M-BLstory

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February 2, 2025
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テーマ: 自作BL小説(22)
カテゴリ: BL小説
第二章:夜風に揺れる影

「辰巳会の若頭……?」

柊は、思わず九条の名を繰り返した。ヤクザの世界とは無縁のはずの自分が、こんな男と関わることになるとは思ってもいなかった。

九条はじっと柊を見つめる。鋭くも落ち着いた瞳に射抜かれると、妙な緊張感が走った。

「お前、見ねえ顔だな。観光客か?」
「……いや、俺は俳優の柊 遼。映画の撮影でここに来てる」

そう答えると、九条の眉がかすかに動いた。

「へえ……あんたが、あの柊遼か」

意外な反応だった。九条が自分のことを知っているとは思わなかったが、彼は「妹がドラマ好きでな」と淡々と続ける。



「……なんだよ、せっかく助けてもらったのに冷たいな」

柊が冗談めかして言うと、九条は少し呆れたように笑った。だが、その笑みはほんの一瞬。すぐにまた冷静な表情に戻る。

「礼を言う相手を間違えるな。俺はただ、自分のシマで勝手に暴れるバカどもを黙らせただけだ」

「……それでも、助かったのは事実だよ」

柊はそう言いながら、改めて九条を見つめた。スーツの上からでも分かる鍛え抜かれた身体。隙のない佇まい。しかし、彼の瞳の奥にはどこか寂しさが宿っているように見えた。

「アンタって、案外優しいのかもな」

何気なく口にしたその言葉に、九条の目が鋭くなる。

「……俺を甘く見るなよ」

低く囁くその声に、背筋がゾクッとする。危険な男だ。分かっているのに、なぜかこの男のことをもっと知りたくなる。

「ま、今日は帰るよ。でも、また会えたら——そのときは酒でも奢ってくれよ、若頭さん」

そう言って微笑む柊に、九条は短く息をつきながらも「勝手にしろ」と呟いた。






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Last updated  February 2, 2025 11:24:57 PM
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