星の髪飾り

星の髪飾り

2007/05/05
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窓際のテーブルにランプが灯る頃、夜を待っていた街のイルミネーションも闇をスキップ

するように灯っていった。 

 練習会場に着くと、軽やかなメロディーがドアの外に零れてきた。 リハーサル前の

最後の練習とあって、メンバーの意気揚々とした様子がうかがえる。

裕子はドアノブに手を触れないまま、立ち止まってコクのある音色にしばし聞き入る。

冷えた体に羽毛のような温もりが伝わる。 世代の違う矢沢が虜になったビートルズは

一瞬にして過去の自分と再会でき、裕子の心は揺さぶられる。

顔立ちも仕草もあどけない奏が歌い上げるアメジング・グレース。 体のどこに声量を詰めた

貯蔵庫があるのかと驚かされ、歌が進むにつれて鳥肌が立つような透明な海の底へ導かれる。


「裕子さん、遅いねえ」

 竜也の声で我にかえった裕子が、ドアノブを回した。

「ごめんごめん! 」

 裕子はすっかり取り囲まれた熱気に、細い神経を束にして笑って誤魔化す。

「体力、大丈夫? 家の方は平気なの? 」

「両方大丈夫。 女房はね、生き生きしていた方がいいの・・・・・たぶん」

 裕子はドラムの前にスタンバイしながら呼吸を整える。

「さあ、じゃあポルノからいこうか」

 貫禄という味付けを得てすっかり男らしくなってきた竜也の合図で、裕子はスティックを

鳴らす。

「いい? ワン、トゥ、スリー、フォ!」

 千尋と目を合わせ、ゆっくりと前奏に入る。 この一瞬の積み重ねが心に届く歌になる事を

練習を重ねる中で教えられた。 歌に入ると次第に矢沢のベースがズン、ズンと流れ込み、

いつものようにゾクゾクしてスティックが汗ばむ。 そのしびれ感に浸って何度しくじったか

知れない。 その度、竜也は「しっかり掴まってろよ!」と言って、リズムの乱れに始末を

つける。 そういう竜也も抱いたギターを愛撫しながら、甘い声と天性を魅せつけるから

堪らない。 

「よし、いい感じじゃん?」

「うん! 奏のマラカスも効いてるし、裕子さんもスネアドラムの音が力強くなってきた」

「ああ、そうそう。 あのサビの手前、ドラムが早くなるんだよね」

「タンタン、タカタン、タカタカタカタカ」

「そそ、そこ! 」

「この二小節位前から、ああもう直ぐ、もう直ぐって焦ってくるんだ私」

「ドラム以外の楽器が音を抑えるから目立つよ。 まあスティックが一番活躍する場面
だからね。 一つひとつの音を丁寧に」

「了解よ、竜也」

「凄いっすよ、裕子さん! とても高校以来なんて思えない。 かなり叩き込んだでしょ?」

「ドンくさいからさ私」

 矢沢はホローを忘れない。 

「ああ、それからイブライブの友情出演決まったよ。 一グループなんだけどね。
何せイブだから、無理もないけど。 でね・・・・・・」

 竜也は自然と輪になったメンバーに話しはじめた。

ビジュアル系ロックバンドは、キッス、エアロスミス、ディープパープルを演奏する。

素人っぽさが引き立って自分達はいい味を出すだろう、と言って竜也は微笑んだ。

「あ、あのね。 ずっと言おうと思っていたんだけど」

「何! 今になってドキっとするじゃない裕子さん」

 裕子に皆の視線が集まった。

「当日のライト、ステージの照明ねえ・・・・」

 裕子はそこまで言うと、眉の上を小刻みに掻きながら、僅かに俯いた。

「私にあたらない様にできないかなあ」

「どうして?」

「だって、歳だから。 浮くでしょ? これでも少しは気になるの」

「浮くっていうか、沈むんじゃん?」

 ばか、おまえ!と矢沢が竜也を小突いた後、眼鏡をちょっと上げて優しく言った。

「楽しくやりましょうよ裕子さん! 」

「そうだよ、バッチリ塗ってさあ」( グサッ! )

「おまえ、黙ってろ!」




 心の内をさらけ出して、突っかかったり、めちゃめちゃになったり、一発くらえと

熱くなったり、大声で笑ったり、感動に蓋をしたり。

それは厨房やフロアーのランチタイムの戦場のように停止することなく、一体感を味わえる

ふつふつスープのようだ。 

 傍らに君がいる。 傍らに煮込んだスープ鍋がある。 練習はきっと裏切らない。 

                    photo by kitakitune05ーsan





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最終更新日  2007/05/06 08:03:38 PM コメント(10) | コメントを書く


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