星の髪飾り

星の髪飾り

2007/06/27
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いつもなら束ねている髪がほどかれ、花びらのようなスカートからは、しなやかな足が

伸びている。 オレンジのサンダルには細いベルトが一本あって、足首を抱いていた。

「君、誰? 優さん・・・でしょう? 」

「優? あなたの恋人? 」

「それなら申し分ないんだけど」

 俺は音も色もない湖のほとりを歩きだした。 夢の自覚があることを利用して彼女に

近づいた。

「ボートに乗る?」

 湖を指差して彼女が言った。 鍾乳洞で水滴が落ちるような心地いい声が辺りに響いた。 

顔立ちは田口 優そのものなのに、ちょっと不健康で不機嫌で。 俺は足を止める。

「こんな霧の中、ボートはね・・・それに暗い。 真夜中だと思うけれど、君は時々ここに

来るの? 」

 彼女は再び背を向け、しゃがみこんだ。 両手で膝を抱えて黙って湖を見ている。

「こっちに来れば? 」

 俺はいつの間にか彼女の隣に腰を下ろしていた。

「ねえ、あれを見て? あれは車のライトが天の川のように連なってるのよ。 この頃

都会のネオンが眩しくて眠れやしない」

「ここは地上だろ? あれは夜空だ」

「ちがう。ここは空。それで、今見てるあれが地上」

 精神の軌道が霧にまどろんでいく描写を、俺は不気味に味わった。 

彼女は中指で髪を掻きあげながら、数回瞬きをして俺の方を見た。 

スローモションでやってきたシーンをそのまま抱いた。 温もりだけ置き去りにして

俺にもたれかかってきた彼女は確実に優だった。  まるで、「大した意味はないの」

と言うふうに淡々と俺の肩に頬を擦りつける。  

俺の腕がくびれにそっと触れた時、優はピクッとして身体を離した。 

「その指は? 」

 その時俺は、包帯が巻かれた優の左手の人差し指を見た。

「ああ、これ?・・・・ 地上から追放された時に怪我をしたの。 それだけ」

「君の言う地上って、あの空? 」

「そう。 地上から落下した時の怪我。 ほら見て! まだ地上はあんなに色とりどり

に煌めいている。 真夜中なのに眠らない・・・・・・」



 締め切ったベージュのカーテンのむこうで太陽が囁く。

きつい陽射しで、すまし顔。 まるで昨夜の夢のよう。 

バーボンのような夢の後遺症を、苦いコーヒーが消していく。 


 数日後、俺は仕事を終え、高円寺の店の前を通る。 本物の優をひと目見る為に。

通りの反対側に車を止め、自販でスポーツドリンクを買う。

真夏の夕暮れに恥をさらしながら、俺は花を売る優を見つける。 

 アレンジされた花篭を持った優の左手に、白いものが見えた。

「まさか・・・包帯なんてことないよな?」

 俺は目を疑った。 

賑わいだ商店街の一角のたった一コマ。 今それが巨大なスクリーンに変わる。 

左手の人差し指。 優は包帯を巻いていた。 

         photo by kitakitune07さん





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最終更新日  2007/06/27 09:09:11 PM
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