J3

ネガティブ弁当


04/08/11 葛藤 in Toyama


今日も一人寂しく昼食にホカ弁を買いに行くわけです。
それでいつも同じようなメニューを食べているのもなんですから、毎日違うものを注文するわけです。新しき味への探究心、それはまさに食のフロンティア・スピリット。今日もまた新しい世界が僕の前に広がるのです。

僕は前から気になっていることがありました。弁当屋に貼ってあるメニューの中に、白いシールでその姿を隠された弁当があることが。ネガティブに隠された弁当。その存在は僕の好奇心を、大いに喚起したのでした。
その弁当の名とは「黒酢豚弁当」、今夏限定のお勧め商品であるにもかかわらず、触れられることを避けるようにその身を隠していました。隠されていると、そのベールをはがしてみたくなるのが人情。僕はお店の人に「黒酢豚弁当」の存在について問うてみました。

すると、
「ああ、それ....。酢豚ではないよ。挑戦してみる?」

酢豚じゃない?挑戦?謎の言葉が返ってきます。名前に酢豚とつくのに、酢豚じゃない、これいかに?普通に店頭のチラシにある商品をつかまえて、挑戦ってなんなんだ?店員の言葉にまで、ネガティブな香りが漂う。

ここまで言われて引き下がったら男じゃない。一瞬の葛藤、後の即断。「黒酢豚弁当」を頼む、男らしく。

時は12時頃。カマド屋は大盛況。その人ごみと不安の中、ただ呆然と立ち尽くす僕。そして気づく、後から来た人のほうがなぜか先に帰っていく。もしかして僕の存在は忘れられてしまったのか?否、あんな異質な注文をするような客を忘れるはずが無い。ということは、「黒酢豚」を作るのに手こずっているということか。さすが「黒酢豚」、ほかの弁当とは食べる前から一味違う。

そして受け取る、あくまでも男らしく。学校までの帰り道、自転車のカゴに載せた「黒酢豚弁当」。そこから漂う刺激臭。ほのかなネガティブな匂い。ほのかなデンジャラスな匂い。
そして教室にたどり着く。そして弁当箱と対峙、開封。たちこめる酢酸に特有の刺激臭。本能的に顔を逸らす。

そして恐る恐る一口。ん、不味くは無いぞ?むしろ、豚の衣がサクッとしていて......、 美味い!?
黒酢の甘みと、豚肉の旨みの絶妙な組み合わせ。それが舌の上で宿命的にほどけ、もつれ合う。美味い。今までの不安はなんだったんだ?何故こんな美味いものを隠すんだ?もっとこの「黒酢豚」を世間に広めていくべきだ!そうだ、牛丼の替わりに「黒酢豚丼」というのはどうだろう?
あれ?そういえば、いつもよりご飯の量が多いな。もしかしておばちゃんが、気を使ってくれて多目にしてくれたのか。ラッキー!


10分後


活動停止。

動かない右手。停止する思考回路。全身にまとわりつく汗。麻痺する舌。定まらない視点。死んでいく脳細胞。遠のいていく意識。
さっきまで吹いていた心地よい風が、いつのまにか消えている。

僕は目の前の物質に視線を落とす。
なんなんだ、これは?
脳の認識野は、当の昔にその機能を停止してしまったようだ。消えない黒酢の匂い。半分も減っていない豚肉たち。
この味を一言で表現するとしたら、「ネガティブな不味さ」。
ご飯が無ければ、この甘ったるさには耐えられない。そうか、そういうことだったのか、おばちゃんよ。
つまりはあの隠し方も、あの言葉も、あの匂いまでもが、このことの伏線だったのか。まさに「食の伏魔殿」、カマド屋。
それはつまりは、不発弾。爆発することは無いが、処理しようも無い。ただ眠り続ける、僕の前にその身を横たえて。




格闘の末、完食いたしました。なぜか昼食だけで、1時間もかかってしまった....。


みんなも食べよう、「黒酢豚弁当」!!



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