星の髪飾り

星の髪飾り

2007/10/11
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 茂夫は、将来性が薄くなった製糸会社に見切りをつけた。 
時代は、真空管からトランジスターに移行しており、そこに目を向けた茂夫は、ラジオ、テレビの電子部品をつくる会社を立ち上げた。        

 こうして飛躍の一歩を出した茂夫と、亡き令子の後、青春を多希子に捧げた「勇敢な母」真沙との暮らしがはじまっていた。 やがて茂夫と真沙の間に女の子ができ、真沙は育児に明け暮れていた。

 家の横に広がる桃色の絨毯は、可憐なれんげが隙間なく咲き誇り、微風に靡く。 
そこは三歳を過ぎた多希子のお気に入りの遊び場だった。
「あそこへは入っちゃ駄目だに!」
 真沙が口癖のように言い聞かす。

れんげはいつも、うららかな顔で多希子を待っていた。 れんげを器用に編み込んで拵えた花輪を、友子が多希子の頭にのせる。 三つ編みにした髪をリボンで結んだ友子は、近所の酒屋の娘で、多希子より四つお姉さんだった。 
「はい、お花の冠」
「わーい!タッコはお姫様のよう?」
 おかっぱ頭に大きな瞳。 はしゃぐ多希子のスカートは、風で落下傘のように膨らんでいる。

「タッコちゃ! 蜂が飛んどるに!」
「ひぇー!隠れろ」
 ふたりは慌ててれんげに埋もれ、そのままごろごろ転がると、頬に触れるれんげの蜜を吸った。
「蜜蜂のおやつは甘いに」 


 遠くから豆腐屋のラッパが聞こえてくると、真沙が赤毛の亜由美を負ぶって、家から出てきた。

 ふたりはくすくす笑いはじめた。
「シー!・・・友ちゃ、顔を出しちゃ駄目だに」


                   次回 「タッコの見張り番」






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最終更新日  2007/10/11 04:33:21 PM
コメント(15) | コメントを書く


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Re:「永遠に」   第二章 シーン1(10/11)  
ぜん  さん
豆腐屋のラッパが帰宅の合図だったです
公園や空き地でおやつも見つけられたし良かったな~
おが屑で焼いた焼き芋の美味しかった事
とっても良い子供の頃の思い出です
子供にもそういう思いをさせてあげたいな~
(2007/10/11 05:07:33 PM)

同じ世代なんだなぁ、みんな  
ANEさん  さん
幼いころの同じような思い出、郷愁、を想い描くことができるなんて、うれしいね。
タッコの宿命も、これからの運命も、自分のことのように
背負い合えるような、気がする。
がんばれ、タッコ (2007/10/11 07:57:51 PM)

ええ時代でした  
なにわっ子 さん
そうそう。豆腐屋さんがラッパ吹いてたよね。
昔は大阪市内からも、一歩家を出ると、まっすぐに生駒山が望めました。
通天閣もベランダというより、物干し場から見えてたなぁ・・
ゆっくり書き進めてください。楽しみです! (2007/10/11 08:55:17 PM)

絵の少女  
ちぎれ雲  さん
とてもいいですね。ああいう絵の、描ける時代に、生きていたかったな、などとも、思います。 (2007/10/11 11:41:17 PM)

Re:「永遠に」   第二章 シーン1(10/11)  
fellow  さん
懐かしい豆腐のラッパ。
おなべを持って買いに行ったっけ・・・

買い物には、かごを持って出かけてたのに。
さいきんは、エコのおかげで復活ね♪

きいちの塗り絵も、懐かしすぎる(〃>艸<〃) ゚+。:.゚
(2007/10/12 12:50:10 AM)

こんにちは。  
豆腐屋さんは記憶に無いけど
アイスキャンデー屋さんは楽しみだったな。 (2007/10/12 09:47:03 AM)

Re:「永遠に」   第二章 シーン1(10/11)  
うりゃ1960  さん
れんげの蜜は おいしかったです(*^-^)
お豆腐やさんのラッパの音色は
子供心に 物悲しいなぁと 思っていましたっけ… (2007/10/12 02:42:30 PM)

Re[1]:「永遠に」   第二章 シーン1(10/11)  
恵 香乙  さん
ぜんさん
>豆腐屋のラッパが帰宅の合図だったです
>公園や空き地でおやつも見つけられたし良かったな~
>おが屑で焼いた焼き芋の美味しかった事
>とっても良い子供の頃の思い出です
>子供にもそういう思いをさせてあげたいな~
-----
そうそう、だいたい同じ時間にきますからね。
いい時代でした(^^) (2007/10/12 03:11:14 PM)

Re:同じ世代なんだなぁ、みんな(10/11)  
恵 香乙  さん
ANEさんさん
>幼いころの同じような思い出、郷愁、を想い描くことができるなんて、うれしいね。
>タッコの宿命も、これからの運命も、自分のことのように
>背負い合えるような、気がする。
>がんばれ、タッコ
-----
昭和に逃げ込んで、しばし癒されています(--) (2007/10/12 03:11:53 PM)

Re:ええ時代でした(10/11)  
恵 香乙  さん
なにわっ子さん
>そうそう。豆腐屋さんがラッパ吹いてたよね。
>昔は大阪市内からも、一歩家を出ると、まっすぐに生駒山が望めました。
>通天閣もベランダというより、物干し場から見えてたなぁ・・
>ゆっくり書き進めてください。楽しみです!
-----
物干し場・・・いいな~この言葉。 遠きよき時代が香ってくる。 それぞれに貼り付いたシーンがあるんだね。 (2007/10/12 03:13:18 PM)

Re:絵の少女(10/11)  
恵 香乙  さん
ちぎれ雲さん
>とてもいいですね。ああいう絵の、描ける時代に、生きていたかったな、などとも、思います。
-----
この方は90代で昨年だったかお亡くなりになりました。この絵は宝物です。 (2007/10/12 03:14:53 PM)

Re[1]:「永遠に」   第二章 シーン1(10/11)  
恵 香乙  さん
fellowさん
>懐かしい豆腐のラッパ。
>おなべを持って買いに行ったっけ・・・

>買い物には、かごを持って出かけてたのに。
>さいきんは、エコのおかげで復活ね♪

>きいちの塗り絵も、懐かしすぎる(〃>艸<〃) ゚+。:.゚
-----
そうですね。 買い物かごはどこの家にも下がっていて。当時スーパーはなく、商店街での買い物だったから。  (2007/10/12 03:15:54 PM)

Re:こんにちは。(10/11)  
恵 香乙  さん
魔法の木マスターさん
>豆腐屋さんは記憶に無いけど
>アイスキャンデー屋さんは楽しみだったな。
-----
旗みたいなのをたててやってきましたっけ。 愛想にいいおじさんがね。 (^^) (2007/10/12 03:16:52 PM)

Re[1]:「永遠に」   第二章 シーン1(10/11)  
恵 香乙  さん
うりゃ1960さん
>れんげの蜜は おいしかったです(*^-^)
>お豆腐やさんのラッパの音色は
>子供心に 物悲しいなぁと 思っていましたっけ…
-----
やっぱり吸ったくちですか~ 
夕暮時だから、あの音は物悲しい・・・ 同じ感覚ですね。  (2007/10/12 03:17:46 PM)

Re:「永遠に」   第二章 シーン1(10/11)  
全てがスローな 時の流れの中の、ワンシーン。
子供が外でワイワイと遊び、大人がみんな親の様で
どの子の顔も知っていて、わけ隔てなく怒られて
そんな懐かしい いい時代だった我々の子供時代。
今はもう 豆腐屋さんのラッパの音と同じく
無くなってしまった 「のどかさ」ですよネ。
(2007/10/14 01:55:16 PM)

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