星の髪飾り

星の髪飾り

2010/04/05
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エンジンをきったあと、背もたれに身を委ねながらタバコをふかした。

 雨に霞む街が蘇える。 空腹になるとわけもなく窓を軋ませ、東向島を

突き抜ける水戸街道の往来を眺めていたものだ。 

スモック色の空が橙に変わり、闇が落ちる頃、灯かりがひとつ、ふたつと

灯りはじめると、俺はいっそう侘しくなった。 


 雨に霞む病院に近づくに連れ、妄想は遠のいた。

キャシャな体、薄い唇、結った髪で隠れた首の皺。 陰りのある面持ちは、

時々君の威勢で隠れたが、懐かしい香りが俺を困惑させた。



 君は指示書を見ながら頬を窪ませた。 

「今日から牽引ですね」

「はい」

「あら、傘をささないで来たの?」

 君は上着の雫を払い、長椅子の上に並ぶハンガーにそれを掛けた。

「黒川さん、一度セットしますね」

 君は俺の後ろに立ち、腰を抱くようにコルセットをまわした。 

「こちらにどうぞ。 もう一度締めますね。 頭はこちら・・・」

 横たわった俺のコルセットを力いっぱい締め、引いた金具に引っ掛けた後、

両脇をベルト状の固定器具で押さえた。 身動きができない。

やがて君は頭部側に立った。

「じゃあ首もセットしますね。 楽にしてて下さい」



頚椎の固定には君はとても慎重だった。 誰にも同じように君はそうした。

顎のラインにそってベルトが固定された。 今閉じている目を開ければ、

君の顔は重なるような位置にある。 互いの息使いに妙な感触が体を巡った。

「よっしゃ・・・」

 君が小声で囁いた〆は滑稽で、俺の高鳴りは一気に緩んだ。

それが君だった。 


                     Photo By  鬼姫さま





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最終更新日  2010/04/05 09:41:39 AM コメント(4) | コメントを書く


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