星の髪飾り

星の髪飾り

2006/10/23
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kitakitune05さん


 なぜか未だ見た事のない日本海が頭の上で、荒波を立てて叫ぶ。

金沢署が押さえた輪島漁港。 白い粉が地味に出入り可能な目隠し・・・入手の手口も闇の靄も

萎びた平穏に付け狙うルートなど、今の美月にはどうでもいい事。

刑事の僅かな言葉より、寒々しい荒海の見える岸壁に佇む悦史の夢を見ながら、うなされる。

何度も何度も打ち寄せた波に消えはしないかと両手を伸ばす。


 荒んだ暮らしが続いた。

紫音の隙間を埋める背の高い観葉植物の影から、日暮が窮地に立たされた月を見つめる。

「ここからが勝負だな・・美月!・・咲くか朽ちるか? おまえはどっちだ?」

明海が他席に動いた後、黒のご一行から移動をしてきた美月。

まるで意思のない足取りで浅島の横に腰掛ける。 

「いらっしゃいー! やっと隣にすわれる・・・この席が一番安らぐのよ私・・」

無防備な言葉に慣れた浅島が思うのだ。 

(そんなことを言うのは、ここだけだろうね? 君が言うと、お世辞にも社交にもならない)



「煙草、吸い始めたんだね・・・」 浅島がシガレットケースだけを見て、そう言った。

「ええ、、ホステスだから」 つっけんどうな正直。

 V.S.O.P.をグラスに注ぐと、目を合わせずにいる浅島に寄りかかりたい衝動にかられる。

不自然な空間が出来上がってしまったと思いつつ、時は静かに流れてしまう。

日暮は悦史と美月がその席で無言でまどろんでいた晩を思い出す。



 「駄目だよ、そんな呑み方は・・」 浅島が言った。

美月が両手て強くグラスを握り、胸にそっとあてていた。

浅島への安堵と懐かしい父性感、最後の一滴が全身にまわると、ラストの曲が流れた。

ピアノマンは静かに悟っていた。 孤独な男は空間のもつれを音色で柔らかく解きながら揺れる。

「太陽がいっぱい・・」 奏が閉じられる頃、浅島が言った。

「・・・話したくなったらいつでも力になる・・・必要なければそれでいい」

切り刻まれてきた心が、まな板の上で悲鳴をあげる。

美月の唇が僅かに震えた。

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「そんなに酔って! 言ったでしょう! 店に来たら私生活を脱ぎなさいって! ホステス失格・・

まったくこの子ったら!」 凄まじい明海の言葉が響く。 

 もう一つの優しさが包んだ。

「美月ちゃん、うちに泊まっていきなさいよ、あなたの部屋より近いし・・」

純子が腕を優しく捕まえて、そう言った。

「大丈夫ですよ私、何でもないんだし。 嫌だー!みんなでどうしたの? 酔ってなんかない!」

白髪交じりの紳士、浅島が動ぜずして言い残した言葉より引き付けるものは何一つない。

ただ、ありがとう・・と心がうねる。 悦史を連れ去ってしまうであろう日本海の波に

負けない叫びで、心がうねる。 うねってうねってどうしようもない。 

 やがて美月はゆらゆらと波に揺れながら店を出て行った。

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 穏やかな口調、遠い昔に感じた懐かしい匂いに混じって、異質が続々と現われる。

 「この女、たまらないだろう?!」 上原。 

 「日本の女に飽き飽きだ・・」 華連を狙った嫌な奴。

 ありとあらゆる出たら目、女に貢がせる天性の持ち主。

 硬い仮面を被って、ひょうひょうと悪を働くお役人。

 どこか憎めぬ、金いらずの遊び人。

 華を華として扱った数人の男達、弁護士、ニュージーランド牧場主。 

美月が自分を高めた厚いノートが文字で埋まっていた。

そうして最後のページに一列に並んだ華の名前。

 純子・・・最初に声を掛けてくれた人。 上原の牙を交わした、、ざまー見ろ!
 明海・・・自分にも人にも厳しいベテラン。 スパン!とした気性が好き。
 日向・・・黒のご一行に添う、限りなく魅惑の人。
 華連・・・暮らしの為に日本の景気を利用する健気と利口と不器用と・・・。
 揺香・・・無意識な存在感。 清楚で可愛い華一輪。
 渚・・・・はしゃぐ敵?あるいは味方、エネルギッシュ。
 胡美・・・リンチ、嫉妬。 ストレートな若葉の魅力。
 マネージャー日暮・・・命の恩人、それは忘れないように! ね。 美月!と言い聞かせ・・。
 ピアノマン・・・・・・奏。男の粋、苦労と遊びの一体。 紫音の大切な宝。
 カウンターマン・・・・扉の向こうとこっち。 きっと知り尽くした裏方ふたり。

私を取り巻く仲間達。


 中身の無い白い冷蔵庫、裸のハンガー、締めっきりのカーテン、転がった空き缶、溜まった吸殻、

走り書きのメモ。

「美月ちゃんへ

  明日、スナック「オレンヂ」へ・・・店が引けたら。 

                         日向より    」

 更衣室からいそいそと去る寸前に、帯から抜いた白いメモ。

冷え切った手に握らせた温度のある薄っぺら。 和服の添い加減に似た流れるような文字。

 ( スナック「オレンヂ」・・・あえて、選んだ遠い店。 

        あなたの大切な人のこと・・・来る来ないはあなた・・・)



 悦史の病室が落ち着き始めた頃、美月の心が葛藤の渦に泣き叫ぶ。 沈む事を人にさせない月が

自分を沈ませずにいられるか、、今、再びの瀬戸際。 

 レモン色のテーブルに頬を置き、幻想に刺されながらうとうとし始める美月。

意地悪な朝陽がカーテンの色を明るく変えていった。 

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                続く 明後日「ラストチャンス」





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最終更新日  2006/10/24 02:21:07 PM
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