星の髪飾り

星の髪飾り

2007/09/22
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 日は暮れかかり、夜は大地から浮き出ようとする。 

意外にも僕はそんな調和の中にいた。

「ゆずり合ってるね、昼と夜が。 こういう空のぎりぎりが好き・・・・・」

「どんな夜景も敵わないな」

「そう、自然には奏でるリズムがあるから」

 僕等は東京タワーの下で、まるで普通の恋人を営んでいた。 

行列がざわめく川のように流れ出すと、木彫りの人形を抱いた優は、甘味な眼差しで僕を

見上げた。

「ん? 」

 君はその眼差しの奥で、一体何を考えているんだい? おもわくは、微笑と吐息に紛れて

またも巧に身を交わす。 それが、優が犯したたった一つの過ちだとしても、僕はずっと

まみれていたい。 

 けれど、別れはすぐそこにいる。 真夜中の禁断を遮った天使がいる。



 2006年 12月24日 20時。 音と光のライトダウンショー。

展望台では消灯直前を迎えたカップルが、ときめきと興奮に体温を上げ、肩をよせ合う。 

 タワーの下では、ロウソクの炎に見立てたキャンドルライトが消える瞬間を、今か今かと

待ちわびる恋人達の姿もある。 

その瞬間を見とどけたふたりは、永遠の幸福を手に入れるという伝説。

「ねえ、伝説の恋人にはなれないの? タワーの中と外、選べないよ」

「無理言うなよ、からだは一つなんだからさ」

 ついさっきまで駄々をこねていた優に、僕ははじめて強引を貫いた。 




 優は白いセーターに隠れていた腕時計を見た。

「あっ・・・・・サプライズ? 」

 灯りが消えた。 恋人達は密やかに寄り添い、流れはじめたクリスマスソングにうっとり

酔いしれている。 闇になったフロアーは静まり返った。 

僕は僅かに震える優の肩を、汗ばんだ手でそっと抱きよせた。 すると優は、頑な(かたくな)

だった身体をしなやかに馴染ませてくれた。

「浩樹・・・・・あのね」

 その後の言葉を聞くのが、僕はとても怖かった。 



 1200秒。 僕にとってこんなに幸せな束の間があっただろうか。

足早に時を刻んだ秒針が、1200をカウントした瞬間、優は腕の中からするりと消えた。



 羽毛のように揺ら揺らと、ガラスの向こうの夜景にまみれ、みるみる小さくなっていく。

そして放った光は宙を舞って星に絡んだ。 やがてそれは月に吸い込まれて消えていった。

「優・・・・・」

 明るくなったフロアーが再びざわめき、あちらこちらで笑顔が零れていた。

肩越しの温もりを失った僕は、ふと我にかえった。 そして人込みを掻き分け、愛しい人が

しなやかに去った空に、少しでも近づきたいと強く思った。 

僕は最上階の特別展望台に向かっていた。 

 ただひたすら、一心不乱に、空へ空へと向かっていた。

                          photo by  pooh0529さん さん


                 次回 最終章 シーン 2 「俺が逃がした悪魔」





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最終更新日  2007/09/22 04:17:35 PM コメント(8) | コメントを書く


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