星の髪飾り

星の髪飾り

2007/03/19
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真冬と真夏を抜けて十ヶ月。 スタンバイからゴミ集めまでの五時間はあっという間に

過ぎていく。 

「・・・・・・しながら○○」「・・・・・・のついでに○○」

 効率よく仕事をこなすにはこれらがポイントになる。

大きなシンクに溜まった皿や器、グラス類の数で不足や店の混み具合も見えてくる。

単純作業とはいえ、「いらっしゃいませ」から「お待たせいたしました」の間に

自分の手足や目、耳、脳の一部までが何処かで役に立つ。 受身から自発能動へと

効かなかった機転に拍車がかかると、「後ろのおばさん」と言われても裕子は不愉快

ではない。

 以前、「うどん屋のてんぷらか! 」と倉田に怒鳴られたエビフライ。

一日十本、家で○本、作り続ければ、コツを覚えるというもの。 

「今夜もエビフライ? 」

 秀明がキャベツの隣でそっくり返ったエビのしっぽを掴んで言う。

「だんだん上手くなったでしょ? どう、このボリューム感と揚げ色」

「そういう問題じゃないだろうよ! 」

 少しの犠牲で大きな進歩。 裕子はカツにパン粉を付けながら、そんな会話を思い出す。

ラインの作業台の引き出し式冷蔵庫にエビとカツを収めたついでに、ピザ用のチーズを

チェックする。 ついでにシンクに水を浸し、洗剤をいれて手でグルグル泡立てておく。

食器洗浄機でシャワーを浴びる前に、強い油分は抜いておく。 

実践の中で得た知恵、恥をかいて習得するものの多き事に今更ながら自覚する。

(自分が主婦であったことを)



 十二時入りのチーフが白い歯を出しながら、ギリギリセーフでやってきた。

「おはようございます」

 西田はにんまり笑いを浮かべ、時計の針が親子二本、てっぺんで重なっている事を

確認する。 あるいは確認をメンバーに促すように、にんまりする。

平日は静かなるベテラン小林太郎と裕子がオープンスタンバイ、昼入りでチーフと倉田。

夕方学校から駆けつける竜也と洋介。 今は猫の手よりは役に立つ裕子の手。

水曜のダンスサークルを夜に替えた事もあって、裕子の一週間は充実に膨らんでいた。


「今日のエビ、誰のスタンバイ? 」

 倉田がいつものように投げ捨てるように訊いた。

「私ですが、何か? 」

「いや」

 小林がそれで終わった会話にほっとして、ニンニクを暖まったオイルに落とす。

「アフターで抹茶パフェお願いします! 」

 アフターは食後と言う意味で使われる。 裕子の好物でもある抹茶パフェが空きっ腹

から脳に反応して、またお腹にヤマビコになって鳴いた。

「グーグググー」

 矢沢が斜めに身をかわして、素早くカウンターの香ばしいピザを持っていく。 

千尋がその隣のボンゴレを、中谷がフレンチトーストを、と言う具合だ。

配膳台にやってきた奏に、西田が訊く。

「子供、煩いですね」

「はい。 たぶん六番の席の・・・・・・」

 奏の後ろを通りながら、中谷が言う。

「今の親は子供がはしゃぎ回っていても、ろくに注意しないんだから、まったく! 」

「ここまで聞こえるんだから、周りのお客さん、落ち着かないでしょうね」

 奏が少し困ったような顔をして「そうですが」と応える。



「抹茶パフェ、お願いしますー」

 小林が冷蔵庫から出てきた裕子に矢沢が告げたオーダーをすまなそうに頼んだ。

揚げ物をしていた倉田が裕子の方を見た。 

西田は時々フロア―の様子を伺いながらシンクの皿をラッカーに並べては

ウォッシャーをかけている。 「ガタン! シュワー! 」

熱風と吹音の繰り返しが多忙を知らせる。

 裕子は小林の隣にやってきた。

洋介と休憩室でデザートの復唱をしたのは先週。 

「三歩あるくと忘れる年令なのよ。 もう一度」

「じゃあ、マンゴー杏仁? 」

「次、チョコレートパフェ?」

 試験前の学生みたいに、向かい合って裕子なりに綿密に確認したレシピの数々。

「まずは、容器はえーと、これ」

 四種類のパフェ容器から、それを取り出す。

背中合わせの小林が、裕子の確認作業に耳をダンボのようにしている。

ジュ―ジューとエビを揚げる倉田の細い顎が角度を変える。

「寒天七つ、抹茶シロップ少々、抹茶シホン八分の一、えーとそれから生クリームをのせて

抹茶アイスの十二号、白玉二個、餡、パイを崩してサラサラと! 最後に・・・黒蜜を」

「香川さん! 」

 西田が振り返って指を裕子の方に向けた。

その真ん中に倉田の含み笑いがあり、後ろにベテラン小林。

「アイスは二十二号」

「え? もう乗せちゃいましたー」

「こういう時は早いんだー」

「見てごらん! そんな不細工なもん、客に出せねえぜ」

「香川さん、ディッシャーのサイズ、数字が小さいほどアイスは大きい。 従がって

パフェには二十二号、もしくは十八号」

 西田が説明しながら近寄ってきた。

小林が「二十二号」を裕子に見せる。

「これ」

「はい」

「自分の好物だから、つい、でかいのを夢見てかー。 笑えるな」

「はい! やり直しー」

「急げよ! 」

「はい! すみません。 抹茶パフェは二十二号、二十二号! 」

「油断するなよ」

 倉田の言葉がいつもより甘かった。 

きっと抹茶パフェの黒蜜を激辛のカレーライスに混ぜたような、そんな風な「ちょい甘」。

(もう、忘れない! 間違えない)

「ねえ、小林君。 失敗したこれ」

 裕子は隅っこに置き去りにされて解けかかったパフェを指差した。

「どうするの? 食べていいのかな私」

「さあ・・・・・・?」

                         撮影 しっぽ2さん





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最終更新日  2007/03/19 09:24:36 PM
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Re:「世代」 37  裏方22号(03/19)  
うりゃ1960  さん
バックヤードで 
生き生きと 泳ぐ 魚の イメージが 浮かびました

とけかかったパフェは 何気に 差し出された
ご褒美 ということで 頂いちゃいましょう(*^-^) (2007/03/19 03:47:46 PM)

以前にも  
kitakitune05  さん
こういった動くテンポ良いですね。
信頼出来る仲間同士のあうんの呼吸、好きです!!

仕事は片道の仕事はしない、絶えず往復で物を考え行動する習慣が付くと、無駄な動きが無く、仕事の量の割には疲労が少なくなるものですね。
恵さんのリズムかな?今日のテンポ。 (2007/03/19 08:42:40 PM)

Re:「世代」 37  裏方22号(03/19)  
ある程度の人間関係が出来れば、仕事もスムーズにいくもの。しちゃいけない失敗に対しても、トゲが少なくなる。
店のフインキや裏方の戦争が しっかり伝わってきて、その中で変わりつつある裕子に対する態度も
微笑ましくなってる。

少しの犠牲で大きな進歩・・笑えるネ。 (2007/03/20 10:57:27 AM)

Re[1]:「世代」 37  裏方22号(03/19)  
恵 香乙  さん
うりゃ1960さん
>バックヤードで 
>生き生きと 泳ぐ 魚の イメージが 浮かびました
>
>とけかかったパフェは 何気に 差し出された
>ご褒美 ということで 頂いちゃいましょう(*^-^)
-----
ご褒美、、そうですね~ 裕子さんにあげたいです! (2007/03/20 09:32:43 PM)

Re:以前にも(03/19)  
恵 香乙  さん
kitakitune05さん
>こういった動くテンポ良いですね。
>信頼出来る仲間同士のあうんの呼吸、好きです!!
>
>仕事は片道の仕事はしない、絶えず往復で物を考え行動する習慣が付くと、無駄な動きが無く、仕事の量の割には疲労が少なくなるものですね。
>恵さんのリズムかな?今日のテンポ。
-----
私は鈍くさいから、、 往復無駄なし、主婦もこれやっていますよきっと。 (2007/03/20 09:37:42 PM)

Re[1]:「世代」 37  裏方22号(03/19)  
恵 香乙  さん
男前のお姉さんさん
>ある程度の人間関係が出来れば、仕事もスムーズにいくもの。しちゃいけない失敗に対しても、トゲが少なくなる。
>店のフインキや裏方の戦争が しっかり伝わってきて、その中で変わりつつある裕子に対する態度も
>微笑ましくなってる。
>
>少しの犠牲で大きな進歩・・笑えるネ。
-----
少しの犠牲、、あははっ! この短い一行の含み加減、
姉貴の微笑浮かぶな。 (2007/03/20 09:39:43 PM)

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