第14回 佐々木隆信さんに学ぶ「懐かしい



 「ナトコの映画館」をご存知でしょうか?昭和初期の映像を全国のおじいさんとおばあさんに見せて「回想療法」に励む、メディアプロデューサー佐々木隆信さんの巡回上映会のことです。巡回先はあるときは老人ホームで、ある時は年輪ピック会場と年間100回を越える上映会です。
 この上映会では昔むかしの日本の風景や情景が映し出されます。おじいさんやおばあさんたちはこの映像からを見ることで、幼い頃の思い出が徐々によみがえってきます。佐々木さんはおじいさんたちの表情を見ながらタイミングよく質問をします。「小学校の先生の名前は?」と訊くと「小林先生~」とひとりのおばあさんは答えます。映像は昔の婚礼の映像にかわります。あっという間におばあさんたちの目が大きく開きます。いつの間にか会場には唱歌や童謡が流れています。映像と音楽が一体となり、会場からは自然に歌声が聞こえてきます。首をうな垂れていた車椅子のおじいさんも唄いはじめています。生き生きした瞬間です。

 佐々木隆信さんはコマーシャル監督として話題のコマーシャルを世に送り出しました。ピップエレキバン、エバラ焼き肉のたれ、サントリーレッドなど数え切れないほどです。しかし、ある時ピタリと仕事の依頼が減ってきたそうです。毎日電話が鳴りっぱなしの事務所が静まり返り、「なんだこれは?」と現実を疑ったといいます。
 この監督の第2の人生はここからはじまります。ある時、ビルの解体現場を通りかかると、粉々になったコンクリートの間から古いふるい16ミリのフイルムが発見したのです。「そのフイルムに呼ばれたようなものです」と佐々木さんは言います。それ以来古いフイルムを私費で蘇らせる作業に入ります。ふるさとの米沢では米沢高等工業学校(米沢工業専門学校・現在の山形大学工学部)や米沢織物の繁栄があったために、昭和初期からのフイルムがたくさん発見されました。これらも佐々木さんは復元しました。

 コマーシャルという数十秒の映像の消費に携わっていた者が、その全盛時代が去ったときに古いフイルムと出会うとは、人生とは本当に不思議な縁で結ばれています。佐々木監督は言います。「今が一番充実しています。全国のおじいさんやおばあさんは私の父であり母だからです」昨年はブラジルに渡り、日系人のおじいさんやおばあさんに「ナトコの映画館」を上映しました。80歳、90歳を過ぎたおじいさんたちはたいへん喜んだのは云うまでもありません。佐々木さんは今日もどこかで「ナトコの映画館」で親孝行をしています。

 12月8日記

ナトコ…映写機の名前。終戦後GHQが日本に持ち込み、巡回映画会に使用した軍用映写機の名称。佐々木さんは満州からの引揚者。当時小学生だった佐々木さんは、その映写機の片隅に彫りこまれた「NATCO」の文字か印象的で、今の会社「ナトコ」の名前にしたそうです。
ビデオ「ナトコの映画館」の紹介ホームページ
http://only-you.mitsukoshi.co.jp/natco/index.asp



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