28
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小説「ゲノムと体験が織りなす記憶」 第 10 話翌日の朝、この日の朝食は賑やかだった。母と長兄夫妻、それに俺とマリの5人だ。兄は平日なのに有給休暇を取ってくれた。「また暫く会えないからな」そう言ってくれた。いつもながら優しい兄である。いつもなら雄弁過ぎるほどの母は黙っている。(勘弁してくれよお袋・・・無言なのがプレッシャーかけてるから・・・) やがて「時間だから、そろそろ行くよ」そう言って立ち上がりマリを促して玄関に向かう重い腰をあげて母がついてくる。いつもこの空気に耐えるのが辛い・・帰郷に二の足を踏む理由なんだと思う。今回は叔父貴の墓参と青木氏の事もあって、地元の友人たちにも知らせていない。そして、母に「行ってくる、元気でね」と言う時だけは精一杯の笑みを浮かべてみせる。母は頷くことしかできないでいる。(勘弁してくれよ、お袋・・・) そばからマリがサングラスを渡してくれた。この時の為に頼んでおいたものだ。「ありがとう・・・」そこからは振り返ることなく歩いた。バスと在来線を乗り継いで鹿児島本線に乗り換える駅に着いた。久しぶりだ。待っていた青木氏、ケンさんの一行と合流して小倉駅に到着。ここから新幹線に乗り換えるわけだ。 合流して真っ先に青木氏に挨拶すると「どうでしたか?お母さんはお元気にしておられた?」「はい、すこぶる元気でして、知り合いの漁師さんに電話して新鮮な刺身をたらふく食べさせてくれました」「そうか、それは何より。親というのは子供が元気でもりもり食べる姿に喜びを感じるようだからね・・・親孝行したことだと思いますよ」「そうだと良いのですが」「そうさ、そうに決まっているよ」 「この車両だね・・じゃあケン、堀田にリョウさんを案内させてあげなさい」「はい、かしこまりました」そうして乗り込んだのはグリーン車!「ケンさん、グリーン車って・・・」「うん、会長がね『自分が頼んで連れてきてもらったから当然だよ』って言われて、ここは素直に応じてくれないか?」「そう・・・か」会長に追いつくと「会・・あ、青木さん、グリーン車を用意して頂いて有難う御座います」「なに、こちらから頼んで墓参させてもらったんだ、このくらい当たり前だよ。それより君さえよければ道中話を聞かせてください。それとマリさん、申し訳ない、東京に戻るとそうそう話をしている機会もなくなるからね。私の勝手を許してくださるかな」「はい、どうぞご遠慮なく、主人も・・あ、あの、この人も会長さんとお話するのを楽しみにしているみたいですから、それより私がこんな直ぐ隣で宜しいんでしょうか?」「はっはっはっ、さっき主人と呼ばれたじゃないですか。奥様が隣に座るのはごく自然なこと、なにも遠慮なさることはない」「そう仰って頂いたなら、お言葉に甘えさせてもらいます」「はい、どうぞどうぞ・・・もしかしたら貴女がまだご存じないこともあるかも知れませんよ」青木氏は、マリの緊張を解きほぐしてやろうという配慮を示してくれた後、リョウに目を向けた。「さて、君の故郷はどんな街なのかな?先ずそれを聞かせてくれるかい」(およそ、人格が形成されていくのは、過去からの遺伝子だけではなくこの世での経験、そして生まれついた環境、それは最も身近な『縁』と言えるだろう。それらが絡み合って人格が形成されていく・・・そのことをこの人は良く分かっているようだな・・・)いつも有難うございます。
2025.03.08
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小説「ゲノムと体験が織りなす記憶」 第 9 話いろんな気持ちが落ち着いて、リョウは右脇を見る。そこには、いつものようにマリが身体を埋め顎をリョウの肩の付け根の上に乗せている。トロンとした目もいつも通り。(三毛猫のミーみたいだな・・・)もう一度、今度は声に出してみる。「三毛猫のミ―みたいだな」 「う、うん?なんか言った?」「ああ、お前がそうやってるのを見ると、昔なじみの三毛猫のミーによく似てる。そう言ったんだ」「え、リョウさんとこ、猫飼ってたの?」「いやいや、自分ちの飼い猫なら『昔なじみ』なんて言わないだろ」「・・それもそうか・・・」「むかし、俺んちの裏手に住んでた杉田さんのとこの飼い猫で三毛猫のミーっていうカワイイけど気の強い猫がいてね・・・そう言えば、気の強いとこもマリに似てたわけだ」「んふ、ツンデレフェチなの、昔っからってわけなんだ」「・・・・・・・・」「はい、続けて・・・」「お、おう・・ミーは他所の飼い猫なのに、冬になると時々俺の部屋にやってきて、布団の中に入って、丁度今のお前さんのように俺の脇の付け根っていうか肩の上に顎を乗せて寝てたんだ」 まじまじとリョウを見つめてマリは言った。「不思議だよねリョウさんって、人だけじゃなく犬や猫にも好かれるんだ。どうしてだろう?」「昨日言ったろう、神社の池に泳ぐ鯉を見て『魚心あれば水心』って、あれだよきっと」「・・・っとそれどんな意味なの?」「なんだよ、意味が分からないから返事しなかったのかよ。俺はまた何か考え事してんのか、そう思って追及しなかったのによ」「ごめん、どうしたんだろ?あの時は、何だか聞くタイミングを失っちゃったみたいになって・・・ごめん教えて」「おう、『魚心あれば水心』ってのは、何でも本来は『魚、心あれば、水、心あり』って言ってて、(魚が水に親しむ心があれば、水もそれに応じる心がある)というふうに、こちらが好意を示せば、相手も自然と好意を持つ。そういう事らしいぞ」マリは普通に目を見張った。「すごい!リョウさん、どこでそんな事を覚えたの?」「うん、高校の時の現国の先生が話題の豊富な人でね、授業中眠くならなかった・・・からかな?」「うーーん、・・・」マリは思わず布団の上で起き上がり、腕を組んでいた。「おい、マリちゃん、お前その恰好、どうかと思うぞ」と指をさすリョウ。「キャッ!」と慌てて布団に潜り込む。「何がキャッ!だよ・・・ほら、そろそろ寝るぞ」「火を付けたのは何処の誰!?」「おやすみ・・・」 更新遅れのブログにようこそおいで下さいました。ありがとうございます。
2025.02.25
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小説「ゲノムと体験が織りなす記憶」 第 8 話「何すか、罰当たりって」リョウはやや鋭く目を光らせながら声の主を凝視して言った。(久しぶりに見せたわね、私でも緊張してしまうオーラを放って・・・)「何って、君はさっきこの人に・・・あれ!?君はもしかして山本君じゃ・・・」「そういうあんたは、神山先輩っすね」「ああ、久しぶり・・・帰っていたのかい?」「そんなことより、何すか罰当たりって?」「あ、いや、君だとは思わなくて、つい・・・」「俺だと知ってたら言わなかったってわけ?」「あ、いや、余計な事言ったって今反省してる・・・」(あ、オーラ消した・・・まあ、この人相手にオーラ放っててもねえ・・・そんな相手じゃないってあたしでも分かるし) 「じゃあ、先輩、俺行きますよ。お元気で」「ああ、君も元気で!じゃあ、これで失礼するよ」それには返事も無しで振り向き、背中を見せたまま神山に手を振り、マリに声を掛ける。 「マリ、お待たせ、行こうや」すぐにリョウの横に並び、くっついてから小声でささやくマリ。「あんたがビビらせるほどの人じゃないでしょうに」「いやいや、ああゆう手合いは、たまにビビらせてやらないと、勝手に自分を過大評価しちまうから・・・いわば予防接種ってとこかな」「ふふ、じゃあ免疫が残っているうちにまた帰ってきてあげないと」「それも、面倒な話だな・・・」 そうこうしてるうちに、山本の家が二人の視界に入って来た。兄夫婦にもマリを引き合わせ、お袋さんの手料理に舌鼓を打ったあと、二人で風呂に入るよう促されると、マリは「あたし、きょうはお母さんの背中を流させてもらうわ」「・・・マリ、ありがとう、優しくしてくれて。そのお礼に今夜は優しくしてやっからな」「ば、ばか言って、お兄さんたちがいるんでしょ?」「兄貴たちは3階の部屋で寝るってよ。だから大丈夫だって」「そんなこと言っても・・・」「だから、お前が声を出さなきゃいいんだよ」「・・・・・・」マリは両手で頬を挟み下を向いた。で、直ぐに上目使いにリョウを睨みつけた。いつも有難うございます。
2025.02.08
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小説「ゲノムと体験が織りなす記憶」 第 7 話「さてと、鳥居をくぐるよ」リョウはそう言って立ち止まった。「わたしを試しているのね。見てらっしゃい」マリはリョウを横目で軽くひとにらみすると鳥居の前で立ち止まり一礼して参道へ一歩足を踏み出した。真ん中を避けて端を・・・「マリ、分かってるねえ、感心感心」「ちゃんと作法どおりでしょ」「ああ、ちゃんとしてる。ところで、この神社は古いって言ったよな。だからなのか、ここに祀られている御祭神は『神話』に登場する神々だって聞いたことがある」「それはこの看板?ここに書いてあるんでしょ」「それはね『制札』(せいさつ)って言うんだよ。どれどれ、昔見たことあるんだけど・・あった。まず名前は、早吸日女神社(はやすいひめじんじゃ)な。主祭神は、八十枉津日神(やそまがつひのかみ)、大直日神(おおなほびのかみ)、住吉三神(底筒男神(そこつつおのかみ)、中筒男神(なかつつおのかみ)、表筒男神(うはつつのおのかみ)、大地海原諸神(おほとこうなはらもろもろのかみ)をお祀り申し上げている。 うん?住吉三神とあるが、名前は四つ?良くは分からんが、なんせ紀元前667年創建だから由緒あるんだろうな」「確かに由緒ありそうね。ところで作法の事だけど、我が家ではね、おじいちゃんの家は大昔から仏教一筋だったんだけど、曾祖父が、ある神社のお嬢様を見初めてお嫁さんに来てもらってからは神社の方も大事にするようになったの。だから私の作法は一応正しいはず」 「えー!・・・」「どうしたのよ、素っ頓狂な声出して!」「だってよ、あまりにも似てるからさあ、俺んちと」「どういうふうに?」「だから、俺んところも約800年前、近隣の砂浜に一遍上人ご一行が上陸、村の人達とこれを歓迎した時から念仏を称えるようになったんだけど、ちょっと一息入れさせてくれ・・・」 マリの話には流石に驚いて、手水舎で手を清めてから飲料用の湧き水を飲んで息を整えた。「それ以来ずっと仏教一筋だった。(こでマリを見た。マリも驚いたように目を見張り、頷いた )けど、俺んとこも、そっちと同じように俺の母方の曾祖父にあたる爺さんが、ある神社の娘と恋に落ちて嫁にもらったっていう、それを知って以前俺、確かめたんだけど、その神社の若い宮司さん、俺よか若干年上だったが『ああ、宮〇さんの御親戚の方ですね。祖父から聞いていました。当時としては非常に珍しいことでしたでしょうから、かなり長い間、噂になっていたようですね』だと・・・」「えー!ちょっと、これって激レアな話じゃない?」「ああ、間違いないな」すると、俺を振り返ったマリが、何だか嬉しそうにしてて・・・「あたしたち、やっぱり縁があったってことじゃない?」「・・・・・さて作法通りお参りしようか」「あれ、無視なの・・・」「いやいや、俺だってそう感じてたさ」「ふん、怪しいもんだわ」「まあ、そう言うなよ」と、リョウがマリの肩に手を置き異常接近を試みようとした、その時!せきばらいする声が人気のない境内に響いた。声のした方を見ると、知った顔だ!急いでお参りを済ませて帰ろうとした、またもその時!「この罰当たり者が・・・」やっぱり、あの先輩の声だった。いつも有難うございます。
2025.01.21
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今日から、時々カテゴリーをメルヘンに入れ替えてみます。第1話は、アオサギくん です。(^^♪アオサギくん僕の住む町に、小さな池がある。どこかへ出かけた帰り道、ちょっと遠回りになるけどその池を半周して帰るその道を車で帰る。今日も池の周りに差し掛かるとスピードをグッと落とす。 (あ、いた!)車を止めて窓を開けると話しかける。「おおい、アオサギくん。久しぶりだねー」「あ、おじさん。久しぶりですね」「そうだよねえ、元気にしてた?」「はい、元気でしたよ」「ふーん、元気にしてたのに随分と久しぶりじゃないか、何処か遠くに行ってたのかい?」「いいえ、あの山の中のいつもの所にいましたよ」「えー、なら何で姿を見せてくれなかったんだい、最近はカラスくんや鴨くんたちばかりでアオサギくんの姿が見えなかったから心配してたんだよ」「おじさん心配していてくれたんですかあ、嬉しいです。実は僕、ジャンケンに負けっぱなしだったんです」「ジャンケン?」「はい、この池は小魚が沢山いるので皆ここに来たがるんです。だから公平にするためにジャンケンで一番勝った者がここに来ることになっているんですが、ここのところ僕は運が悪くてずっと負けてばかりだったんです」「へえ、そうだったのか、それで最近はカラスくんや鴨くんばかりやって来てたんだね」「はい、そうなんです」 アオサギくんは少しだけ恥ずかしそうに羽根の先で頭をかいた。「そうかー、じゃあ今日は沢山小魚を食べてお腹が一杯なんだね」「ところが今日は小魚があまりいなくて・・昨日大雨が降ったせいでしょうか?」「ああ、なるほど。せっかくジャンケンに勝ったっていうのに、残念なことだねえ」「はい、もうお腹が空いて目が回りそうです」「それは可哀そうに・・・じゃあオジサンの家に来てご飯を食べるかい?」「え、本当ですか!」「ああ、でも生の魚は無いから・・・メザシでいいかい?」「はい、ぼくメザシ大好物です!」「そうか・・・でもタダでってのもあれだから、なんか芸を見せてもらおうかその方がアオサギくんも遠慮なく食べれるだろ?」「ええ!ぼくが芸をするんですかー」「いやならいいんだよ、鴨くんなら直ぐに芸を見せてくれるのに」「ええー、あの鴨くんが芸を・・・どんな芸をするんです?」「彼はね・・・えーっと、そうだ彼は人間が酔っぱらったときの歩き方、千鳥足の真似が上手だね」「そ、そうなんですか、意外だなあ」「どうする?やるの、やらないの、どっち」「や、やります。なんでもいいですか?」「いいよ、何でも、僕は親切なおじさんだからね」「・・・・・わかりました。じゃあ『鶴の恩返し』をやります」「え、『鶴の恩返し』!?アオサギくんが?」「だめですか?」「そうじゃなくて、笑えるだろアオサギくんが『鶴の恩返し』だなんて!ああ、苦しい!!」 そう言ってオジサンは腹を抱えて笑い転げました。「車の中で、よくそんなに笑い転げていられますよね・・・」「あ、ごめんごめん、悪気はないんだよ、でも君の発想が、プップフフー!」ただでさえ鋭いアオサギくんの目が怒りに燃えた。 「あ、すまんすまん、じゃあ行こうか」「あ、オジサン待ってください」走り始めた車を追ってアオサギくんは大慌てで池から飛び出た! おじさんの家は直ぐ近くです 「はいはいアオサギくん、入って、遠慮しなくていいから」「はい、じゃあお邪魔します」「うん、いいよ」とオジサンは居間の端に座る「はい、どうぞ見せて見せて」「じゃあ、やります」オジサンの拍手が家中に鳴り響く中アオサギくんの演技が始まった。アオサギくんは、首をうんと細く長く伸ばして見せた。「これが鶴くんの擬態です」「ほう、なかなかじゃないか、それで『恩返し』は?「これからやりますから、良く見ててください」 そう言うとアオサギくんはその場でぴょんと飛んでバク転して奇麗に着地した。アオサギくんは得意げにオジサンを見た。オジサンは精一杯の拍手をしてアオサギくんを褒めたたえた。「いや、見事!・・・まあ、正式に言えば、『鶴の宙返り』だけどな、上手だったから良しとしよう」そう言うとオジサンはメザシを沢山レンチンしてアオサギくんに食べさせてくれたとさ。 おしまい。初のメルヘン、どうでしたか?(^^♪
2025.01.16
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小説「ゲノムと体験が織りなす記憶」 第 5 話「俺は、お寺とか神社とかに格式とか関係ないと思ってる・・けど歴史は好きなんだ。ロマンがあるよ・・君はどう?」「・・・今一つピンと来ないけど・・・リョウさんが歴史に感じるロマンってどういう・・・」「良く聴いてくれたねえ・・・未来は変えられるけど過去は変えられない・・・動かせない時間って好きなんだ。これから作っていく未来は輝いていて素敵だけど・・・そうだな・・・今思い出したんだけど、17歳の夏の海だった。夕方になって人がいなくなったからクラスの連中とみんなでね、すっ裸になって泳いでた・・・あの夏の日」「えー!何も身につけずに!!泳いでたの!?」「ああ、あん時は小学校からの仲間たちだけだったからかな、恥ずかしくは無かったなあ・・・そうそう、ある時ね、海岸のすぐ上の道にバス停があるんだけど、黄色い声がして、見上げたら、なんと!停車したバスの中から女の子たちがこっちを見下ろしてキャアキャア騒いでてね、あわてて海ん中に潜って隠れたんだけど・・・」「うひゃー!、それで!」「で、良く考えたら、潜る時って頭からだから、一瞬だけど下半身丸見えになってたのに気付いてさあ・・・あれは参ったなあ」「・・・なんか想像してしまったわー!」「おいおい、勘弁してくれよー」 「あれも変えられたなら、そうするけど、無理だろ・・・過ぎ去った出来事は動かせないからこそ、かえって新鮮に感じるんだと思う」マリが二度ばかり頷いて「わかるような気がする」と言ってくれた。 神社の鳥居の傍まで来て、「ここな、歴史は相当に古いんだ。何しろ皇紀・・・皇紀って知ってる?・・」「勿論、日本人だから」「その皇紀より古い」「え!それほんと!?」「ああ、何しろあの神武天皇が即位されたのが紀元前660年だけど、この神社の創建は紀元前667年。つまり皇紀より7年古い」「ワォ・・・」応援して頂ければ嬉しく思います。(^^♪
2025.01.12
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小説「ゲノムと体験が織りなす記憶」 第 5 話「母さん、夕食まで時間あるよね?」「そうだねえ、1時間くらいかな」「それじゃあ、マリにその辺を見せてくるよ」「ああ、行っておいで」 道に出るとすぐ目の前に公園がある。「ここで毎年盆踊りをやる」「へえ、じゃあリョウさんちの二階の部屋なんて特等席じゃない」「ま、それは言えてるな・・ところで滅多に来ることもないだろうから、歴史に興味あるなら一番古い所に行こうか」「いいけど、古いってどのくらい?」リョウの口元に笑みが生じたが、それは(聞いて驚くなよー)という声がリョウの心の中に生じたからだった。「『えー!』って言うくらい」「えー・・ってもう言っちゃったけど、なにそれ?そんなに驚くほどなの?」「実はな、この町にはあの神武天皇の父君誕生の地とされる社があるんだ」「・・・神武天皇って確か一番最初の天皇じゃなかった?」「ほう、良く知ってるじゃないか。その神武天皇が即位された年が皇紀の始まりとされているな」「そんな、だってその神武天皇のお父様が生まれたって言ったよね。だったらどれだけ古いのこの町の歴史って?」「まあ、正式に神社庁が認めているんじゃないと思うんだけど、だってそれならあんな小さな社で収まるはずがないだろうし」 「ほら、話しているうちに見えてきたぞ」リョウが指さす方向に社が見えてきた。 応援いつもありがとうございます。短文ですが、今年の目標は更新の間隔をあまり空けないようにすることにしました。(^^♪
2025.01.04
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謹賀新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。
2025.01.01
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小説「ゲノムと体験が織りなす記憶」 第 4 話 懐かしい我が家・・・久しぶりだから、チャイムを押してみようと伸びかけた手が途中で止まった。玄関の奥から速足で近づく足音がしたからだ。 カラカラと軽い音がして最近作り直したのだろう、そこだけ新しい引き戸がすべると、母が顔を出した。 「やっぱりお前だ。お帰り!」「まさか、声もかけてないのに俺だとわかったの?」「はあ?母親を何だと思ってる。そんなんだから嫁の来手が無い・・・!」突然俺は強い力で横に退かされた「あんた何処から?」いきなり両手を握られて面食らったマリだが、お袋の強力な磁力には流石に抵抗できず、慌てて靴を脱ぎながら引きずられるように付き従っていく。 「お袋、まだ紹介もしてないだろー、相変わらず磁力の強いことだなあ」 急いで仏間に入ると、やっぱり。ローソクにはすでに火が点いていて線香の準備に取り掛かっていた。 「おふくろ、まだ紹介もしてないのに・・・」「なに?お前の嫁さんになる人だろ、そうでなければわざわざ東京からこんなきれいな人が来るもんかね・・東京でしょ?」「はい、東京でリョウさんのお世話になっています。内藤マリと申します。末永くよろしくお願い申し上げます」「まあ、あなたは顔の作りも丁寧だけど、挨拶も丁寧ねえ。こちらこそリョウをよろしくお願いいたします」お袋はよほどマリのことが気に入ったようで、畳に手をついて頭を下げた。 「あ、お母さまどうか頭をあげて下さい。お願いします!」顔を上げたお袋は嬉しそうに、父の遺影を少しだけマリから見やすい位置にずらしながら「さあ、これがリョウの父親よ、あなたもお線香をあげてくれる?」「はい、お父様、リョウさんのお嫁さんにしていただきます。内藤マリと申します、どうぞよろしくお願い申し上げます」 マリは線香をあげ手を合わせて親父さんに挨拶してくれた。それからのお袋の行動は怒涛の如くだった。何時もの事だが・・・ 先ずはリョウの好物である刺身用のサバとサザエのつぼ焼き用にイキのいいものを手配しているようだ。「東京からお客さんが来てるんだよ!あんたの所に無かったら、漁協に行って用意して来てよ!いい?頼んだよ」知り合いの漁師さんに急なお願いをしているようだ。「お袋、そんな急かしちゃ申し訳ないよ」「いいんだよ、こんなちっちゃい頃からの知り合いなんだから。困った時はお互い様が田舎のいいとこさね。それに今日だけじゃないこの間もお前の従兄妹の、ほれ、てっちゃん。あの子が突然遊びに来てくれた時だってさっきの漁師の・・・竹ちゃん、あの人に頼んで用意してもらったんだから!」『このリズムに乗っかったお袋は誰にも止められない』隣で『気を使わせちゃって申し訳ない』雰囲気を漂わせていたマリに小声でそう伝えた。『そうなんだ・・なんか悪いね、お手数お掛けしちゃって』『いやいや、遠慮すると機嫌損ねちゃうから気にしないでいい』『わかった・・』 そこへ「マリさん、お米研いでおくから手伝ってくれるかい?」「はい、」とマリは勢い良く立ち上がった。いつも応援ありがとうございます。
2024.12.13
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小説「ゲノムと体験が織りなす記憶」 第 3 話「ここです、どうぞ」流石にケンは焦りを隠せなかったようで「どうぞって、・・リョウさん、ここって駄菓子屋じゃないのか?・・・」「そう思うよね、誰でも。だから地元でも穴場なんだよ。まあ、ついて来て。会長、先導させて頂きます」「ああ、任せる。いやお願いする」 「いらっしゃい」奥からこの店の主であるおばあちゃんの声がした。(まだご健在だ・・・いったい幾つなんだろう) 番台兼この駄菓子屋のレジで人数分の入浴料とタオル、石鹼、シャンプーを買い求めて秘湯の入り口へ「このドアを開けて行きます。ついて来て下さい」リョウが示したのはごく普通のアルミのドアで、人ひとりなら通れるほどのサイズの曇りガラスで、向こうは見えなく「入り口」としか書かれてないので、会長以下みな半信半疑の面持ちである。 リョウが先頭に立ってドアを開けて入っていく。熱気があふれて温泉独特の匂いがその存在を確かにしてはいるが、湯気で曇ることはない。それは窓という窓が開け放たれているからだろう。半ば露天風呂の雰囲気である。 「ここで服を脱いで廊下を横切って中に入ります。先ずは私が先に浴槽入って秘密の源泉であることを証明してお見せしましょう」リョウが素早く裸になると、会長が目を見張る。「ほう、鍛えてあるな、ケンが敵わなかったのも頷ける」「私も彼の身体を見るのは初めてですが、なるほどと思いました」「ははは、場所が海水浴場であれば手向かわなかったか?」「あの場合そうもいきませんでしたが、気を引き締めたであろうことは間違いないです」 「皆さん、どうぞこちらへ。幸い今は混んでませんから入りやすいですよ」 「いいですか、見ててください。今でも源泉の湧いているのが少しは見て取れますが、こうすると」リョウは湯舟の底にみえる厚い板のすき間につま先を器用に差し込み、少しずつ両側に寄せていく。やがて大きく空いた隙間に彼は身を沈めた!一同「あっ」と声を漏らしたが、リョウの身体は首の辺りから上は沈むことなく笑いながら、「今、私は立ち泳ぎをしてます。そうしないと源泉に飲み込まれてしまいますからね。」そう言って器用に脚でお湯をかき分けながら、両手で身体の傾きをコントロールしている。青木氏をはじめ、皆目を大きく見張って初めて見る底の見えない温泉と、そこで立ち泳ぐリョウの姿に正しく「秘湯中の秘湯」を目の当たりにして驚嘆し、無言となっている。そんな中でも流石に会長は肝が据わっている。ただ一人口を開いたのである。 「何ともこれは驚いた!」 「それでは会長、ごゆっくりお楽しみください。私もマリを母に引き合わせてゆっくりさせていただきます。明日の待ち合わせ時間はのちほどケンさんと打ち合わせるということでよろしいでしょうか」「うん、そうして下さい。それにしてもこれは本当に秘湯というか、なんと豪快なんだろうねえ。これはこれから当分私の語り草になるよ、ありがとう」「いえ、喜んで頂いて私も嬉しいです」「リョウさん、俺からも礼を言わせてもらうよ、ありがとう」ケンも嬉しそうに礼を言ってくれたので、案内したリョウも大満足である。 「いや、そう言ってもらえると嬉しいよ。じゃあこれであとはまた連絡します」「うん」「会長、今日はこれで失礼いたします」「ああ、気を付けて行ってらっしゃい」 応援頂きありがとうございます。
2024.11.18
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小説「ゲノムと体験が織りなす記憶」 第 2 話叔父の墓参を済ませた後、駐車場までの道を歩きながら青木氏から提案があった。「リョウ君、どうだろう、これから東京に戻るとなかなか会う機会も無くなるだろう、お互いに住む世界が違うからね、残念だが。しかし、私は君に興味があるんだ。君は普段、ちゃんと礼儀をわきまえた人であり、好人物だが、修羅場を乗り越えてきた。いや否定しても私には分かる。生い立ちに普通ではない何かを感じるのだよ、君自身それは分かっているはずだ。そこでここからの帰路、君について聞いてみたい。東京まででいい、同行してもらえないかな」 『どうしたものか・・・マリを母親に会わせる予定は覆せない。久しぶりだし、それじゃあと言って立ち話のように簡単に済ますというわけにもいかない。・・💡 』 「青木さん、実はこの後、マリを母に会わせる事にしようと思ってまして。出来ましたら、もう一泊時間を頂けないでしょうか。『底なし温泉』は見つけられなかったと伺いました。そこへ私が直接ご案内致します。何しろ地元の人でも知らない人がいるほどの秘湯ですから」「ほう、そんなに珍しいものなのかね」「はい、ご自分の目で確かめなければ、信じ難いほどだと思います。何しろ湧き出している源泉が湯加減も良いのですが、底が見えないほど深く手頃な深さに厚い板を渡してあるだけで、檜の分厚い板で枠を作っていなければ入浴できるとはとても思えない代物ですから」 「それは、そんなものがあるならば見ずに帰るわけにはいかなくなったなあ。よし先ずはもう一泊できる宿を探そう。ケン、頼むぞ」「はい、承知いたしました」久しぶりに出番が来たケンは目を輝かせて大きく頷きバッグからガイドブックを取り出した。ページをめくりながらリョウに近づき「本当なの?今言った秘湯の話・・」「あのな、会長さんに俺が噓つくと思うのかい?」「悪い、そうだよな・・・しかし、楽しみだなあ。役目を忘れそうだ・・・今のオフレコな」と片目をつぶった。 霊園から秘湯までは意外なほど近い。リョウも久しぶりなので、感覚に誤差があった。駐車場としている空き地は案外広くて会長専用車でもしっかりはみ出さずに止めることができた。 青木氏が降りてくるのを待って案内する。いつも有難うございます。
2024.11.01
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小説 「scene clipper」 続編 「ゲノムと体験が織りなす記憶」「・・・あの握り飯の美味しかったこと・・・まるで昨日のように覚えております!・・・ありがとうございました!」青木氏は、ほとんど叫ぶようにそう言って叔父の墓前に膝と両手の平をついて深々と頭を下げた。 その行為は感動を与えてくれたが、最も俺を感動の渦に巻き込んでくれたのは、俺の中に潜在していた叔父貴の記憶と青木氏のそれとがほぼ一致しているように感じ取られた時。そしてそれが更に強い喜びと感じられたのは、お互いのゲノムから取り出された必要な情報と叔父との交友で得た記憶とが上手く融合された為ではないだろうか。俺たちの影響を受けてか、マリの長い指が彼女の瞼の下で零れ落ちかけていた涙をすくい取っていた。時の流れなどまるで気にならない、美しい光景が俺とマリの胸を締め付けている。やがて青木氏の肩の震えが収まったことに気づいた。うっとりするほどの清々しい笑みを浮かべて青木氏が俺たちを振り返った。「今ね、田島さんに頭をなでてもらってた・・・『良く来た、良く来た。立派になったなあ』そう言って下さってね・・・いいオヤジがねえ、笑ってください」「笑うなんてとんでもないです!私とマリは感動で胸を締め付けられて動けませんでしたのに・・・」リョウの言葉は彼自身が『強すぎた』と案じるほどで、その語尾は小さく消え入るほどとなった。 「そうか、君も、いや君たちも私と想いを共有してくれたんだね・・・ありがとう」「こちらこそ、ありがとうございます」ありがとうございますの言葉にはマリの声も重ねられた。 「ところで君たちはどうかな、私は念願を果たしたら何だか急にお腹が空いてきたんだが・・・」「そう言えば・・」マリも頷いた。頷き返した青木氏が言った。「そうか、じゃあ腹ごしらえするとしよう」青木氏は墓石を振り返ると「田島さん、それではこれで失礼いたします」そう言って深々と頭を下げた。俺たちも同じように別れを告げた。非常にお久しぶりです。よろしかったらお読みくださいね。
2024.10.18
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小説 「scene clipper」 Life goes on「田島さん、僕も結構な年齢になりました」リョウは少なからず驚いた。青木氏が叔父の墓に話しかけるその言葉遣いは意外だったのである・・・。自身の胸の内を、秘めていたであろう胸の内を、誰かに聞かれることが分かっていながら吐露するとは、あの特別な世界にいる人は、他者に自身の脆さと受け取られかねない振舞いを是としない。そんな風に認識しているリョウにとって、目の前の青木氏の言動は意外に思えた。 それに、50歳を過ぎたご自分の事を「僕」と表すのには何だか好感を抱いた。叔父が目の前に居たなら、そんな風に話しかけるだろう。本当に大切に思う人にならば、その接し方に生死の違いなど無縁である。自身がそういう接し方を大事にしてきたリョウは、叔父に対する青木氏の話し言葉に誠実さを感じて嬉しく思った。 「田島さん、実はあの日、田島さんにお会いしたあの日の朝、僕はもう死のうと思っていたんです。日本が戦争に負けて、何もかもが信じられなくなって、おまけに大切な両親を亡くして・・・それでも、もうちょっと頑張ってみようと、九州まで訪ねてきた親戚の叔父夫婦も空襲で亡くなっていた・・・それで、僕は生きる意欲を無くしていたんです。 そんな時でした・・・田島さんが僕を見つけて下さいました!・・・・・そして、『子供が遠慮なんかするな、子供は食うて寝て大きゅうなるんが務めじゃ、ほれ、早く食え!』 そう仰ってお持ちになっておられた握り飯を下さった。・・・あの握り飯の美味しかったこと・・・まるで昨日のように覚えております!・・・ありがとうございました!」 青木氏は、ほとんど叫ぶようにそう言って叔父の墓前に膝と両手の平をついて深々と頭を下げた。 何時も応援、ありがとうございます。
2024.08.29
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「原爆投下を正当化する理由はない」これは私が若い頃東京で知り合い親しくなった友人が言ってくれた言葉です。彼は日本語をかなり話せたし、ロックが好きで良く通っていたライブハウスで知り合い、たまたまアパートも近くお互いに行き来していました。ある年の夏、しばらく来ないし、ライブハウスにも顔を見せないな、と思っていました。彼の部屋の階下には主にカントリー、ブルースを流すお店があってそこで飲んでたら、コンコンと窓ガラスを叩く音がしてジョンデンバーを思わせるメガネをかけたジョン・〇・マッケナン(仮名)の顔が。指で入って来るように招いたが顔を横に振る。仕方なく大急ぎでビールを飲み干して二階へ行くとドアが開いたまま。上がり込んで話をした。浮かない顔をしていたので訳を聞くと、広島に行って来たと。「アメリカ人は見たら方がいいと思って、だから原爆資料館に行って来た」とそれだけで何だか嬉しかったのだが、しばし沈黙のあと「あれを、原爆投下を正当化する理由はない、してはだめと思った。リョウの家族、原爆犠牲者いない?・・・」と神妙な顔が痛々しいほどだった。「いない」と言うと彼はため息をついた。「でも、日本の人たちにごめんなさいと言います」そう言ってくれた。もっと嬉しくなった。「ジョンちゃん、そう言ってくれただけで、そう言ってくれるだけで多くの日本人が笑顔になると思うよ」そう言うと、彼は大粒の涙を流した。(アメリカにもこういう人がいるんだ)感動したことを今日思い出しました。
2024.08.09
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小説 「scene clipper」 Life goes onクリップされたシーンが繋がってゆくから人生は面白いのかも知れない。だから・・・Life goes on 待ち合わせていた霊園の駐車場に、リンカーンコンチネンタルマークⅢが先に到着していた。マリを連れてゆっくりと近づいていく。青木さんのことは来る途中に話してある。 2メートルほど手前で足を止める後部ドアが開いて先ずはケンが降りてきて会長を守れる位置に立つ。(顔色がとてもいい) 「お待たせ致しました」と軽く頭を下げる「いやいや、おかげで楽しませてもらったよありがとう」「それは何よりです。青木さん突然ですが紹介させてください」斜め後ろを振り返りマリの肩に軽く手を添えて言った。「私の婚約者の内藤まりです」リョウの半歩後ろにいたマリが半歩進んでリョウに並び「初めまして、内藤まりと申します。よろしくお願いいたします」「青木ですこちらこそよろしく」マリが半歩下がったのを確かめて「ではご案内します」「お願いします・・・リョウさん、わしは何だか少年の頃に戻ったように緊張してるよ」 頷いたリョウは「叔父もきっと喜んでくれます」「そうだと嬉しい・・・」「喜ぶに違いないです。叔父はストレートに心情を吐露できる人を見ると、嬉しそうに白い歯を見せる人でした」「確かに・・・そうだったと記憶しているよ」「私にはもうすでに、嬉しそうに白い歯を見せて微笑む叔父の顔が、あの青い空に浮かんで見えています」立ち止まり空を見上げるリョウにつられて、青木もトンビの舞う空を見上げた。「リョウ君、まだ墓前に手を合わせてもいないのに・・・わしを・・・」 青木さんはそう言うと喉を詰まらせて、夏羽織の懐に手を差し入れてハンカチを取り出した。ここは見ないようにしておくことだ。 毎日暑いですね。お時間ありましたらどうぞお立ち寄りください。(^^♪
2024.07.25
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小説 「scene clipper」 Episode 43 それぞれの都合を確かめて西へ向かう。俺が準備することは、京子と兄貴への土産を買っておく事くらいだが青木氏とケンの支度は結構煩雑だった。彼らが生きる世界では面子ということが非常に重要視される。どこかの国のように他国の艦船に領海侵犯されて「遺憾砲」という空砲のような痛くも痒くもない苦情を通達するだけで済ますようでは、その存続さえ成り立たない世界である。 そのため、青木氏とケンは彼らが通過、または一日であろうと滞在する地域の「影の王」たちに丁寧な説明と了解を得ることは欠かせない。 青木氏とケンの一行は空路で、俺とマリは船路で・・・。「どうして船なの?」「俺はスーパーマンじゃないからだ」「・・・ひょっとして飛行機が苦手なの?!」「ビールが飲みたい」「プッ!当たりなんだ!(笑い)」俺はそのことについて返事をする必要を認めないし、俺を怒らせたくないのなら、俺の主張を認めるべきだと、そうマリに伝えた。「フーン・・・」「苦手だ・・・それ以上の追及は受け付けない」「はい、はい・・(そこまで拒否するのは怖いって言ってるのと同じでしょうよ・・・その分かり易さ、やっぱB型だわ」空路別府入りする先行組には、別府市民でさえ皆が皆知っているわけではない秘境中の秘境温泉の場所を教えてある。脱衣所も無ければ洗い場もない休火山火口に湧き出すコバルトブルーの温泉、そして底なし風呂。 あれほどレアな体験は中々できないはず、楽しめるだろう。 彼らが秘境温泉を満喫し、城下カレイの刺身に舌鼓を打ち満面の笑みを浮かべるその頃、俺とマリを乗せた船が別府湾に錨を下ろす。何時もお読み頂きありがとうございます。ポチっとひとつ押して下さると励みになります。(^^♪
2024.07.11
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小説 「scene clipper」 Episode 42「K wife」 タップすると上妻に繋がる。 「・・・・・ よう電話番号覚えてたか」「まあそう言うな」「仕事なら、今のところ無い、悪いが・・・」「いや、前回たっぷりもらってるから心配ないよ、しかし200とはあの作家、はずんでくれたもんだな」かすかに上妻の笑い声がした「どうした?」「いや、あれだな・・・俺らまだダチの濃さ変わってない、そう思ってさ」「意味を聴いてもいいか?」「ああ、俺らの会話、相も変わらず贅肉まったくなしで良く繋がって成り立つもんだなって」「あたり前だろうよ・・例えお前にぶん殴られても俺は腹を立てる前に、『何か訳ありなんだろう』って考えるからな」「・・・ま、そんなもんだろうな・・・ところで本題に入ってみるか・・・」「ああ、実は近々大分に行く用事ができて、それで仕事のスケジュールを確認しようってわけだ」「ん、大分・・・親父さんの法事か?」「いや、別府の田島の叔父さんの墓参りなんだ」「おう、あの人な・・・さっきも言ったが丁度今なら仕事の依頼はないから行ってきたらいい・・・マリさんも連れていくんだろ」「その方がいいかな・・・」「けじめ、つけとけよ、そろそろ」「・・・・・・・・」 別府の田島家へ電話を入れると従妹の京子が出て何時でもいいと快諾してくれた。ケンに電話して三日後ではどうか打診してくれるよう頼み、その日の内にお任せするとの返事をもらった。 One by one one by one one by one one by one 最近のルーティンというか、10時頃になると近くのスーパーにマリと2人で行き昼飯と夕飯の食材の買い出しに行く。その帰り道は何時ものように十号通り商店街を北へ戻る。 「マリ、俺ちょっと大分に行くことになってさあ、叔父貴の墓参りなんだけど、お前一緒に行かないか?」「え、・・・いいの?一緒で・・・」「ああ、俺の従妹に紹介しときたいし、どうだ」まず、指をからめて「嬉しい」と言い、頭を俺の胸にあずけてきた。 「そうだ、言っとくけど、墓参り最初は俺と親友とで、その後で俺とマリとでな・・・」「?・・・・・」いつもありがとうございます。よろしければお読みいただくと励みになります。
2024.06.20
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小説 「scene clipper」 Episode 41 「ところで・・・」青木氏は何かしら意を決したように切り出した。何か問われそうな予感がして、リョウは青木氏の顔にピントを合わせた。 「わしは今夜以降君には会うまいと決めていた」「そんな・・・」「いや、君と私は住む世界がまるで違う。」「それは・・・承知の上でした。でも自分はケンさんを信じています。ですから青木さんにお会いすることに危惧はありませんでした」 一瞬ケンの視線を感じ取ったリョウが視線を合わせるとケンは嬉し気に頷いた。 「そうか・・・ケンが気を許すはずだな。甘えるようですまないが、今後もケンと仲良くしてやってくれるかね?」「はい、勿論です」「そうか、ありがとう・・・ところで君に最後の頼みがある」「なんでしょう?」「実は君の叔父上の墓参りがしたいのだが。案内してもらえないだろうか」「はい、恐らくそう仰ることになるかも知れないと、思っていました」「そうか、流石だね。スケジュールは君に合わせるから、よろしく頼みます」と青木氏は再びリョウに頭を下げた。 「分かりました。明日仕事の日程を確かめてからケンさんに連絡するということでよろしいでしょうか」「結構です、よろしくお願いします」和やかな雰囲気の中で散会の乾杯を挙げた後、リョウはケンに送られて笹塚に戻った。 ケンはリョウに礼を言い、リョウはケンに「水くさい」と言い、二人の男は気分の良い笑顔を見合って「じゃ」「うん」とマリのマンションの前で別れた。 ピンポーン♪ドアが開いてマリが顔を見せた。「随分久しぶりのような気がするんだけど、気のせいかしら?」 (今日はマジで優しくしないと・・・)リョウは本能的にそう直感し行動に移すことにした。 翌朝、珈琲のいい匂いで目覚めた。隣で寝ていたマリはいないが・・・キッチンから鼻歌が聞こえてくる。♪夢でもし会えたら♪吉田美奈子!これはすこぶる上機嫌だぞ。よしよし♪いつもお読みいただきありがとうございます。今回もどうぞよろしくお願いいたします。
2024.05.23
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すみません、初めにお断りさせて下さい。今日は小説の更新ではありません。今日、2024年5月16日は歌手西城秀樹さんの七回忌です。何故この記事を書くのか・・・ですよね。実を言うと、以前にも西城秀樹さんのことについてお話ししたかもしれません。旧ツイッターには書きました。けれど今日は七回忌なので、特に回顧する気持ちが強くて・・・もし興味のない方はどうぞスルーしてくださいね。では、回顧していきます。あれは私が22歳の時でした。私は原宿の軽食レストランでバイトをしてました。そのお店は私たちの世代にはとても有名なお店で、有名人もしばしばしば訪れますし、雑誌に載せるためにモデルさんがお店の外で撮影したり、有名人のインタビュー記事を書くために使われることもありましたので売れっ子の歌手が来店するのは珍しくは無いのですが、ある日特別なオーラを身に纏った方が入店されたのです。その頃には有名人を見てもほとんど緊張しなくなっていた私が、私の目が点になったのです!(^^♪背は高く、足も長く、おまけにルックスまで普通ではなく・・・いや、やはり際立っていたのは西城秀樹さんのオーラでした。その頃私はホールでは古い方で、混んでない時は後輩に任せてたのですが、その時は誰よりも早く西城秀樹さんを含む3人さんが席に着いたテーブルに注文を取りに行ったのです。すると・・・「僕はアメリカンコーヒーを下さい」ここは西城秀樹さんの声を思い出してください。^^あとの2人、雑誌社の方と多分西城秀樹さんのマネージャーさん。このお二人は「ホット」「同じの」違うでしょーそうじゃないでしょ!メインのスターが「僕はアメリカンコーヒーを下さい」でしたでしょうが!(あなた方はもっと丁寧な対応を心掛けるべきでしょうよ!) ↑ 私の心の声です私の対応は、ちゃんと西城秀樹さんのお顔を見ながら、「かしこまりました」普段よりずっと丁寧な対応だったと覚えています。^^どうです皆さん?私のような無名のただの従業員に「僕はアメリカンコーヒーを下さい」ですよ、しかも上からの目線ではありません。あの優しい目でおっしゃったのです!!!!!^^感動しました。普通なら他のテーブルにもしっかり目を配るのですが、その時は西城秀樹さんの後ろ姿に見入ってました。そして淹れたての珈琲を誰にも渡さず、西城秀樹さんのテーブルにお運びしました。皆さんどうか見て聞いて覚えておいてください。西城秀樹さんの言葉私が丁寧にアメリカンコーヒーを西城秀樹さんの目の前に置きました。「ありがとうございます」どうです?これあの超有名な西城秀樹さんがただのウエイターである私めに言って下さったのです!あの爽やかな声で・・・。西城秀樹さん、あの時は優しくして頂いて本当にありがとうございました。私はお経を読めますので、一人静かにあの時の光景を思い出しながら西城秀樹さんの七回忌を期に、他人に対する思いやりを教えて頂いた、西城秀樹さんの優しい面影を偲びたいと思います。お時間ございましたらポチっと応援お願い致します。
2024.05.16
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前回までのあらすじ 青木氏は、およそ人前で見せたことのない涙を流し、歯をくしばっていても形容し難い声音が歯の隙間から漏れてしまうのか。誰も身動きすら出来ないでいる。瞬時迷ったが、リョウは話を続けることにした。小説 「scene clipper」 Episode 40 ところが、リョウの話はここで一旦途切れることになった。青木氏がリョウの話を受けたかたちで自らバトンタッチを買って出たのである。 「リョウさん、ありがとう。叔父さんから頂いた握り飯のあの・・・あの何とも言えず美味しかったあの味を思い出したよ・・・あの握り飯は私にとって世界一の、そして二度と味わうことが出来ない最高の味だった。それを私は一人で全部食べてしまったのだが・・・」 リョウは喉の渇きを覚え、目の前に置かれたグラスに手を伸ばした。オールドパーは氷が解けて薄くなっていて一気に飲み干せた。 青木氏が続ける 「あれから叔父さんが『わしの家について来い』と言うので私は言うとおりについて行った。行く宛てがなかったし、あの人からは、人に疑いを持たせない、そんな人間の大きさのような、オーラというのかな?・・・それが伝わってきて、この世のすべてが信じられなくなっていた私だったが、あの人は信じられたし、甘えることができた。 叔父さんの手作りだという家には、その時すでに職人さんが2人住み込みでいて、私は物置小屋の土の上に、藁で編んだむしろを敷いて寝泊りさせてもらったんだ。粗末だと思うだろうが、橋の下とは雲泥の差、天井はあるし、板壁もあってね。夏とは言え川を渡る風は、朝方になるとやはり涼しすぎて身に応えたものだった。それに比べれば物置小屋と言っても随分と心地よくてね、久しぶりに熟睡できたっけ・・・」 青木氏も喉の渇きを覚えたのだろう、テーブルに置いてあったグラスを持ち上げるとウーロン茶を飲み干した。 そして、両の膝頭に手を置いて遠くを見る眼差しとなった。時と場所をこえたそのまなざしは、まぶしいほどに澄み切っていて少年の頃にもどったかのようだ。同時にリョウは叔父からこの物語を聞いた日にもどり、そして今、この東京で青木氏の眼差しの中に時と場所をこえてやってきた!そんな錯覚にとらわれていた。その言い知れぬ感動は、青木氏の物語を聞き始めて、いつの間にか芽生えていた期待に似た想いを超えていて、子供の頃に親から褒美をもらった時の喜びを思い出し、リョウは心と身体にふるえを覚えた。 何時も応援、コメント頂きありがとうございます。随分と更新に手間取ってしまいました。上記のようなあらすじでごめん下さい。^^;どうぞよろしくお願い致します。
2024.04.11
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