P-2.未完

 2nd Prologue. 未完

─────もう嫌だ!
和人 (かずと) は机の引き出しを開けながら、心の中で叫んだ。
─────もうたくさんだ!
和人は引き出しを漁りながら、涙した。
─────もう耐えられない!
和人は目的の物を取り出しながら、おもむろに頭を振り乱した。
─────こんな世界で、生きられるもんか……!
和人は取り出した物を小脇に抱え、勉強机の椅子をずるずると動かしながら、鼻を啜った。
─────こんな世界で暮らすくらいなら、あの世の方が何百倍もましだ……!
和人は椅子の上に登り、抱えていた物の先端を結んで一つの輪を作りながら、目元を袖で拭った。
─────どうして僕が、こんな目に遭うんだ……!
和人は出来上がったそれを部屋の天井のフックに括りつけながら、歯を食いしばった。
─────僕が、……僕が、…………
和人は垂れ下がる輪を両手で掴み、その空間を広げながら、
「─────僕が、……何をしたって言うんだっ………!」
血を吐くように言葉を紡いだ。
「………う、うっ……」
和人はひたすらに泣き崩れた。
泣き崩れながら、和人は掴んだ輪を自分の顔の方へと引き寄せ、その空間の中に頭を通した。
足ががくがくと震え、その揺れが立っている椅子に伝わり、ぎしぎしと木材製品の軋む音が部屋に響いた。
輪を掴む手の力が、一層強くなった。

「──────うあああああああああ───────────────っ!」

和人は叫びながら、椅子から飛び下りた。
足場をなくした体は重力に引っ張られ、フックから垂れたロープの輪が首筋の皮膚に食い込んだ。
「──────────!」
声にならない絶叫を上げながら、和人は予想以上の息苦しさに空中で暴れる。
それに伴って、和人の体は振り子のようにゆらゆらと揺れ始めた。
「──────────!」
揺れに応じて、ロープが更に深く頸部を締め付ける。
そこを通る動脈と静脈が圧迫され、循環する血液が帰り道を塞がれて頭の方にどくどくと溜まり、徐々に膨張させていく。
呼吸が阻害され、大きく見開かれた目が真っ赤に充血していく。
「──────────!」
手足の感覚が鈍っていく。
意識が混濁していく。

「─────…………………っ!」

一層大きく和人は口腔を開き、だらん、と腕を下ろした。
ぎい、と首吊りのロープが軋んだ音を上げる。
ゆらり、と力を失った体が揺れる。
がちゃり、と部屋の扉が開く。
のそり、と開けられた入り口から人間が踏み込む。
そろり、と人間が“人間だった者”を見上げる。
にたり、と人間が満面の笑みを刻む。
ぼんやり、と“人間だった者”が空ろな視線を人間に向ける。
しん、と静寂が部屋を司っている。

くつくつくつ、と人間が押し殺した笑いを口から漏らした。


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